11 一糸まとわぬネコと裸マフラーのネズミが二人でパトロールに出た結果
ヤマネを背に乗せてパトロール(散歩ではない。パトロールだ)をしていると、とあるお宅の軒先に立て耳犬のハチ公(仮)がいた。
手作り感満載な板製の犬小屋で、リードに繋がれている。
実家のシベリアンみたいに飛びついてこられたら困るから、リードつきってありがたいな。生まれて間もない子猫ちゃんな俺は、か弱いから飛びかかられたら気絶しちまうぜ。
『わう〜。子猫ライダーなネズミなんて珍しい〜』
『おう、そこのハチ公。悪魔を祓う方法を知らないか。ちょっと助けたい人がいてな』
『違うぜネコはん。ワイはハチ公やなくてタマや〜』
名犬ではなく三丁目の方だった。
『あくま憑きの人間を助ける方法ねぇ。ワイにはわからないな〜。そんなことよりも、ボール遊びしない? 学校に入ってから、ご主人は友だちと遊ぶって言って、全然遊んでくれなくってぇ〜』
『悪いな。俺たちじゃボールを投げられない』
なんとも間延びしたしゃべり方で、聞いているこっちまで眠くなってくる。伏せて舌を出し、テンポのいい息をしながら吠える。
『ほら〜、壊れたものは叩くと直るっていうじゃないかあ〜。あくま憑きも、叩けばなお』
『叩いて直すってどこのテレビだ』
むかーし、ばあちゃんちにあった、ツマミを回すタイプのブラウン管テレビ。うまく映らないときは「言い聞かせてやらねば。これも愛のムチだて」と、ばあちゃんが力任せに叩いていた。
俺はMだが、美女以外からのムチはゴメンなので、死んでもブラウン管テレビにだけは生まれ変わりたくないなと子供心に思っていた。
それはさておき、中身が鬼島とはいえ体はキシリア嬢なのだ。ぶん殴るのは良くないし、誰がそれをやるんだって話でもある。キシリア嬢は貴族だから、危害を加えると捕まるぜ。
『おいイナバ。てれびってのはなんでえ?』
べらんめえ口調なネズミが聞いてくる。そういやテレビってこの世界にねぇな。電気がないんだもん。家電があるわきゃねぇ。
『テレビはだな、どこかの世界にある、映像が映る魔法の箱だ。ヒーローの劇なんかをやってるんだぞ』
『そいつはすげぇな!』
うん。この世界には魔法があるんだし、魔法ってことにしとく。テレビの構造を知らんのに説明するなんてめんどくさい。
『君たちは〜、あくまを祓う方法を探しているんじゃなかったのかい〜?』
『おう。そうだったな。俺たちもう行くわ。次の動物探さねーと』
『それなら、鳥に聞いたら、いろんなこと知っているんじゃないかな〜? ワイはリードで繋がれているし、散歩コースも決まっている。あんまり多くのことはしらないんだ。鳥ならあちこち好きに飛び回っているだろ〜?』
タマの提案に、ヤマネが上機嫌でとびはねる。
『ナイスアイデアだぜぃ、ハチ公ぅ!』
『ハチ公でなく、タマだってばぁ〜』
ヤマネを乗せてまたエスペランサの城下をパトロールする。悪魔祓いと聖獣の情報を求めていざゆかん。
ステラちゃんの方は大丈夫かな。
取り憑かれた人(って表現でいいのか)をもとに戻す魔法がこの世界にあるといいんだけど。なかったら、せめて元々のキシリア嬢の心はどこにいってしまったのか知りたい。
ゲームのプレイをたまに横で見ていた程度の、チートとすら呼べない中途半端な俺。せめて攻略本の中身暗記くらいできていたら、ステラちゃんをかっこよくナビゲートしてあげられるんだけど。
知らないなら足を使う。手探りで行くしかないのだ。





