13 トンビに誘拐されて空の旅ってのもなかなかオツじゃないかと思うんだ
俺、子ネコのイナバ。こっちはネズミのヤマネ!
俺様はネコ生初、トンビに誘拐されている真っ最中だぜ☆
ほら、俺ってば生まれてまもない子猫ちゃんだから、手のひらにおさまるサイズだからさ。
トンビ氏はパトロール中の俺を肉と認識して、鉤爪で掴んだ。
そんなわけで、人間だった時も体験したことのなかった空中散歩を味わっている。
大空から町を見下ろすなんて楽しいなあ!
『うおおおおい、冗談じゃないぜぃ! たーすーけーえぇぇてーくーれぇぇいぃーーーー!!』
ヤマネが悲鳴を上げて俺の首にしがみつく。絞めるな危険。絞まってます。
『落ち着けよヤマネ。飛んでる間は食われねぇって。巣についたらすきをついてとっとと逃げようぜ』
『オメェ、これから食われるかもしれねぇってのに落ち着いてるな!? 本当に子猫か!?』
はは。子猫の中身二十五才の社畜だぜ。あの地獄の十四連勤の日々に比べたら、トンビに捕まるくらいは屁でもねぇって。
お、下に見えるはルーク! ステラちゃんとおそろいのあの帽子。間違いない。
『おーい、ルークー! やっほーいにゃ!』
鳴き声が聞こえたのか、ルークが空を見上げて、俺たち見つけた。
「なっなななな! まさか、あれうちのネコ!? なんでトンビに捕まってんだよ!?」
真っ青になってどこかに走っていっちまった。そんなに慌てなくても俺たちは逃げないのに。
トンビはどこまでも飛んで、城の敷地内に入り込んだ。ここに巣があるのかな。
二階建ての建物のベランダに降り立つと、窓ガラスをコツコツとクチバシでつつく。
『クァーーー! ソラ、ソラ』
もしかしてこのトンビ、人に飼われてるのか。
長身で青い髪の青年が、窓を開けてトンビを中に入れた。
攻略キャラの一人、宮廷魔法士のアルベルトだ。ステラちゃんに魔法を教える専属教師。てことは、ここは魔法士の屯所ってとこか。
「おや、どうしたソーマ。……子猫、と、ネズミ? どうしたんだそんなもの獲ってきて」
『クァ、クァ。おいしそうだから、ソラに、あげる』
『ニャ。俺たちは美味くぬぇーよ』
トンビ(ソーマってのが名前らしい)は主の前に供物を放り投げた。
本が山積みのテーブルに投げ出されて転がる俺たち。そしてアルベルト氏が座っていたテーブルの向かい側に、なんとステラちゃんがいた。
「えええ!? イナバちゃん!! ヤマネちゃん!!」
『ステラちゃん!』
『ステラぁあーー! 助かったぜぃ! オイラたちトンビに食われるかと思ったぜぃ!』
ご主人様に飛びつく俺たち。
アルベルトが目を丸くして、ステラちゃんとその手のひらに乗る俺たちを交互に見る。
「ええと、何があったの?」
『俺とヤマネは、そこのトンビに餌として捕まって、運ばれてきたらここだったんだ』
訳を話すと、ステラちゃんが訳してアルベルトに伝えてくれる。
「そうか。そのネコとネズミは君のペットだったのか。うちのソーマがすまないことをしたな。ソーマ、足りないなら餌を増やすから、むやみに人の家のペットを獲ってはだめだ」
『クァクァ。ソラが、言うなら』
アルベルトは怖い顔だけど、中身まで怖い人じゃなかった。きちんと謝ってくれたし、俺もヤマネも無事だったから結果オーライだ。
「こほん。話を戻そうか。人の性格を変えてしまう魔法があるかどうか、だったな。禁術、という使うのは犯罪に当たるような術の中に、似たような効力を持つ魔法がある。検証するにも材料が足りないから、人が変わったようになったという友人について知っていることを話してもらえないか」
アルベルトが席について、紙を広げ羽ペンを持つ。
ステラちゃんもコクリと頷いて、キシリア嬢に会ったときのことを話し始めた。





