57:赤竜。
戦闘部隊が山頂を越えて、国境の向こう側へと行きました。
レオン様とケヴィン様は山頂付近で、青い騎士服の方と何やら話し込まれています。
「こちらが妻のクラウディアです」
レオン様に手招きされ、お側に寄ると『妻』だと紹介されました。なんだかむず痒いですが、笑顔を作りカーテシーをしました。
「これはこれは。噂に違わぬとても美しい奥方だな」
「お褒めに与り、光栄ですわ」
「――――さて。話を戻すか」
「はい」
隣国の騎士様だと思っていましたら、騎士服の男性は第三王子殿下で、ゼルファー様とのことでした。
レオン様たちは、現状と共闘作戦の内容について軽くすり合わせしていました。支援部隊の待機位置等の指示もいただき、早速行動開始です。
「赤竜は下って百メートルほどのところだが、たぶん直ぐに見えてくる。馬鹿でかいぞ。それから、まだ少し飛べるから気をつけろよ」
「「はいっ」」
赤竜は山を東方向に下った場所にいるそうです。私たち支援部隊はそこから北に五十メートルほど離れたとろこにある隣国本部の横に、救護所や補給所などの展開をするように言われました。
山頂を越えてすぐでした。
人々が走り回っている音と声、何かを薙ぎ倒すような音、鼓膜をビリビリと揺らす咆哮が聞こえてきました。
赤竜と、騎士たちですね。
それぞれの音を聞きつつ、慎重に山を移動し続けていると、徐々に視界が開けて来ました。
「あれが――――」
人の何倍とかそんなものではありませんでした。
三階建ての建物のように大きく、真っ赤に燃えているトカゲのようでいて、鱗を持った鳥のようでもあります。羽はコウモリのような形で、あれを羽ばたかせたら周囲の人はなぎ倒されるのでは?と思うほどに巨大です。
体も瞳も真っ赤。特に瞳は宝石のように輝いていました。
大きな口からは濃灰の煙が立ち昇っています。
赤竜は、火を吐けるのだとか。
赤竜が咆哮を上げるたび、全身がビリビリとした波動を感じます。
人は、あれに勝てるのでしょうか?
少しだけ、不安に思いましたが、私がレオン様たちを信じなくてどうするのか!と両頬を自分で叩きました。
「っ、よし。さあ、やるわよ!」
「「はいっ」」
隣国の本部にいる方々に挨拶をして、支援部隊の面々に指示を出しながら、飲料や治療道具などを用意して行きます。
準備途中も隣国本部には何人もの騎士が戻ってきては、軽く治療を受け、飲み物を煽るように飲み、また走って戻って行っていました。
私たちももうすぐああいった状況になるのかと理解し、飲み物はもちろん、軽食も急いで追加しました。
赤竜のおかげである程度の魔獣たちさえも隠れているらしく、無駄な戦闘はないのでたすかるものの、食料を現地調達することは厳しそうです。
――――レオン様に感謝ね。
フォレストボアのお肉はまだ余っています。
一口大に切って、串焼きを作りましょう。





