50 俺は突破口になる!
味方だと思っていた人間の名前が出てきて、ステラちゃんは肩を震わせた。
「そんな。魔法士団長さまが? なんのために」
カイトは吐き捨てるように言う。
「……調べたところ、ジャン・ブリッツはキシリアが聖女の魔法に目覚めるより何年も前から、トゥーランドット伯爵家に婚約の打診をしていたらしい。現当主はそれを蹴った。“庶民あがりの男なんぞに娘は渡せない”と追い返される。そうこうしている間に、キシリアは聖女の力に目覚めた」
「それじゃあ、キシリアさまに魔法をかけた理由は」
「聖女は王子と結婚するのが通例だ。王子に渡さないため、だろうね。伯爵家がスキャンダルを恐れて閉じこめている間に、ステラが聖獣を見つけて聖女になればいいと考えたんだろう」
なんて身勝手な理由だ。一方的に恋心を寄せられ、自分のものにならないから強硬手段に出た。
その身勝手に巻き込まれたキシリア嬢がかわいそうだ。
「だからオレはあいつの思い通りにさせないために、動いている。あいつが犯人だという証拠さえあれば、本物のキシリア嬢の心をどこに隠したかわかれば。すべて片がつくはずなんだ。だが、貴族の屋敷なだけあって屋敷の警備はかたい。そう簡単には潜り込めない」
カイトは拳を固め、悔しそうにうつむく。ステラちゃんはそんなカイトの手に、小さな手を重ねる。
「カイトさん。わたしに協力させて。キシリアさまを助ける方法がそこにあるなら、なにかしたい」
「馬鹿言うな。あいつは自分の意にそわないやつは消す人間だ。マクベが自殺に見せかけて殺されたことを忘れてないか」
「でも」
シルヴァも、話に割り込む。
「ステラさん。貴女を危ない目に遭わせるわけにはいきません。貴女になにかあったら、他の誰も聖獣さまを探すことはできないんですよ!?」
二人に止められ、ステラちゃんは続けようとした言葉を飲んだ。
『ステラちゃん。俺が行く。俺に任せるにゃ! キシリア嬢の屋敷に出入りできるんだ。ジャンの屋敷も、ノラネコが紛れ込んだって、警戒するやつはいにゃいさ! だからステラちゃんは家に帰って。安全なところで報告を待っていてくれにゃ』
「イナバちゃん……」
俺がネコであることは、きっとこういうときにこそ役立つ。このためにネコとして生まれてきたのかもしれない。人間じゃないからこそできることがある。
『カイトに伝えてくれ。俺が屋敷を探るから、俺をジャンの屋敷まで連れて行ってほしいにゃ』
屋敷のどこかにあるかもしれない、本物のキシリア嬢の心。石か何かに閉じ込めたのか、生き物に封じ込めたのかまではわからない。けど、探す価値はあるはずだ。
そこにあるとわかれば、捜査の手を入れることができる。
庶民の言葉は黙殺されても、聖女候補の言葉を殺すことはできない。ステラちゃんは、王子や女王にまで直接言葉を届けられる立場にあるのだ。
ステラちゃんには家に帰るよう伝え、俺はカイトに抱えられてジャンの屋敷に向かった。





