38:ヴァルネファー領のこと。
ピクニックでレオン様といろいろとお話しして気づいたのは、人は噂を容易く信じるし、それを信じて動くのだなということ。
わたしも、『狩猟民族』と聞いて、良く調べずに勇み足でこちらに来てしまいましたし。
実家の執事と侍女が同行してくれていたのですが、とにかく『ご希望どおりの家です』、『旦那様のお墨付きです』ばかり言われるので、私も意地になって、どこの誰なのかなど聞きもしなかったのが………………?
「敗因なのでしょうか? 勝因なのでしょうか? 気持ち、勝因ですが」
「それで対面の際に慌てていたのか!」
「はい。しかも執事も侍女もサッサと帰ってしまいましたし」
「あーまー、お義父上との約束でな。君が逃げないように、使用人たちは到着しだい直ぐに戻るように言われていたんだ」
「へぇ? お父様……帰ったら、問い詰めますわね」
「ふふっ。程々にしなさい」
レオン様は後ろでクスクスと笑われるだけなので、本気で止めようとは思っていなさそうです。
王都に戻りましたら、絶対に問い詰めましょう。
ピクニックから屋敷に戻り、少し体が冷えたこともあり、先に湯浴みする事になりました。
「夜ご飯は何かしら?」
「今日は塊肉が少しずつあるそうで、それを外国の『シュラスコ』? とかいう料理にするそうですよ」
「シュラスコ! もういいわ、早く上がりましょ――――」
「まだ髪を洗い始めたところです」
侍女にピシャリと断ち切られました。
最近、執事や侍女、料理長たちがハッキリと物を言うようになってきました。お父様に劇的効果のあるうるうる瞳で首傾げ攻撃も、結構にスルーされています。
「レオン様の教育、恐ろしいわね」
「はい。命を護っていただいていますので」
「それよ!」
それなのよね。
レオン様とヴァルネファー辺境騎士団が日々の魔獣討伐をしていることによって、王都ないし他の領地は魔獣被害を受けずに済んでいます。
なのに、王都に住む民はきっと知らないのです。
確かに私は世間知らずです。
様々な貴族たちと関わりを持ったり、国のことを知るよりも、狩りが大好きで、狩りを最優先にしていました。
それでも、ヴァルネファー領のことは知っていましたし、辺境騎士団が存在することも知っていました。
ただ、隣国から流れてくる魔獣のことは本当に一切聞いたことがありませんでした。
「なぜなのかしら?」
「それは……ご主人様に直接お伺いされてください。私どもには高貴な方々のお考えはわかりません…………」
髪を洗ってくれていた侍女が、困ったような笑顔になっていたので、この話題はこれで取りやめとしました。
少し、自分でも調べてからレオン様にお伺いしてみましょう。
とりあえずは、シュラスコです――――。





