20 人は第一印象が大事って言うけど、第二印象も最悪な場合どう挽回するんだろうか
ステラちゃんの方はどうなってるかな。
踏まれないように花壇や塀の上を歩きながら学校に向かう。
日が高くなってきたし、今ならちょうど校庭の木の下でお昼ご飯かな。ママさんのお弁当美味しいんだよね。お弁当を作っているところにお邪魔すると、おかずをちょっと分けてくれる。
柵の隙間をぬって学校に着くと、大木のかげに何やら怪しい人影が。女の子の会話に聞き耳を立てて、手帳にメモしている。
「ふむふむ。ステラの嫌いな食べ物は苦いもの、コーヒーは砂糖とミルクを入れないと飲めない……っと。子ども舌なんだねぇ」
『うわ、まだいたよこいつ』
ステラちゃんは、シートを広げてココアちゃんや他の友だちとお弁当タイムを楽しんでいる。
さすがに昼食時にまではシルヴァとルークはいない。女の子だけのところに男がまじるのっていたたまれないから、無理もない。
『にゃー。やめときなよストーカー』
「ん、何だこいつ。シッシッ。ここはネコの入っていいとこじゃないぞ」
『ストーカーも入っちゃだめだにゃ』
「ほら、コレやるから邪魔すんなよ。ネコに足元うろつかれたら取材できないだろ」
ストーカーのポケットからカラフルなフィルムに巻かれた包みがでてきた。チーズの匂いがする。
「あーーーー!! なんか騒がしいと思ったら、あなた今朝の! うちのイナバちゃんに何するつもりですか!」
「うわっ!」
ストーカーに気づいたステラちゃんが走ってきて、俺を抱え上げた。完全に油断していたストーカーは、驚いてメモ帳を落とした。
その中身がステラちゃんの目に入ってしまう。
「ちょ、わたしの食べ物の好みなんて記事にしてどうするんですか。今朝も勝手に写真を撮ったし、やめてください」
「チッチッチ。甘いな君。こういう嗜好って読者が親近感を覚えるネタになりそうだろ?」
「同意を求めないでください」
ステラちゃんは頬を膨らませてプンプン。それを見たストーカーはクックと笑う。
「君、ただでさえチビなのに、そういう顔すると子どもみたいに見えるね。大人ならこれくらい笑って流しなよ」
「子ども子どもって……私はもう十五です。次の春には学校を卒業するレディです。バカにしないでください!」
「プッ。せめてオレの肩くらいまでの背丈になって、胸はEカップになってからレディって言ってよ。オレが今の君をレディとして見るなんてナイナイ」
うっわ。こいついい性格してるなあ。
わざとなのか素なのか、ステラちゃんのコンプレックスを突きまくる。
「あなたなんかにレディ扱いされても嬉しくありません!」
ステラちゃん、怒り心頭で帽子を投げた。
ストーカーもといカイトは、帽子をひょいと避けて、落としたメモを拾い上げる。
「おっと。人が集まって来ちゃうから、オレはもう行くよ。寂しいと思うけど泣かないでくれよ。バイバイ!」
「ふざけないで! だ、れ、が! 寂しがるものですか!!」
ステラちゃんが腕を振り上げて叫ぶ。振り上げられたせいで宙を舞うことになった俺は、一回転して着地する。
「あっ! イナバちゃんごめんなさい、わたしったらつい!」
『いいっていいって。それよりカイト。ほっといていいの?』
「あ、あああ! 行っちゃった! まさかカイトさん、ほんとうにわたしが苦いもの嫌いって記事にしないわよね? ねぐせボサボサとか」
『いや、ど、どうだろう。わからにゃい』
あの人、些細なことに尾ひれつけて書きそうだからなぁ。ステラちゃんは真っ青だ。
記事にするかどうかはカイトのみぞ知る。
第一印象だけでなく二度目の印象も最悪の男、風のように去りぬ。





