表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『俺』とゴブ『リン』~俺のスキルは逆テイム?二人三脚、人助け冒険譚~   作者: 新谷望
3章 バークマン領の騒乱編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/245

3話 垂れ込める暗雲



 再び、ガシャン、ガシャ、と鎧が重なり合うような、聞こえるはずのない音が響く。


 鎧を身につけているが、残酷にも千切れた部分から見える骨に、こびりついている肉が崩れ落ちそうだ。自分のものか、それとも今まで屠った者たちのものなのか、赤黒い血がついた鎧をまとい、幽鬼とも喰種グールとも言えない姿をした禍々しい騎士たち。


 ぞくりとするような冷気が辺りを包んでいるのに、泥棒たちは気づかない。地面の中のお宝を盗もうとする罪人たちに、血塗られた亡霊騎士達が一歩、また一歩と迫る。

 

 ……ど、どうなっちゃうの!?


『おぅおぅ。脇目もふらず掘り出しよるのぉ。しかし、周囲にもきちんと目を向けんと危ないぞ。盗みに入るなら常に周りの状況を把握しとらんとな?』


 リンにしがみついて様子を見ていた俺と違い、のんびりした口調のヌシ様。


『何、呑気な事を言ってるんですか!?騎士の亡霊が現れたんですよ!?』


『まぁまぁ。泥棒達を見てみい』


 ヌシ様に促されそちらに目を向けた時、不意に泥棒の一人が顔をあげた。


 その瞬間、表情が固まり、同時に目を見開かせ口をパクパクさせる。持っていた籠がどさり、と落ちた。


 その音にもう一人がそちらを見る。様子がおかしい事に気付き視線の先を追った途端。


「う、うわぁぁぁ!!でたぁぁ!!」


 大声をあげた一人が脇目もふらず逃げ出した。置いていかれたもう一人もその場から逃げ出そうするが、腰が抜けたのが尻餅をついたまま動けない。


 そんな泥棒に五体の亡霊騎士がじりじりと迫る。


「ひぃぃぃ!!来るな!来るな!」


 泣きながら喚きちらす泥棒。そんな言葉はまるで歯牙にもかけず、四方から距離を詰める亡霊騎士達。


「た、た、助けてくれ~!!」


 四体の亡霊騎士が泥棒を取り囲んだ。馬に乗った首なし騎士は、その後方でその様子を見下ろしている。


 その騎士が槍を高く掲げた。すると刺さった頭のような物の目が赤く光りだす。よく目を凝らすとそれはフルヘルムの兜のようだ。


 それが合図となり騎士たちは一斉に槍を構え、剣を抜く。その刀身にも赤黒いものがべっとりと付着している。


 それを見た泥棒は、あわれにもそのまま卒倒してしまった。


「……あのままじゃまずい!ヌシ様、助けましょう!」


「え?助けるの?」


「そうじゃ。相手は盗人(ぬすっと)じゃぞ?」


「今はそんな事言ってる場合じゃないです!確かに泥棒は悪い事ですけど、亡霊に殺される事まで望んでいませんよ!」


 窃盗なら捕まえて衛兵に引き渡せば事足りる。いくら盗人といえど、畑で殺されてしまったら、俺達が大事に育てたサツマイモのブランドが落ちてしまうし、俺も寝覚めが悪い!


「とにかくあの亡霊騎士をなんとかしないと!リン、奴等の注意をこっちに引きつけてくれ!」


「分かった!」


 リンが素早く俺の肩によじ登り座る。


「まぁ、この畑のあるじはミナトだからの。好きにやってみるがよい」


 ヌシ様の言葉を背中に受けながら走り出す。


「ミナト、いくよ!」


 リンが雄叫びを上げると、その音に亡霊騎士達が一斉にこちらを振り向いた。


 とにかく、今は敵の注意を引いてターゲットをこっちに向けるんだ!上空に水魔弾(アクアバレット)を一発放ち、注目を引く。ハンドガンを構えつつ亡霊騎士達の元に走った。


「お前ら、そいつから離れろ!!」


 その中の一体に標準を定め、発砲しようとした時だった。


 亡霊騎士が俺の言葉を聞き入れたかのように、スッと四方に散り泥棒から距離をとった。


 ん!?……あ、あれ?


 離れた……?それにこちらに気付いているはずなのに攻撃を仕掛けようともしてこず、剣や槍をだらりと下げ構えようともしない。


「なんか変だよ。あいつらこっちを攻撃しようとする気がないみたい。何でかな?」


 リンも亡霊騎士の行動が読めず困ってる。


『……マイロード……』


 ……ん?何処からか念話が聞こえてきた。


『……マイロード……。……マイロード……』


 マイロード?何の事だ?その声があちこちから聞こえてくる。


「ミナト、どうしたの?」


「この亡霊騎士が、俺の事をマイロードって言ってるみたいなんだ」


「まいろーど?それって何?」


 リンにそう聞かれたが、俺も意味が分からない。


 散っていた騎士達が俺の前に集まってくる。まるで整列するかのように横一列に並んだ。


『……ご命令を……。ご命令を……』


 いったいどうなってるんだ?


「……なるほど。そういう事か」


 いつの間にかヌシ様が俺の隣にやって来ていた。


「あ、ヌシ様。これはどうなってるんですか?急に動きを止めたし、俺の事をマイロードって言ってるんですよ」


「ミナト、どうやらこの亡霊騎士達は、ワシらと敵対するつもりはないようじゃ」


「本当ですか?」


「こやつらはお主をマイロードと言っておる。つまりこやつらはお主を「主君」だ、と呼んでおるんじゃよ」


「……は?はぁー!?主君!?俺が!?何で!?」


「こやつらはレイスナイト。文字通り騎士の亡霊じゃ。恐らくだが生前はこの辺りを守備する兵だったのではないかな?この双子山に砦があったじゃろう。ここを守る戦いで命を落としたものの、死にきれず、死してなおこの地を守ろうとしているようじゃ」


「じゃあ、この双子山で死んだ霊魂って事なんですか?」


「ワシも過去にここで戦があった事は知っていたんじゃが、人間だった頃から双子山でレイスなど見たことがない。まさか、本当に存在するとは思わなかったわい。ほっほっほ」


「は、はぁ。じゃあ、なんで俺の事を主君だって言うんですか?俺は貴族でもなんでもないですよ?」


「それはミナトがこの双子山のあるじだからじゃろ?」


「俺が?なに言ってるんですか。双子山のあるじはヌシ様じゃないですか」


「ではこの畑の持ち主は誰かな?診療所の持ち主は?」


「それは俺ですけど……」


「そうじゃろ。現状、ここの最高権力者はお主じゃよ。それに騎士は王や領主に仕える者じゃからの。ワシはあくまで双子山を見守る者にすぎん。それに亡霊騎士は元人間だから、ワシよりミナトの方が従うに相応しかろう?きっとこやつら生前は、盗人等の悪事を働く輩を排除する警備の任も負っていたのじゃろうな」


「じゃあ、泥棒を追い払ってたのはその名残?」


「おそらくな。ずいぶんと任務に忠実なレイス共じゃ。ほっほっほ」


「笑い事じゃないんですけど……」


 つまり、この亡霊騎士たちは、昔あった双子山の砦を巡る戦いで命を落とした者達で、死んだ後もこの地を守り続けていたから、サツマイモ泥棒等、双子山に起こる悪事に反応して出現したという事なのか。見た目は怖いけど、元は忠義に厚い騎士たちだったんだな……。


「それはわかりました。で、この亡霊騎士達はどうしたらいいんですか?」


「命令すればいいんじゃないかの?お主が主君と言っておるし」


「命令?なんて?」


「「ご苦労だった。解散!」とでも言えばよい」


 本当かよ?でも亡霊騎士達はずっと整列したまま動かないし。


 ……よし。


「えっと……。君達のおかげでサツマイモを守る事ができた。ありがとう。それでは解散!」


 すると亡霊騎士は敬礼し、そのままスーっと消えてしまった。


「本当に消えちゃった……。はは……」


「ミナト、すごーい!」


「うむ。よくやったぞ、ミナト」


 二人が褒めてくれる。


「ふむ。どうやら亡霊騎士達はお主の命令を聞くようじゃ。畑はあやつらに任せれば良いだろう」


「でも本当に言うことを聞いてくれますかね?今日はたまたまって事は……?」


「まぁ、大丈夫じゃろ。あやつらは最初から我々に攻撃してこなかったしの。これまでも盗人が侵入した時にも現れていたんじゃろ」


 今までも何度も畑を守ってくれていた、という事か。それなら見張りも要らないし最強のセ○ムなんだけど……。


「そうだ、ヌシ様!あいつらに気配探知が効かなかったけどなんでなの?」


 リンが不思議そうにヌシ様に聞く。


「レイスは実体が無いから気配探知は通用せんのじゃ。従って物理攻撃は効かん。攻撃魔法か即席魔法スクロール、それか魔法属性が付与された武器を使わんとな。レイスのなかには鎧に憑依し、リビングアーマーになっているものもおる。そやつらなら気配探知が効くぞ。そのかわり鎧だからかなり固く厄介だがの」


 とヌシ様が説明してくれた。でも……。


「畑を守ってくれるのはありがたいですけど……。イアン達にはなんて説明すればいいんですか?「亡霊騎士がサツマイモ畑を守ってくれる!」って言ったらドン引きされませんかね?」


「それならお主が「実はあの亡霊騎士は、俺がテイムした従魔だったんだよ!」とでも言うておけばいいんじゃよ。ほっほっほ」


「それで「な、なんだってー!!」って言われる流れですか?……でも何で、よりによって亡霊騎士なんですかぁ……」


「ひょっとしたら、悪霊系の魔物に好かれる才能スキルでもあるんじゃないかのぉ?」


「ちょ!?勘弁して下さいよ~!」


 俺の叫び声とヌシ様の笑い声が、双子山にこだました。



 

  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 一方、同じ頃。


 ここはノースマハにある領主の館。領主でありバーグマン家当主ルカの住居と、その土地の政庁を兼ね、街で最大の規模を誇るその館は、ノースマハの街のほぼ中央にある。政庁を行うに相応しい造りであり王都の建築様式を取り入れた館になっている。その中でもひときわ立派な、領主の執務室。そこに二つの影があった。


「我が主は大層ご立腹だ。貴様は何度失敗したら気が済むのか、もう待てぬと」


「ごもっとも!ごもっともでございます!!何卒、何卒お許しを!」


 一人は豪華な衣装を身に纏い、這いつくばるように土下座するでっぷりと太った男。この男こそがノースマハの平和を乱し、またエリスを連れ去ろうと画策し、黒蛇を仕向けた側近ダニエルだ。


 そしてそれをまるで虫けらを見るように見下す、黒装束を身につけた男。こちらはダニエルとは対照的にスラリとした体型をしている。


「我が主からの命令だ。「何としてもネノ鉱山の封印を解け」以上だ」


「ネ、ネノ鉱山の封印をですか?しかし、それには例の娘を連れて来なければなりませんが……」


「それがどうした?」


「娘を連れ出す事には一度失敗しております。前回の経緯からミサーク村でも警戒しておりましょう。こちらの要求に従うとは……」


「ならば兵を動かせ。村を焼き払ってでも捕らえろ」


「それが情報によれば娘の風魔法は、ハロルド様に匹敵するとか……。すでに風殺の腕輪もなく、村全体が砦のようになっております。村へ続く山道も狭く、兵が組織だった動きをとれません。待ち伏せを警戒しながらとなると相当な時間と労力がかかります。奴等の結束力も強く、今では冒険者ギルドとも協力関係を築いております。もし、捕らえるとなると相当の犠牲が……」


 そこまで言った時だった。男が片腕をつきだし握る動作をする。


「ヒイッ!お、お許しを!」


 すると突然、ダニエルが首から下げているペンダントが光りだす。それとともにダニエルが自らの手で首を絞め苦しみ出した。呼吸ができないのか顔面がみるみる蒼白になっていく。


「ぐっ!?がっ……!」


「貴様はどこまで無能なのだ?女は捕らえられず、村は反抗し、風殺の腕輪を与えた組織は全滅。そろそろ、その座を降りた方が身のためだぞ?俺が手を貸してやる」


「お、お許しを……」


「だめだ。もはや手遅れだ」


「今一度、最後……の……最後の機会……を……」


 意識が飛ぶ寸前、男が手を開くとダニエルの手が首から離れ、その場に倒れこんだ。


「ならば、まずは村と冒険者ギルドとの協力を断て」


「た、確かに冒険者ギルドが手出ししないのであれば、かなり楽になります。しかし、どのように……?」


 ようやく呼吸が落ち着いたダニエルが、顔を歪めながらに聞く。


「先日、地下水路で爆発騒ぎがあっただろう。それには冒険者が絡んでいるのだったな?」


「は、はい。冒険者ギルドの者共が噛んでいるのは間違いありません。ただその証拠が掴めず……」


「証拠など不要だ。こう言えば良い。「冒険者ギルドが不正な薬物の取引を行っていた地下のアジトを発見した。その証拠を抑えようとしたところ、ギルド側が薬物もろとも地下アジトを爆破させた」とな」


「あれを冒険者どもの仕業に仕立て上げるのですか?」


「そうだ。更にこう続けろ。「これは証拠隠滅を謀ると共に、ノースマハの治安を著しく乱す暴挙である。よって冒険者ギルドの職務を停止させると共に、ギルドマスターの身柄を拘束しその権限を領主に移管させる」と。そうすればギルドの権限を著しく制限出来るだろう。村に協力できない状況に追い込め」


「黒蛇のアジトを冒険者ギルドのアジトとして喧伝けんでんするのですな?しかし、例えギルドとの連携をったとしても奴等は手強く……」


「頭を使え。結束力が強いという事は言い換えれば仲間を見捨てられないという事だ。村の者を人質にして(おび)きだせばよい。確か、お前がミサーク村から追い出した人間が居ただろう。確かミナトとかいう冒険者だ」


「……は、はい。その名前はヌレイからも聞いております」


「情報によれば今はこの街で冒険者になっているようだ。そいつを捕らえろ」


「……奴は黒蛇が送り込んだ刺客と黒蜂王ブラックビーキングを倒した男です。かなり手強いと……。以前も黒蛇が捕殺に失敗しておりまして……」


「どこまでも使えぬ奴だ。いいか、よく聞け?お前はまず出撃の準備を進めろ。兵も兵糧も抜かりなくだ。その間に冒険者(ひとじち)をなんとしても捕らえておけ。それらが整い次第、冒険者ギルドの機能を停止させろ。多少強引でも構わん。その直後に出撃だ。準備に何日かかる?」


「恥ずかしながら我が軍は長らく王家からの出兵要請もなく、兵の練度も低うございます。出撃ともなれば訓練を施さねばなりません。どんなに急いでも半年……」


「一ヶ月だ」


「一ヶ月ですと!?それではとても……」


「我が主は、お前の不甲斐なさにひどくお怒りだ。これ以上、見苦しい真似をするならばお前の大事な「宝」を消してもよいと言われている」


 それを聞いたダニエルの表情がサッと変わる。


「それだけは!それだけはお許し下さい!必ずや必ずや、一ヶ月で!次こそは成功してご覧に入れます!」


 ダニエルが慌てて床に平伏する。


「その言葉忘れるなよ。冒険者の方は俺も動いてやる。しかし、これが最後だ。覚悟して事に臨め」


 そう言うと男は煙のように姿を消した。


 男が姿を消した執務室には、床に崩れ落ちるダニエルだけが残される。


「申し訳ありません……アーロ様、ニーナ様……」


 ダニエルがうめくように呟いた。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ