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『俺』とゴブ『リン』~俺のスキルは逆テイム?二人三脚、人助け冒険譚~   作者: 新谷望
2章 ノースマハの街編

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10話 ゲッコウ



 俺達がつけられている?しかも相手に殺意まで混じってるだって!?


 リンは常にスキルで周りを警戒してくれている。その為、俺達に害意を向ける輩が入ればすぐに気づくことができるのだ。


『最初は2人で、今は4人。2人づつで固まって後をつけてくる。距離はだいたい50メートルくらい』


 突然の緊急事態に動揺する。心拍数がみるみるはね上がっていくのを感じる。


『ミナト、動揺すると向こうに分かっちゃうよ。落ち着いて。こんな時どうするかエリスに教わったでしょ?』


 リンの念話にハッとした。


 ……そうだ。こういう時、何をすればいいか、ちゃんとエリスに教わった。そのための想定訓練もさんざんやってきたじゃないか。


 そうだ。こんな時の為のあのしんどい訓練だった。


 そう思い当たると、気持ちがだんだん落ち着いてくる。何よりいけないのは動揺すること。今の俺がやらねばならないのは冷静に状況を見極める事だ。適切な対応をすれば今の俺達なら対処できる。


 平常心を取り戻した俺は、つとめて平静を装いながらゆっくり街中を歩いた。


「まずは情報を集めたい。その距離なら会話が聞かれることはないから、一度念話を切るよ。モードを切り替える」


 俺は念話スキルを「傍受ぼうじゅ」モードに切り替えた。このモードは周囲で念話を使っている人がいた場合、その念話を傍受できるという、念話から派生したスキルだ。この一年の間に使えるようになった。リンは使えないからどうやら俺固有の能力のようだけど。


『ターゲットは北に向かっている。宿屋に入らなかった』


『この方向なら冒険者ギルドに向かう可能性が高い。進路上と想定される建物の屋上に潜め。弓士を配置し通りかかったら頭上から射かけろ』


『了解』


 ……なるほど。ヤツら俺達が冒険者ギルドに向かうと踏んでいるな。


 予想通り、連中の中に念話を使えるヤツがいた。


「リン、敵は冒険者ギルドへ向かう道で待ち伏せしているみたいだ。だから冒険者ギルドに行くのは止めよう」


「え?」


「この街では、冒険者ギルド以外に安全だと言える場所が思い付かない。宿屋もリンと同じ部屋に泊まれないみたいだから危険だ。だから一度、街を出ようと思う。今の時間ならまだ門は開いてるからね」


「……じゃあ、あそこに行くの?」


「ああ、そうさ。ミサーク大森林に入る。夜営地の方が街より安全だし、ヤツらを撒くにしても罠を張るにしても動きやすい。森は俺達の庭だからね」


 リンもその提案に賛成だとばかりに、俺にⅤサインを見せる。


 俺達は今、ギルドからは南東の区画にいる。まずはギルドに向かうフリをする。そして北に歩き大通りにでた。


 このまま通りを西に行けば冒険者ギルドにつく。


 しかし、この道の先のどこかに襲撃者が潜んでいる。全体の人数が把握できない中に飛び込むのはさすがにやばい。


 俺達はこのまま大通りを渡り、北に向かって徐々に速度を上げながら歩く。


『まずい!ヤツら、ギルドには向かわない。そのまま北に行ったぞ!』


『感づかれたか!?見失うなよ!』


 傍受した念話から、慌てた声が聞こえる。連中からしても俺達の行動は想定外だったようだ。


 監視の目が途切れたところで、北門を目指し駆ける。


 幸いな事に到着した北門では、相変わらずやる気のなさそうな衛兵が身分証をチラ見しただけで、通してくれた。


 北門から大森林の南端まで家らしいものはほとんどない。街から大森林の間には双子山と呼ばれる連なった山を回りこむように東に進路を変え、川幅が広くなった竜神川を渡るための頑丈な長い橋がかけられている。この橋を渡れば大森林まで一直線だ。


 橋をわたり、半ばくらいまで来たときだった。


「待って!橋の向こうに誰かいる!」


 リンの指摘通り、橋を渡った先に二人の男が橋を塞ぐように立っていた。一人は剣をもう一人は杖を携えている。


 俺達が近づくと男が無言で剣を抜いた。


 くそっ、待ち伏せか!?コイツらも奴等の仲間かよ!こっちなら誰も居ないと思ったのに!


「ミナト、後ろからも来たよ!4人!剣が3人、弓が1人!」


 後ろからは街から出てきた奴等が追い付いてきた。冒険者風の格好をしているが、顔を判別出来ないように目出し帽のようなフードを被っている為、風貌は分からない。でも俺達を狙ってきた連中に間違いないだろう。


 ……まずいな。ここは橋の上、遮るものがない。しかも俺達にとっては挟撃きょうげきという形になってしまった。形勢は明らかに不利だ。


 追ってきた奴等が無言で剣を抜く。奴等はやる気だ。


 ……仕方がない。こうなったら前方の二人組を強行突破して、森に逃げ込む!


 リンにそう伝えようとした時だった。


「助けが必要か?少年」


 どこかから声がした。しかし、周囲を見回しても誰も居ない。


 と、突如、真下の川からザバアッという水音があがり、それと同じくして橋の欄干にガッと手がかかった。


 次の瞬間、軽やかな身のこなしで誰かが橋の上に登ってくる。4人の襲撃者の前に立ち塞がるように現れた人物は、大きな身の丈は2メートルは優にあり、そしてその姿は明らかに人族ではなかった。しかし、実際に見るのは初めてでも俺にはゲームで馴染みのある種族だった。


「リ……リザードマン?」


 俺達の目の前に現れたのは、トカゲのような風貌の二足歩行の種族、リザードマンだ。簡素な鉄の胸当てと長い尻尾、そして背には巨大な片刃の大剣を携えている。突然現れたリザードマンに襲撃者が身構えた。


「なんだ、貴様もコイツの仲間か?」


 追って来た襲撃者の一人が口を開く。


「いや、初めて会った」


 流暢な口調で話すリザードマン。


「なら貴様に用はない。さっさと消えろ」


「そう思ったのだが、たった2人に殺意を持った6人が襲うのは、さすがに尋常ではないと感じてな。それに……」


 ゆっくりと目線を俺達に移す。


「お前達を見ればどちらが悪事を働いているかは、確認せずとも分かるからな」


「……邪魔をする気なら貴様も道連れだ」


「やれるものならな」


 その答えに襲撃者達が構える。



挿絵(By みてみん)




「向こうの4人は引き受けよう。お前達は前の2人に当たれ」


「え……?」


「ゆくぞ!」


 そう言った次の瞬間、リザードマンが跳んだ。一気に4人との間合いを詰める。


 速い!体格にそぐわない素早さで間合いに飛び込んだリザードマンが、そのうちのひとりを殴り飛ばす。殴られた男は、某格闘ゲームのように吹っ飛ばされ動かなくなった。


「このトカゲ野郎!」


 抜剣した二人がリザードマンに襲いかかる。が、その剣先を大剣でゆうゆうと防ぐと、逆に力を込め一気に押し返す。その圧に押された剣士達はたまらず尻餅をついた。


 ……すげぇ!あの身のこなし、そして圧倒的なパワー、これがリザードマン!


「ミナト危ない!」


 リザードマンの戦いに気を取られていた隙に、剣士が迫っていた。


「死ね!」


 同調で咄嗟に動いた俺は、上段から振り抜いた剣を木刀で受け止める。ガキッ!という音が響き、襲撃者の剣が刃こぼれを起こす。


「何だと!?」


 予期せぬ事態に、剣士が驚きの声を上げた。


「悪いけど俺の木刀は特別製でね。そんじょそこらの剣には負けないのさ!」


 俺の木刀はいわゆる魔剣だ。俺が持つぶんには軽いが、他人が使うと非常に重くなるという特性を持つ。そして相手は、まるで岩を斬りつけているような重量感を感じるらしい。秘められている魔力ゆえか木刀でありながら剣に負けない硬度があり、どんなに打ち合っても手が痺れる事がない。今ではすっかり俺の愛刀になっている。これがあるおかげでシャサイとも渡り合えたのだ。


 木刀と剣。普通なら不利になるのは間違いなく俺だ。しかし、リンに操られた俺は打ち合う毎に相手を押していく。


「くっ!?」


 何度めか剣を交えた時、ガギッ!という音と共に相手の持つ剣が折れた。


「チッ!」


 剣士が折れた剣を投げ捨て、後ろに飛び退くと別の剣を抜く。


 俺達との距離が離れた事で、フレンドリーファイア(同士討ち)の恐れがなくなった術士が詠唱を始めた。


「ミナト!」


「分かってる!」


 俺は素早くホルスターに手をかけ、ハンドガンの引き金を引く。発砲音と共に放たれた水弾は、詠唱している術士のフードを貫き首元をかすめた。


「なっ!?」


 何が起きたのか分からないといった感じで、体を硬直させる術士。途中で詠唱を止めたため、集めた魔力が霧散する。


「次は当てる。黙ってろ」


 ハンドガンの銃口を向けたまま、低い声で告げる。


「ッ!?」


 初見であろうハンドガンでの攻撃は、術士にとってこれ以上ない威圧になるだろう。これで奴の動きは封じた。後は剣士だが……。


「それは魔具か?面白い武器だな」


 いつの間にかリザードマンが、俺の横に立っていた。


「奴等は?」


 目の前の敵から目を離さず聞く。


「片付いた。2人は逃げられたが」


 え、もう!?思わずバッと後ろを見ると、確かに倒れている襲撃者が見える。


 すげぇ、4人の武装した相手に魔法も使わず、こんな短時間で倒したのか。それでいて手傷を負った様子もない。この人マジで強い。


「残るはお前らだけだ。さて、どうする?」


 相対していた襲撃者に向き直る。


「……チッ!」


 敵わぬと見た襲撃者達は、踵を返し北に向かって逃亡していった。


「ふむ、終わったようだな。怪我はないか?少年」


 敵が居なくなった事を確認して、リザードマンが俺達に話しかけてきた。


「はい、大丈夫です。危ないところをありがとうございました!」


 武器を納め、助けてもらった礼をする。


「たまたま居合わせただけだ。気にするな」


「俺はミナトと言います。こっちは仲間の……」


「リンだよ~」


「ほう、人語が話せるのか」


「うん!エリスとミナトに教わったの!」


「そうか、私はゲッコウという」


「失礼ですがリザードマンですよね?」


「人族からはそう言われている」


 あらためてゲッコウと名乗ったリザードマンを見る。体型フォルムは人間と同じく二足歩行だが、見た目はトカゲに近い。太い脚に人間とは明らかに違う皮膚。俺のイメージしていたリザードマンそのものだった。……やっぱり本物はカッコいいな!


「ところでお前達はなぜ追われていたんだ?」


「それがよく分からないんですよね。あいつらが誰なのかも分からないし。心当たりはないんですけど……」


「なら確かめてみるか。あそこでのびている奴等を調べるぞ」


 ゲッコウが気絶している襲撃者の手足を拘束した上で、身に付けていたフードを剝ぎ取り身体を調べ始めた。


「どうやらノースマハを根城にする地下組織の組員のようだな。腕に蛇の刺青がある。確か『黒蛇』とかいったか。ミナト、こいつらと何か揉め事でも起こしたのか?」


「地下組織!?いや、そんなところとトラブルになった事なんてありませんよ!?」


「何もなければ狙われるはずはない。本当に心当たりはないか?」


 ゲッコウに念を押されるように聞かれ、もう一度よく思い出してみる。


 ……地下組織……黒蛇……組員……。記憶の糸を手繰っていく。……あれ?昔どこかで聞いたような……。


『俺は地下組織「黒蛇」のシャサイだ』


「あ!」


 思い出した!シャサイ!確かアイツが黒蛇とか言ってた!


「どうした?」


「え、あの……」


 シャサイと戦った時、奴は黒蛇というワードを出していた。


 奴の所属する地下組織は、ダニエルとも繋がりがある。そしてギルドの乱闘騒ぎで治癒院送りになった副ギルドマスターのヌレイは、領主から派遣されている。これらを考えると、ヌレイからダニエルに情報が渡った可能性が高い。だから街に来た俺達を狙ったんじゃないだろうか。


「何か思い当たることがあるのか?」


 ゲッコウが聞いてくる。しかし今、出会ったばかりのゲッコウに話してもいいのか?信用していいのか?少しの間迷ったが……。


「……以前、俺の居た村、ミサーク村を襲撃した奴がいたんです。運良く撃退できましたが、そいつが黒蛇のシャサイと名乗ってました」


「ほぅ、そんな事があったのか。ミサーク村というとここから北の村だな。お前はその村の者か」


「はい、でも俺は事情があって村から出てきたんです。実はこういう事があって……」


 逡巡した結果、俺はゲッコウに事情を話す事にした。俺達を助けてくれたし、地下組織やダニエルとは関わりはなさそうだし、それに俺の中で何か感じるものがあったからだ。……別に初めて見たリザードマンに感動したからとか、カッコいいと思ったからとかではない。うん、ない。


「……そうか、それにしてもダニエルを向こうに回しての戦いとは大変だったな。それで街の宿屋は危険だから大森林まで戻ってきた、と」


「そうなんですよ。これなら夜営地で寝た方がまだ安全かなって」


「それなら私の寝床へくるといい。ボロ家だが夜露くらいはしのげる」


 思わぬお招きにどうしようか迷ったが「行ってみようよ!」とのリンのひと声でそこに行ってみることに決めた。どうやらリンもゲッコウは信用しても良い、と思ったようだ。


 捕らえた襲撃者を北門の衛兵に引き渡したあと、俺達はゲッコウの寝床があるという橋と、大森林の間にある濃い霧のたちこめる山、通称「双子山」に向かったのだった









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