42 カイトなりの、ありがとうの形
ステラちゃんの膝の上には俺とヤマネがいる。シルヴァとルークが来ないから、せめてもの護衛だ。ネコとネズミじゃ、何かあったとき役に立たないけどにゃ。
見通しのいいテラス席で、カイトはメニュー表をステラちゃんに差し出す。
「今日はオレのおごりだから、好きなだけ食べていいよ。助けてくれたお礼」
ステラちゃんはジトーっとカイトを見て、メニュー表を受け取ろうとしない。
「そう警戒しないでよ。信用ないなぁ」
「信用しろって方が無茶だと思いません? わたしの食べ物の好みとかチビだとか、記事にしようとしていたのに」
「怒らないでよ。そんなに信用してないのに、よくオレを助けようなんて思ったね」
「そうやって誰彼かまわずにケンカ売るようなこと、言うのもするのもだめです!」
声を大にして言い切るステラちゃん。
カイトは降参のポーズで「わかった、もうしない」と言いながらステラちゃんを見つめる。
まるで恋人を見るかのような優しい視線に、ステラちゃんはなんだか落ち着かなそうに視線をさまよわせる。
「も、もしかしてこれも記事にします?」
「記事にはしないよ。これは仕事抜きの完全にプライベート。誰にも教えたくないし。……君が注文しないなら勝手に決めちゃうよ。おーい、そこのウェイターさん。特盛り闇鍋を」
「だめーーーー!!」
ステラちゃんが涙目でカイトのオーダーを阻止した。
「わかりました。自分で選ぶから変なもの注文しないでください!」
プンスコしながらメニュー表を開くステラちゃん。俺も見せてもらったけど、闇鍋なんてどこにも載っていない。
からかわれたとわかって、ステラちゃんはむくれてカイトをにらむ。
カイトは楽しげにステラちゃんの一挙一動を見守っている。
「ええと、パンケーキ春のフルーツセット、飲み物はハニーフラワーティーで」
「かしこまりました。そちらのお客様は」
「オレはホットのグリーンティとライスボール、野菜のピクルス添えね」
おおぅ。渋い。見かけによらず選ぶもんが渋いぜカイト。現代日本にいたら女子とタピりそうな面してんのに、緑茶とオニギリに漬物かよ。
『オイラ人の文字は読めねぇや。チーズはねえのか?』
『お前も食う気にゃのかヤマネ』
「ヤマネちゃんはチーズを食べたいの?」
ほおづえをついていたカイトは、聖女の力を目の当たりにして目を瞬かせる。
「え、そいつらそんなこと言ってんの? オレには鳴き声にしか聞こえないんだけど。どんな声に聞こえる? 人間の声とは違うの?」
近所のいじめっ子たちにバカにされていたから、ステラちゃんはそんな反応されるのは予想外だったみたい。
嬉嬉として話に飛びついてくるカイトに、小さな声で聞き返す。
「あの……私の魔法、気持ち悪いとか、嘘だとか思わないんですか?」
「べつに。歴代聖女もみーんな同じ魔法を使えたんだから。君もそうだってだけだろ。もしかして、バカな奴らに揶揄されたりしたわけかな」
「ええ、まあ……」
あのときのことを思い出してしまったらしく、うつ向いてしまったステラちゃんの手のひらに、カイトが小さな包みを握らせる。
かわいい包装紙とリボンでラッピングされている。
「え、あの、これは?」
「お詫びだよ。遠慮なく受け取って。オレの腕を結んでいたハンカチ、血のシミが落ちなかったから。スカートも割いちゃっただろ。あとでステラが好きなのをいくらでも買ってあげる」
カイトは自分の左胸に手を当てて、いたずらっぽく笑う。
今日は本当に、ただただステラちゃんにお礼をするためにこうしてカフェに呼び出したんだなってのがわかる。
ステラちゃんは警戒をといて、丁寧に包みをあける。
中から出てきたのは、桜色の雅なハンカチだ。お香でもたいてあるのか、いい香りがする。
「素敵。こんなに綺麗な色、初めて見た。ありがとうカイトさん。このハンカチ、大切にします」
「そう。気に入ってくれたなら、選んだ甲斐があるよ」
ステラちゃんは表情を和らげて、心からの笑顔を浮かべた。





