表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者を勇者に奪われた騎士、王女の呪いを解くため剣に新たな誓いを立てる~この命は君だけのために!  作者: 名録史郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/4

4.

 扉を蹴り破る轟音が、寝室にこだました。

 月光差し込む帳の奥――リディアの寝台にティレスは駆け寄った。


「リディア!」


 荒く息を吐きながら飛び込んだティレスは、蒼白な顔のリディアを抱き起こした。

 その体は軽すぎて、指先からすべてが零れ落ちてしまいそうだった。


「……まだ……息がある……!」


 絶望に染まる室内。王も、侍女も声を失う中、ティレスは胸元から取り出した《浄化の石》を高々と掲げた。


「――女神よ、この命に光を戻し、闇なる者を退けたまえ!」


 石が強烈な輝きを放ち、部屋全体を白金の光が満たした。

 黒く蝕んでいた紋様が音を立てて崩れ、リディアの胸から影が吐き出されていく。


 その瞬間、リディアの唇が震え、か細い息が漏れた。


「……ぁ……」


「リディア! しっかり!」


 ティレスの呼びかけに応えるように、閉ざされていた瞼がゆっくりと開く。

 群青の瞳に、再び光が宿っていた。


「……ティレス……あなたが……」


 掠れた声で紡がれた言葉は、確かな温度を持って彼の胸に届く。

 堪え切れず、ティレスは彼女の手を強く握った。


「リディア……もう誰も失わない」


 涙をこらえた彼の真剣な瞳に、リディアは微笑みを返した。

 その微笑みは、月光にも勝るほどの清らかさを帯びていた。


「私は大丈夫です。あなたがいてくれる限り」


 二人の手は固く結ばれ、光の余韻が室内に漂う。

 やがて静寂が戻り、王と家臣が見守る中、救済の奇跡はひとつの約束へと結実した。


◇ ◇ ◇


 回復したリディアと王城の庭園を、二人っきりで歩く。

 月光がリディアのドレスの裾を照らし、夜風に揺れる花々が香り立っている。


「あの日の、返事聞かせていただけますか?」


 彼女の言葉が、夜空に溶けるよう。

 ここだけがまるで、別世界のように感じられた。


 彼女が、儚げに言葉を繋ぐ。


「私は……あなたを必要としています。

 国のためではなく、一人の女として……あなたを」


 彼女の声は、夜の静寂を切り裂くように鮮烈だった。ティレスの心に積もっていた絶望が、熱に溶かされていく。


 彼は、ためらいながらもリディアをゆっくり抱きしめた。


「……俺は、勇者にすべてを奪われたと思っていた。

 けれど違った。失ったものより、遥かに大切なものを、今こうして与えられた」


 リディアは涙の中で笑った。


「では、誓ってください。今度こそ、誰にも奪わせないと」


 ティレスは深く頷き、彼女の額へ口づけを落とした。


「この命に代えても、リディアを守ってみせる」


 月下の庭園に、二人だけの誓いが交わされた。

 それは誰にも壊せぬ、真実の契りだった。


「この剣と心は、永遠にリディアのためにある」


「私の心も、永遠にあなたのものです」


 二人の吐息が重なり、互いの鼓動が響き合う。

 そこにはもう、誰も踏み込めぬ聖域があった。


 ティレスは、胸の奥で静かに神聖な誓いをたてた。


 どんなことがあっても、守り遂げよう。

 世界までは、無理であっても、君だけは必ず。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ