11話 塀の中の不敵な面々
「いいかい?ライ、ラナ。もうじき役人が俺を拘束する為にやってくる。でもそれは予定通りの事だから二人も驚かないようにね」
「ミナトさんが人質って……!それしか方法はないんですか!?」
「ああ、作戦上、必要な事なんだ。俺の事なら大丈夫。捕まりはするけどね。それに人質にするからには、ミサーク村侵攻までは俺を生かしておかないと意味がないだろう?だから、逆に安全なんだよ。でも、俺は一仕事終えたらすぐに脱出するし、二日か三日で戻るから、心配しないで待ってて欲しいんだ」
「で、でも……!」
元軍団長ヒューゴとの話し合いが終わり、次の日の早朝、ライとラナに経緯を伝えたのだが、突然、俺が捕まってしまうと聞いて、二人は戸惑いを隠せないようだった。
すると、横にいたウィルが「ミナト様を拘束するなど許しがたい暴挙!その場で斬って捨てましょう!」と怒りを露にし、ラナも「そうだ……人間なんて追い払おう……!」と賛同しだし、ラナと配下のドッグウルフ達とそのまま領主の館に乗り込もうと息巻く程だった。ラナはいつの間にか双子山に生息するドッグウルフ達を従え、ボスのような存在になっていた。「獣王の眼光」ってすげぇ……。
慌てて、これも作戦の内だから!と押し留め、ウィルとラナには次の作戦で活躍してもらいたいからここは待機しててくれ、となだめるのが大変だった。
唯一、自称元魔族のタヌ男だけは『まぁ、何とかなるカネ。やる事をやったらさっさと帰ってくるといいカネ』と居間で朝寝をしていたが。
バーグマン軍の元軍団長ヒューゴから「一週間後にミサーク村への進攻する」との情報と、それに付随し、俺を拘束した上で人質としてミサーク村に連れていく、という計画がある事を知らされた。
それと同時に、冒険者ギルドのギルドマスターであるクローイも拘束し、冒険者ギルドの機能を停止し村とギルドとの連携を不可能にし、村を孤立させる狙いがある事も明らかになった。
領主の館に忍び込んだコタロウからも同じ情報がもたらされており、今回は強硬に行うようだ。
ちなみに館の警備は、コタロウいわく「眠りながらでも入れる」ほどザルなんだとか。平時でもぎりぎりの人数だったところに多数が訓練に駆り出されていて、今では警備もほとんど機能していないらしく逆に罠かと思ったそうだ。
それらの情報を元に、領主の館の内通者を通じて領主であるルカを奪取する作戦を立てた。
まず、内通者がルカを連れ出す。俺はコタロウの手引きで牢を脱出し、ルカと落ち合った後、隠し通路を通って双子山に逃走する。
これが「領主奪取作戦」の概要だ。まぁ、捕まる前提だから二人が心配するのも無理はないよな。
リンも俺と一緒に行くと言っていたが、敵のターゲットは俺一人。人質としてリンは必要ないから、拘束の際に無理矢理俺から引き離されるだろう。その後、リンがどんな危害を加えられるか分からない。幸い、俺の周りにはいないが、世の中には「従魔は奴隷以下」という人間もいる。だからまずは俺一人で拘束されることにした。
俺が拘束された後で、リンはコタロウと一緒に領主の館に忍び込み、俺の脱出時に合流するという段取りである。
「ミナト!必ずに迎えにいくから、安心して待ってて!」
と、気合いを入れるリン。本当に頼りになる相棒だよ。ありがとう、リン。
俺が留守の間は二人の事はコンラッドに任せた。彼に任せておけば俺も安心できる。
「コンラッドさん、あとの作戦の準備、よろしくお願いします」
「はい。必要な物資は、ミナトさんが戻るまでに必ずや双子山に集積させておきます。更に各方面には連絡を走らせました。ミナトさんが戻る頃には皆さん集まっていると思います」
「俺なんかの呼び掛けに応じてくれますかね?」
「大丈夫です。ミナトさんはこれまでたくさんの人達を助けてきました。きっと応えてくれる人達がいるはずです。ここは信じてお待ち下さい」
コンラッドが穏やかに笑うとなんだか気持ちが落ち着いてくる。今回の作戦では人手も必要だ。そこでコンラッドに頼み、応援を要請してもらっている。
すでに賽は投げられた。ここからは俺も自分を信じて行動するのみ!
覚悟を決め、その時を待った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「容疑者ミナト!地下水路爆破の実行犯、及び領民扇動の容疑で連行する!」
俺の家に踏み込んできた役人が、罪状を高らかに読み上げた。その後ろには十数人もの完全武装の衛兵が控えている。
「俺はそんな事はしていません!それなら証拠を出して下さいよ!」
「黙れ!捕らえろ!」
同行してきた衛兵が俺を取り囲み縄で拘束する。俺は瞬く間に上半身を縛られ身動きが取れなくなった。
「よし、連れていけ」
「さっさと歩け!」
岡っ引きに引っ立てられた下手人のごとく、お縄についた俺は兵士に引っぱられ玄関へ向かう。
「ミナト!」「ミナトさん!」
その様子見たライ達が涙を浮かべて叫ぶ。納得してもらったとはいえやっぱり心配だよね。ごめんよ。
「大丈夫、きっと誤解だから……!すぐ戻れるさ!コンラッドさん!みんなの事を頼みます!」
「分かりました!」
兵士に引っ張られながらコンラッドに呼び掛ける。彼が力強く頷いたのを確認して、ふと不穏な空気を感じ、部屋の奥を見る。
ちょっとウィル!殺気が駄々漏れ!演技、演技なんだから!君は鎧のオブジェなんだから頼むから動かないでよ!
……こうして俺は拘束され、牢屋のある領主の館に連行された。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ここに入れ!取り調べが始まるまで大人しくしていろ!」
「あだっ!?」
領主の館の牢屋に連行された後、俺はは縄をほどかれると牢の一室に放り込まれた。その直後、ガチャン!という音とともに外側から鍵がかけられる
「痛たた……。畜生、あんな無理に引っ張らなくてもいいのに。縄の跡がくっきりだ」
固く縛られた為に腕に縛られた跡がしっかり残ってしまった。
と、
「遅かったわね。ミナト君」
「えっ?あっ、クローイさん!?」
顔をあげると驚いた。そこには粗末な椅子に腰かけた冒険者ギルドのギルドマスターであるクローイがいたのだ。
「あなたも捕まったのね。予定通りに」
「はい。予定通りに、です」
そう言うとクローイはニコッと微笑む。クローイとはコンラッドを通じて俺達と情報を共有している。既にこの事態も想定済みであり、双子山で事が起きた際はルーク達が有志の冒険者達と共に動く事になっていた。
「でも、まさか同室だとは思いませんでしたよ」
「私達は特別待遇のようね。この牢も普通の罪人より豪華だし」
そう言われて改めて周囲を見回す。壁は木造りで、天井も木板で製室内は粗末ながらテーブルや椅子、ベッドが備え付けられている。トイレも備え付けられていて、出入り口こそ格子窓付きの鉄扉だが一見すると普通の居室のようだ。
それに牢屋は地下にあると聞いていたが、この牢は地上にあり、格子窓からは光が差し込んでいる。特別待遇というのは間違いないなさそうだ。
「冒険者ギルドは業務を停止させられたわ。取り調べが終わるまでの間、少なくとも五日はかかるそうよ」
「やっぱりダニエルは、ミサーク村と連携させないつもりですね」
「ええ、村を孤立させる為に」
やっぱりダニエルは、ミサーク村を攻めるつもりなんだな。
俺達は出兵の日までここに監禁される。俺は人質としてミサーク村に連行される予定だ。まぁ、その前に脱獄するけど。
「それにしても権力に取りつかれた人間は愚かなものね」
やりきれない、といった感じでクローイがため息をつく。
「ダニエルの事ですか?」
「そう。あれでも昔はバーグマン家随一の忠臣だったそうよ。そんな人間でも権力を手にすると、あれ程にまで変わり果ててしまうなんて、ね。……まぁ、権力に興味がなくて、すぐに放り投げようとするルークみたいのもちょっと困るけど」
そう言えば以前、エリスに聞いた事があった。アーロが存命だった頃のダニエルは有能でバーグマン家の忠臣だった、と。事故でアーロと長子ダスティを同時に失い、憔悴する正妻ニーナを補佐する傍らでダニエルは「忠臣の仮面」を脱ぎ捨て自身に権力を集約していったと。
そんなダニエルのせいで俺達は望んでなどいない戦いに巻き込まれた。それは駆り出される兵士達も同じだろう。そもそもなんで同じ領内の人々が殺し合わなきゃいけないんだ。もし俺が領主ならそんな事は決して望まない。
「クローイさん。ひとつお願いがあります。もし、戦いになっても、兵士達はなるべく殺さないようにお願いできますか?」
「……理由は?」
「だって冒険者も兵士も同じバーグマン領の領民じゃないですか。なんでダニエルの為に同じ領内の人間が殺し合いをしないといけないんですか?冒険者にも兵士にも家族がいます。殺されてしまえば恨みが残ってしまいます」
「それは怪我を負わせても同じでしょう?」
「それでも生きていさえすれば関係が修復できるかもしれない。死んでしまえばその機会さえ失われてしまう。ダニエルを倒しても別の騒動の火種を作ってはいけないと思うんです」
村人だって兵士だって同じバーグマン領の人間だ。いがみ合いは少しでも減らした方がいいに決まってる。それにやっぱりこんな事で人が死ぬのを見るのは嫌だし。
「生きてさえいれば……ね。確かにダニエルの為に領民同士がいがみ合い、殺し合いをするのは馬鹿らしいわね。終わった後の事も考える必要がある。分かったわ。ルークに伝えておく」
「ありがとうございます。クローイさん」
「……フフッ」
「……?何ですか?」
「立派な心構えね」
「そんな大したものじゃないですよ、やっぱり人が死ぬのは嫌だなぁ、って」
「攻められる側の人間が、攻める側の人間の事まで考えられるなんてなかなか出来ないわ。あなたのような人が上の立場にいたら良かったのにね。ミナト君」
「え?いや、買いかぶりすぎですよ」
と、言いかけた時だった
「そうだぜ、ミナト。お前にゃダンナも期待してるんだ。さっさとランクを上げろよ」
「へ?」
その直後、真上の天井の木枠がガタッと外れ、中から見覚えがある男の顔が覗いた。
「よう、元気だったか?ミナト」
「えっ?ワンドさん!?」
そこから現れたのはワンドだった
「俺だけじゃないぜ?ほら、ミナトに顔を見せてやんな」
「ミナト~!やっほ~!」
「ブッ!?リン!?」
思わず吹き出してしまう。ワンドと入れ違いで現れたのはリンだった。リンが天井からヒョイと飛び降りる。
「え?ちょっと待って!?」
慌てて落ちてきたリンを抱きとめた。
「エヘヘ~、ミナト~来ちゃった!」
そう言ってギュッとしがみつくリン。突然の事に驚いていると、
「申し訳ありません、ミナト様」
「あ、コタロウ!?」
天井から今度はコタロウが顔を覗かせた。
「ミナト様が家を出られてすぐに、どうしても行きたいと言われまして」
「そうなのかい?リン」
「うん!だってミナトはリンが守るんだもん!」
そういって俺の胸に頭をぐりぐりさせる。
「フフッ、相変わらず仲が良いわね」
リンの行動にクローイが笑顔を見せる。
「いやぁ、どうも……って、そんな事より大丈夫?こんなところを看守に見つかったらヤバイよ?」
「それは問題ないぜ?リンは隠密が使えるだろ?看守が横にでもこなけりゃ見つかることはまずないからな」
「本当ですか?ワンドさん」
そう言えばヌシ様も隠密熟練者にもなれば、真横にこないと存在に気づけないって言ってたっけ。
「俺達だって念のため隠れちゃいるが、下にいたって見つからない自信はあるしな。それに、こんだけ騒いでも看守が誰一人来ないだろ?」
確かに看守はやって来くる気配はない。なぜだろう。
「人手不足よ」
俺の疑問に答えるようにクローイが話す。
「ただでさえギリギリの人間で回していたところに、今回の出兵。兵士として人を出さねばならない役人は、どこも深刻な人手不足に陥っている。ここも例外ではないのよ」
あ~、そう言えばコタロウも眠っていても入れるって言ってたしなぁ。でもここまでザルだと逆に何でこんな無理してまで出兵するんだって思うよ。
「ここより地下牢の囚人の相手に手一杯になっているんでしょ。地下から「飯はまだか!俺達を餓死させる気か!」って騒ぎ声とそれを制止する怒鳴り声が聞こえてきたわ。食事も一日二回だったのが一回に制限されたそうよ。多分、人が居なくて食事も満足に作れてないんでしょうね」
確かに囚人にとって食事は唯一といっていい楽しみだろう。それを減らされたら気が立つのは当然だ。しかし、大丈夫かよ。こんな状態じゃ、もし外からの手引きがあれば簡単に脱獄できそうだ。
「今回の出兵は明らかに準備不足よ。兵士の数も練度も兵を動かすに足る大義名分もない。それに村を攻めて村を焼き払えば領民はどう感じるか……。ダニエルに対する怨嗟の声は、より高まる事は分かるはず。にも関わらずダニエルはまるで何かに突き動かされたように兵を動かそうとしている。その理由は何……?」
ダニエルの狙いはネノ鉱山の封印の解錠なのは分かっている。しかし、普段の政務を疎かにしてまで急ぐ必要があるのだろうか?その理由は?それは俺にも分からなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺達が入牢して二日が過ぎた。囚人生活はやっぱり暇だ。結局、取り調べ等はなくただ予定日まで監禁している、といった感じだ。看守は滅多に巡回に来ないし、来ても覗き窓からチラッと俺達を確認して行ってしまう。もちろんリンが気づかれた様子はない。
運ばれる食事は昼に一度きり。それも固いパンと薄いスープのみ。相変わらず地下牢の方から囚人達が不満を訴え、騒いでいる声とそれを制する看守の声がひっきりなしに聞こえる。
まぁ、俺達はマジックバッグに食材があったからなんの問題なかったけど。クローイが「その能力があれば、上位クラスのパーティにも歓迎されるわよ」と言われた。でも生憎だけど、パーティはもう決めてるからね。
入牢中、久々に夢でパナケイアさんと会った。
信仰は順調に集まっており、彼女の神力も強まっていると感謝され、新たな魔法、「エリアヒール」を授けてくれた。エリアヒールは一定の範囲全員にヒールをかける範囲魔法だ。あとは、スキル「譲渡」をもらった。これは文字通り魔法やスキルを誰かに譲渡するスキル。因みに固有スキルは対象外だ。いつか出番があるかもしれない。パナケイアさんにお礼を言うと、嬉しそうに微笑んでくれた。
そんな中、彼女が気になる事を言っていた。
ミナトと共に召喚されたはずの召喚者がいるはずだが見つからない、と。
そもそも俺がこの世界に来たきっかけは誰かの召喚に巻き込まれたせいだ。一緒に召喚された人がいるというのは初めてここに来た際に聞いた。なのにパナケイアさんでもまだ見つけられていないという。
可能性としてはよほど厳重に守られているか、もしくは違う時代に飛ばされたか、召喚が失敗し、存在自体が消えてしまったか、だという。おそらく人族が行ったであろう召喚魔法は非常に不安定で様々な要因で思わぬ結果を招く恐れがあるらしい。
もし、その人が見つかれば同じ境遇の者同士、きっと協力できるはず。引き続き探してみると言っていたので気長に待つとしよう。
別れ際、パナケイアさんにフォルナでの生活はどうか、と聞かれたので「とても充実してますし、楽しいですよ。もしよかったらパナケイアさんもどうですか?」と言ったら、何故か嬉しそうに「えっ!いいんですか!?」と言っていた。
そしてその日の深夜……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ミナト、誰かが来るよ」
リンの声で浅い眠りから覚めた。リンがそう言ってからややしばらくして、足早に歩く足音が聞こえてくる。その音は俺達の牢の前まで来て止まった。
「どうやら待ち人が来たようね。準備はいい?」
クローイに聞かれるまでもない。今夜が「その日」とわかってるし、すでに準備はばっちりだ。コタロウとワンドはすでに持ち場で待機している。
ガチャン!と言う何かが外れる音がし、ゆっくりと鉄扉が開く。
「開いたわね。さ、行きましょう」
クローイに促され牢を出る。
その先には二人の人物が、俺達を待っていた。




