30 アンチドーテの花を探して
今エルフの里にない材料を自分で採取して、日没までに持ってくること。
これが、エウリュ陛下の出した、薬を調合する条件だった。
解毒薬の材料を採取できる付近まで案内してくれるのは、リリーナだ。
リリーナは聖心の森の奥の奥、大きな岩だらけの、道と呼べないような場所を器用に跳んでいく。
「必要ナノは、花。アンチドーテ・アミル。それとガルガ蛇。薬には、咲いたばかりの花の花びらが、ひつよう。蛇からは、毒液をとる」
「花と、蛇の毒ね。それぞれ、どんな見た目をしているの?」
「花は日がしずむと枯れる。葉っぱがとんがってて、しずく型の花びらハ透明。蛇は、青い体に、きいろなマダラ。獰猛だから、気をつけテ」
リリーナってば、三人がついてこれているか後ろを確認したりしない。
ステラちゃんは背が低いから、岩によじ登って、追いつこうとがんばる。シルヴァが一足先に登り、ステラちゃんを引っ張りあげる。
「ありがとう、シルヴァくん」
「こういう場では頼ってください。ボクは獣人なので、人間より筋力や体力が高いんです」
そう語るシルヴァは、役に立てたから誇らしげだ。
アルベルトは自力で登るのを早々に諦めた。「手を貸せ」とシルヴァに言って引き上げてもらい、段差を超える。
クラウドは風の魔法を駆使して、文字通り飛んだ。
何食わぬ顔で大岩の道に着地する。
あ、俺はステラちゃんの肩にのってるだけだから何もしてないぜ。
『これはすごいにゃー』
俺たちが案内されたのは、岩山の急斜面だった。
ネコの目から見ても、高層ビルくらいの高さはある。もはや崖じゃねこれ。
リリーナは、両手の人差し指と親指で尖ったひし形を作りながら言う。
「アミルの花、このあたりに、生えてることがオオイ。蛇もこの辺にいる」
「こうやって五人で固まっていても時間がかかる。ふた手に分かれよう」
クラウドが崖を見上げながら提案する。崖の横幅は百メートルはある。一箇所に何人もかたまるより、人手を分散したほうが効率がいいだろう。
「そうしましょうか。では、殿下とシルヴァ、リリーナは蛇を探す。私とステラが花を探そう」
「お前たち二人で大丈夫か? 先程は岩を登るのにもずいぶんと手間取っていたと思うが。ぼくが花の捜索にいたほうがよくないか」
「いえ。崖の壁面を使い魔に調べてもらうので、心配無用です」
「ほんとに大丈夫? あの岩場登れる? ソラってば昔からいらないところで意地を張るから」
二人から体力無しと指摘されて、アルベルトが舌打ちした。イラッ☆ って顔に出てるぜ。
「チッ。余計なお世話……コホン。口論している間が惜しい。さっきの通りでふた手に分かれ、一時間後にいったん合流する。いいですか」
「それもそうだな。シルヴァ、リリーナ、いくぞ」
クラウドとシルヴァ、リリーナが蛇探しへとむかう。
「私たちも急ぐぞ」
「はい、アルベルトさま!」
ステラちゃんは両手を強く握りしめ、前を見据える。
ステラちゃんとアルベルトは花探し。
クラウドとシルヴァとリリーナが蛇探し。
二つの隊に分かれて材料集めを開始した。





