15 ノブレス・オブリージュ 地位や力を持つものは相応の責任を伴う
「ここまでで質問はあるか?」
アルベルトが本から顔を上げて、ステラちゃんに聞く。ステラちゃんは今読んでいたページに目を落とすと、一拍考えて口を開いた。
「魔法を使える人が、貴族にしか生まれないのには理由があるんですか? なぜわたしは庶民なのに魔法を使えるのでしょう」
『たしかに貴族にしか魔法士が生まれないってのも変な話だよな。オイラだって、カッチョイイ魔法を使えたっていいはずだ!』
帽子に乗っていたヤマネが口を挟む。(アルベルトには聞こえちゃいないからスルーされた)
「魔法士が貴族にしか生まれないわけではない。庶民街や貧民街で魔法の子が生まれると、魔法の子に恵まれなかった貴族が引き取って養子にするんだ。だから、結果的に庶民育ちの魔法士が少なくなっているだけ」
『クァ。そう。ソラは、ソラだった。そーまと、空の下で、暮らしてた』
「ソーマちゃん、ソラって、だあれ?」
『ソラは、ソラ。他に誰もいない。ソラだけ』
アルベルトの肩でソーマがしきりに鳴いて、訴えるので、ステラちゃんはソーマに聞く。
さっきからソーマは、アルベルトのことをソラ、と呼んでいる。動物にしかわからないから、アルベルトは気づいていない。
「……本当に、君は動物の言葉がわかるんだな」
アルベルトはうつむいてつぶやく。
おそらくアルベルトは、庶民もしくは貧民の出だ。貴族に引き取られて魔法士として育つことになったのだろうと、ソーマが断片的に語る過去から察せられた。
あまりいい過去ではないのか、横顔は悲しそうだ。
「私の過去などどうでもいいんだ。今は授業に集中しよう」
「は、はい。余計なことを聞いてすみませんでした」
ステラちゃんも、話をそらされて、聞かれたくないことなのだと感じ取った。
「ちなみに貴族の階級は、上位から順に公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵。うちはローエングリン子爵。そしてキシリア嬢はトゥーランドット伯爵家の令嬢。貴族の中でも低い方に位置する」
「公爵、侯爵……」
ステラちゃんは階級を声にだしながら、羽ペンを走らせる。
「君も魔法を使えるからには、聖女になるならないに関わらず、貴族の家に養子縁組されることになるだろう。魔法を行使できる者は有事の際には国のために尽くす。そう定められている」
「……そんな。もしそうなると、わたしは今の家族と離れなければならないんですか? パパとママは、お兄ちゃんは」
ステラちゃんの顔色がくもる。この一週間見てきたからわかる。ステラちゃんは心から家族を愛している。魔法を使えることで引き離されるなんて、耐えられない苦痛だろう。
「引き取る貴族の考えによりけりだ。もとの家族に会えない者のほうが多いだろう。庶民でいるよりは魔法のことをしっかりと学べるし、金に困らない生活を送れる。なにか不満か?」
アルベルトの答えが追い打ちをかける。
「そんなのは嫌です。わたし、魔法の勉強をがんばります。ちゃんと使いこなせるようになります。だから、ずっと今のまま家族と一緒にいてはいけませんか」
「君の身の振り方は、私が決められることではない。どうしてもと言うのなら、自ら聖女の地位を勝ち取って、女王陛下に直談判するんだ」
聖女になれば、女王陛下と対等に話せる地位を得られれば、家族と過ごす日々を続けられるかもしれない。
アルベルトに言われ、ステラちゃんは決意を秘めた瞳で深く頷いた。





