58:それぞれの役割。
支援部隊は現在三手に分かれています。
治療班と補給班、それから私たち調理班です。
串に刺したフォレストボアのお肉を直火で焼きつつ、醤油ベースの特製甘ダレを塗り、追い焼き。
「っ、なんだこの匂いは……」
レオン様と一緒に本部へ戻られたゼルファー様が、厳しいお顔で足早に近付いて来られました。
もしやお肉を焼くと、赤竜討伐に影響が――――。
「一本くれないか!」
――――あ、違いました。
慌てて焼き上がった串をお渡しすると、串を横に向け、がぶりと勢いよく齧り付かれました。
レオン様にも差し出すと、なぜか苦笑いをしつつ受け取られましたが、いらなかったのでしょうか?
「ん、美味い。なんというか、こういう場で食えるとは思わなかったが、美味い」
レオン様が不思議な理論で『美味い』と言うと、ゼルファー様がコクコクと頷きつつ、三本追加で食べられました。
ずっと討伐にかかりきりで、まともなご飯を食べていなかったそうです。
「それは、たいへ――――」
お話ししている最中にグアォォォォォォゥといった感じの赤竜の咆哮が山全体に何度も響いていました。何度聞いても慣れません。ビクリと肩を震わせてしまうので、レオン様に心配されてしまいました。
「本当に、大丈夫か?」
「はい」
「しかし、クラウディアも怖いと思うことがあるんだな」
「なっ!? 普通にありますっ!」
「はははは!」
レオン様からからかわれたことで、少しだけ肩から力が抜けました。フーッと息を吐き、スーッとしっかり吸う。
――――よし!
「ありがとうございます、レオン様」
「ん? 何がだ?」
レオン様は素知らぬ顔をし、後ろ向きで手を振ると、赤竜の方へと歩いて行かれました。
「あいつ、ああいうキャラだったか?」
「……? 以前は違ったのですか?」
「ん? そういえば、夫人とは家同士での契約結婚だったな」
レオン様たちとゼルファー様たちは、よく共闘作戦を展開するらしく、昔からの知り合いとのことでした。
ゼルファー様から見て、レオン様は生き急いでいる英雄のようだった、とのことでした。
「生き急いだ英雄?」
「んー、本人に聞くと言い。しかし、夫人の前ではああも柔らかな笑顔をするのだな。いい妻を見つけたものだ」
「どうぞ、クラウディアと」
「…………背中から斬られたくないのでな、『夫人』と呼ぶよ」
ゼルファー様はクスクスと笑いながら、本部のテントの中へと入って行かれました。
ゼルファー様は、指揮を。
レオン様は、最前線で戦闘を。
昔から、この役割分担なのだそうです。
――――どうか、ご無事で。





