79)フランクは分解したい② シリアルナンバー
「ほう、そんなところにバネが入っているのか」
「ああ、これ、目立たないけど良い仕事してるな」
「おや? そこは外さなくて良いのか? 確かリングが嵌まっていると思うが」
「ええ、ここはパーツが繊細なんで後回しです。ラミー先輩、分かってますね」
メンテナンスを兼ねてフランクの手に委ねられた僕の愛銃、「カウンター」。
それが次々と分解されてバラバラになっていく様は、メンテナンスも兼ねていると分かっていても、少し不安を覚える光景だ。
「ほお、砲身の魔力伝動線は直線ではなく、螺旋になっているのか」
「それがこの銃の先進的なところだよね。その分魔力のバランスが難しいから、あまり採用されていないけれど、もしかしたらこの銃が先鞭かもしれない。これが超長距離を狙える最大のポイントだよ」
フランクは夢中なようで、ラミー先輩相手でも敬語とタメ口を織り交ぜながら話している。
「おい、フランク、ここの金具は交換したほうがいいのではないか?」
「もちろん。ここは思い切って新しい鋼板を使ったほうが性能が上がると思う。どうだい、ルクス?」
突然話を振られても、「ああ、うん」としか答えようがない。
同じく、サラース先輩とビアンカも借りてきた猫のような大人しさで、矢継ぎ早に交わされるフランクとラミー先輩の専門的な会話をあっけにとられたように眺めていた。
「このパーツも大分ガタがきているなぁ。ルクス、ちゃんとメンテナンスしてる?」
「してるけど、、、流石にそこまでバラバラにはできないよ。正直、今の状態で僕は組み上げる自信がない」
おじいはもう少しバラしての調整もできただろうけど、僕はそこまで教わるまでにおじいとはお別れしている。
基本的なメンテナンスしかできていなかった。
「まぁ、しょうがないか。でも、よくこれで正確な狙撃ができたものだね」
「そんなにひどいのかい?」
「うん。既製品なら買い換えをお勧めするね。パーツも劣化しているものが多いし、ただ、世界で50挺しか作られていない希少性ももちろんだけど、そこまでダメージを負っていても、あれだけの性能を発揮するのは凄いよ。尊敬すべき銃だね」
愛銃を褒められるのは悪い気はしない。それと同時に、今後はもうちょっとちゃんとメンテナンスしなければと心に誓った。
もっとも、僕には無理だ。フランクのようなプロに頼むべきだろう。
「いや、フランクの腕は大したものだな。手も早いし正確だ。それに重要なパーツの扱いは繊細。今度、私の銃もメンテナンスを頼んでいいか?」
あの狙撃銃マニアのラミー先輩にそれだけ言わせるとは大したものだ。フランクの銃への愛は本物なのだろう。
「いいけど、ベアル先輩にもう少し俺に作業部屋を使わせてくれるように頼んでくださいよ」とちゃっかりしている。
「へえ、ラミーが言うなら本物だね。僕も一緒に説得してあげるから、僕の愛銃も頼むよ」とサラース先輩もさらりと乗ってきた。
腕を認められた上、珍しい銃をいじれるとあって、フランクは「まあいいですけど」とぶっきらぼうな物言いながら、表情は嬉しそうだ。
僕がそんなことを考えながら眺めている間にも、古いパーツが次々と交換されてゆく。
「フランク、メンテナンスが終わると、どのくらい性能が変わるんだい?」興味を惹かれて聞いた僕に
「うーん、本当に状態が良くなかったから、コイツがちゃんと実力を発揮できれば、飛距離も威力も、速度も、2倍とは言わないけど、それなりの性能アップが見込めると思う」
その言葉を聞いてぎょっとしたのはビアンカ。
「あの長距離砲が、、、、2倍、、、」そこから、どうやったら僕に勝てるのかブツブツと考えていた。
「特に速度は大きく変わると思うよ。結構汚れがひどかったから、今までよりずっと魔力の通りが良くなると思う」
それは単純に凄い。すぐにでも試し撃ちしたい気持ちになってきた。
、、、と、忘れていた。そういえばついでにシリアルナンバーを確認するんだった!
フランクにその旨伝えると「覚えているさ、まぁ待ってなって」と返された。
であれば僕に特に意見はない。大人しく座って作業を眺めることに専念する。
ラミー先輩が褒めるように、確かにフランクの手際は鮮やかだ。小さなパーツも丁寧に拭って、グリスを塗ると同じ場所へと戻していった。
主な作業が終わるまでにじっくり2時間以上の時間をかけ、フランクが「よし」と呟く。
「終わりそうかい?」
「うん。あとは単純な組み立てだけさ。さ、お待ちかねのシリアルナンバーの確認と行こう」
そのように言うと、事前にラミー先輩に聞いていたシリアルナンバーのある場所、銃の一番後ろ、銃床と呼ばれる衝撃を吸収する部分を分解し始める。銃床と本体をつなぐ金属部分、こんなわかりにくい部分にカウンターのシリアルナンバーが隠されているらしいのだ。
正直何でそんな場所に、と思ったが、変わり者の多い職人の中で一時期「隠し要素」としてシリアルナンバーを刻むことが流行ったらしいとはラミー先輩の談。
「さあ、君のナンバーはいくつかな?」
フランクが楽しそうに銃床を半分に分ける。そして、、、、
「、、、、あれ? なんだ、これ?」とだけ言った。
その言葉を受けて、僕らも椅子から立ち上がりフランクが作業しているテーブルを覗き込む。
そこにあった物。黒々とした無骨な金属に刻まれているナンバーは、何度見ても、
『000』となっていた。
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『000』のナンバーに、しばしの沈黙。
「、、、、、どう言うこと?」ビアンカの言葉が小さな部屋に響く。
そして再び沈黙。
「考えられることはそれほど多くないが、、、」ラミー先輩がそこで一旦言葉を切って、僕を見る。
「ルクス、これはお爺様から受け継いだと言ったな。お爺様のお名前を聞いても?」
「あ、はい。ロス、です。フルト=ロス」
「フルト=ロス殿だな。。。ルクス、君がいいと言えばだが、君のお爺様の事、私の方で調べさせて貰ってもいいか?」
「どう言う意味でしょうか?」
僕の質問に、フランクが口を挟む
「つまり、この銃はプロトタイプ、、、、存在しないはずの51挺目、正確には0挺目だけど、、、そういう銃だってことだよ」
フランクの方を見たラミー先輩も大きく頷いて
「こんな幻の銃を見てしまった以上、どのような経緯で君のお爺様の手に渡ったのか、、、正直知りたい気持ちが抑えられん。ないとは思うが、無論、お爺様にとって不名誉な事実であれば君だけに伝えて、それ以上口外することはないと誓おう。どうだろうか?」
ラミー先輩の真剣な顔を見て、僕も小さく頷く
「、、、分かりました。僕も気にならないわけじゃないから、何かわかれば教えてください」
「ああ。感謝する」
「感謝?」
「もちろん、こんな貴重な、、、ただでさえ珍しい銃のプロトタイプが私の目の前に! そしてその歴史に触れる機会を得られたことにだよ!!」
両手を広げて天を仰ぐラミー先輩。
そんな姿を見て「、、、、、ラミー先輩って、、、、わかってますね」と言ったフランク。
2人の変態の共演によって、僕の愛銃に隠された謎の扉が、今、小さくこじ開けられたのだった。




