37 集まった情報を整理するのにゃー
『にゃー。そろそろ出してくれ〜。いきぐるし』
「あ、ごめんねイナバちゃん!」
解毒薬を届けて、カイトが目覚めるのを見届けたわけだが。俺はずっとカバンの中。さすがに苦しいぜ。
病院に入ると怒られるから、病室に来るまでは隠れていたのだ。
出るタイミングをすっかり逃していたから、ずっと中にいた。
やっとこさ出してもらって、カイトの膝の上にお邪魔させてもらう。
おふとんふみふみ。よし。香箱座り。
「おいネコ、なぜ俺の足の上に座る」
『気にするにゃ。それより話を整理したいんだ。ごちゃごちゃしてるにゃ』
「話を整理するの?」
『そうにゃ。カイトから得た情報も書き出して並べるにゃ』
ステラちゃんが翻訳して、俺の訴えをみんなに伝えてくれる。
「妙に頭の働く子猫だな」といぶかしみつつも、ヴォルフラムが羊皮紙を出して箇条書きしてくれる。
・尾行されたのは聖女候補の取材をしたあとから
カイトは店まで何もなかった
ジムはキシリアの屋敷を出たあとからつけられていた?
・ジムが襲撃者から伝えられた要求
聖女候補の取材を打ち切ること
書かれている文字は日本語ではない言語だけど、なぜか脳内変換で俺にわかる言葉として見える。
転生で異世界の文字読めるようになるって、俺天才じゃね。
ヴォルフラムがそこまで書いたところで、カイトは首をひねった。
「んー。ジムさんがトゥーランドット家を出たあとからつけられていた。それで襲撃者から聖女候補の取材をするなと脅された……ってことは、やつらの依頼主はキシリア嬢のことを公にされたくない人間?」
カイトの言葉をうけ、ヴォルフラムは顎に手を当てて考えながら言う。
「順当に考えれば、トゥーランドット伯爵家が犯人だろう。キシリアの異変について、伯爵家から魔法士団に相談の類は一切きていない」
「参謀。私は、記者二人に追手を放ったのは、キシリア嬢に精神を変える術をかけた犯人ではないかと推察します。犯罪者を雇うなんて、家名に泥を塗るような真似を伯爵家がするでしょうか」
アルベルトが疑問を口にする。
「アルベルトの言うことも一理あるな……。しかし、そうだとしてキシリアに魔法をかけた人間になんのメリットがある。キシリアに聖女になってほしくないのなら、むしろ記事にされて禁術にかかったという悪評が広まったほうが好都合だろう」
話がどんどんと暗くて怪しいほうにいく。
陰謀の臭いがプンプンするにゃ。
襲撃者を雇ったのは伯爵家か、
キシリアに魔法をかけた者か。
キシリアに魔法をかけた者の目的が「キシリアに聖女になってほしくない・邪魔したい」なら、悪評が広まったほうが好都合。そんな人が裏の人間を雇ってまで取材を中断させるだろうか。
「あー、発言しても構わんかな」
みんなが煮詰まっていたところに、ジムが小さく手を上げて口を挟む。
「キシリア嬢に魔法をかけたやつぁ、なんだってまだるっこしい真似したんだ。カイトに使った毒は耐性のない人間なら即死する代物だろ? そいつを持ってるならキシリア嬢に使えばよかったじゃねえか」
「えっと、たぶんなんですけど、キシリアさまに生きていてほしいからじゃないでしょうか」
ステラちゃんがおずおずと、考えを口にした。シルヴァが続きを促す。
「どういうことです?」
「あのね。魔法をかけた人はキシリアさまに聖女になってほしくないだけで、生きていてほしいのかなって。悪評が広まるとキシリアさまが困るから広めてほしくない」
『そうだとしたらめちゃくちゃゆがんだ奴にゃ〜』
キシリアを聖女にしたくないけど生きていてほしい? ヤンデレか。
話が途切れたところにノックの音がして、医者らしいばあさまが入ってきた。ジャンとかいう魔法士団長も一緒だ。
「ヴォルフ、アルベルト。殿下から城に戻るようお達しだ。たまっている仕事、おれ一人じゃ片付かないぜ? そんでもって主治医殿が病人さんの経過を見たいそうだ」
「「承知しました、団長」」
アルベルトとヴォルフラムが敬礼して、「協力感謝する」と会釈して出ていく。
ジャンも伝えることだけ伝えてさっさと立ち去る。
「…………魔法士の、団長? 今のが?」
なぜかカイトが信じられないものを見たような目で、ジャンの背中を見送る。
「まあ! 誰ですか病室にネコを入れたのは! 不衛生極まりない!」
『ぎにゃっ!』
「ああぁっすみません」
ばあさんヨボヨボのくせに力強、にゃーーーー!!
問答無用で窓から外に投げ出されてしまった。





