39 お家に帰る、そして陛下からお呼び出し!
久々にステラちゃん家に帰ってきたぜ!
何ヶ月もあけていたわけじゃないのに、すごく懐かしい気がしてくる。
『おかえりなさい、坊や』
『おお、我が子。無事に帰ってきたか』
『にゃーー、ママン! パパン! おとうとたちにヤマネよー!』
『にーちゃんにゃーー!』
『おぅイナバ! 任務達成してヒーロー度を上げたな! うらやましいぜぃ!』
きょうだいたちと床をごろんごろん転げまわる。ねこぱんちやめい! 尻尾にかみつくにゃ!
そのあとママンのおっぱいのんで元気いっぱい。やっぱりこれがいちばんおいしいにゃ。
ステラちゃんも家族との再会を果たして満面の笑みだ。
「お湯を沸かしておいたから、今のうちに入浴してきなさいな、ステラ」
「うん。ありがとう、ママ。おいで、イナバちゃんも洗ってあげるよ」
『けっこーですにゃ』
年下の女の子に全身洗われるなんて勘弁してくれ。人間時代にだってそんなことなかったのに。
「あああ! イナバちゃん逃げないで! お兄ちゃん、そっちに行ったわ」
「おい逃げるなネコ、こら!」
『うにゃーー!』
逃走失敗。シルヴァに掴まれた。
「イナバはボクが入れておくので、ステラさんはどうぞごゆっくり。一番の功労者なんですから」
「そ、そう、かな? じゃあ、お願いしようかな」
ステラちゃんは申し訳なさそうにしながらも、お風呂に向かった。
お風呂と言っても、この世界でのお風呂は俺たちの世界とは違う。
蛇口をひねるとお湯が出るなんてこたーない。
どでかいたらいに沸かしたお湯を入れて、そこに入る半身浴。お湯を含ませたタオルで全身拭くのだ。
この世界を思うと、あちらにいた頃はめちゃくちゃ贅沢な暮らしだったんだな俺。
「おお、シルヴァくん。イナゾウを入れてくれるのか。せっかくだから他のネコたちとチュータロウも洗ってやるか。俺も手伝おう」
パパさんがやる気満々で腕まくりした途端、みんなが一目散に逃げ出した。俺をおいて逃げるにゃ!
結局俺だけ入れられることになって、表に出される。洗面器サイズのたらいにお湯をはって、粉石けんで洗われる。
シルヴァはジャケットを脱いで袖をあげて、俺についたノミや汚れを落としていく。
『にゃーーーー』
「こら、イナバ。逃げちゃだめだよ。すごく汚れてるんだから、きれいにしないとね」
どんどんにごっていくお湯。うっうっ。俺こんなに汚くないもん。ステラちゃんに洗われるのも嫌だけど、男に全身くまなく洗われるのもなんか気分的に嫌だ。
さっぱりきれいにされたあと、アルベルトがきた。
クリスティア陛下がステラちゃんをねぎらいたいらしい。
ステラちゃんと護衛のシルヴァ二人が城に向かう。俺は今回も使い魔名目でついていく。
通されたのは玉座の間ではなくて、城の中にある庭園だった。
陛下は庭園の東屋でのんびりとお茶をたしなんでいた。そばにはメイドさんと、護衛のヴォルフラム。
ステラちゃんはカチコチになりながらも、スカートの裾をつまんでおじぎする。シルヴァもその場にひざまずく。
「陛下。ステラでございます。このたびはお招きいただき、ありがとうございます」
「そんなにかしこまらなくていいのよ、ステラ。そこにかけて。お茶を飲みながら話しましょう。マリアン、お願い」
「かしこまりました、陛下」
マリアンと呼ばれたメイドさんは、酸味の香り立つ赤いお茶を、真っ白なティーカップにそそぐ。
「わあ! エスペランサティー。わたし、これ好きなんです」
「そう。飲み物の好みが合って嬉しいわ。わたくしもこのお茶が大好きなの」
「ガルガ蛇の毒で倒れた子が助かったというのはヴォルフから聞いたわ。危険な旅を成し遂げてくれてありがとう、ステラ」
「もったいないお言葉です。みんなやイナバちゃんが力を貸してくれたから、解毒薬を作ってもらえたんです。一人じゃできませんでした。ね、シルヴァくん。イナバちゃん」
謙遜するステラちゃん。みんながいたからって、そう言ってもらえるとうれしいぜ。
「ふふふ。ステラさんは謙虚ですね。貴女が提案してくれなかったら、他の誰も、解毒薬の材料を自分で集めようなんて言い出さなかったんですよ。誇っていいと思います」
『そうにゃ。ステラちゃんがんばった』
微笑み合うステラちゃんとシルヴァに、陛下も自然と笑みをこぼす。
「その使い魔も、飼い始めたばかりでしょう? かなり貴女に懐いているのね。ヴォルフのところの猫はいまもあんまり懐いていないのに」
「……嫌なことを思い出させないでください」
常に冷静な表情だったヴォルフラムが、渋い顔をする。
「わあ、ヴォルフラムさまは猫ちゃんが使い魔なんですか? 見せていただいても構いません?」
「わたくしも、またあの猫を見たいわ。ね?」
動物大好きなステラちゃんが、目を輝かせる。
陛下とステラちゃんおねだりされて、ヴォルフラムは仕方ないといった様子で応じた。
「卑怯ですよ陛下。陛下と聖女候補に頼まれたら断れないじゃありませんか。まったく。…………来い、メラ」
ヴォルフラムの足元に魔法陣が現れ、赤い光のなかから黒猫が飛び出した。
『ふぁーー。良い天気だから昼寝日よりにゃ。主殿、にゃーるはまだかにゃー。報酬は前払いでお願いするにゃ』
やる気なさそうな黒猫が大きく伸びをしたあと、その場で昼寝をはじめた。ヴォルフラムが額を押さえてため息を吐いたのは言うまでもない。





