27 ファーストバトル! 聖心の森の中ボスを倒せ!
少女が、何かに追われていた。
褐色の肌、金色の瞳。透明感のある白くて長い髪。耳は人のものよりも長くて、尖っている。ダークエルフと呼ばれる存在だった。
ステラちゃんたちのもとにかけてきて、足を止めた。
「に、ニンゲン!? なんでここニ」
予想していなかった俺たちの存在で一瞬呆然としたけれど、ハッとして振り返った。
森の草木をかき分けて現れたのは、巨大なクモだ。大きさは三メートルあまり。ガラス玉みたいな目が八つ、足が八本。トゲトゲした毛に覆われている。
「ぎシャアアアアア!!」
「ヤツメグモか。そこの女、下がっていろ。出てこられたら巻き添えにしてしまう。こいつはわたしたちが片付ける」
「ワカッタ」
エルフの少女がステラちゃんのいるところまで下がってくる。
「殿下、シルヴァ。サポートを頼みます」
「ああ。任せろ」
言うが早いかアルベルトが宙に木の杖をかざし、魔導書を開く。
二重三重に青く光る魔法陣が展開された。
なんだっけ、たしか森の中ボス。ヤツメグモ。真由子が攻略法を自慢げに話していたような気がする。
とても素早くて、物理攻撃や魔法攻撃を避けてしまう。
クラウドが剣を振り上げて切りかかる。が、クモ糸にからめとられて、刃が見えなくなった。
「チっ。行け、シルヴァ。爆薬で蹴散らせ」
「承知しました」
叫びながら剣を投げ捨て、カマイタチを喚ぶ。張り巡らされた強靭なクモ糸が切り落とされ、散っていく。
シルヴァが振りかぶり、クモに紫色の小瓶を投げつける。クモは一瞬にして木の上に飛び、何もいなくなったところに瓶が転がって破裂した。
「ギギキギぃい!!」
『うわ、あれ絶対怒ってるー!』
木の上から無限に降り注ぐクモ糸。
逃げ場を塞がれてしまう。
「これでも喰らえ、虫けら!」
アルベルトが紡いだ魔法は身の丈を超える槍だった。槍の形をした水の塊が飛ぶ。
渾身の魔法は、クモが吐いた糸の壁にやすやすと霧散されてしまった。
『にゃーーー! このままじゃまずいにゃ、えっと、この場を何とかするには』
目潰し、そうだ。真由子が言ってた。ヤツメグモは八つある目を塞いでしまえば動きを封じられる。ステラちゃんが使える、初級閃光魔法。それが効く!
『ステラちゃん! 魔法! 目くらましの魔法にゃ! クモは目がいいから、まず目を潰すのにゃ!』
「ええっ!? 目くらましの魔法!? わ、わたしまだ魔法を使ったことないんだよ? 使うって、どうすればいいの!?」
手練のアルベルトたちですら難儀する相手だ。ステラちゃんの動揺は計り知れない。半泣きのステラちゃんを後ろから抱きすくめるようにして、アルベルトがステラちゃんの手の上から杖を握った。
「私が補佐する。ステラ。杖についた宝石に力を集めるようイメージしながら、私の言う文言をなぞれ。──我願うは護りの光」
「わ、我願うは護りの光!」
杖の先端、翼のレリーフにはめられた石が光りだす。危険を察知したヤツメグモが糸を吐き、クラウドとシルヴァが魔法と剣で防ぐ。
「闇に蠢くモノを留め給え、背くものに神罰を与えん!」
「闇に蠢くモノを、留め給え。背くものに神罰を与えん」
レーザーのように、一直線に光が走る。あたりを一瞬真っ白く染め上げる光に飲み込まれて、クモが落ちてきた。
赤いガラスみたいな目がぐるぐると回っているのがわかる。立とうとして脚が左右にぐらついている。
真由子いわく目くらましの効果は三ターン。倒すためにはすぐに行動に移さないと駄目。
「今のうちに殺るぞ! 二人とも、ぼくに続け!」
「はい!」
予備の剣を振るうクラウドと、シルヴァ。二人がクモの脚を断ち、アルベルトが水の槍を喚んでトドメを刺した。
どおん、とクモが地に崩れ落ちる。
これだけど派手に戦闘をやることになるなら、やはり森の探索をする適任はアルベルトなんだろう。雷のジャンと炎のヴォルフラムが来ていたら、山火事待ったなしだ。
にゃ! にゃんとクモが霧のように消えて跡に細長い赤い珠が落ちていた。ヤツメグモの目玉だったやつ。
これあれだ、ゲーム定番ボスドロップアイテム!
『ネコの体がうずくにゃ! うにゃ! にゃ!』
「あ! イナバちゃん!」
体が勝手に、珠めがけて飛び出していた。
土の上をコロコロする丸いもの。ゴルフボールくらいの、透明感ある赤い珠め。前足で転がす至福。ああー、すっごいたのしい!
「こらネコ。魔石で遊ぶな。これは魔法具に加工できるやつだから傷をつけるな」
『にあー。俺のおもちゃにゃのに!』
アルベルトに首の後ろをつまみ上げられる。赤い珠はアルベルトが懐にしまった。俺のなのににゃ!
ステラちゃんは、杖を支えにして立っていたけど、座り込んでしまった。肩も唇も小刻みに震えている。
「か、かてた、の? えへへ……ま、まだ実感、わかないや」
ヘロヘロになっているステラちゃんに、シルヴァが手を差し伸べる。
「ステラさん、お疲れ様です。立てますか? 目くらましの魔法、すごかったです」
「ありがとう、シルヴァくん。シルヴァくんもかっこよかったよ」
初めての戦闘、初めての魔法で疲れてはいるけど、ステラちゃんは嬉しそうだ。
「宣言通り、足を引っ張らなかったじゃないか。褒めてやろう」
「ええと、あ、ありがとう、ございます?」
俺さま王子さまなクラウドはそもそも生まれついて偉い人だから、上から目線なお褒めの言葉だ。育ちのせいで誰かと対等に接するということができないらしい。
困惑しつつも、ステラちゃんは会釈をかえした。
クモが消えて、ずっと木の後ろに隠れていた少女が出てきた。
「ワタシ、リリーナ。エルフの里に住ンデル。カンシャする」
「ぼくはクラウド。クラウド・フォン・エスペランサ。エルフの長に折りいって頼みたいことがあってここまで来た」
たどたどしく言うエルフの少女に、クラウドが言う。助けてもらったお礼にと、少女が安全な道を選んで里まで案内してくれることになった。
緑あふれる深い深い森の中にあるエルフの里。
大木の太い枝上に小屋がある。地上は獣が多いから、長い時を経るうち、自然と上に住むようになったのだという。
リリーナに連れられ、エルフの女王に会うことができた。





