22)洋館の謎② ねこ。
旧校舎までやって来た、僕とソニア、リックさん、フランクの4人。
「改めて見ると、旧校舎は随分と年期が入っているね」中央の通りから旧校舎を眺めながらリックさんが言う。
確かに、塗装こそ塗り直されているが、木造の校舎は所々くたびれた印象だ。
「さて、じゃあ裏に回ってみようか?」
リックさんが先頭になり、校舎に沿って歩いている間、僕はリックさんに声をかける
「リックさんが一緒に来るのちょっと意外だったんだけど、、、止めるかと思った」
そんな風に言われたリックさんは、いたずらをしている子供のような顔で
「そうかな? こういうちょっとした冒険って、いくつになってもワクワクするものだよ」
と、少し真面目な顔をして
「まぁ、一応私は年長者だからね、何かあった時に同行した方が都合がいいかなっていうのもある」
「そっか。ありがとう。リックさん」
引率役を引き受けてくれたことに僕が素直にお礼を言うと「どういたしまして」と答えて先へと進んだ。
現在は物置として使われている旧校舎なので、全く人の出入りがないわけではないが、校舎裏は流石に人の立ち入った形跡が少なく、朝だと言うのに、先入観からか少しジメッとした雰囲気がある。
「じゃあ、森の奥の方へ行ってみようか」フランクがそちらへ向かってスタスタと歩き始めた。
訓練場の森の中と違い、こちらも人の出入りがないので藪がすごい。
どうにか掻き分けながら少し進んだところで僕がみんなを止める。
「全く人が立ち入った形跡がないから、こっちは違うんじゃないかな?」
「そうだね、一旦戻ろう」リックさんも同意したので一度旧校舎へと戻る。
その後しばらく旧校舎周辺に隠された道でもないか探してみたけれど、それらしいものはどこにもなかった。
「うーん。このエリアじゃなかったのかな?」フランクが腕を組んで首をかしげる
「でも、他に洋館がありそうなエリアなんてあるかな、、、」ソニアも困った顔をしている。
そんな時だった
「ニャア」
どこからか猫の鳴き声がして、僕は周りをキョロキョロすると、僕たちの少し向こうから一匹の白い毛並みの猫がこちらを眺めていた。
「あ、猫」
ソニアも気づいてそちらに近づくと、猫はトトトと少し距離をとって、またこちらをみて「ニャア」と鳴いた。
再び少し近づくと、同じ行動を繰り返す。
「これって、、、ついてこいってこと?」
ソニアがこちらを振り向いて言う。僕もこくりと頷く。
僕たちを誘導してくれる猫は、旧校舎から一度学園の大通りへと出て、4つある学園の出入り口の一つ、東門の方へとトコトコ歩いてゆく。
東門から左右に伸びた壁が近づいて来る。学園はこの背の高い門に囲まれ、有事の際は一つの要塞になるのだ。
「これ、外に出ちゃうんじゃない?」フランクが手を頭の後ろで組みながら歩く。ちょっと飽きて来ているっぽい。
「まぁ、これはこれで面白そうだから、そのままついて行ってみようよ」僕がそんな風に声をかけながら、猫を追いかける。
「しかし、休みとはいえ、こんなに人がいないものかな?」リックさんが不思議そうに周囲を見渡す。
そう、休みとはいえ、軍関係者は出入りするし、寮には学生もいる。
だが朝だと言うことを差し引いても、今日に限って大通りに人気がなかった。
と、猫が東門の手前ではたと止まる。
「にゃっ」短く鳴いてなんでもない藪の中へと入って行った。
僕がその場所にゆき、地面を調べて見ると
「あれ? ここ、人の出入りが頻繁にあるみたいだ。地面が踏み固められてる」
藪を避けて中に入り、よくよく見ると、細く、細くではあるが、小径のようなものが奥へと続いていた。
古く、泥に隠されているが、ささやかながら石畳もある。
「これは、、、、」リックさんが驚いたように呟く
「とりあえず進んでみようよ」後から来たフランクが先を急かす。
僕はスリングショットを取り出して、左手に握りしめながら、慎重に小道を進み始めた。
小道は壁沿いにずっと続いている。
入り口のあたりはカモフラージュのためかほとんど手入れもされていなかったが、だいぶ進むと、はっきりと手入れのされた低木が並び、完全にちょっとした道に変わっていた。
「素敵」ソニアが思わず口にするほど、少し絵になる風景だ。
そうして30分ほど歩いただろうか。
「これは、驚いたな」リックさんがかろうじて言葉にした以外、全員がぽかんと見つめる先には、軍事学園には似合わない瀟洒な館が佇んでいた。
「どうする?」フランクが僕に聞く。
「ここで逃げるとむしろ怪しくなっちゃいそうだね。立ち入り禁止タグも見当たらないし、、、、行ってみよう」
洋館へ近づくと、入口は薔薇のゲートになっていた。これも良く手入れされている。
ふと視線を感じて、僕が2階に目をやると、洋館の2階、窓際から白いドレスを着た女性が微笑みながらこちらを見つめていた。
僕がそのことをみんなに伝えようとしたところで、ゲートの横の方から声がかかる
「あら? こんなところにどなた?」
声のした方に振り向くと、上品そうなおばあちゃんがいた。
「見た所学生さんね。どうやってこの場所に気づいたのかしら」
「あー、、えっと、、猫が僕たちを案内してくれて?」
「猫が?」
「はい。白い猫が、、、、」
言葉にしてみると本当かどうか自分でも怪しくなってきた。
でもそれを聞いたおばあさんは「そう、猫が」と、くすくすと笑って、
「せっかく来たのだもの、こちらへいらっしゃい」と、庭の方へと誘った。
庭も広く、綺麗に整えられ、とてもじゃなけれど軍事学校の中とは思えない。
テラスにはお茶を楽しめるようにテーブルが据えられており、おばあちゃんは「ここで座って、少しお待ちになって」と館の中へと消えて言った。
なんだか不思議なことになって来たなと思いつつも、言われた通りに椅子に座る。
小鳥の声がして、柔らかな風が庭を通り抜けてゆく。
「あったね。洋館」ソニアがぼんやりと呟く。
「うん。しかも想像以上だった」庭を眺めながら、僕もぼんやりと返す。
「お待たせ」
おばあちゃんが紅茶とクッキーを持って再度現れると、ソニアが慌てて手伝いに立つ。
「あら、ありがとう」
ソニアの手も借りて、みんなに紅茶が行き渡ると、おばあちゃんはゆっくりと椅子に腰をおろした。
「さて、それじゃあ改めて、あなた方はどなた様かしら?」




