53:余裕のあるレオン様。
ガッタンガッタンと、馬車が激しく揺れます。おしりがめちゃくちゃ痛いです。
出し得る限りのスピードで馬車を走らせているせいでしょう。
「うぅ……」
数人が青い顔をしています。きっと激しい揺れに酔っているのでしょう。
少しだけ先輩の見習い騎士が「吐くときは幌から顔を出して、外に吐けよ!」と声をかけていました。
なるほど、それならば行程を邪魔しませんね、と納得していましたら、全員から『その時は、絶対に全馬車を止める!』と口々に言われてしまいました。
「私一人のせいで、それは嫌なのですが?」
「でしたら、俺もお供しますから!」
「なっ!? それなら、俺も!」
「「俺も!」」
なぜか全員が一緒に吐きに行く、と言い出しました。それ、半数は『もらいゲロ』という状態なのではないでしょうか?
疑問に思っていると、今度は淑女が『もらいゲロ』という言葉を言ったらいけない!と、なぜか怒られてしまいました。
若い子たちは気難しいです。
「……隊長ぉ」
なぜか全員ががっくりとしています。
「え? みんな吐きそうなの?」
「「違います!」」
――――えぇ?
みんな、本当に気難しすぎない?
馬車に乗って三時間。
目的の山の麓に到着しました。
馬車から降りると、先に到着していた戦闘部隊たちにレオン様が指示を出していました。
「各班、周辺の偵察と用を足してこい」
「「はい」」
そういえばトイレを我慢していました。
「では、戦闘部隊の方々が戻られたら、私たちもお花摘みに参りましょう」
「「お花……はい」」
「ブフッ」
気の抜けたようなみんなの返事。そして、後ろからは吹き出したような音。
振り返ると、レオン様がクスクスと笑っていました。
「指示は、まぁ、クラウディアの言う通りでいい」
レオン様が耳元で「クラウディアはこっちに」と囁き、私の腕を引いて歩き始めました。
なんだろう? とレオン様について歩いていると、鬱蒼とした茂みと岩壁のある場所に到着しました。
「ここなら一方からしか人が来ない」
――――なるほど、お花摘みですね!
ありがとうございます、とお礼を言って早速茂みへと入って行きました。
「ふぅ。スッキリしました!」
「ハハハッ。普通のお嬢様らしくお花摘みと言ったり、堂々と用を足して『スッキリ』と言ったり、君は本当に不思議だ」
堂々と、と言われましても、なるべく聞こえないように奥に行きましたし、ちゃんと隠れてもいましたよ!?
え? 聞こえたんですか!?
「……いや、聞こえてない」
なんですか、その間は。
いえ、文句を言っても仕方ないので、気にしないようにしましょう。
「俺も行ってくる」
「あ、はい」
「……ん? 見たいのか?」
「見ませんっ!!!!」
レオン様も行くんですね、とただ単に思っただけなのに、変な性癖みたいな扱いを受けました。
レオン様は楽しそうに笑いながら茂みの奥へと消えていきました。
赤竜戦が目前に迫っているのに、妙に余裕な雰囲気でちょっとだけモヤッとしました。





