23 凶刃に倒れたカイトと、カイトを救う方法
翌朝、学校に行く前にステラちゃんは病院に向かった。俺も気になるから連れていってもらう。
ルークは遅刻の事情説明のため、学校に行ってもらった。病院はネコ立入禁止だから、こっそり肩掛けカバンの中に隠れている。
カイトはまだ目覚めておらず、病室にはカッターシャツに背広のスラックス姿のおじさんがいた。着ているものはシワだらけのヨレヨレ。徹夜あけのサラリーマンのような風体だ。
もしかして社畜仲間なのかな。親近感湧いちゃったよ。
ベッド横に置かれた椅子に座って思い詰めたような表情をしていたが、ステラちゃんとシルヴァに気づくと笑顔を作って立ち上がった。
「おう。アンタらがうちのバカを助けてくれたんだってな。ありがとうな」
「いいえ。あの、カイトさんは大丈夫なんですか?」
ステラちゃんは眠ったままのカイトが心配で、おじさんの言葉にかぶる勢いで聞く。
「そう慌てなさんな、ステラ嬢。おれはジム。こいつの上司だ。あんたのことは聖女候補だから、知っているよ」
手で制止されて、ステラちゃんは焦りすぎていたと自覚して深呼吸した。
ジムはよく見ればあちこち包帯だらけ。カイトもジムも何があったんだろう。
ほほをかきながら、言いにくそうに口を開く。
「医者の話では、こいつを傷つけた得物にはかなり特殊な毒が使われていたようで、解毒薬も血清もないんだとよ。強い神経毒だから放っておけば確実に死ぬ」
「そんな……じゃあカイトさんはどうなるんです?」
泣きそうなステラちゃんの肩を、シルヴァが支える。毒を消せないと命に関わるんじゃ。俺も心配でならない。
みんな生きているし、俺にとって今ここが現実なのだ。
ステラちゃんをからかって楽しむイジワルなやつだけど、カイトが死んでしまうなんて、そんなの嫌だった。
「慌てるなって言ったろ。カイトは事情があって、普通の人よりは毒に耐性があるんだ。だから深く眠る程度で済んでいる。解毒さえできれば目を覚ますと、医者はふんでいる」
よく聞けば、普通の人なら死んでるほどの猛毒らしい。それは大丈夫なのか大丈夫じゃないのかわからない。
「国の北西にある、聖心の森にしか生息していないガルガ蛇の毒だ。その森に住む一族なら、解毒薬を持っているか、解毒法を知っているだろう。だが、あそこは王族の許可がないと入れない」
「なら、すぐに陛下と殿下に事情を話して、許可をもらいに行きましょう。ステラさん」
シルヴァが燕尾の尻尾をひるがえして病室を出る。
ステラちゃんもぎゅっと手を握って、顔を上げる。
「ジムさん、教えていただいてありがとうございます。わたし、解毒薬を探します!」
それから眠るカイトの手を取って、宣戦布告する。
「毒に負けないでくださいね。カイトさんには、言っておきたいことが山ほどあるんですから、起きてもらわないと困ります!」
「……こんなバカのためにありがとな。そう簡単に許可が降りるかどうかわからんが、あんたならできそうな気がしてきたよ」
ジムの言葉を背に、ステラちゃんはシルヴァを追って病院を出た。
まずは王族の許可をもらい、それから蛇の解毒薬をもらいに行くのだ。





