81)収穫祭② マリアの提案
収穫祭、ゲラーと別れた後のこと、
「そんな事があったの。。。」
キャトラプのメンバーと合流して、広げたシートの上で少し遅めのお昼を食べつつ、僕は先ほどのゲラーの事を話す。
それに対するソニアの答えだ。
「それはあまり気分のいい話じゃないねぇ」と大ぶりのサンドイッチと蒸しただけの芋にバターを乗せたものを頬張るラット君が、もぐもぐしながら、多分それらしき事を言った。
話は逸れるけれど、この芋のバターあえは、先ほど採れたばかりのものを蒸している。
新鮮だからか、それとも半日たっぷり働いてお腹が空いているからか、多分両方だと思うけれどやたら美味い。塩気に包まれた、優しい甘さがたまらない。ラット君のみならず、普段少食なマリアやフランクもどんどん手を伸ばしていた。
「ねえ、少し思ったのだけど、、、今度、私たちの集まりにゲラーを呼んであげたらどう?」
ソニアが提案するも、ハインツが「理由もなく贔屓するのは却って良くない結果をもたらすかもしれないから、難しいところだよ」と難色を示す。
「うーん、、、、じゃあ、理由があればいいでござるか、、、理由、、、理由、、」ハナが首を斜めにして腕を組んだ。
「あ」両手で一つの芋を持って、小動物よろしく「もっもっ」と齧っていたマリアが、ピタリと手を止めて大きな目をさらに見開いてみせる。
その視線は僕の背後に向けられており、僕が思わず振り向くとそこには妹が手をふりながら走って来る姿が。
ノリスは「みんな、お疲れ様です! お茶を持ってきたよ!」とポットの入ったカゴを掲げて見せた。
キャトラプのみんなに歓迎されて同じシートへ上がりこんだノリスは、息を整えるために大きく吸ってはいた。
「リタさんは?」と僕が聞くと、座りながら「昨日からお出かけしてるよ」とのこと。
それからしばしノリスを含めて歓談していた僕らだったが、「そろそろ午後の作業を始めるぞぉ!!」と言う掛け声で重い腰をあげる。
「ノリスはどうするんだい?」
「うん。私も少しお手伝いするつもりだよ。マリアちゃん一緒に連れてって!」
「うん、一緒に行こうね!」
と2人で手を繋いで駆け出す。「ああ、転ばないように気をつけるでござるよ〜」と注意しながらハナが、「それじゃあルクスたちも頑張ってね」とソニアが続き、レフは丁寧にシートを畳んでから歩き出す。
「それじゃあまた、後で!」ソニアの背中に声をかけると、そこかしこから響き渡る「おおうい! 誰かこっち手伝ってくれ!!」と言う声に呼ばれて、再びただひたすらに忙しい、収穫祭に身を投じるのだった。
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「それじゃあ、お疲れ様だったな!! 今年もどうも有難う!!」
そのように農家の人たちからお礼を言われて、解放されたのは日もくれようとする頃。
流石にへとへとと言うか、はっきり言って普段の訓練よりもきつかった。合流したフランクはラット君に支えられて息も絶え絶えである。
支えるラット君も口数少なく、ハインツやリックさんも同様だ。
元気なのはライツ。「この後うまいもの食えるんだよな!? 食えなかったら暴れるところだぞ!」などと不穏なことを言っている。流石に巨大なシールドを抱えて、バカみたいな速度で走り回るだけの事はあるな。スタミナお化けだ。
農場の周りには火が灯されて、手伝い終わった街の人々も賑やかに屋台の食べ物を楽しんでいる。
本日一番働いたと断言してもいい、学園の生徒たち、つまり僕らには特等席が用意され、ここからは農家の人のお礼としてお腹がはちきれんばかりに、美味しいものが提供されるのだそう。
「美味しいもの、、、美味しいもの、、、」ラット君の目が座っている。早い事なにか口に詰め込まないと!
と、僕らのために敷き詰められた、たくさんのシートの先で、おじさんが「大食い大会をやるぞ! 参加するやつは集まれ!」と声を張っていた。
「大食い! はいっ! はーい!! 参加します!!」と先ほどまでとは打って変わって元気になったラット君が、フランクを投げ出して走り去ってゆく。「あ! ずるいぞラット! 俺も! 俺も参加する!」と同じくライツが駆け出すのを見て、残った僕らは苦笑を交わして、ソニア達の姿を探すのだった。
「あ、ルクス! こっちだよ!」ソニアの声で、みんなを発見した僕らは、ようやく腰を下ろすと、漸く肩の力を抜いた。フランクに至ってはそのまま敷物に寝転がる。
「お疲れ様。フランクは大丈夫?」
僕は「多分ね」と言いながら周囲を見渡す。
「あれ? ノリスは?」
「ノリスなら夜にはリタさんが帰るから夕食の準備があるって帰ったよ。 食べ物、私たちが持ってくるからここでゆっくりしていて!」
そのように言ってくれたソニアのお言葉に甘えて、僕らは休息を優先させてもらうことにする。
普段であれば「俺も手伝う」と率先して動くハインツでさえ、「すまないけど頼むよ」と言ってへたり込んでいるほど、僕らの疲労は大きかった。
女性陣が食べ物を取りに行ってくれている間に、敷物の前の方では大食い大会が始まったようだ。
生徒、市民、農家の人々入り混じった「わぁっ!」と言う歓声が上がっている。口の上手い人が実況を買って出ており、聞こえる声からするに、どうもラット君もライツもいい勝負をしているようだった。
僕がのんびりと大食いの実況に耳を傾けていると、「お待たせ!」と、次々に食べ物が持ち込まれてきた。待ちに待った夕食だ!
まずはライ麦パンにこれでもかと言うほどに、ぎっしりと野菜とハムが挟み込まれたサンドイッチにかぶりつき、ろくに噛まないうちに果実水を流し込む。
シャキシャキとした野菜の新鮮な水気と、ハムの塩気が汗をかいた体に染み込んでゆく。
僕らは会話をする間も惜しんで、次々に料理を口の中へと押し込み、秋の実りを堪能してゆくのだった。
僕らが一息ついたのを見計らって、マリアが「お昼のことだけど、、、」と切り出してくる。
「お昼?」
「ゲラーさんの事」
「ああ、何かいい方法はないかなぁ、、、」
「それなんだけど、貴族のお茶会にしない?」
「どう言う事だい?」
マリアの考えはこうだ。ゲラーをキャトラプとして呼ぶと、向こうのチームも面白くないし、1- Aの問題の貴族がまた余計なことを言うかもしれない。だが、マリアはサクソン、ロイ君が「騎士として話を聞きたい」と言えば、割と自然ではないかと言うのだ。
また、マリアとサクソンは学年内の貴族ではトップ2の家格を誇る。
この2人の誘いに対して、問題の貴族がちょっかいを出せば、その貴族が窮地に陥ることになるため、余程のことがない限り手を出してこないと言う。加えて、両家の後ろ盾を匂わせれば、これは強力な抑止力になる。
「実際に、ゲラーさんの話は聞いてみたいと思うし、先のことを考えれば、あんな才能を持っている騎士と親しくしておくのは私たち貴族にもプラスになるから、悪くない話だと思うのだけど、どうかな?」
マリアの提案に僕は少し首をかしげる。
「悪くないと思うけど、ロイ君はともかく、サクソンは同意するかな? この間もやられっ放しのままだったし」
と、僕の懸念に対して、マリアとソニアが視線を交わして、にっこりと笑う。
ん? なんか悪そうな笑顔だった気がするけど、、、、
「ルクスにも手伝ってもらう必要があるけれど、サクソンを説得するいい方法があるの」と言った。
うん、間違いなかった。悪そうな笑顔だった。




