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『俺』とゴブ『リン』~俺のスキルは逆テイム?二人三脚、人助け冒険譚~   作者: 新谷望
2章 ノースマハの街編

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27話 地下水路



「ははは、よくここまでたどり着けたな」


「本当ですよ。あの地図、この周辺の大まかな区画と店名は書かれていましたが、肝心の店に看板が出てないんですもん、焦りました」


  薄暗い店内。設置された丸テーブルに腰かけたルークが、豪快に笑った。ルークの両隣の椅子には、それぞれ防具を身につけ、剣と弓を携えた男女が座っている。彼らが今回のミッションのメンバーだろうか。


 ここは貧民街の一角に隠れるようにたたずむ酒場。看板も出しておらず、一見すると単なる民家のようにも見える。いわゆる隠れ家的な店なんだろう。


 ルークから渡された紙には、集合場所の地図が書かれていた。が、大雑把な区画と店の名前しか記載されてなかった。まぁ、紙を受け取った時点で、きちんと確認しなかった俺にも、落ち度はあるんだけどさ……。


「あの地図でよくこの店が分かったな。時間ピッタリじゃないか。場所を知っていたのか?」


「リンのおかげです。気配探知でルークさんの気配を探りだしてくれたんですよ」


「俺の気配を手繰たぐってきたか。うむ、合格だ」


 そう言って満足そうに頷くルーク。


「気配を勘づかれた、だって?事務仕事のやりすぎで腕が鈍ったんじゃないすか、旦那?」


 ルークのとなりに座る、軽鎧を身につけたやせ形の男が、エールの入ったジョッキを傾けながら悪態をつく。


「それだけリンの気配探知が優れていると言うことだ。有効範囲で言えばお前のそれより広いぞ、ワンド」


「マジかよ。だってゴブリンだろ?」


 男が驚きの表情で、俺の膝の上に座っているリンを見る。テーブルに置かれた空のジョッキをみると、すでに相当飲んでいるらしい。


 その対面には革鎧を装備した女が座っていた。長髪の整った顔立ちで、その表情からはどこか冷たい印象を受ける。


「ミナト、紹介しておこう。今回のミッションのメンバー、ワンドとトゥナだ」


「ワンドだ。よろしくな、新人ルーキー!」


「……トゥナだ」


「ミナトです。よろしくお願いします」


 ……この二人、かなり飲んではいるが、空気に凄みを感じる気がする……!でも、飲んでる……けど、(これから臨むミッション的に)いいのだろうか……?


「では、メンバーの紹介も終わったところで……」


新人ルーキーの歓迎会だー!」


「……て、ええっ!?ミッションの説明は……?」


 新人の歓迎会!?黒蛇のアジトはどうなったの!?


「そんなのはどうだっていいんだよ!まずは腹を作らないとな!マスター!こっちに旨い料理を山ほど持ってきて~!」


「俺にはジョッキでエールをな」


「ワイン。ラ・クイーンの15年物」


 え?え?何なの?これからご飯食べるの?アジトは?ボスは?


「ほれ、新人ルーキー。お前は何にする?エールか?ビールか?ウイスキーなんてのもあるぜ?」


「ええ……じ、じゃあ、アップルジュースで……」


「かぁ~!お子ちゃまだな、おい!成人だろうが!エールくらい、く~っ!といっとけ!」


「いや、そう言われても……てかワンドさん、もう出来上がってるんじゃ……」


「俺は酔ってねぇ!」


 いやいや、酔っぱらいの「俺、酔ってません」ほど信用できないものはないじゃん!


 ワンドに絡まれている間にも料理が次々と運ばれ、テーブルが賑やかになっていく


「ミナト、ここの料理は旨いぞ。ここのマスターは食堂で働いていた事もあってな。酒場だが食事にきてもいいくらいだ」


「ちょ、ちょっとルークさん。俺は食事をしに来たんじゃなくて……」


「いいから、飲め飲め!今日はお前の歓迎会なんだからよ!」


「若いんだから、たくさん食べなさい」


「これ、いったい、なんの集まりなんですか~!?」


 突如始まった新歓コンパ。俺は訳も分からずメンバーからのパワハラ(?)じみた勧めで、出された料理を無理矢理食べさせられたのだった。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




「ちょっと、ワンドさん。ちゃんと歩いて下さいよ」


「はっはっは、大丈夫だって!にしてもお前のゴブリンは、いい食いっぷりをしてるな。気に入ったぜ!」


 歓迎会を終え酒場を出た俺達は、貧民街の通りを歩いている。時刻は深夜をかなり回っていた。


 歓迎という名の食事ハラスメントを受けたが、リンが俺の皿からひょいひょいとつまんで、健啖ぷりを発揮してくれたお陰で、お腹がいっぱい程度で済んだ。リンの小さい体に、良くこれだけ食べ物が入るなぁ、といつも感心してしまう。


 俺は今、ちっとも大丈夫に見えないワンドに肩を貸している。飲み過ぎたのか、足元が覚束ない彼を介助するのは、中々に骨が折れる。


「こいつは酒は好きだが、弱いのが欠点でな」


「酒だけじゃないわ。女にも弱い。欠点だらけよ」


 トゥナもなかなかに辛辣だ。彼女もかなり飲んでいたが、こちらは表情に変化は見られない。それはルークも同様だ。


 確かに自分にとって適正な酒量を守るのは大事だ。前世でも飲み会の度に、服を脱いだり、キス魔になったり、吐くまで飲んで周りに迷惑をかける同僚がいたなぁ……酔っぱらいは、時代とか異世界とか関係ないのかもしれない。


「着いたぞ」


 突然ルークが人通りのなくなった道で立ち止まる。そこにはもうずっと人が住んでいないと思われる廃屋が何軒かあるのみだ。


「え、着いたって……ここ?」


 ここはただの民家じゃ……言いかけた俺を制し、トゥナが「静かに」の仕草をとる。


 ルークがリンに目線を移し。


「リン、この中に探知できるターゲットは何人いる?」


 と、問いかける。ようやく聞き取れるような声量だ。見ると先程までとは明らかに表情が違っていた。


「中に2人、こっちには気付いてないよ。1人は眠ってるみたい」


「上出来だ。さて、ミナト、ここが今回のアジトの「入り口」だ。まずは見張りを排除する。……よし、ミッション開始の時間だ。トゥナ」


 ルークが顎をしゃくると、トゥナが音も無く廃屋の中に侵入していく。


 どうやら作戦開始はもう少し早かったようだが、酒場に黒蛇に近いと疑われる人物が客に紛れていたようで急遽、歓迎会を装って宴会を始めたらしい。


 敵にバレない為とはいえ、これから地下組織と戦おうってのに宴会とかいい度胸してるよ。確かにこれだけベロンベロンなら周りからも、ただの酔っぱらいのパーティに見えるだろうから、警戒心は薄くなるだろうけどさ。でもこれじゃ敵と戦うなんてとてもとても……。


 と思った時だった。


「もういいぞ、ワンド」


 するとぐで~と座りこんでいたワンドが突然、カッと目を見開き立ち上がる。その動きはつい今まで泥酔していたとはとても見えなかった。


「目は覚めたか」


「やだなぁ、旦那。もともと目は覚めてますって」


「え、ワンドさん。酔ってたんじゃ……」


「あの程度で酔えるか。旦那にさんざん鍛えられたからな。あれくらい楽勝よ!」


 そう言ってニカッと笑う。


「まじですか……じゃあ、あれは演技?」


「まあな。まぁ、おかげで体はだいぶ温まったぜ?」


 あれだけ飲んでたのに……何なの?バッカスかなにかの生まれ変わり?


「あれくらいで潰れたら俺の酒の相手は務まらんからな。だが念の為、この酔い覚ましを飲んでおけ」


 ルークが液体の入った小瓶を投げた。


「これ、苦手なんすよね。……うえ~、にが~」


 顔をしかめながら受け取った薬を飲むワンド。どうやら相当、苦いらしい。


「よし、トゥナの合図だ。行くぞ。ミナト達も音を立てるな。隠密を使えよ」


「分かりました」


 俺達は頷き合うと、廃屋に潜入した。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




 かつてはリビングとして使われていたであろう空間で、俺達はトゥナと合流した。目の前には黒蛇の構成員とおぼしき亡骸が二体倒れている。もちろん彼女の働きによるものだ。


 この時間を狙ったのは、深夜で周囲に気付かれにくいこと。そして見張りの交代直後の為、しばらくは交代が来ないことを考慮したかららしい「予定していた決行時間にはできなかったが、現場での変更はいつもの事だ。事に臨んでは、臨機応変に動けるよう想定しておくことが大切だ」とルークが言った。


「さて、それでは手短に今回のミッションの概要を説明する。敵はこの街の下、地下遺跡にアジトを作っている。今夜、そこを急襲しボスを捕らえるのが目標だ」


「地下遺跡?ノースマハの街にそんなものがあるんですか?」


「街の住人にはあまり知られていないが、この街の地下には過去に作られた遺跡がある。遺跡と言っているが正確には地下水路跡だな。過去に水を通すために運用されていたと推察されているが、いつからあるのかは分からん。すでに大半は崩壊してしまっているが、残った空間をアジトとして活用しているらしい」


「それがここなんですか?ここには何も無いですけど」


ここは廃屋しかない。地下への入口などそれらしいものは何もないけど……。


「そう思うだろう?そこがつけ目だ」


 ワンドが崩れた暖炉の床を探り、取っ手のような物を掴み持ち上げると、そこに地下へと通じる空間と縄ばしごが姿をみせた。


「いや~、ここを見つけるのにどんだけ苦労したか。尾行したターゲットを消すのは簡単だけど、ストーキングは手間も時間もかかって好きじゃない。せめてむさい男じゃなくて、きれーな姉ちゃんならやる気も違ったんだがなぁ」


 本気なのか冗談なのか、ワンドの言い草が怖い。


「降りた先は通路が二手に別れていてな。地下通路は区画の造りが四角になっていてその四角の外周に沿って道があるイメージだ。どちらの道を行っても一周すればここに戻れるのさ」


 ワンドが自慢気に得た情報を披露する。


「降りた場所は四角のその一辺の真ん中辺りに位置する。敵のアジトはそのちょうど反対側。つまり同じ速度で歩けば同じ時間にアジトにたどり着く構造になってる。ここが現役の頃は他に通じる水路があったようだが、今はそのほとんどが崩れて使える通路はこれくらいだ。アジトは昔は水を制御するためにつかわれた部屋らしいぜ」


 彼の説明からすると、かなり詳細な所まで調査していたようだ。やはり何だかんだ言っても、有能な冒険者である事には違いがない。


「よし。これからはメンバーを分け、行動する。まずリーダーである俺とリン。そしてワンドとトゥナだ。それぞれ二手に分かれアジト前で合流する。万が一道中でグリムを発見したらその場で戦ってもいい。雑魚であれば排除しろ。アジト前に着いたら合流するまで待て」


「「了解」」


 二人が頷く。


 え?リンと別々?てか俺は?


「ミナト、お前は後方支援を任せる。入り口付近で待機してくれ」


「え?後方支援?あの、何でリンとバラバラなんですか?」


「リンの索敵能力は、ワンドに引けを取らない非常に優秀な物だ。俺は残念ながらそこまでの範囲が出せない。リンには俺のサポートをしてもらう。加えて俺達は、暗闇でも視界が見える暗視スキルがある。闇に紛れて一気に制圧するつもりだ。お前はスキルを持ってないだろう?」


「確かに持ってませんが……」


 同調でリンにあやつってもらえれば暗闇で見えなくても関係ない。しかし、それを話すと俺の同調が普通のそれとは違うと知られてしまう。


「お前はヒールが使える。そして魔法もな。俺かワンドかどちらのグループが危機に陥った時の支援役だ。ただ待つだけじゃない。戦況を見極め状況によってどう動くか自分で考える必要がある。非常に難しい役だ。普段はゲッコウがその任務についているが、俺はお前にも出来ると思っている」


「でも、俺はリンと一緒でないと……」


「ミナト、俺はメンバーを厳選したと言った。今日のメンバーは「5人」だ。俺はお前とリンはワンセットとは考えていない。リンも正式なメンバーなんだ」


「リンも正式な、メンバー……」


「リンにはリンの、お前にはお前の役割がある。それが成されなければ成功は覚束おぼつかない。自信を持て、俺はお前ができると思うから任せたんだ」


「……分かりました。やってみます!」


「ああ、頼む。お前のこのミッションはお前の働きにかかっているからな」


 ま、またそんな大層な事を言われても……。


「あ、でもリンは大丈夫なんですか?リンは足が悪いから、歩く事はできても離脱が難しいんですよ?」


「リンは索敵がメインだ。戦闘に積極的に参加させるつもりはない。大丈夫だ。お前の相棒は俺が命にかえても守る」


 ルークが笑みを浮かべ言う。


「ミナト、リンは大丈夫だよ!強くなったもん!これが黒蛇討伐の作戦なんでしょ?リン、頑張るから!」


「リン……分かった。俺も頑張る!」


 そう言うとリンは、俺にニコっと笑いかける。それを見届けたルークが満足そうに頷く。そして俺達は松明に火を点け地下へと降りた。


 


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 地下水路。その昔は地下に坑道が掘られ、地下水路として水を流す機能を有していた。しかし、いつしかそれは機能を停止し、時間と共に忘れ去られた。そして時の流れによる風化により、あちこちで崩壊し遺跡となった構造物が現存するのは、僅かしかない。


 その地下水路に降り立つと、思ったよりずっと広い水路跡が姿を表す。ひんやりとした空気が辺りを覆い、どこかからすきま風でも吹いているのか、水分の混じった風が頬をなでる。


「ミナトにこれを渡しておこう」


 ルークから受け取ったのは、何かの鍵らしき物。


「これは?」


「この出入口の鍵だ。内側から鍵をかけておいた。やつらが逃げ出すのを防ぐためだ。今回、グリム以外はせん滅させるつもりだからな」


 恐ろしい事をさらっと言ってのけるルーク。やはり彼クラスになると、命のやり取りなんて日常茶飯事なんだろう。


「それでもし敵が逃げてきた時、俺はどうすれば……」


「任せる」


「ま、任せるて……」


 いきなり丸投げ!?


「倒してもいいし隠れてもいい。逃げてきたという事は、既に勝ち目がないという判断からだ。そうであれば俺達もすぐに駆けつけるだろうからな。その状況で判断しろ」


「はぁ、分かりました」


「では、そろそろ行くか。ワンド」


「了解。新人ルーキー、旦那はずいぶんお前に期待しているようだ。頑張れよ」


「はい」


「まぁ、期待が重すぎてヤバイ事もあるけどね……」


「え?何ですか?」


 トゥナが何かボソッと呟いた気がする。


「何でもない。じゃあ。頑張って」


「あ、はい。トゥナさんもワンドさんもご無事で」


 二人は手を挙げると、音もなく通路を歩いていった。


「それでは我々も行こう。ミナト、後方は任せたぞ」


「はい。リン、気をつけるんだよ?」


「うん、ミナトもね!」


 そう言って手を振ると、リン達は隠密を発動させ、暗闇の中に消えていった。










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