36 死の淵からの帰還と、事情聴取 feat.カイト
「……ここは?」
目を覚ますと、見知らぬところで横になっていた。ここはどこだ。消毒薬のにおいが鼻につく。病院?
「カイトさん! 目を覚してよかった、本当によかった!」
「うわっ! な、ななな、なんだ!?」
聖女候補ステラが抱きついてきた。涙で顔をぐしゃぐしゃにしている。
ステラのまわりには獣人執事と魔法士団のやつが二人。そしてその後ろには包帯ぐるぐる巻きのジムさん。
「えー? なんなんだよこのメンバー。宴会をするにしては汗くさいね」
「はぁー。やーっと目を醒ましたな悪ガキめ。酒おごりくらいじゃ割に合わんな」
「は? ていうかオレ、なんでこんなとこに」
最後に覚えているところまで記憶を追ってみる。
ジムさんと飲んでて、武装した変な奴らに襲われたんだった。で、たしか茂みに逃げ込んだところでステラが来て、オレを運ぶって……そこから先の記憶はない。
この子はこんな小さいナリで、追われていたオレを助けたのか。下手をすれば自分まで襲われかねなかったのに。包帯を作るために自分のスカートをビリビリに割いちゃうし。
あんなにイヤミ言ってやったのにオレを助けるなんて、変な子。そういうとこ嫌いじゃないけど。
金髪ロン毛の魔法士が咳払いを一つして、前に出てくる。
「ひとまず君の置かれた状況を説明しよう。私はヴォルフラム・ヒンターハルト。魔法士団参謀だ。すまないが、襲われたときのことについて詳しく話してもらえないか」
んで、魔法士団の参謀サマから、オレが倒れてからのことをひと通り聞かされた。
毒に倒れたオレを助けるために、王子とステラと従者がエルフの王のもとに行き薬をもらってきた。だってさ。
あまりのことにびっくりだぜ。
「マジかよガルガ毒か! さすがにそれの訓練はしてなかったぜ。あ、でも今回のでガルガの耐性ができたと思うから、オレってば向かうところ敵なしじゃん」
「……そういう反応が来るとは思わなかったよ」
参謀サマが額を押さえて、疲れたようにため息をつく。
「犯人の風貌を覚えているか」
「あー、白髪をオールバックにしたジジィだよ。やたらガタイがよくて、額の左側に目立つ傷跡があった。他に二人いたけど、暗くてよく見えなかった。あいつら三人がかりで来やがって、思い出しても腹が立つ」
「襲われた理由に心当たりは」
「さてね。実家の関係で、恨まれる覚えがたくさんありすぎるから。でも、オレもジムさんも、聖女候補の取材をするまでは追手なんかつかなかったんだ。それが原因じゃない?」
聖女候補について調べられると困る人間がいるとしたら誰なんだろう。ま、それはオレの考えることじゃないけど。
「……聖女候補の、取材をしたから? だとしたら、わたしのせいでカイトさんが襲われたのかな」
ステラが口を手でおさえて、うつむいてしまう。なんでこの子はそんなふうに責任感じちゃうんだか。
「あんたのせいじゃないから。悪いのは襲撃してきたやつと命令した黒幕だろ。なんであんたがそんな考えになるわけ」
「だって、カイトさんはわたしのこと取材しに来てたでしょう? そのせいで毒を使われたなら……」
「取材されたのはあんただけじゃない。同じ時間にジムさんがもう一人の聖女候補の取材をしてた。聖女候補のことを調べられると都合の悪い誰かがいるんだろ、多分」
「でも」
「あー、まだるっこしい! あんたのせいじゃないの! わかった!?」
ちっこい頭に手を乗せて髪の毛をぐしゃぐしゃにしてやると、ステラは髪をおさえてむくれる。
「か、髪の毛いじらないでください! せっかく早起きして櫛を入れたのに」
「そ。そうやって顔を上げてりゃいいんだよ。ウジウジしてると付け入られるから気をつけな?」
「う、うぅ。どうしてそうやってイジワルばかり言うんですか」
弱音を吐いて付け入られた経験があるのか、ステラはますます小さくなった。
「あまりステラさんをからかわないでもらえますか。真面目に質問に答えてください」
執事が不愉快そうに顔をしかめて、割って入る。
ステラを背に庇うようにする。お、もしかして妬いちゃった?
スクープ! 執事は聖女候補に惚れていたってか。
「はいはい。あいつらがオレに使った毒がガルガなら、ガルガを売っているマクベって奴に探りを入れるといい。表向き薬剤師だが、裏に毒薬を流してるヤローだ。特殊なもんを求める客は限られているし、顧客リストくらい持ってんだろ」
「君は、毒を流通させている者を知っていたのか」
「そりゃそうさ。オレたち記者は情報が金になるからね。マクベが売った毒で殺されかかったのに、マクベの情報を守ってやる義理はないってだけ」
おいこら後ろで笑ってんなジムさん。
「マクベを捕まえるってんなら協力するぜ。あのジジィにはたっぷり礼をしてやりたいからな」
拳を固めると、ジムさんだけでなくその場にいた全員が苦笑いになった。





