45 鬼シリアの証言
鬼シリアは自室の長いソファに足を投げ出して、だらけていた。長いバスローブをはおっていて、髪はボサボサ。肌の手入れもしないのか、ニキビができている。せっかくの美少女が台無しだ。
お嬢様の部屋なのに、部屋の近くに使用人の気配がなかった。オッサン、ついに使用人たちを追い払ったか。テーブルに置かれたまんまの食事もほぼ手付かず。
窓から入ると、鬼シリアはめんどくさそうに舌打ちしてこちらを見た。
「イナバか。首尾はどうだ」
『翼があるっていう、見た目の特徴がわかっただけっす』
「使えないな」
人間ならこめかみピキンときてるぞ。こめかみのかわりに毛が逆立つ。
『偉そうに言うあんたこそ、自分でなんとかする方法探したのか?』
「フランだかなんだか言う小娘が来て、魔法にかけられたときのことを教えろと言っていたな。貴女を救うためとかなんとか」
鬼シリアはどうでも良さそうに、他人事みたいに言う。あまり食べていないのか、何日も外に出ていないのか、顔色もよくない。
『頼むから、そういうのやめてください。あんたの入った体は、家族も友達もいるお嬢様なんだよ。元の体に戻りたいなら、せめて戻るまでの間、その子の体を健康に保ってやってくれ。ここがゲームの世界でも、キシリア嬢は年頃の女の子なんだよ!』
「俺に命令するな、ヒラのくせに」
『ヒラとか上司とか関係ない。その子は俺たちと関係ない普通の女の子なんだよ!』
思いきり叫んで睨むと、鬼シリアは肩をすくめて目を伏せる。
「…………目の前に、黒いフードをかぶった男がいた。顔は見えないが、声はお前と同じか、お前より少し上くらいのガキだ。白猫を抱えていて、“一年待て。王妃になられては困る。一年経ったら迎えにくる”と言って、どこかに消えた。お前を見つけたあの日だ」
『白猫を抱えた男』
キシリアに、王妃になられたら困る。
鬼島もまた、あのときこの世界に来たのか。
え、あれ。鬼島が事故で死んで(大型トラックに轢かれてるから死んだと思っとく)この世界に来た。
たまたま同じのタイミングで瀕死になっていた俺が、何かの手違いでこの世界のネコになった。
………………もしかして俺、こいつがこの世界に転生か召喚かされるときに巻き添え食ったんですかね。
仮定なのに、いやにしっくりきた。
そして黒幕と思しき者の目的は、キシリアを王妃にしないこと。
そういえば、このゲームは聖女エンド=クラウドと結婚だったな。
黒幕は、キシリアに聖女になってほしくないではなく、王妃になってほしくないのか。
しかも一年後に迎えにくる。
俺と同じか年上くらいの男。
城に出入りできる身分の持ち主。
少しずつ条件が揃ってきた。
『ありがとな。犯人の目的がキシリア嬢を聖女にしないことなら、あんたが聖獣を見つけたらきっと良くないことがおこる。屋敷にいたほうが安全だ。きっと俺とステラちゃんたちでなんとかするから、それまではキシリア嬢の体を、いたわってあげてくれ。そうすればもとに戻るって鬼島さんの望みも叶うはずだ』
ネコの体で頭を下げると、ゴメンネをしているみたいだな。鬼島は、もう怒鳴ってこなかった。
それだけでも随分な進歩だ。
さあ、ステラちゃんたちにこのことを伝えよう。
もう少し情報が集まれば、犯人に、黒幕にたどり着くはずだ。
キシリア嬢をもとに戻して、ステラちゃんと聖獣を見つけるんだ!





