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『俺』とゴブ『リン』~俺のスキルは逆テイム?二人三脚、人助け冒険譚~   作者: 新谷望
2章 ノースマハの街編

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7話 ギルド狂想曲



 やってしまった……。


 俺は今、冒険者ギルドの三階にいる。ここは普通の冒険者なら立ち入らない場所だ。


 冒険者ギルド三階には会議室とギルドマスター、副ギルドマスターの部屋などが設置されている。そして俺はギルドマスターに呼ばれ、彼の部屋のソファに座っていた。リンも隣でちょこんと座っている。


 何故、呼び出されたのか?それは「ギルド内で乱闘騒ぎを起こし、副ギルドマスターを病院送りにしてしまった」からだ。


 いや、言い訳をさせてほしい。決して悪気があったわけじゃない。色々あったんだ……。



  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




 冒険者ギルドに戻って早々、俺は冒険者ギルドの入り口で血相を変えたアリアさんに、ギルドに引っ張り込まれた。


どうも俺が無謀な討伐依頼を引き受けて街を出たらしい、という噂が立っていたようだ。俺とガウラの話を通りすがりの冒険者が小耳にはさんだらしい。


 それを聞いて心配していたところ、早朝になって「指名依頼を引き受けてくれたミナトという冒険者が、レッドボアを討伐してくれた」とガウラの村の村人が感謝を伝えにやって来た、との事だった。どうやら俺達が歓待を受けている間に、村の人がギルドに報せを届けたようだ。


 ただそのおかげでギルドは混乱した。


「ミナトは昨日、冒険者登録を済ませたばかりのEランクだ。それがレッドボアの群れをたった一人で壊滅させたという。そんな事があり得るか?」と。


 そんな訳で俺は、事情聴取をうける破目になった。


 受付にやって来たのは冒険者ギルドの副ギルドマスター。名前はヌレイ。やせっぽちな体型で常にニヤニヤと嫌な笑い方をしている。部下なのかボディーガードなのか、ガラの悪い二人の男を従えていた。


 そして、こいつがとびきり嫌な奴だった。


 まず俺達が本当にレッドボアを討伐したのかを聞かれた。ヌレイは俺達が何か不正な手段でレッドボアを倒したと虚偽の報告していると決めつけていて、どんな手を使ったとしつこく問い詰めてきた。村人に金を握らせたんだろうとも言われた。


 俺が不正なんかしていない、村で聞いてくれれば分かると意見を曲げないでいると、今度は指名依頼を受けたくせに仲介料をギルドに納めていないのは、不正行為だと言い出した。


 確かに俺はギルドに仲介料なんて払っていない。しかし、ガウラとの契約は本人との直接交渉だったし、ギルドが仲介していないんだから当たり前だろう。そもそもギルドは依頼を断ったじゃないか。


 どうも「指名依頼」というワードを出した事でギルドの信用を利用したという理屈らしい。アホか。その信用とやらのおかげでEランクって言ったら誰も協力してくれなかったんだぜ?


「ミナト君はまだ冒険者になったばかりなので……」とアリアさんがとりなしてくれた。しかし、ヌレイは今度はアリアさんに「お前がきちんと教育しないから、こんな不正を働く新人が出てくるんだ!ペナルティを課すからな!」と怒鳴り散らす。話の流れからガウラを追い出したのがコイツだと分かり、ますます腹がたってきた。


 挙げ句に俺の依頼主がガウラだと分かると「ああ、あのみすぼらしい獣人か」と見下し、俺にはゴブリンしか連れていけない無能がレッドボアを倒せるわけがないと言い放ち、ついにはリンの事を魔物の中で一番のザコと言われたところで俺の我慢が限界を越える。


 俺の気持ちを察したのか、リンが念話で俺に言った。


『あのね、リンは大丈夫だから。こんな奴に怒っちゃ駄目だよ。それに、能ある鷹は爪を隠すってミナトが言ってたでしょ?』


 ……確かにな。それにリンは滅茶苦茶有能だ。だからこいつに馬鹿にされるようなことなんて、何一つない。反論してやりたいがリンに止められた。抑えろ、抑えろ……。俺は笑顔を張り付け、ヌレイに俺の気持ちを伝えた。


「俺は俺の信念でやっただけです。俺は無能で結構ですが、人を人とも思わず平気で罵倒するのは上に立つ者の行いではありません。仮にも副ギルドマスターだったら威厳ある言動をお願いします」


 思わぬ新人の物言いに、後ろの方で誰かがヒューと口笛を吹いた。


 ヌレイは青筋をピクピクさせて、鬼のような形相でこちらを睨んでいる……くそう、言いたい事の9割抑えてるんだぞ!こっちは。そんなに怒り狂わなくったっていいじゃないか!本当は〇×◇※……とか言いたい事は一杯あるんだぞ!


「き、貴様、私が誰だかわかっているのか!痴れ者めぇぇ!」


 とギルド中に響き渡る声で怒鳴りちらす。昨日登録したばかりの新人冒険者ごときに口答えされるだけでも、ヌレイには我慢ならない様だった。


 背後にいた二人の男が、いつでも俺を制圧できるよう、威圧するように俺達の前に進み出て睨み付ける。しかし、俺も引くわけにはいかないんだよ。


「あなたが誰か分かってるかですって?はぁ~、最初に副ギルドマスターだって自分で説明してたじゃないですか。自分の言動に自信がなくなったのなら進退をお考えになった方がよろしいのでは……?皆に迷惑をかける前に」


 おっと、つい余計な事を言ってしまった。だが、この一件を見守る外野の冒険者たちは、新人冒険者の放言に歓声を上げる。


「わはは!いいぞルーキー!よく言った!」


「もっと言ってやれ!」


「お前が副ギルドマスターなんて、誰も認めてねーぞ!」


 大笑いする人、手を叩く人、更に煽る人、ギルド内が一気に喧騒に包まれた。なんで、こんなに大騒ぎになるんだ?だが、ギルドの管理者であるヌレイがこんな状況を容認できる筈がない。


「このガキが!いい加減にしろ!」


 ヌレイのお付きの一人が叫び、掴みかかってきた。体が勝手に動き、男の腕を引くと背負い投げをかます。まるで警戒していなかったためか、男はいい音を立てて床に叩きつけられた。オー!という歓声と拍手がギルド内に巻き起こる。


『ミナト!ぼーっとしてちゃダメだよ!』


 リンの念話が聞こえた。同調で俺を操ったらしい。それを見た男達がいきり立つ。


「調子に乗るな!くそガキ!」


 もう一人の男が叫ぶと、近くのテーブルに座っていた7、8人ほどの冒険者らしき男達が席を立ち俺に迫る。


 てか何だよ、こいつらもヌレイの仲間か!?


 そう思ったと同時に「新人ルーキーを守れ!」という声と共に別のテーブルに座っていた冒険者達が立ち上がる。こちらもほぼ同人数だ。彼らが一斉にヌレイ派の冒険者の元に殺到する。


「調子にのってるのはお前らだろうが!ヌレイの腰巾着が!これでも食らえ!」


 そう怒鳴ると、ヌレイの取り巻きの冒険者に殴りかかった。受け付けから悲鳴があがる。


「やりやがったな!魔物討伐もろくにできない腰抜けが!」


「てめぇこそ冒険者のくせに、ヌレイに魂を売った裏切り者じゃねぇか!新人を脅していきがってんじゃねぇ!」


 突如、ギルドは冒険者達が殴り合う戦場になってしまった。これって俺の所為!?まさかこんな事になるなんて……。


 ギルド内が激しい怒号と喧騒と包まれる。酒瓶や椅子が飛び交い、ヌレイ派と非ヌレイ派の冒険者が入り乱れ、罵り合い、殴り合う。これじゃ誰が敵か味方か分からない!


 ふと見ると乱闘騒ぎの中、アリアさんがオロオロとしながら逃げ遅れているのが見えた。


「アリアさん、ここは危険です!俺達が守りますから避難しましょう!」


「え!?ミ、ミナト君!?」


「こっちです!」


 俺はとり残されていたアリアさんの手を引きギルドの出口を目指す。こんな中にいて怪我でもされたら大変だ。


 途中、殴りかかってきたヌレイ派と思われる冒険者を投げ飛ばしつつ、無事アリアさんを逃がす事ができた。その後、またヌレイの所に戻ろうと思ったが、今戻るのは危険だと引き止められた。


 男達がますますヒートアップし、ついに互いの武器に手をかけようとした時だった。


「止めんか!!」


 ギルドの入り口から周囲を硬直させるような凄まじい怒号が発せられ、喧騒がピタリと収まる。


 声の方を見るといつの間にかガタイの良い男が入り口に立っていた。その男にギルド内の全ての視線が集中する。


「ギ、ギルドマスター……」


 誰かの呟きが俺の耳に入った。


 ……その後、騒動は一気に沈静化した。騒ぎの説明を受けたギルドマスターは、俺に部屋に来るよう命じ冒頭のシーンに繋がっていくのだ。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



「……なるほどな。だいたいの事情は解った。冒険者になった早々、災難だったな」


 俺が説明を終えると、応接客用テーブルを挟んで向こう側のソファに腰かけたギルドマスターが頷きながら言った。


 彼はギルドマスターのルーク。四十代くらいの口髭がダンディなナイスガイだ。もしこれが傭兵団なら間違いなく彼が団長であろう、といういかにもパワー系だといわんばかりの恵まれた体格と雰囲気を纏っている。見た目だけでなく乱闘騒ぎを一声で鎮めるなど、実力も相当ありそうだ。


 ルークの後ろには眼鏡をかけた女の人が立っている。隙の無い立ち振舞いと少しキツめのパリッとした服装、そしてきっちりと整えられた髪型が印象的な女性だ。秘書だろうか。


 騒動を鎮めたルークは、すぐに職員や居合わせた冒険者や指示を出し現状回復に努める。乱闘騒ぎで破損した箇所の応急処置や交換、清掃、怪我人の手当てなど実に迅速で的確だった。ヌレイがアレだったので余計にその差が際立っていたように感じた。


 冒険者の中には怪我人もいたが、幸いな事に冒険者として支障が出るほどの重症者は出なかった。唯一、乱闘に巻き込まれたヌレイだけが治癒院(病院)送りになっていた。ざまぁ。


 残務処理は深夜近くに及び、一段落したあと俺の取り調べがようやく始まった。


「結論から言おう。ミナト、お前に対する処分は無い」


「本当ですか……?ありがとうございます!」


「その場に居た職員や冒険者から証言を得て勘案した結果だ。お前に落ち度はない。ヌレイに行き過ぎた行為が多数認められた。仲間を理不尽に侮辱されれば怒りを感じるのは当然だからな。お前にも不快な思いをさせた。ギルドマスターとして謝罪する」


 ホッと胸を撫で下ろす。冒険者になっていきなりあんな騒動を引き起こしてしまったから、何か罰があるんじゃないかと内心ヒヤヒヤだった。


「実は、元々あった冒険者同士のいがみ合いが表面化したのが今回の乱闘だ。お前の行動は騒動のきっかけではあったが原因ではないという事だ」


「冒険者同士で対立があるんですか?今回もヌレイの腰巾着みたいな冒険者がいましたけど」


「ああ、ノースマハにはヌレイを頭とする副ギルドマスター派の派閥がある。本来は副ギルドマスターはギルドマスターの補佐役であるはずなのだがな……」


 どうやらこのギルドでは、ギルドマスターには冒険者ギルドの人間が、副ギルドマスターは領主から派遣された役人が就く決まりになっているらしい。


 ルークはギルドマスターが集まる会議のため二ヶ月程、ノースマハを留守にしており、その間、代理マスターとなったヌレイがルークの代わりを務めていたのだ。


「いずれにしろヌレイは、ギルド内で厳格に処罰する。その点は安心してもらいたい。今回は武器の使用前に抑えたからギルド内の喧嘩で済んだが、もし間に合わなければ領兵が介入する大問題になるところだった。全くギルドマスターという仕事は苦労が絶えないものだな」


「はぁ……」


「それはさておきだ。ミナト、お前に言っておく事がある。今日、この時よりDランクに昇格だ」


「はぁ……って、はあ!?Dランク!?」


 いきなりの事に思わず声が上ずってしまった。


「今回の依頼の件だ。ギルドを介していないとはいえ、レッドボア討伐の功績は素晴らしいものだからな。よってギルドマスター権限によりDランクに昇格させる。分かったな?」


「ええと……いきなりの事で……」


「心配するな。ランクが上がってもやることは変わらない。お前は今まで通り、依頼をこなしてくれれば良いのだ」


「そ、そうですか」


「うむ、お前には期待している。そして、感謝もな。お前の依頼はヌレイが追い出した獣人から受けたものだと聞いた。冒険者ギルドとしては依頼は報酬とセットだ。ヌレイの対応は非常に問題があった。しかし、低すぎる報酬の依頼をギルドでは受付られないのも事実だ。依頼人と冒険者、双方が相応しい利益を得なければどちらかに不満が生じてしまうからな。だがお前の行動は俺個人として非常に高く評価している。冒険者としてではなく人としてな」


「人として……」


「そうだ。これからのお前の働きも期待しているぞ。以上だ。時間をとらせて悪かったな。今日はもう遅い、宿も閉まっているだろう。ギルドの仮眠室を解放してある。今日はそこで休むといい」


「ギルドに仮眠室があるんですか?」


「ギルドは時として緊急事態に対応する必要もあるからな。心配するな。宿代はとらんよ」


 そう言うとルークがニヤリと笑った。


 リンを抱き、挨拶して部屋を出る。怖い人かと思ったが意外と話しやすそうな感じで安心した。それに冒険者の立場もきちんと理解してくれてるし。


 指定された仮眠室には、簡易的な二段式のベッドが並んでいた。そのひとつに潜り込む。


 いきなりDランクかぁ。何をすればいいんだろうな。明日、アリアさんにでも聞いてみるか。


 考えを巡らそうと思ったが、疲労感と睡魔に襲われすぐに眠りに落ちていた。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




「ミナトか。なかなか期待のできる新人が出てきたな。連れているのはゴブリンだが、あれはただのゴブリンではないぞ」


「はい。それにあの若さで狼人族に認められる冒険者は、そうはいないので」


 そう言いながら後ろの女性は、ルークに一枚の報告書を手渡す。そこにはガウラの村に調査に行った報告が書かれていた。そこには村人の証言からやり方は教えてくれなかったものの、ミナトが一人でレッドボアを倒したことは間違いないこと。そして村にいた狼人族が「ミナトは立派な戦士だ」と語った事が書かれていた。


「狼人族は種族内で特に戦闘能力に秀でたものを戦士と呼ぶ。狼人族ではないミナトが認められたということは、彼の実力は相当なものである証明だ。そもそもレア物のレッドボアの討伐には、通常ならCランクの冒険者が複数人はいる。それを一人でやってのける奴だ。アイツには早くランクを上げてもらわんとな」


「はい。彼には頑張ってもらいたいところです」


「それは我々もだ。ヌレイが引っ掻き回した後始末を早くつけねばならん」


 何故、この領地では副ギルドマスターに領主から派遣された者を据えているか。


 そもそもは、初代領主のハロルドの時の決まりだ。領主としてやって来たハロルドは冒険者ギルドを積極的に支援すると表明し、金銭面などでも冒険者ギルドを優遇した。副ギルドマスターの派遣もそもそもは領主との連携を密にするための政策だった。


 地形的リスクのあるミサーク大森林を抱えるバーグマン領では、優秀な冒険者を多数抱える冒険者ギルドとの連携がかかせない。それがいざというとき極めて有益である事を、元冒険者のハロルドはよく理解していた。彼も次代領主のアーロも支援はしてもギルドの運営にはほとんど関与せず、領主側とギルドの関係は極めて良好だった。


 急に方針が変わったのは、今からちょうど一年程前。ヌレイが新任の副ギルドマスターとして派遣されてからだ。


「あの頃から、他所からの冒険者が急に増え、冒険者同士の諍いが増加し、元々いた冒険者の移籍組もかなり出た。今回の騒ぎはその延長線上にある。俺も調査に本腰をいれねばなるまい。どうにも嫌な予感がするからな」


「はい。ミナトのような有望な若者を流出させないよう、努めます」


「うむ、頼むぞ。では今後は君が中心となって事務を回してもらい、俺は現場の調査を担当して……」


「駄目です。マスターには書類の処理をお願いします。この二ヶ月分を含めマスターの裁決が必要な書類が山積みですので」


 ルークの目の前に高く積まれた書類がドン!と置かれる。


「では早速この書類を夜明けまでに目を通し、片付けるようお願いします。その後も今回の出張の報告書の作成、昨夜の乱闘騒ぎの経過報告書に目を通した後、改善案立案会議の議長をしていただきます。更に領主側にヌレイ一派の騒動と処分の報告、そして破損した部材の請求書の確認もあわせて進めていただきますようお願いします」


「……俺は時々、君がどの魔物より恐ろしい存在のような気分になるよ。クローイ君」


「恐縮です」


どんな手強い魔物相手にもにも見せた事がない情けない表情を浮かべながら、ルークはもっとも手強い敵との終わりなき戦いに突入していった。



挿絵(By みてみん)




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