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『俺』とゴブ『リン』~俺のスキルは逆テイム?二人三脚、人助け冒険譚~   作者: 新谷望
2章 ノースマハの街編

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29話 そして夜は明ける



 俺の額にハンドガンの銃口を突きつけたグリムが、引き金に指をかけた時だった。


 突如、ドン!という轟音が響き渡る。それと同時に少し離れた水路の壁が崩れ落ちた。


 な、なんだ!?さっきの衝撃で壁が崩れたのか?


 先程の爆発で、通路には至るところに亀裂が入った。その所為せいか、天井から砂や壁の破片が、ひっきりなしに落ちてきている。


 おもわず目をやったその視線の先、崩れ落ちた壁の中から声がした。


「どうだ?出口がなければ作ればいい。こうやってな」


「さすが旦那、「破壊王」の名は飾りじゃねぇや!」


「ルーク、すごーい!そんなにたくさん壊してるの!?」


「はっはっは!この程度の壁なら大したことはない。さっきの爆発と衝撃で、かなりの亀裂が入っていたからな」


「でもその所為せいでここもヤバいわよ。早く出ないと。ミナトも心配だし」


 壁が崩れ、開いた穴。そこから出てきたのはリン達だった。


「リン!ルークさん!」


 リン達の姿に思わず声が出る。


 あの爆発でリン達の安否が心配だったが、よかった!リンもみんなも無事のようだ!


「あっ!ミナト?……!?」


「おい、ミナトに何してる!」


 俺を見て状況を察したルークが、怒鳴る。


「うるさいね、そこから動かない方がいいわよ!フフッ。あんたの仲間が殺されたくなかったらね!」


 俺を羽交い締めにしたまま、盾にするようにルーク達に向き直るグリム。くびをガッチリ押さえこまれ、腕を振りほどく事ができない!


「ミナトに何かしたら許さない!」


 リンの声が聞こえる。


「……撃ってみろよ」


「何?」


 グリムの視線が俺に移る。


「お前の考えそうな事なんて分かるさ。どうせ、俺を人質にして自分だけ逃げようって魂胆だろう!そうはさせるか!撃てよ!」


「はっ!子ネズミが粋がるんじゃないわよ!震えているくせにさぁ!」


「人質になって迷惑をかけるくらいなら、撃たれた方がましだ!撃てよ!」


「悲劇のヒーロー気どり?それともアンタを地獄行の道連れにしてもいいって事?」


 グリムが嘲笑を浮かべる。


「ミナト、お前は絶対に助ける。早まるな!」


 慌てた口調でワンドが叫ぶ。その脇ではトゥナが弓を構え、いつでも放てるよう戦闘態勢をとっていた。


「俺が悲劇のヒーロー?違うね。お前ごときにハンドガンが使いこなせるわけがないからな!」


「ハハッ!アンタどうしても死にたいのね……!」


 俺の額に押し付けたハンドガンに力がこもる。しかし、俺にはわかる。グリムは今、迷っている。もし、俺を攻撃すればそれを合図に、ルーク達が殺到するのは分かりきっているからだ。


「ボスのくせに攻撃されるのが怖いか?いいだろう。お前が来ないならこっちからいくまでだ!ルークさん、後の事は頼みましたよ!」


「お、おい。ミナト、よせ、止めろ!」


 ワンドの制止を振り切り、魔力を集める。


「チッ!なら望み通りお前から殺してやる!死ね!」


「止めろ!ミナトー!!」


 ワンドの叫びは、放たれた発砲音にかき消された。



 

  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「なぜだ……いつ私はお前に攻撃された?どうして、お前は生きている……?」


 呟くようにグリムが言った。口元から血がにじみ出る。


「そのハンドガンは魔具じゃないからさ」


「……何だと?」


 囁くような弱々しいグリムの声。


「これは木を削って作った、ただの玩具おもちゃだ。いくら引き金を引こうと弾なんて発射されない。お前を撃ったのは俺の魔法。ハンドガンは魔法を隠す為のカムフラージュさ。俺、無詠唱で魔法が使えるんだ」


「……無詠唱、だと?」


 グリムの口元から血が流れ出す。俺が放った水魔弾アクアバレットはグリムの脇腹を貫通し、壁を穿っていた。


 左手はしびれ薬のせいで感覚がない。しかし、感覚はなくとも指は動かせた。グリムに拘束されていてはいたが、少しだけ動かせた指で水魔弾アクアバレットを発動させたのだ。


 グリムの右肩には魔法の発動と同時に、トゥナがハンドガンの発射を妨害する為に放った矢が刺さっていた。


 グリムのダメージが深いとみた俺は、咄嗟に組まれた腕を振りほどくと、素早く横に飛んで距離をとる。これで奴にはもう安全に逃げる手段はない。


「クッ!」


 グリムがハンドガンを手離し、死なばもろともといわんばかりに暗器を発射させようと左腕を構える。しかし、その動きはドスッという音と衝撃と共に固まった。グリムの首に投擲用の短剣が刺さっている。それはワンドが投げたものだった。


「グッ、ハ!!」


 グリムが血を吐き揺れる。しかし、その見開かれた目は俺を捉えたままだ。口が僅かに動く。なんと言っているのかはわからない。


「これで終わりだ、グリム」


 抜き身の剣を持ち、グリムの横にやって来たルークがとどめをさす。グリムの身体がゆっくりと傾き、うつ伏せに崩れ落ちる。事切れたのかその身体はピクリとも動かなくなった。


「……終わったぞ。ミナト。ご苦労だった」


 ルークが俺の肩をポンと叩く。その声に身体から力が抜け、へたりこんでしまった。


「ミナトー!」


 飛び込んできたリンを抱き止める。いつものリンの匂いに緊張感がほぐれていくのを感じた。


「ミナト、大丈夫!?どこか怪我しなかった!?」


「うん、なんとかね」


 心配そうな顔で見上げるリンを優しくなでる。


「ミナトすごいよ!グリムを一人で倒したもん!」


「でもかなりヤバかった。やっぱり一人じゃダメだね」


「そうなの?」


「うん。木刀もハンドガンも奪われて……。勝てたのはたまたま。グリムがハンドガンを魔具だと思い込んでくれてたからさ。俺一人だとリンに操作された時みたいには、上手く動けなかったよ」


「ミナトはリンが操った方がいい?」


「ああ。今回の事でよく分かったよ。俺にはリンが必要だってね。これからはもう、離れ離れになる任務は受けないでおこう。それが一番だよ」


「えへへ~。だよね!」


 嬉しそうに俺の胸に額をおしつけてスリスリするリン。もし、ハンドガンが本物だったら俺は今、生きていなかった。勝つには勝つには勝ったが、紙一重だった。


「お前の持っているこの『ハンドガン』という武器は、魔具ではなかったのか?」


 ルークが落ちていたハンドガンを拾い、聞いてきた。


「はい。これはただの木の玩具おもちゃです。本当は無くても水魔弾アクアバレットは撃てます。これはあくまでもイメージを増幅させるためのアイテムで、これ単体では何の効果もありません」


「では、何故わざわざ、そんな物を使っていたんだ?」


「ハンドガンを使って撃てば、みんなこれが『魔具』だと思い込むんです。だから相手は俺よりこれに注意を向けてくれる。「こいつはこの『魔具』があるから魔法が使える」と思ってくれます。つまりハンドガンは俺の能力を隠すカムフラージュなんですよ」


「なるほど。だから、あえて使っていたという事か」


「まぁ、騙してるみたいなんですけどね。あんまり格好いい勝ち方ではないですし」


「おいおい、ミナト。卑下する必要はないぞ。お前が勝ったのはお前が自分の能力を理解し、適切に使いこなしたからだ。その武器にしてもそうだ。ただの玩具をグリムに魔具と思いこませた。その時点で奴はお前の術中に嵌まったということ。お前は勝つべくして勝ったんだ」


「そうだぜ!まさか水魔法まで使えるとはな。さすが旦那が見込んだだけはある。すげぇ奴だよ、お前は!」


「人は見かけによらないものね。感心したわ。ボウヤだと思っていたけど、考えを改めさせてもらうわ」


 ワンドとトゥナが、感服するように称賛してくれた。


「でも、今回はたまたま勝てましたが、次からはリンと一緒に行動させて下さい。俺はテイマーです。一人だと俺の実力分しか出せませんが、リンがいると俺の能力を超えた力が出せます。その方が結果を出せると思うんです」


「そうか。では次回からはそうしよう。……しかし、俺は今日の結果に満足している。お前は俺の期待に充分な働きを持って応えてくれた。これなら冒険者として生きていけるだろう」


「そ、そうですか?……!!って、うわっ!」


 俺が言いかけた時、地下水路がかすかに揺れだした。その揺れは徐々に大きくなり、地鳴りのような音が地下水路の向こうから響いてくる。


「……まずい。さっきの爆発であちこちにヒビが入ったから、このままだと……」


 トゥナが辺りの壁を見回す。


「脱出するぞ!地下水路が崩れそうだ!」


「え!?マジで!?」


 揺れは徐々に激しくなり、向こうの方でガラガラと何かが崩れる音が聞こえる。


 リンを肩に乗せ、慌てて立ち上がるとルーク達の後を追った。


「そういえばルークさん達は、よくあの爆発で無事でしたね!」


「まぁな、旦那のおかげだよ」


 走りながらワンドが応える。


「ルークさんが?」


「まぁ、その話は後だ!ミナト、鍵をかせ!」


 潜入時に受け取った鍵をワンドに渡すと、先行しているトゥナに向かって投げた。


 走りながら鍵をキャッチしたトゥナが、素早く解錠する。


 出入口に辿り着くと揺れはますます大きくなり、辺りには天井や通路から剥がれ落ちた壁の破片が散乱していた。時間の経過とともに、瓦礫がれきの量は増えていく。

 

 これはまずいぞ!瓦礫と砂ぼこりで周囲が見えなくなってきた!


「ミナト、早く登ってきて!」


 一足先に縄ばしごを登ったトゥナに声をかけられる。


「そ、それが左手が痺れてうまく縄ばしごを掴めなくて……」


「左手が?グリムにやられたのか?」


 ルークが怪訝そうな表情で聞いてくる。


「はい、奴はしびれ薬って言ってました。少しかすっただけなんですけど……」


「まずいな。治療薬はあるが即効性はない。効いてくる前にここが崩れるかもしれん」


 両手が使えないと縄ばしごをうまく登れない。まさかこんな事態になるとは!


「大丈夫!登れるよ!リンに任せて!」


 リンが同調を発動させると、俺の身体は縄ばしごを掴む。うまく握れない左手の代わりに、リンが縄ばしごを掴み、俺の身体はするすると登り地上に脱出できた。


「なんだ、やればできるじゃない。さすがテイマー。いいチームワークね」


「いや~、ははは」


 トゥナの言葉にあいまいに笑ったが、チームワークじゃなくて、全部リンが操ってるおかげなんだよなぁ。と思う。


 俺の後に続き、ワンドとルークも登ってくる。全員が脱出した後、ワンドが出入口の蓋を閉め封鎖した。上を見上げると空が白み始めており、朝が来るまでもう間もなく、という時刻だ。


「周りに人が集まり出してる。ここにも、もうじき誰かが来るかも。隠密を使って」


 様子をうかがっていたトゥナが指示をだす。出入口がある廃屋の隙間からは衛兵の姿が見え、時折、怒鳴り声が聞こえる。爆発音は当然ながら地上にも届いており、その出所を探っているようだ。地下水路が崩れた揺れがまだ続いていて、逃げ惑う人の姿も見える。


「早くここを離れた方がいいな。ミナト、リン。ギルドへ向かうぞ。」


「分かりました」


 ルークの指示に従い、俺達は廃屋を離れ、何事かと集まる人々の目に触れないように、注意しながらギルドを目指した。


 ……今回、ルークに依頼された任務は、ひとまず成功という形で幕を下ろした。


 グリムと一人で相対しなければならないというアクシデントはあったが、何とか勝つことができた。


 ただその勝利も、グリムがハンドガンを魔具だと勘違いしたという隙をついたもの。まともに当たっていたら勝てたかは非常にあやしかった。何よりリンがいない事の不安感が半端なかったし。


 やっぱり、リンが居てこそだよなぁ。


 改めてリンの存在の大きさを実感した戦いだった。









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