18 ステラちゃんにつきまとうストーカー(?)カイトがあらわれた!?
朝起きると、なぜか我が家のダイニングにシルヴァがいた。ママと一緒に朝食を作っている。
エプロンつけてフライパンを振る姿がサマになっているぜ。
『にゃーなんでここにシルヴァが?』
『オイラにもよく分かんねーけど、あさイチで来た』
パパは不思議な光景を横に、新聞を広げ優雅にお茶を飲んでいる。ピンク色のお茶は、エスペランサティーって言って、俺の世界でいう紅茶みたいな感じで一般市民に親しまれているものらしい。
「今日もミケコたちは元気だなあハッハッハ」
俺以外はパパが名前をつけてくれたんだぜ。
ママンがミケコ、パパンがトラジロウ、茶色の弟はチャチャ、黒ぶちの弟はブっちゃんだ。謎のネーミングセンスに突っ込んではいけない。俺たちは飼ってもらってる身だ。
『あら起きたのね坊や。シルヴァさんは、ステラちゃんの護衛をするために来たのですって』
『ほへー。そうにゃのか、ママン』
だいぶ怪我が良くなったママンは、昨日から起きて歩き回れるようになった。バスケットのベッドから降りてきた。
起きたキョウダイたちも、バスケットを乗り越えて転がりながら、俺にまとわりついてくる。
『兄ちゃん。にゃいと、にゃいと、かっこいいニャ』
『ぼくらもニャイとなりたいにゃ』
『そうだな兄弟。かっこいいな』
そうこうしている間にもステラちゃんとルークが起きてきた。
「おはようございます、ステラさん」
「きゃーーーー! シ、シルヴァくん? なんでうちにいるの!?」
起き抜けでパジャマでねぐせがピンピンなステラちゃん。両手で顔をおおって、洗面所に走っていった。
ステラちゃんとは反対に、きちんと着替えて落ち着きはらっているルークは、シルヴァに聞く。
「なんでシルヴァが?」
「おはようございます、ルークさん。本日からステラさんの護衛を兼ねるよう仰せつかって参りました」
「ふーん。……まああちらの令嬢も護衛がついているようだし、ステラにも一人くらいつくのかもな」
シルヴァが、まるで井戸端会議でもするのように重要事項をサラッとのたまう。
パパとママは昨日のうちから話を聞いていたらしい。
「ステラに魔法のことや王宮の作法やいろいろ指南してくれているんだろう。あの子にもいい勉強になる。ありがとう」
「そそっかしい子だけど、私達の自慢の娘なの。ステラのことよろしくね、シルヴァくん」
「もちろんです」
なんとご両親公認の護衛である。
きっちり着替えて身奇麗にしたステラちゃんが戻ってきた。
「ううう……。パジャマで寝癖だらけのところを見られるなんて……」
「ステラが着替えないのが悪いんだろ。だから早く起きろって言ったじゃないか」
兄の追い打ちがかかり、乙女心がズタズタである。
「ごめんなさい。昨日、ステラさんを送り届けたあとに出た指令なもので」
「謝らなくていいわ。家の中だからって油断していたわたしが悪いの」
ステラちゃんは席について、ママとシルヴァの作った朝食を口にする。黒パンのトーストにお茶にスクランブルエッグ、葉野菜のサラダもつく。シンプルで、日本の朝食に通づる。
「エスペランサのリモネンティーをどうぞ。スッキリしていて目が覚めますよ」
「ありがとう」
温めてあるカップ二つに、シルヴァは優雅な動作でエスペランサティーを注ぐ。それをソーサーに乗せて、ステラちゃんとルークの前に出す。
俺たちにゃんこもモーニングお乳の時間だ。
俺と弟たちはママンのおっぱいを飲んで、ママンとパパンは柔らかく煮込んだミルク粥を食べる。ノラネコからイエネコになったから、狩りをしなくても問題なくなったのだ。
ヤマネもおちょこくらいのちいさな器にナッツをもらって、アーモンドみたいな木の実を抱えてかじる。
家族の団らんって感じがして落ち着く。
朝食が済んだら学校だ。
いつもならステラちゃんとルークの二人で家を出るけれど、今日はシルヴァも一緒。俺もちょっと鬼シリアの様子見をしたいから、途中までついていく。
「いつもはお兄ちゃんと二人だから、シルヴァくんもいるのってなんだか不思議」
「ふふ。ボクも学校まで歩くのは卒業以来なので不思議な気がします」
「いいな。シルヴァはもう学校を卒業しているんだな。僕も早く卒業して働きたいよ」
ルークは頭の後ろで手組んで、空を見上げてしゃべる。
「ええ!? お兄ちゃん、就きたい仕事がもう決まっているの?」
「なんでそんなに驚くんだ」
「だってお兄ちゃん、将来のこと話してくれたことないじゃない。それなのにもう何したいか決めてるなんて」
あはは。異世界でも、兄妹間で将来就きたい仕事の事なんてあんまり話さないのか。一人だけ置いてけぼりをくったみたいな顔をして、ステラちゃんがしょげる。
ふいに、パシャリという乾いた音とともに光が走った。音のもとは街灯の影にいた若者だった。
耳が隠れる長さの黒髪に、赤紫の瞳。濃紺のハンチング帽に同色のジャケットとパンツ。カッターシャツ。首ともにはワインレッドのネクタイ。
カメラを首から下げて、片手にメモ帳を持っている。
「庶民の方の聖女候補は、かなり子どもじみている、と……」
「なんなんだ、お前」
不快感をあらわにルークが詰め寄ると、若者は素早くメモをしまって両手を上げる。
「ああ、オレは怪しいものじゃないよ。ちょっと取材してただけ。いやー、聖女候補っていうからにはこう、淑やかで清楚でスタイルもバツグンって、イメージだったんだけどな。こんなちんちくりんだなんて」
「し、しつれいです!! これでも毎日ミルクを飲んでるし、む、胸だって……その、いつかは大きくなります! 小さくないもん!」
ちんちくりんでお胸が無いのはステラちゃんのチャームポイントだけど、本人にとってはコンプレックス。
ウィークポイントにストレートど真ん中の口撃を投げられて半泣きだ。
シルヴァがステラちゃんの前に出て、若者を問い詰める。
「貴方はどこのどなたですか。なぜステラさんにつきまとうのです?」
「つきまとうなんて人聞きの悪い。オレはカイト。新聞記者だよ。今後も聖女候補ステラの動向を追うから、よろしくね」
カイトは名刺を投げると、颯爽と去っていった。





