24 女王陛下はとても有能な御方だった
城に向かって三十分。とにかく一刻を争う事態なのだとステラちゃんが必死に士官にお願いして、特別に女王陛下との謁見が叶った。
本来なら何日も前から謁見の予約願をしないといけない。女王陛下は国政を担う貴人なのだから、当然と言えば当然なのだ。
俺は使い魔って名目で、ステラちゃんのカバンから出してもらえた。アルベルトが使い魔としてソーマを連れていたし、使い魔なら連れて入っていいんだってさ。
謁見の間と呼ばれる広間で、女王陛下はステラちゃんを出迎えた。
ピンク色の柔らかそうな髪が腰まで伸びていて、ユリを模した髪飾りが似合っている。緑の瞳はやさしげ。露出のない、エレガントなロングドレスも手伝って、気品を漂わせている。
陛下の側には魔法士が二人控えている。
シルヴァはステラちゃんのやや後ろで片膝をついて頭をたれる。
ステラちゃんはスカートの両裾を手で軽く持ち上げて礼をする。
カイトが夜の公園でひどい怪我をして倒れていたこと、ガルガ蛇という毒蛇の毒を盛られていること。
すぐにでも毒の治療薬がほしいこと。
できる限り落ち着いて、ステラちゃんは話した。
陛下は取り乱したりせず、表情をくもらせて応じる。
「そうですか……。まさかこんな町中でガルガ蛇の毒が使われるなんて。襲撃犯がどうやって毒を入手したのか気がかりだけど、まずは毒消しを貰わないといけないわね。ステラ。貴女、使節としてエルフのもとに行ってきなさい」
「わ、わたしが行っても、いいのですか?」
「ええ。何も知らない者を使節にするより、詳しい事情を知る貴女が行くのが手っ取り早いでしょう。聖女には国中をあいさつ回りしてもらう慣例もあるから、ちょうどいいわ。候補とはいえ聖女には違いないものね」
おおう。物わかりいいし効率的だし、女王陛下、めっちゃ仕事できる人だ!
この人が上司なら、部下はとっても快適だろう。
トントン拍子に話が進みすぎて、当のステラちゃんのほうが困惑している。だめと言われることも考えていたかもしれない。
陛下はピッと人差し指を立ててウィンクする。
「クラウドを一緒に行かせましょう。あの子も、いずれ王になるのなら、国中にあいさつ回りさせないとね」
あのクラウドがあいさつ回り。なにそれ見てるこっちは楽しい。と思ってもネコだから口を挟まない。
「というわけで、ジャン。クラウドを連れてきて。わたくしはエルフの長への手紙を用意しておくから」
「承知しました、陛下」
控えていた魔法士のうち、黒髪の青年が敬礼して広間を出ていった。
それまで微動だにしなかった金髪の青年が動く。
「発言してもよろしいですか、陛下」
「なにかしら、ヴォルフ」
ヴォルフ、と呼ばれた青年は陛下とステラちゃんに深く頭を下げてから、口を開いた。
「私はヴォルフラム・ヒンターハルト。以後お見知りおきを。そのカイトという少年が襲撃されたのは昨夜なのでしょう。なぜその医者は、たった一晩で毒の種類を判別することができたのでしょう。その医者を調べてみる必要があると存じます」
「ヴォルフラムさま。毒の種類が一晩でわかるのは、おかしなことなのですか?」
ステラちゃんはそういう知識はないので、ヴォルフラムに問う。ヴォルフラムは深く頷く。
「毒と一口に言っても、百種はあるんです。特定するまでに、注意深く被毒者の症状や経過を見なければなりません。その毒を特定した医者は、襲撃犯と関わりがあるのかもしれません。ただの憶測ですが」
ヴォルフラムは、とても思慮深い人のようだ。
こんな事態だと、誰もが「毒を消さないと!」とそちらに集中する。治療にあたってくれた医者を疑うなんてできるはずもない。
第三者だからこそ、客観的に洞察してくれる。
陛下はその言葉を受けてすぐに指示を出す。
「もしそうなら……表立って動くとカイトという子に影響が出そうね。ヴォルフ、慎重に調べを進めなさい。ステラはその間ガルガ蛇の解毒薬をもらってくること。事は一刻を争うのだから、のんびりしていられないわ」
「はい! カイトさんのためにも、必ず解毒薬をもらってきます!」
「頼もしいわね」
ステラちゃんが力強く答え、陛下は満足そうに笑う。
「クラウドとステラは決定として。護衛に二人ほど、ヴォルフが信用できると思う者をつけてくれる?」
「ではアルベルトと、そこの執事を。引き受けてくれるか、シルヴァ」
「仰せのままに」
「アルベルトを呼んできてくれ」
「承知しました。ヴォルフラム様」
シルヴァはすぐさま立ち上がり、アルベルトを呼びに行った。
ジャンに引きずられるようにして連れて来られたクラウドと対面して、ステラちゃんが仰天したのは言うまでもない。





