19 鬼島の本体はどうなったのか、聞いてみることにした
新聞記者がついちゃったステラちゃんが心配だけど、ルークとシルヴァが見張っているから、任せよう。
ちょっと鬼シリアの様子を調査しに来てみた。
まだ鬼シリアに聞いていなかったことがあるのだ。
それは、鬼島のあちらの体は生きているのかどうかということ。俺は生命維持装置で繋がれているレベルの瀕死、なら鬼島は?
もしもキシリア嬢を元に戻す魔法が見つかったとして、鬼島の精神を剥がしたら鬼島はどこにいく?
本来のキシリア嬢の心は戻ってくるのだろうか。
開け放たれた窓から屋敷に潜入すると、雑巾とバケツをさげたツインテメイドっ娘が俺に気づいて話しかけてくる。
「あらあら、ネコちゃんまた来たのね」
『にゃー。お嬢様はいるかにゃ』
「うふふ。お腹すいたの? ごはんがほしいのかな〜。これが終わったら魚をあげるから、まっていてね」
『ちがう。お嬢様いるか、にゃ! ごはんじゃにゃーー!』
「もう。くいしんぼさんね」
ちがうって言ってるのに。ステラちゃんの動物と会話できる魔法がいかに俺を助けてくれているのか、身にしみるぜ……。
この前足じゃペンも持てやしない。もう勝手に奥まで入ったれ。
扉が開いていたから、鬼シリアの部屋にお邪魔させてもらう。
鬼シリアはネグリジェのまま、天蓋つきベッドの上であぐらをかいて座っている。美貌が台無しだ。サイドテーブルには処方箋。水差しとグラスが置かれている。
そんなに寒いわけでもないのに、部屋の暖炉では薪が燃えている。
熱でも出したんかこの人。
「チッ、どいつもこいつもオレを病人扱いしやがって! なーにが、お嬢様は心がお疲れだからしばらくはおやすみしてください、だ!! おれは部長だぞ!?」
舌打ちしながらサイドテーブルを拳で殴る美少女。荒れてんな、おい。
『あのですね、鬼島さん。ちょっと聞きたいことが』
「イナバか。お前、聖獣は見つけてきたんだろうな」
『いえまったく、ちっとも』
「チッ。何もないなら戻って来るな役立たず」
わー、せっかく来たのに今日も毒舌全開っすね。
踏まれないようベッドの背もたれに飛び乗って、前足をひっこめ香箱座りして聞く。
『その体から出る魔法があったとして、向こうに戻れるかどうか確かめるのに、鬼島さんがここに来たときのこと聞きたいんです。俺は空飛ぶじいさんに元の体のこと聞いたんですけど、鬼島さんは浮いてるじいさんに会いませんでしたか?』
「あー。仕事から帰る途中、歩道に大型トラックが突っ込んできたな。そんな老いぼれがいたような気もするが、偉そうなことを言ってきたから一発殴ってやった。で、気がついたらこの姿だ」
うわ、あのヒョロイじいさん殴るって鬼かよ。いや、この人、目下相手には常に上から目線だったな。自分の上役には、媚びてたのに。
『……こう言っちゃなんですが、もしかして鬼島さんのもとの体、死んでませんにゃ?』
「は!? バカを言うな! そんなの夢だろう。おれはあの専務や常務よりも有能なんだ! この変な夢からさっさと目を覚して、業績をあげてゆくゆくは次期社長になる男だぞ!?」
あんたが偉いのはわかったから、ツバ飛ばすなっての。
自分がすでに死んでいる可能性が高いなんて、認めたくない気持ちもわからないでもないけれど。大型トラックに轢かれても生きてる可能性って限りなく低いと思う。
『怒鳴ったって解決しないでしょう。あのじいさんがあちらに返してくれる力を持っているなら、殴ったことを謝って元の体に戻してもらう。会えないなら、本を開いたり、この世界の人に聞いて回る。それは俺じゃだめです。人間にしかできない』
「無能のヒラのくせに、おれに偉そうに言うな! あんな怪しいジジイに、このおれが頭を下げろと言うのか!?」
『俺より有能なら自分にできることをしてください。殴った相手に謝るのも嫌って、なんなんですか』
これだけディスられても協力しにきているだけ、ありがたいと思ってほしいもんだ。
一応知りたかった情報は得られたから、またステラちゃんの手伝いに戻ろう。
ベッド枠の上から窓枠に跳んで、半開きになっていた窓から外に出る。
鬼シリアがずっと怒鳴っていたが、俺は心の平穏のために聞こえないふりをした。





