49 黒幕の正体
「カイトさん! よかった。無事だったのね」
悪い想像がずっと頭の中を巡っていたのかもしれない。ステラちゃんの目は涙に濡れている。
そんなステラちゃんを見て、カイトは居心地悪そうに目を逸らす。
「ほんっとに、あんたといると調子狂う。なんでオレを待ってんの。オレは記者を辞めた。あんたとの接点はもうないはずなんだけど」
「カイトさんは嘘をついているから、本当のことを知りたいんです。ジムさんにも頼まれました。本当に辞めたくて退職を選んだわけじゃないはずだから、連れ戻してくれって」
ステラちゃんは物怖じせず、じっとカイトを見上げて胸の内を言う。
「本当のこと?」
「ええ。怪我をしたくないから辞めるなんて嘘でしょう。どうして突然辞めるなんて言い出したの?」
「…………ははっ。本当のこと言ったら信じるわけ? 魔法士団に通報しても、嘘だと決めつけられて握りつぶされたのに」
どこか自虐ぎみに吐き捨てる。
カイトは音もなく屋根から飛び降りて、ステラちゃんの目の前に着地した。忍者を思わせる、動きやすそうな和装だ。腰や腿のベルトに短刀やクナイが収納されている。
月明かりもない、街灯が消えたこの時間、黒装束に身を包むカイトは闇と同化している。
「通報? 貴方は何を通報したんですか。仕事を辞めて宿所まで引き払ったことと関係あるんですか」
シルヴァが問うと、カイトは首を左右に振る。
「お前には言わない。城に属する人間は信用していない」
「……………ずいぶん信用ないですね。城の関係者だから信じないと?」
「当たり前だ。あいつの息がかかっているかもしれない奴を信じるものか」
「そこまで確信を持って言うということは、やはり事件の関係者は城内の誰か……?」
シルヴァは城の人間を信用していないと断言されて、なぜそこまで警戒されるのか疑問なようだった。
「シルヴァ、だったな。少しステラと話す時間をくれ。用件は一分で済む」
シルヴァが心配してステラちゃんを見るけど、ステラちゃんは深く頷く。ステラちゃんの意思を確認して、シルヴァは数歩下がった。
「わたしはあなたを信じます。だから教えてください、カイトさん。カイトさんがなぜ辞めたのか、何をしようとしているのか、今何が起きているのか」
風の音すらうるさく感じる静寂の中、カイトはステラちゃんの瞳を見つめ返し、ゆっくりと口を開いた。
「……キシリアに魔法をかけて、オレたち記者に襲撃者を差し向けた上、マクベを毒殺した一連の騒動は全て一人の男が首謀者だ。ステラなら会ったことがあるだろう。魔法士団長ジャン・ブリッツ。かつてオレの兄だった男だ」





