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『俺』とゴブ『リン』~俺のスキルは逆テイム?二人三脚、人助け冒険譚~   作者: 新谷望
3章 バークマン領の騒乱編

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18話 選択




「いくよー!「り~ん、ぱーんち」!」


「ふははは!……ふぎゃあー!?」


 リンの放った土魔法「りんぱんち」を食らったロビィルは、沸き上がる大きな土の拳を食らって吹っ飛ばされ……


 ドサッ!!


 ……落ちた。やべっ!倒れたまま起き上がらない!アイツ、生きてるか!?……あ、体がピクピクしてる。良かった、どうにか生きてるっぽい。


「……リン、今のって魔法?りんぱんちって……」


「うん!前にミナトが見せてくれた「すいりゅーけん」を真似してみたの!あれ、カッコいいよね!」


 すいりゅーけん?……あ、水流拳すいりゅうけんか。似てる……かな?俺の水流拳すいりゅうけんは超近距離の水魔法だし、あんな離れた所には発動できないんだけど……。確かにあのアッパーカット感は似てるちゃ似てるけどさ。


「それよりミナト、今だよ!」


 発動者が攻撃を受けたせいか、それともあっけにとられた(?)のか、火炎兵士ファイアソルジャーの動きが鈍ってる!


「分かった!「ウォーターボール!」」


 気を取り直し、ウォーターボールを発動させると、次々に火炎兵士ファイヤーソルジャーにぶつけていった。


 食らった奴らはシューッという音を立てて、蒸発するように消えた。よし!やっぱりこいつらの弱点は水だ!続けざまに魔法を発動させ次々にぶつける。最初は20体程はいたであろう敵の数が、目に見えて少なくなっていく。


「何か、ロビィルが倒れてから新しい奴が出なくなったみたい!」


「よーし!このまま一気に倒すぞ!」


 新しく産み出されないなら楽勝だ!火炎兵士ファイヤーソルジャーを制圧した俺達は、倒れたままのロビィルの元へ向かった。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




「おい!ロビィル、起きろ!」


 うつ伏せで倒れていたロビィルの襟首を掴み、顔を起こすと体を揺する。


「わ、私は……何だ……ひいっ!無礼者!何をする!」


「何をするじゃねぇ!お前が発動させた魔法の所為せいで、見ろ!」


 目を覚ましたロビィルに周囲の惨状を強引に見せる。周りの木々や草は飛び火した炎が燃え、パチパチとはぜる音がしている。炎に付随した煙や熱が徐々に増えていき、息苦しく感じる程だ。この場所もそろそろ移動しなければ危険だ。


「ち、違う!私じゃない!あの巻物の所為だ!あの巻物が、私を操ったに違いない!アーロ様やニーナ様まで……み、皆、私を責めて、私を処断しようと……。だから抵抗したのだ!この惨状は決して私の所為ではない!」


「ふざけるな!お前が巻物魔法インフェルノフィールドを使ったんだろうが!」


 この後に及んで、まだ言い訳を吐き出すロビィルに、怒りが込み上げる。その感情のまま、拳を振り上げた。


「ひぃー、やめろ、やめてくれぇ!」


 恐怖で顔をひきつらせるロビィル。一発ぶん殴ってやろう……!としたのだが。ん?腕が全く動かない!?


「ダメ!ミナト、殴っちゃ!」


 リンが同調で俺の動きを止めたのだ。


「リン!?なんで!?」


「ミナトは殴るの下手だから、また手を怪我しちゃうもん!」


「いや、そうだとしてもこいつは……!」


 確かにミサーク村の時にそんな事があった。しかもどんな奇縁か、その時、殴った相手もコイツだったのだ。


「……そ、そうだ!その従魔のいう通り!そもそもこの私を殴るなど無礼にも程が……!」


 ロビィルが「そら見たことか」と得意気な顔をした。しかし、次の瞬間……


「だからリンが代わりにやってあげるね!」


「「え?」」


 俺とロビィルの声が重なった。それと同時にロビィルの目の前の地面から、土で出来た巨大な腕がズズズッと生えてくる。


「ひ、ひぃ~!?」


「何がいい?りんぱんち?りんちょっぷ?りんびんたもあるけど?」


 地面から突き出た巨大な土の手が、まるでウォームアップをするように拳を握ったり開いたりしている。


「あの……リン?これってリンの魔法なんだよね?この土の手って、このまま維持できるの?」


「うん!リンの手が動くと同じ動きをするんだよ!ミナトも魔法で「すいりゅーけん」が出せるから、出来るでしょ?」


 出来ないよ!一瞬、水の拳がでるだけだよ!しかし、リンの土魔法の巨大な手は、リンが手を振ると同じように手を振る事が出来る。うーん、なんともシュールだ。


「で、リン。「りんびんた」って、ひょっとしてこのでかい手で……」


「うん!こ~やって、手を横にして、思いっきり……えーい!」


 ぶぉっ!と押されるような強い風が、ロビィルに吹き付ける。こりゃ張り倒されるどころじゃないなぁ。エリスのウインドパームとどちらが嫌だろうか……?


「……だってさ。何がいい?ロビィル?」


「ひいっ!や、止めろ!許せ!い、いや、許してくださいぃぃぃ!」


 青くなったロビィルが、這いつくばるように土下座し、許しを請う。確かにあんなの食らったら無事じゃすまないしな。


「はぁ……。リン。もう良いよ」


「いいの?」


「うん。リンの魔法みてたら、何だか怒りがどっかいっちゃった。やっぱり、リンは凄いなぁって」


「そう?えへへ!」


 俺の影響か、リンもイメージ詠唱のような魔法を使う。ただ、俺の魔法より更に昇華させている気がする。ヌシ様やゲッコウも、リンのセンスの良さには驚いてたくらいだし。


 でもリンはそれだけじゃなくて、いつもヌシ様にも色々質問したり、修業したりと頑張ってたもんなぁ。……俺ももっと修業しないと、どちらがマスターだか分からなくなっちゃうなぁ……。


「ミナト、もう逃げないと!火が近くまで来てる」


 気がつくと、確かに炎が近くまで迫っている。おっと、こんな事してる場合じゃなかった!早く北山に向かわないと!


「ロビィル。今、双子山はお前の発動させた魔法の所為で、火に包まれていて脱出は不可能らしい。だから皆は、北山の山頂に避難しているんだ。ルカ様もそこにいる。お前はどうする?」


「そ、それなら私もそこに連れていってくれ!死にたくない!」


 こんな状況にしたのはコイツだ。また怒りがわき上がってくるが、今は時間が惜しい。


「……それならついてこい。でも遅れても助けないし置いてくから、死ぬ気でついて来いよ?」


「む、無理じゃ!馬もないし、こんな山道を山頂まで登るなんて……」


「じゃあ、ここに居るといいさ。リン。行こう!」


「うん!」


 ロビィルをその場に残し歩き出すと……


「ま……、待て!行く、私も行く!だから待ってくれぇぇぇ~!}


 こうして俺達はロビィルの叫び声を聞きながら、炎から逃れるため頂上を目指した。





  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




「ハァッ……ハァッ………ひぃ。た、頼む、ひぃ……手を貸して……くれ~!」


「もう少しだ!早く来い!」


 息も絶え絶えになり今にも倒れそうなロビィルが、うめくように声をあげる。今までこんな経験をした事など無いんだろう。フラフラになりながら、それでも必死で俺達についてきている。


 山道で走るうちに何度も転び、身に付けていた鎧は重すぎるので脱ぎ捨てた。服は破け、靴は途中で脱げ、裸足で走っていた為、傷だらけで血がにじんでいた。顔も涙と鼻水で見る影もない。でもまあ、せめてこれくらいの罰は受けて当然だろう。


 俺達だけならもっと早くここまで来れたが、ロビィルを待ちながらの避難となった為、かなり時間がかかってしまった。


 双子山火災の原因はロビィルだし、本当ならあのまま放置しても良かったけどルカは「双子山にいる全員を避難させてほしい」と言っていた為、とりあえず連れていく事にした。ロビィルの最終的な処罰はルカに任せる。


「後もう少しだから頑張れよ。お前だけじゃなく、俺達まで焼け死んじゃうよ」


 すごい嫌だけど、ロビィルの手を引っ張ってやる。お人好しだな。俺も。


 ……もうじき、ヌシ様の住まいがある北山の山頂だ。ここから見ると炎が山の中腹を越えてかなり迫ってきているのが分かる。


 こうして俺達はロビィルを連れ、なんとか北山の山頂にたどり着く事ができたのだった。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




 頂上に着くと、グラント達が俺達を出迎えてくれた。相変わらず頂上の広場の中央には楕円形の大岩がまるでこの双子山を守るように鎮座していた。あそこがヌシ様の住まいだ。


「ミナト、無事だったか!心配したぞ!……ん?そいつはロビィルか!?」


「はい、何とか魔法は止める事ができました。ルカ様に処罰は任せようと思って」


「そうか、よくやった!ロビィルの後の事は任せておけ。バーグマン兵に引き渡し監視してもらう」


 そう言ったグラントが隊員に命じ、ロビィルは連行されていった。


「お願いします。ロビィルを正気に戻したら、新たな火炎兵士ファイアソルジャーは産まれなくなったっぽいです。でも、その前に出現した兵士と火災は止まらないですね……」


「いや、新たな敵が出なくなったという情報だけでも朗報だ。ロビィルも捕らえた事だしな」


「ヌシ様はここに避難しろと言ってましたが、この場所は大丈夫なんですかね?」


「ああ、ここには火や魔法を防ぐ結界が張られているらしい。この山頂をぐるっと覆っているそうだ」


「それってネノ鉱山にもあったやつですよね。それなら安全ですね」


「それがな、結界は炎獄之舞踏場インフェルノフィールドに対しては、そう長くもたないようだ。まぁ、今ヌシ様が何か方法を考えて下さっているらしい」


「いい手があるといいんですが……。それで皆、山頂に避難できたんですか?」


「双子山の色々な場所からここに避難しているが、もう大方は辿たどり着いているはずだ」


 見渡すと反乱軍とバーグマン兵が、ひしめき合うように集まっている。北山にいたゲッコウやガウドの姿も見えた。捕虜にした兵士達も無事なようだ。……しかし、さすがにこれだけの人数がいると、あれだけだだっ広く思えた頂上の広場も狭く感じるなぁ。


「……ミナト、ミナトー!」


「ミナトさん!」


 俺を見つけたライとラナが走ってきた。


「ライ!ラナ!無事だったんだね!良かった!」


 そう言ったが二人は悲しげな表情のままだ。


「どうしたの?二人とも」


「……エリスが……まだ来ない。すぐ戻ると言っていたのに」


「えっ?エリスが?」


「はい。どうも途中までは、ラナと一緒に避難していたみたいなんですが……」


 ラナの話では、エリスは途中まで一緒だったが「私は寄る所があるから先に行ってて、すぐに追いつくから!」と言い、南山の山道を登って行ったらしい。


 確かに避難している中にまだエリスは居ない。周りの人達に聞いてみるが、エリスを見かけた人もいなかった。


「……エリスが心配……ミナト、どうしよう?このままじゃ……」


 泣き顔のラナが訴える。


「分かった、ラナ、行こう!」


 ラナを伴い、急いでヒューゴを探しヌシ様の所在を尋ねた。ヌシ様ことハロルドならば何か知っているかもと思ったのだ。


「なんと!?エリス様がまだ来ていない!?」


「はい。だからヌシ様と会わせてほしいんです!ヌシ様は今どこに!?」


 ヌシ様に会うため、大岩の入り口前に居たヒューゴに事情を話す。しかし、彼は思いがけない言葉を口にした。


「それが今、ヌシ様はある魔法の術式を発動させる為、住まいに籠っている。誰も入れるな、と言われていてな。会う事は出来んのじゃ」


「でもっ!エリスが危ないかもしれないんです!ヌシ様に知らせないと……!」


 しかし、険しい顔でヒューゴは首を振る。


「今、ヌシ様の術式に、ここにいる全ての者の命がかかっておるのだ!ミナトよ、ヌシ様に余計なご負担をおかけして、術式を乱すことがあってはならぬ!……すまない。会わせる事はできぬ。エリス様にはご自分の力で助かっていただく他ない……」


「そんな!ヒューゴさんだってヌシ様にとってエリスがどんな存在か分かっているはずだ!もし、その術式とやらが成功した処で、エリスに何かあったらヌシ様がどれだけ悲しむか、あんただって分かるだろ!?」


 思いもしないヒューゴの言葉。俺は瞬間的に血が上り、彼に食って掛かっていた。


「そのような事は百も承知だ!!しかし、今、我輩にとっての最優先事項は、ルカ様をお救いすることなのだ!……例えヌシ様やお前ににどう思われようと、我輩はルカ様を守らねばならんのだ。それがバーグマン家に仕える者の使命だ!」


 苦渋に満ちたヒューゴが、絞り出すような声で言う。彼にも事の重大さが分かっているはずだ。それでも、当主であるルカを救わねばならない。彼の表情からそれが痛いほど伝わってくる。


「ミナト、念話を使ってみてはどうだ?会うことは叶わなくとも、念話なら通じるだろう?」


 そう声をかけてきたのは、他ならぬ当主のルカだった。


「しかし、ルカ様!今、ヌシ様は大切な術式を組んでおられます。もし、その事で失敗でもしたら……!」


「私は双子山に居る全ての者に、ここに馳せ参じてほしいと言ったはずだ。覚えているな?ヒューゴ」


「はっ!しかと!」


「良いか?私はここにいる全ての者に、この火災で命を落として欲しくはない。そして、叔母上も見捨てたくはない。ヌシ様も救える命があるのならば、必ず救いたいと思う御方だ。バーグマン領領主として、このギリギリの状況だからこそ、ヌシ様には叔母上の事を伝えるべきである、と私は思う」


「ルカ様……」


「私が許可する。お前がその責を負う必要はない。分かったな、ヒューゴ」


「ははっ!仰せのままに!」


 そう言って頭を下げるヒューゴの目には、涙が滲んでいた。


「……という訳だ、ミナト。責任は私が持つ。早くヌシ様に連絡するといい!」


「分かりました!ありがとうございます、ルカ様!」


 この戦いで、急激に大人びたルカの了承を得て、祈るような気持ちでヌシ様に念話を送った。



 

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




『なんだと!?エリスが!?』


 ヌシ様に事の次第を報せる。狼狽したヌシ様の念話が聞こえてきた。焦りの為か、ヌシ様の口調がハロルドのものになっている。


『はい、途中まではラナと一緒だったそうです。でも寄るところがあると、南山の山道で分かれた、と』


『……エリスは多分、南山の山頂に向かったのだと思う』


『南山の山頂へ?なんでまた?』


『いつかミナトに話したな?エリスは幼い頃、私の従魔と過ごすのが好きだった、と。あそこには昔、その為の小屋があったんだ』


『あそこに?でもそんなのありましたっけ?』


 俺も何度も南山の山頂には行ったが、そんな物はなかったぞ?


『ああ、今は従魔達が眠るのを示す小さな石碑せきひがあるだけだがな。あの頃、エリスは毎日のようにそこで過ごしたんだ。きっとそこを守るため残ったのだろう。あの子にとって何より大切な場所なんだ』


『え……?従魔の眠る場所を守る為……ですか?』


『ミナト頼む!エリスを助けてくれ!風魔法は炎獄之舞踏場(インフェルノフィールド)と相性が悪い。あの子は……エリスは、あの場所を守る為ならば、魔力が尽きて自分が死んだとしてもかまわない、と考えているに違いない!私は今、手が離せない。水魔法が使えるお前が頼りだ。頼む、エリスを何とか守ってやってくれ!』


『分かりました!必ず守ります!』


 念話を切りリンに問いかける。


「リン、今からエリスを助けに南山に戻らなきゃいけない。炎が迫ってきてるから最悪、ここに戻れないかも知れない。それでも一緒に行ってくれるかい?」


 そう聞くとリンはニコッと笑って言った。


「うん!今度も必ずミナトもエリスもリンが守るから!早く行こう!」


「ああ、行こう!ルカ様、俺達はこれからエリスを助けに行きます!」


「ありがとう。ミナト、私からも頼む。叔母上を助けてやってくれ」


「我輩からも頼む!どうかエリス様を……!」


「分かりました!任せて下さい!」


 ルカとヒューゴにそう言った後、ラナに向き直る。


「ラナ。エリスは俺達が必ず助けるからね。心配しないで待ってて!」


「……うん、ミナト……絶対、絶対に帰ってきてよ!戻ってこなかったら承知しない!」


「ああ、約束だ!」


 泣き顔のラナとそう約束し、頭を撫でる。


「じゃ、行ってきます!」


 ラナ達に見送られ、北山の山頂を駆けおりる。


 待ってろよ、エリス!今、行くからな!







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