26 天然ダンジョン・聖心の森、探索開始だにゃ
日が変わらないうちに身支度を整えて、ステラちゃん一行はエスペランサ首都の北西、聖心の森に出立した。
俺も連れて行ってもらう。完全防備のステラちゃんの肩の上。絶対森の中に降りちゃだめと念押しされた。ちぇ。
四人とも厚手のロングブーツ。肌を出さないよう長袖長ズボン。ほぼ未開の森の中には、毒蛇以外にも毒を持つ虫がいるのだ。
春も半ばでかなり暖かいから、人間なら少し歩いただけでも汗だくだろう。
うっそうと茂る木々、道なき道。ゲーム定番の自然型ダンジョン探索だ。
RPG好きだからめちゃくちゃワクワクするぜ!
ステラちゃんは町からほとんど出たことがない。その上に、急遽組まれたパーティーメンバーは王子殿下と魔法士さまがいるのだ。緊張しすぎてガクブルしている。
「足手まといにならないよう、精一杯がんばります。よろしくお願いします!」
「足手まといになりたくないなら、今後アルベルトの授業に馬術も入れておけ」
「す、すみません。精進します」
フォローのつもりなのかイヤミなのか判断がつかない。
ステラちゃんはもちろん馬に乗ったことなんてないから、クラウドの前に乗せてもらっていた。「王子さまの手を煩わせるなんて」と、恐れ多すぎてステラちゃんは真っ青。
『大丈夫だ、ステラちゃん! 俺たちがいるにゃ!』
「ステラさん、ボクがフォローしますから、安心してください」
「ありがとう、イナバちゃん、シルヴァくん」
シルヴァに背中を軽く叩かれて、ステラちゃんの表情がやわらかくなる。
地図片手に森を先導するのはアルベルトとシルヴァだ。アルベルトが先を示し、シルヴァが視界や足元をさえぎる枝葉をナタで裁つ。
クラウドとステラちゃんは、二人が作った道を歩く。
こうすれば、後ろの人が歩きやすいんだって。
『すごいにゃ。こんなに草だらけの奥に人が住んでいるのかにゃ?』
「そうね。蔦や枝だらけでほとんど道もない。どうやって暮らしているのかしら」
「このあたりは未開だが、しばらく行けば、この森の住人……エルフたちの生活圏に入るだろう。そうすれば少しは道があるはずだ。彼らとて食料確保で森の中を動く」
「そうなんですか。エルフって絵本の中だけの存在だと思っていました」
「人嫌いゆえに人前に姿を見せないから、伝説級に珍しい種族になってしまっているが、エルフは実在するぞ」
クラウドが、額から滴る汗を袖で乱暴に拭う。
今は王族のきれいな服ではなく、飾り気ないそこらの冒険者みたいな格好だ。ブーツも上着も、汗と泥と葉っぱで汚くなっている。
ステラちゃんも泥だらけだけど、文句一つ言わない。早くカイトのために薬を見つけたいと言う。ええ子や。
ある程度進んで、開けた場所で一旦休憩する。
二時間近く歩いたかな。ステラちゃんはシルヴァから水筒をもらい、水を飲んで深呼吸している。ステラちゃんの肩の上に乗っているだけの俺。なんかごめんな。
「アルベルトさま。わたしには光魔法の適性があるとおっしゃっていましたよね。魔法具以外では何ができるのでしょうか」
「光魔法は洞穴内探索や夜道を歩くのに役立つ。あとは闇属性やゴーストなどの光に弱い魔物もいるから、そういう相手には強い。それ以外なら目くらまし。我々人間も、いきなり太陽光を見ると怯むだろう。それを戦闘に応用するんだ。光属性の魔物以外なら、ほぼ目くらましが効く。こういう点を鑑みると、攻撃だけが戦い方ではないとよくわかるだろう」
「は、はい。ありがとうございます。勉強になります!」
アルベルト……どこで息継ぎしてんだと思うくらい一気に喋るものだから、ステラちゃんが変な汗たらしているよ。
「それにしても、エルフはこのあたりにまで出てこないのでしょう。それにしてはなんというか、この地点に来るまでの間に、武装魔法具特有の臭いや野営の痕跡が見受けられました」
ハンカチで汗を拭きながら、シルヴァがぽつりとつぶやく。
エルフなら自分たちが安全を確保して作った道をいくだろう。あえて森の外につながる場を開拓する必要はない。
「それはおかしい。我々王家が最後にエルフとコンタクトを取ったのは、二年前、エルフの長交代の時だ。それ以来はない」
クラウドに答えたのはアルベルトだ。
「違法に侵入し、ガルガ蛇の毒を調達しに来ている人間がいる、ということでしょう。我々は解毒方法を知らないから、確実に対象を死に至らしめることができる」
「それが、カイトさんを襲った人っていうことですか?」
「なぜ一介の記者にすぎないカイトがそんな奴らに襲撃されたのか。なぜ口封じされようとしていたのか。それは犯人を捕らえるか、カイトが目覚めるのを待つしかない。いずれにしろ、今私たちが最優先すべきなのは犯人捜しではなく、解毒薬を入手することだ」
クラウドが何かにハッとして、剣に手をかける。
ささやかな休息は、突如響きわたった悲鳴で終わりを告げた。





