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『俺』とゴブ『リン』~俺のスキルは逆テイム?二人三脚、人助け冒険譚~   作者: 新谷望
2章 ノースマハの街編

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20話 ライとラナ


 何かを引きずるような音は、リビングの方から聞こえてくる。俺達は音をたてずに、そっとドアを開け廊下に出た。


 見ると隣の部屋、ライとラナの部屋のドアが空いている。


 ひょっとしたら誰かが家に侵入したのか?まさか、黒蛇の奴等が……。


 ミサーク村で山賊に家を襲撃された事があった。その時、奴等は深夜を狙って襲ってきた。今回もそうかもしれない。だが、今回はエリスがいない。俺とリンで何とかできるだろうか……?


『ミナト、部屋に誰もいないね……?あ、入り口の方に気配がある。隠密使うよ』


 リンが念話と同時に隠密スキルを発動させる。


 俺達が行動を開始して間もなく、玄関付近で物音の元凶を発見した。


 発見したが……。


「……動かない……ライ、後ろから押して」


「ダメだよ、ラナ。こんな事しちゃ!ミナト様に怒られちゃうよ!」


 ……いったい何をやってるんだ?


 玄関の戸が開いており、そこにはまるでサンタの持つプレゼント袋のような巨大な袋が置かれている。よくよく見るとその袋は取り外されたカーテンで、中には角張った物が入っているらしく玄関で引っ掛かってしまっていた。


「……重い……ライ、押して」


「だからミナト様は今までの人族とは違うんだってば!それにここから逃げてどうやって生きていくつもりなんだよ!」


「……これを持っていって売る。……人族は信用できない」


「そんな事ないよ、ミナト様は……!」


「これ」ってこの荷物の事か?見た感じ、マジックバッグがないと運ぶのにも難儀しそうだけど……。


「えっと、二人とも何やってるの?」


 袋越しに外の二人に声をかける。あ、これ中身はタンスじゃないか。こんなのよく持っていこうと思ったな。


「……ミ、ミナト様!?」


「……あ……しまった」


 俺を見た二人は、固まってしまう。


「あ……あ……ミナト様、こ、これは……」


 ライの表情は青ざめ、まるで悪事がばれた犯人のようにガクガクと震え出した。


「……大丈夫、ライ……守る」


 ラナがライを庇うように俺達の方に進み出た。眠そうなのか、ぼーっとしているのか、なんとも読みにくい表情をしている。それにしても、ラナはタンスを運べるくらい元気になったんだ……!良かったなぁ……!


 そんな俺の思いとは裏腹に、俺達に見つかったと思ったラナは、おもむろにタオルを取り出す。そして頬かむりに身につける。その姿はまるで時代劇に出てくる盗っ人だ。そして何やらぶつぶつと呟き始めると……


「……おんみつ、はつどう」


「……おんみつ?」


「……さ、これで見えない……逃げるよ」


 ラナはライの手を引き、走ろうとしている。


 おんみつってひょっとしたら隠密スキルの事か?……ちょっ……えぇ……(困惑)。


「……あのさ、隠密スキルは見つかった後に発動しても意味がないよ。それに頬かむりしても隠密の効果はないからね」


 リンも隠密が使えるが、リンの着ている黒Tシャツが着用者に隠密スキルを付与してくれているのだ。ただそれは日本からの持ち込み品という特殊な例外で、普通のタオルにそんな効果はもちろんない。ない、よな……?


「……何?……おんみつが効かない……だと?……完璧なシーフスタイルを見破るとは……」


 いやいや、確かに見た目は泥棒っぽくて隠密を使いそうだけども!その発想は面白いけれども!雰囲気だけでスキルは発動できませんて!ていうかその盗っ人スタイルは、この世界でも市民権を得てるの!?


「申し訳ありません、ミナト様!どうかお許し下さい!」


 突然、ラナの手を振りほどき、その場に這いつくばるように土下座するライ。


 とんでもないことをしでかしてしまった、と言うかのように何度も額を地面にぶつけるように頭を下げ続ける。


「いや、ライ、ちょっと落ち着いて……」


「申し訳ありません!申し訳ありません!」


「だから、頭を地面にゴンゴンやるのはやめなって!」


「申し訳ありません!申し訳ありません!」


「だから落ち着いてってば!ああ、もう!そんなにしたら怪我するよ、頼むからやめてくれ!」


 何度言い聞かせても謝罪を止めないライ。慌てて袋をどかし外にでる。泣きながら謝罪を繰り返すライを立ち上がらせ、何とかなだめて落ち着かせた。


「俺は二人を責める気はないよ。だから安心して。大丈夫だから」


「……おんみつが効かんとは……人族の癖に……」


 ラナは何かぶつぶつ言っている。


「だからそれは隠密じゃないんだよ。そもそも隠密っていうのは……」


 俺がラナに説明しようとした時だった


「相手に気づかれず、ゆっくりと近づくスキルじゃよ。……このようにな~」


「……え?」


 どこからか声が聞こえ、俺の肩に何かがポンと触れた。思わずそちらを振り返る。


 そこには今まで存在していなかった白い顔が!


「ばぁ~!」


「ぎゃ~~!!」


 真夜中の双子山に俺の叫び声が響き渡った。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




「ヌシ様!もう、いい加減にしてくださいよ!」


「ほっほっほ、何やらお主ら以外の気配がしたから気になってな。最近はこの辺りも物騒じゃからのぅ」


「夜中にいきなりあんな事されたら誰でもビビりますって!」


「ミナトは本気で驚いてくれて面白いのう。良いかな?これが隠密スキルじゃ。上手く使えば目の前に来るまで、相手に全く気づかれん。不意をつくにはこれ以上ないスキルじゃよ。ただ、向こうが上手ならこうはいかんがの」


「だからって俺で実演しないで下さいよ!」


 ヌシ様はどうも俺を脅かして遊ぶところがある。勘弁して欲しいけど、好意的にみれば精神を鍛えてくれてるのかも知れない。ただ毎回毎回、きれいに引っかかるんだよなぁ。


「まぁ、細かい事は気にするでないぞ。して、この子供達は?見たところ狸人族のようじゃが」


「ああ。ライとラナですか?実はですね……」


 ヌシ様に昼間あった事を話し、二人を引き取ったと説明した。


「なるほどのぉ、それでここから逃げ出そうとしたということは、ミナトはよほど酷いことをしたのかな?」


 ヌシ様がライ達に尋ねる。


「ち、違います!ミナト様は酷いことなんてしてません!ただラナは昼間の事を知らなくて……だからそれで逃げようと……」


「……人族、信用できない。……私達、人じゃないって……」


「そうか、ずいぶんと大変な目にあってきたんじゃな。それならミナトが本当に信用できない人間か確かめてみれば良いではないか?」


「……どうやって?」


「ふむ。ミナト、契約書を見せてみよ」


「契約書?ていうと奴隷商館で書いたやつですか」


「うむ。契約書には制約が書かれておる。それを見ればミナトがお主らをどう扱おうとしているか分かる。設定した制約で主人の人となりがわかるんじゃ」


 そう言われてヌシ様に契約書を手渡す。ヌシ様は双子山の支配者とはいえ一応、魔物のはずだ。それなのに人間の文化にやけに詳しい。いったいどれだけ知識豊富なんだよ。


 ヌシ様が契約書に目を通す。そして。


「……ふふ、二人とも、どうやらこのミナトはお前達を奴隷として扱う気はないようじゃ。安心してよいぞ」


「……どういう事?」


「ふむ、それは書かれている制約が、お前達を縛るものではないからじゃ」


 そう言ってヌシ様は俺に変わって、二人に俺が課した制約の説明をしてくれた。


 制約を箇条書きにすると


1、雇用主は労働に応じて適切な賃金を支払う事

2、雇用主は雇用者に適切な休息をとらせる事。また、病気等にかかった場合は速やかに休ませる事

3、雇用主は雇用者に暴力をふるわない事

4、雇用主は雇用者からの訴えがあればそのつど改善していく事

5、雇用者から契約解除の申し出があればそれを拒否してはならない。等だ。


「それにしても、何とも変わった制約じゃのうミナト」


「一応「雇用契約」ですからね」


「雇用契約?」


「えぇ。奴隷じゃなくて従業員……というか。もちろん働いた分の賃金を払うつもりですが、奴隷のように働かせようとは思っていません。家のお手伝いをしてもらったりとかですかね?少なくとも二人が成人するまではしっかり面倒をみようと思っているので」


 俺が書いたのは制約というより俺の約束事だ。相手の行動を制限させるものではないから、制約に料金が発生しないのは当然だった。


 どうしてこんな契約にしたのかといえば、そもそも俺が二人を奴隷として扱うのが嫌だからだ。前世でも奴隷なんて見た事ないし、ましてや奴隷の主人として振る舞うなんて、慣れないし慣れたくもない。


「それから、俺の呼び名だけど、ミナト様……はやめてほしいんだ。リンも俺の事ミナトって呼ぶし、ライとラナも俺の事、ミナトって呼んでくれないかな?」


「ほっほっほ。聞いたか?二人とも。ミナトはこういう男じゃ。他の人間とは違う。だから安心するが良いぞ」


「み、ミナト様を呼び捨て……ですか!?無理です!無理です!」


 そんなことはとてもできない、と拒否するライ。しかし、俺としても、様付けで呼ばれるのは結構、居心地が悪い。説得の結果……。

 

「……分かりました。でもせめて、ミナトさん……と呼ばせて頂けないでしょうか?」


「うん、それでもいいよ。徐々に慣れてくれればいいから」


「あ、ありがとうございます!」


 ライはそう言って頭を下げたが、ラナは何も言わずふいっと横を向いたままだ。


「しかし、ミナト、お主は実に変わっておるのう、従魔にも、獣人にも、そしてゲッコウや人間からは魔物と呼ばれるワシにも偏見を持たずに接する。お主のような者はそうはいないぞ」


「そうですか?あんまり考えた事なかったけど……。でも、例えばゲッコウさんなんて、凄く強くてイケてるし、戦う姿が超絶格好いいんですよ!ヌシ様見た事ありますか?姿は人族とは違っても……いや、違うからこそ格好いいんですよ!」


「そうかそうか。お主ならば大丈夫そうじゃな。この二人をしっかりみてやるんじゃよ?ではワシは戻るとしようかの」


「え、もう帰るんですか?」


「うむ、お主がその二人をどう育てるか、楽しみじゃ。ほっほっほ」


 そう言ってヌシ様は山へ帰って行った。

 

 そして次の日の朝……。


 昨日の事はあったが、やはりすぐにはラナの心を開かせる事はできなかった。人に苦しめられた今までの経緯もあるし、いくら契約書を示しても、すぐに信用できないのも仕方がないだろう。


「人族の世話にはならない」


 そう言ってラナは一人、双子山に入って行った。ここから逃げるのはやめにしたようだったが、俺と一緒に生活するのは嫌なようで、一人で山にこもって暮らすつもりらしい。


「今日のご飯は魚のムニエルと、ポテトサラダ、茸のスープ、デザートは木苺のパイだよ~!ラナの分もあるから気が向いたら食べにおいで~!」


 俺の言葉なんて全く聞いていないように、意気揚々と出かけていったラナ。


 ―だがその日の夕方、ラナはトボトボと帰って来た。お腹がグーグー鳴っている。どうやら俺の時のような幻は見なかったようだが、山では食料を確保できなかったらしい。


 この日から食事時間には帰ってくるようになった。


 その次の日、今度は「ハンモックをくれ、外で寝る」と言うので買い与えた。双子山にある木にくくりつけ夜はそこで寝るつもりらしい。


 ―そしてその次の日の朝、体中、アザだらけのラナが帰ってきた


 どうやら寝ている時に何度もハンモックから落ちたらしい。「……ハンモック、嫌だ」そう言って、それ以来、ライと一緒に部屋のベッドで寝るようになった


 また次の日、双子山に入ったラナがどこからか狼のような魔物を引き連れ戻ってきた。よく見るとドッグウルフという名前の魔物で、どうやったかは分からないがラナは上手く手懐け、俺達を襲わせようと考えたらしい。


「ふっふっふ……人族め……積年の恨み……今こそ晴らしてやる……行け、ドッグウルフ!」


 ドッグウルフが飛びかかる前に、マジックバッグからレッドボアの生肉を取り出す。……ドッグウルフは肉につられ、あっさりと寝返った。


「ひきょ~もの~!」


 ドッグウルフに吠えたてられ、逃げ惑うラナの叫び声が双子山にこだました。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




「なぁ、ラナ?君が人族が嫌いなのはわかった。それを咎めようとは思わないし、何かしようとも思わない。でも、あまり危険な事はしないでほしいんだ。それにライが君の事で、どれだけ俺に謝ってきたか……」


 ドッグウルフに追いかけ回され、疲れはてて地面に突っ伏しているラナに声をかける。


「……人族は奪ってばかり……だから嫌い……」


「え?」


「……人族は……私達から何もかも奪う……金も力も……イヤだ、と言う言葉さえも……」


 ラナが呟くように言った。


「……仕事が出来ないと殴られる……何もしなくても殴られる……生きる事さえ奪われた奴もいる……ライだってそう。一番許せないのは……人族がライの目を奪った事。……そのせいでライがどれだけ辛い目にあって生きてきたか……だから人族は許せない……」


「ラナ、僕の事はもういいんだ。それに今はもうミナトさんが……」


「……そいつだって、いつ裏切るか分からない。……人族は信用できない」


「じゃあ、ラナはどうしたら信用してくれる?」


 そう言うとラナは、顔を上げキッと睨み付けた。


「……ライの目を見えるようにしろ。そうしたら信用してやる」


「ライの目が見えるように……?」


 ライの目はキュアポーションでも治せない。俺に医療の心得なんてあるはずもない、目が見えるように何てどうしたらよいのだろう……。


「大丈夫、できるよ!」


 俺の頭上で声がした。


「できるって?本当かい、リン」


「うん!やり方を教えるね」


 そう言ってリンは俺の肩を降りた。


 


 

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




「ミナト、ライに「同調」を使って。ライは同調が来たら「うん」ってするの。ミナトもライも分かった?」


「は、はい!」


「分かった」


 リンに言われた通り隣にいるライに向けて「同調」を使う。これでライの元には「ミナトを操りますか?」の問いが飛ぶはずだ。


「あ、来ました!「はい」……使いました!」


「これでライはミナトを操れる。ライ、「ミナト、ラナの方に向いて~」って念じるの」


「はい!」


 その声と共に俺はライに操られ自分の意思とは関係なく横を向く、ラナが視界に入った。


「うん。じゃあ、ここからが大事だよ!この状態で「ミナトの目に切り替え!」って念じて!」


「はい!」


 ライがそう言った時だった。


「ラナ……」


「……何?」


 それきりライは声を発しようとしない。


「……ライ、何?どうしたの?……やっぱりこいつらに何かされた……!?」


「……違う、……違うん……だよ。見えるんだ」


「……見えた?まさか!?私が見えるの!?」


「……うん。……言われた通り、やったら急に目が……見えるようになって……ラナ、こんなに大きくなったんだ……ははは……こんなに近くに居たのに……全然……気づかな……かったよ」


 涙声のライ。


「……ライ………ライ!……うああぁぁ!」


 ライに駆け寄ったラナは、大粒の涙を流し大声で泣いた。そんなラナをライがしっかりと抱き寄せる。


「……リン。これって同調の効果?」


「うん!敵と戦う時にリンから見た時と、ミナトから見た時の切り替えができるんだよ。ミナトから見た時の方が戦いやすい時もあるし。だからライはミナトと同じ景色が見えてるの!ライの視点とはちょっと違うけど……」


 そんな共有機能があるのか。まるでゲームの視点切り替えみたいだな。ていうかその機能、俺は全然知らなかったんだけど。


「ミナトのスキルはすごいんだよ!リンもいっぱい助けてもらったもん」


 二人を見てリンが笑顔で俺を見上げる。


「いや、助けてもらってるのは俺の方だよ。俺は操られているだけだしさ。リンほど頼りになる相棒はいないよ」


「えへへ~」


 リンが嬉しそうに足にギュッとしがみついてきた。


「……一応お礼は言っとく。……ありがと……でもまだあんたを完全に信用したわけじゃないから」


 このあと、ラナはそう言っていた。それからは少しだけ俺の言うことを聞いてくれるようになり、一人で暮らすとは言わなくなった。


 ラナが心を開いてくれるにはもう少し時間がかかりそうだ。……でもいいさ。


 まずは、「前よりはマシだ」と思ってもらえるように頑張ろう。うん。


 


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




 それから。


 ラナとライがやって来て二週間が経ち、俺達との生活にも馴染んできたある日の早朝……。


「ミナト!大変だ、起きてくれ!」


 慌てたゲッコウの声と、戸をドンドンと叩く音が玄関から聞こえてきた。


「何だろう?こんな朝っぱらから……」


 俺が起き出すとリンも目を覚ました。リンを抱きかかえ玄関に向かう。


 いったい何があったんだ?








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