85)カウンターの新性能
今日の日記
今日はフランクがフルメンテナンスしてくれた愛銃の性能をテストするため、放課後ラミー先輩達と実技エリアへ行った。
初めて体感したけれど、自分の愛銃の性能が上がるのと言うのは、すごく嬉しいものだと知った。
ちょっとした感動すら覚えたのだ。
だから、その感動を忘れないように記しておこうと思う。
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新生カウンターのお披露目の日。
本当は演習で、と思っていたけれど実践的な授業がちょっと先だったのと、ラミー先輩が見たい見たいとうるさかったので、今日、試射会という形でお披露目する事になったのだ。
メンバーはラミー先輩と、サラース先輩、ビアンカの何時もサークル棟に入り浸っている人たちと、銃をメンテナンスしてくれたフランク。それともう一人。
今まで集会で見かけた事はあったけれど、話した事は一度もなかった2年生の先輩、レーゲールさんだ。
ラミー先輩やサラース先輩から一目置かれている狙撃手と言う事は前から聞いている。
レーゲールさんは2年生ではあるが、年齢的にはラミー先輩よりも年上なのだそうで、ラミー先輩達も敬語を使っていた。なんでも、すでに戦場経験があるにも関わらず、ちゃんと勉強をしたいとこの学園に入学してきた異色の経歴の持ち主らしい。そういったところにも敬意を表しているのだろう。
レーゲールさんは僕よりも身長が低いけれど、肉付きの良い体格でゴツゴツしている。岩みたいな存在感。先輩というか、”さん”っていうイメージで、僕もビアンカも、それにフランクも何となくさん付けで呼んでいる。
レーゲールさんは大変寡黙な人なので、ラミー先輩から紹介を受けても「おう。よろしく」としか言わなかった。
なるほど、過日の偽恋人騒動の際の人材としてはあまり向いていない事はよく分かった。
そんなレーゲールさんがなぜ今回同行したのかと言えば、戦場に出てからわざわざ学園に入り直すほどの、あくなき探究心から来るものだった。ラミー先輩との会話の折にカウンターの整備の話を聞き、自分も是非にと見学を希望したそうだ。
ちょっと話がそれるけど、ラミー先輩って結構口が軽いよね。別に良いけど。。。
それと、今回はいつもの疑似市街地ではなく、実技エリアでの試射となった。
というのも、今回はシンプルに距離や速度などの性能を試す会であるので、市街地よりもより状況がわかりやすい実技エリアが選ばれたのだ。
僕の愛銃は威力を度外視すれば、僕なら南北にある丘までが射程に入る。フランクの手によって、威力などにどれほどの違いが出たのか、、、今から楽しみだ。
実技エリアの放課後の使用は許可制だ。もっとも普段は滅多に使用される事はないから、リックさんが気軽にワモ茸を採っているくらいに、基本的には閑散としている。だいたい試射でそんな遠距離を必要とする兵種は他にない。
こういう時3年生でサークル長で、有名貴族の子女であるラミー先輩がいると大変助かる。
先生も相手を見て貸す貸さないを決めるわけではないだろうけれど、話の通りかたがスムーズなのは間違いない。
ただ、今日は研究部門が夕方には使用したいと申し出があったそうで、研究部門の関係者から退去を迫られたら速やかに撤収するようにとのお達しがあった。
僕らは南の丘に的を置いてから北の丘に到着すると、追い立てられないうちにと急いで準備を始める。
もちろん、まだ日が沈むには1時間以上あるから慌てる必要はないのだけど、後が詰まっていると思うとなんとなく急かされる。
僕が長距離用の銃身をつなげる間に、フランクは先日の1年生の合同演習の際にも準備してくれた台座を据え付け始める。
今回は前回の使用感を伝えた上で、不満点を改良したバージョンらしい。ついでにテストしてくれと頼まれた。
そんなフランク作の台座に群がる、ラミー先輩ら狙撃手の面々。使用できるシーンは限定的とはいえ命中率が上がる可能性があるのであれば、やはり狙撃手としては気になるギミックだ。
僕は準備を進めながらふと「せっかくだから、皆さんも愛銃、その台座で試し打ちして見ませんか?」というとみんな目を輝かせる。特にラミー先輩は「良いのか!? 良いのか!?」とテンション全開だ。
それもそのはずで、愛銃を触ることはあっても、撃った事はない。
これは僕に限らず狙撃手の暗黙のルールのようなもので、既製品であっても他の人の愛銃を試射させる事は非常に珍しい。相手の許可がない限り勝手に撃つことはまずない。
だからラミー先輩も色々と触っても試射させてくれとは言わなかった。
人によっては魔力の通るバランスが微妙に変わって扱いづらくなると言って、絶対に触らせない人もいると聞いた。
一射の正確性が命の狙撃手ならではだろう。
僕はそれほど気にしないので、別に構わない。もちろん貸し出したりは絶対にしないけど。
「俺も、、、、良いのか?」寡黙なレーゲールさんだが、その目は爛々としている。
「もちろん」僕が答えると、小さく頭を下げてくれた。
そうして準備が整うと、僕は南の丘に置かれた的へとスコープを覗きながら狙いを定める。
今までの愛銃では、丘に着弾はできても殺傷能力はない程度まで威力が減じていたけれど、、、、
「ターーーーンッッ!!!」
何時ものように軽快な発射音だが、撃ち終えた後の余韻が長く、力強い。うん、悪くない。
僕の元から放たれた弾丸は、まっすぐに風を切り裂いて南の丘にある的を正確に射抜く。
スコープでそれを確認してから、僕は後ろで見ていたみんなを振り返る。
「確かに威力、上がってますね。手応えがあります。それにフランクが言った通り速度が段違いだ。すごいよ、フランク」
僕の言葉に「当たり前だよ」と満足げなフランク。
「じゃあ、次、、、」言いかけたところでものすごい勢いで前に来るのはラミー先輩。僕は苦笑して、ラミー先輩へと愛銃を手渡す。
嬉しそうに愛銃を受け取り、表情を改めると、すっと構える。
構えた姿は恐ろしく絵になる人だ。こんなに雰囲気のある狙撃手もそういないのではないだろうか。
「ターーーーンッッ!!!」
ラミー先輩の放った弾も的に命中したようだ。
感無量といった風に振り向いたラミー先輩
「これは、、、悪くない。。。やはり私も探すか、、、、」
と真剣な顔で呟いている。探すって、カウンターを? 僕の愛銃を除けば、元々50挺しかないし、古い銃だから稼働しているのは何挺あるか分からないけれど、、、ラミー先輩なら手に入れかねないな。。。
次はサラース先輩。距離は十分だったが、的は外したようだ。
「うん、良い銃だけどかなり繊細だね。三つ足よりも扱いにくいかもしれない。普段使いこなしているルクスも凄いけど、ラミー、初見で良く的に当てたなぁ、、、」
そして次はレーゲールさん。
結果はサラース先輩と同じ、丘には着弾したが、的は外した。
「、、、、、なるほど、、、、なるほど、、、」
顎に手を当てて何かしきりに納得しているレーゲールさん。何か得るものがあったようなら何よりだ。
最後はビアンカだ。
「ターーーーンッ!」
ビアンカの放った弾は、丘に到達する事なく失速して荒野に落ちた。
「あれ?」
首をかしげるビアンカだが、サラース先輩が補足してくれる。
「ビアンカはまだ、魔力の通し方がスムーズじゃないって事だね。もちろん普通の狙撃手よりは上のレベルにいるけれど」
どういうことかと言えば、弾丸をよりスムーズに撃ち出すには適切な魔力を、なるべくスムーズに銃の中を通す必要がある。魔力の流れが綺麗であるほど、威力も、飛距離も伸びるのだ。
「自分で言うのもなんだけど、ここにいる4人は当たり前のように丘まで届かせたけれど、普通、この銃でも下手すると半分くらいしか行かないんじゃないかな」
そのように指摘されてしょんぼりするビアンカ。サラース先輩が慌てて
「さっきも言ったけれど、ビアンカは1年の中でもトップ3に入ると思うよ。そんなに悲観することはない。3年になる頃には丘にも十分届くさ」
「でも、、、ルクスは届くし、、、」と悔しそうなビアンカに、やりとりを黙って見ていたレーゲールさんが
「ビアンカ、ルクスやラヴィトーミーヴィアと比べんのはやめとけ、こいつらは効率的な魔力の流れを才能でやってやがる。控えめに言って化け物だ」
褒められたのかそうでないのか、微妙な言い回しのレーゲールさんに、僕とラミー先輩はなんと言って良いか分からず、少しだけ苦笑して見せた。
と、そんなやりとりをしていると、森から出てきた兵士がこちらに向かって手を降りながら何か声をかけているのが視界に入る。
「研究棟の兵士達だな。よし、撤収だ。ルクス、貴重な体験をありがとう」
そのように締めたラミー先輩の言葉で、片付けて丘を下ると、森から近づいてきた兵士にラミー先輩が声をかける。
「すみませんお待たせして。私たちはこれで撤収します」
「ああ、すまんな。申し訳ついでだが、出るときは南の森を抜けてくれ。こちら(東)から機密を持ち込むんでな」
「分かりました。では」
礼をして南へと足を向ける。そんな僕の視界の端、東の森から4人がかりで持ち込まれる白い大きな箱が目に入ったが、そちらを振り向くことはせずに、まっすぐに実技エリアを抜け出した。
その夜の事。
ハインツやラット君、フランクといつものように夕食をとっていると、テーブルに置いていたグラスがカタカタと揺れる。
「地震?」ラット君が言うが、体感するほどのものではない。
その後もしばらくの間、断続的にグラスが小さく揺れ、僕らはなんだろうねと首を傾げたのだった。




