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50/69

50 俺は突破口になる!

 味方だと思っていた人間の名前が出てきて、ステラちゃんは肩を震わせた。


「そんな。魔法士団長さまが? なんのために」


 カイトは吐き捨てるように言う。


「……調べたところ、ジャン・ブリッツはキシリアが聖女の魔法に目覚めるより何年も前から、トゥーランドット伯爵家に婚約の打診をしていたらしい。現当主はそれを蹴った。“庶民あがりの男なんぞに娘は渡せない”と追い返される。そうこうしている間に、キシリアは聖女の力に目覚めた」

「それじゃあ、キシリアさまに魔法をかけた理由は」

「聖女は王子と結婚するのが通例だ。王子に渡さないため、だろうね。伯爵家がスキャンダルを恐れて閉じこめている間に、ステラが聖獣を見つけて聖女になればいいと考えたんだろう」


 なんて身勝手な理由だ。一方的に恋心を寄せられ、自分のものにならないから強硬手段に出た。

 その身勝手に巻き込まれたキシリア嬢がかわいそうだ。


「だからオレはあいつの思い通りにさせないために、動いている。あいつが犯人だという証拠さえあれば、本物のキシリア嬢の心をどこに隠したかわかれば。すべて片がつくはずなんだ。だが、貴族の屋敷なだけあって屋敷の警備はかたい。そう簡単には潜り込めない」


 カイトは拳を固め、悔しそうにうつむく。ステラちゃんはそんなカイトの手に、小さな手を重ねる。


「カイトさん。わたしに協力させて。キシリアさまを助ける方法がそこにあるなら、なにかしたい」

「馬鹿言うな。あいつは自分の意にそわないやつは消す人間だ。マクベが自殺に見せかけて殺されたことを忘れてないか」

「でも」


 シルヴァも、話に割り込む。


「ステラさん。貴女を危ない目に遭わせるわけにはいきません。貴女になにかあったら、他の誰も聖獣さまを探すことはできないんですよ!?」


 二人に止められ、ステラちゃんは続けようとした言葉を飲んだ。


『ステラちゃん。俺が行く。俺に任せるにゃ! キシリア嬢の屋敷に出入りできるんだ。ジャンの屋敷も、ノラネコが紛れ込んだって、警戒するやつはいにゃいさ! だからステラちゃんは家に帰って。安全なところで報告を待っていてくれにゃ』

「イナバちゃん……」


 俺がネコであることは、きっとこういうときにこそ役立つ。このためにネコとして生まれてきたのかもしれない。人間じゃないからこそできることがある。


『カイトに伝えてくれ。俺が屋敷を探るから、俺をジャンの屋敷まで連れて行ってほしいにゃ』


 屋敷のどこかにあるかもしれない、本物のキシリア嬢の心。石か何かに閉じ込めたのか、生き物に封じ込めたのかまではわからない。けど、探す価値はあるはずだ。

 そこにあるとわかれば、捜査の手を入れることができる。

 庶民カイトの言葉は黙殺されても、聖女候補ステラちゃんの言葉を殺すことはできない。ステラちゃんは、王子や女王にまで直接言葉を届けられる立場にあるのだ。




 ステラちゃんには家に帰るよう伝え、俺はカイトに抱えられてジャンの屋敷に向かった。 

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― 新着の感想 ―
[一言] なんちゅうヤンデレな。 いや、心中しようとするよりはマシか(どっちもどっちだ イナバ、急げよ!
[一言]  あー…。  そりゃ、恋心…独占欲?なら、動機になるかぁ…。  ヤンデレっぽいかも。
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