35 解毒薬を待つ時間
部外秘だからと作るところは見せてもらえなかったけど、薬が完成するまでの間、エルフの村に滞在することを許された。
深い森の中にあるエルフの里は、自然を活かした造りになっている。
まわりは森に囲まれているから、木造なのだ。三角屋根の素朴なログハウス、爪とぎしやすそう。
砥ごうとしたらリリーナに睨まれたからやめた。
それにしても、同じ大陸の中なのにエスペランサの町並みとは全然違うにゃ。
ステラちゃんは薬師の家の前に座って、薬ができるのをじっと待っている。クラウドはエウリュ陛下となにやらお話中。
ちなみに、捕まえてきた毒の売人は、里に入れるのを許可しないってことで村の外に転がしてる。逃げないよう、シルヴァとアルベルトが見張り中だ。
俺が容赦なく引っ掻いたから、ご自慢の美肌は傷だらけ。
『ステラちゃん、薬ができるまで、里を見てまわってもいいんじゃにゃいか』
「そうね。でもすぐにでも薬を届けたいから、ここで待つよ。カイトさん、良くなるといいな」
ステラちゃんは胸の前で手を組んで、お祈りする。
森の探索と岩場を登ったから、ステラちゃんの服はどろんこ土ぼこりまみれ。本人もかすり傷だらけ。それを気にした様子もなく、ただただカイトの無事を祈っている。
『ぜったい大丈夫にゃ! ステラちゃんが陛下に材料集めるからってお願いしなかったら、薬をもらえず帰るとこだったんだ。ここまできたら大丈夫に決まってるにゃ!』
「うん。そうだよね。カイトさん、元気になるよね」
うつむいていたステラちゃんの顔に、光がさした。
そう、ステラちゃんがあきらめて帰ったら、薬を作ってもらえなかったんだ。ステラちゃんのがんばりが報われてほしい。
俺もステラちゃんの隣で丸くなって、一緒に待つことにする。
ときおりステラちゃんがそっと頭をなでてくれて、心地いい。ネコが人間に撫でられるとのどを鳴らす気持ちがよくわかるぜ。
どれくらいここにいただろう。
薬師のエルフが出てきて、ステラちゃんを見つけて驚いた。
「まさか、ずっとココにいたのカ?」
「はい。あの、解毒薬は」
はやる気持ちをおさえられず、ステラちゃんはすぐに薬のことを聞く。薬師は手で制して、親指サイズの細い小瓶を二本取り出す。
はちみつを薄めたような、透明感のある黄金色の液体だ。
「そう急くな。キチンとできてイル。これを。大きめの花だっタから、二本作れた。これを飲ませろ」
「これが解毒薬……。ありがとうございます薬師様。この御恩、忘れません!」
薬の瓶を手にして、ステラちゃんは感極まって泣いてしまう。
「まったく。家族でもない者のために、アンチドーテとガルガ蛇をとってくるなんて。陛下のおっしゃるとおり、当代の聖女は変わった娘ダナ」
「ま、まだ候補なので、聖女ではないです。わたし、いうほど変わり者です?」
「候補でも聖女でも、どちらでもいいダロ。まあ、変だが、お前のような人間は嫌いじゃナイゾ」
薬師はほほをかいて、ステラちゃんに笑顔を返した。
ステラちゃんは涙をぬぐい、薬の瓶が割れないようにしっかりとクッション材を入れた箱におさめると、鞄にしまう。
「さあ、陛下にご挨拶したら、帰りましょう。カイトさんのところに、薬を届けないと!」
『おー!』
無事に薬をゲットして、いざ帰還、エスペランサ王国!





