46話 あーしを平原に連れてって
時は少し戻り、ミナト達が転送装置でエドワード達が王軍と対峙するベルナールへ向かった直後の双子山……。
「はー?なんですってぇ!?転送するにはエネルギーが足りない?タヌ男、それ、マジで!?」
「はぁ。……だから、さっきから説明しているだろカネ。転送装置を再起動するにはエネルギーを再充填しなければならん。時間がかかるカネ」
激おこぷんぷん丸でタヌ男に詰め寄っているのはジョリーナだ。
「噓でしょ!それならなんで最初からあーしを連れて行かなかったのさ!?おかしいじゃん!ちょっとタヌ男!なんであーしを頭数に入れていないわけ!?」
「そんな事を言われても困るカネ。お前は人の言う通りに動くタマじゃないカネ。嫌だと思ったらてこでも動かない人間を頭数には入れられないカネ」
「だ、だってエリスが行けなくなったんでしょ?だったら代わりになるのは、このあーしぐらいなもんっしょ!?」
ミナト達が転送した時、ジョリーナはギースの治めるサウスマハの街に居てその場に立ち会っていなかった。その後、戻ってきた彼女はミナト達が戦場へ向かったと聞き大荒れに荒れた。どうらやらジョリーナは自分も転送メンバーに入っていると勝手に思い込んでいたらしい。
「それがなんでよりにもよってあのハロ様……た、タマゴじじいなのさ!?てかあのじじい、いつの間に双子山から出られるようになったの!?」
「お前は知らなったカネ?ノースマハでの戦いからハロルドとは会ってないのカネ?サウスマハ軍との戦いの後にノースマハに居たはずなのだがなカネ」
「……だって戦いが終わったあとはエリスの事でバタバタしてたしっ!あーしだってあちこちいかなきゃいけなかったし、そもそも……!」
「わかったわかったカネ!……はぁ。お前、もう少し周りの情報を集める努力をだな……。いや、もういいカネ。それじゃあ話してやるカネ」
タヌ男がハロルドがメンバーに加わった経緯を説明する。
「な〜る、シャドウ化かぁ!そんな手があったのね!だから行動制限もなく自由に動けるようになったってわけね?おけまる!」
「……まぁ、外法中の外法だがな、カネ」
「でもさ、シャドウ化って事は本体になる身体がないじゃない?それで魔力の維持とかは問題ない訳?」
「影響はかなりあるカネ。魔力は器である身体の体内魔力によるところが大きい。シャドウ化したハロルドが本来の能力を発揮するのはなかなか難しいカネ」
「てか、コタロウとかもシャドウじゃんよ。でもあいつまじ強いじゃん?」
「あれはミナトと従魔契約を結んでおるからカネ。契約を結んだ従魔はマスターから力を与えられ、その能力が飛躍的に向上するカネ。耳目衆もミナトから真名を得ておるしなカネ」
「それな~。ミナトってああ見えてすげーやつなんよね〜。でもじじいは契約とかしてないよね?大丈夫なん?」
「大丈夫なわけないカネ。器がない状態の魂は極めて脆い。防御面だけではないカネ。身体なしで魔法を放つ、それ即ち魂を直接削る行為。そんな状態でもし魔法をまともにくらえば魂ごと吹っ飛ばされるカネ」
「はぁ!?それってマッパで敵に立ち向かうもんじゃん!じじいまじヤバじゃんよ!」
「あやつがわざわざ出向くのカネ。狙いはリデルただひとりだろうカネ」
「……は?リデル?……って事は新王を直接倒そうっての?」
「西セイルス軍と王軍が死闘を演じている隙を突き、ロイに乗って手薄になったアーサーの本陣へ単身強襲し、一気に勝負を決める。ハロルドならばそれくらい考えても不思議はないカネ」
「ちょい待ち!でもさ、相手はあの魔王っしょ?いくらあのタマゴじじいが強いからって、シャドウ化した状態で勝てんの?」
「方法は無くはない。自らの魂を全て魔力に変え、魔法を放つ。そうすればリデルと刺し違える事は出来るかも知れんカネ」
「はぁ?刺し違える?なに言ってんのさ!?そんな事したらあのハロ様、……じじいが死んじゃうじゃん!」
「あの男は最初からそのつもりだろうカネ。だからメンバーになったカネ。ただリデルも悪霊だった者カネ。そんな事は百も承知。おそらくその機会さえ与えられずハロルドは敗れ去る事になるカネ」
「そマ?タヌ男は分かっててそれを止めなかったっつー事!?」
「ハロルドも承知の上カネ。「万に一つでも可能性があるのならそれに賭ける。それが西セイルスやルカに出来る私の餞だ。私はもともと死んだ身。どんなに分が悪い賭けだろうが損はない」とな。我にそれを止める権利はないカネ」
「なに言ってんの!は?権利!?仲間でしょ!?わけわかめだよ……。なんで止めなかったの!?」
「だからそれはハロルドが自ら望んでだな……」
「自ら望んで?だとしても!みすみす無駄死にさせに行くのをほっといたのはタヌ男、アンタでしょ!死なせないわよ……!純粋でナイーブでケガレを知らないあーしの心を散々弄んでおいてさぁ!」
「な、ナイーブ……カネ?」
「あのハロ様がタマゴじじいだったって知った時、あーし、すごーくショックだったんだからね!あーしの無垢なハートをブロークンさせた事、まだアイツに謝ってもらってない!アイツはサギ師よ、サギ師!女の心を弄んで悦に浸るとんでもない奴!それが今度は救国の英雄気取りってわけ!?なによそれ!……許さない、アイツを土下座させて謝らせるまであーしは絶対に許さない!勝手に死ぬなんて絶対に許さないんだからぁ!!」
「あ、あのな、ジョリーナ。もう少し冷静に……」
「やかましい!!こうなったのもアンタのせいよ!責任とりなさい!!」
「……カネ?」
「そう!あーしをいますぐミナト達の所に転送するの!」
「……転送……カネ?」
「カネ、じゃない!アンタ確か転送魔法が使えるんでしょ?それ使ってあーしをミナトの所へ送ればいいのよ!!」
「無理カネ、我の瞬間移動は我の行った所にしか行けないカネ」
「はあ!?使えないなぁ!ならこの転送装置をすぐに起動させて!」
「だからさっきも言ったカネ。転送に必要なエネルギー源の魔力を魔力タンクに充填するのに少なくとも数日はかかるカネ」
「ふーん、そう。ならあーしが魔力を充填してやるわ!」
「……カネ?」
「聞こえなかった?あーしの魔力をぶち込んでやるって言ってんの!そうすりゃ早く魔力が貯まるでしょ!?」
「いやちょっと待つカネ!魔力を充填するにも規定量があるカネ!そんな無理やり魔力を流しこんだら最悪魔力タンクが暴発して……」
「うるさーい!いいからやる!あんたもこの道のエキスパートなんでしょ!?あーしはね。絶対にアイツの所へ行くの!勝手に死んだりしたら許さないんだから!!」
「はぁ……。ジョリーナ。お前、そんなにハロルドの事が心配カネ?」
「は、はぁ!?そんなわけないでしょ!?た、ただ、あーしはこのままタマゴじじいに何かあったら、あーしに謝らせる事ができないでしょ!だからよ!べ、別に心配なんか……」
「分かった分かったカネ。ただ、魔力注入にはかなり繊細な魔力操作が必要だが大丈夫カネ?」
「ふはは!任せなさい!じじいとあの偉そうなグリフォンに泣くほど鍛えられたわ!で?このペースなら起動に必要な時間はどのくらい?」
「ふむ、だいたい半日くらいカネェ。しかし、かなり魔力が必要カネ。本当に大丈夫カネ?」
「あったりまえよ!あーしをなめんな!ふっふっふ!こんなこともあろうかと魔力を毎日練りに練ってたんだから!」
「おお、確かに……!垣間見える魔力の精度が素晴らしいカネ……。よし、任せるカネ。しかし、なんとも騒がしい援軍カネェ。ハロルドもびっくりするカネね。充填しているその間に我は屋敷に戻ってライ達に我々もミナト達の後を追う事を伝えてくるカネ」
「おけ。そっちの事は頼んだぜぃ!ちょっぱやで用事を済ませて戻って来なさいよ!」
その声を背中に受けつつ、タヌ男はぴょんぴょんと山道を駆け下りる。
「……こちらで待っているつもりであったが、あの娘の所為でハロルドに倣わなければいけなくなったという事かカネ。さて、ライ達になんと伝えようカネ……」
そう呟きながらタヌ男は屋敷へと急いだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「お〜!ここがベルーナ平原ね!上から見たらマジ広々とした平原じゃんね!」
ジョリーナが辺りを見渡し、歓声をあげた。
「……ベルナール平原カネ。それよりジョリーナ、我を絶対離すなよ?」
ジョリーナの小脇に抱えられたタヌ男が呆れたようにため息をつく。実はジョリーナ達が立っている場所は平原の遥か上空だ。
「……にしてもこの戦場、異様に魔素が濃くない?なんか魔素が重すぎてめちゃくちゃ息苦しいんだけど」
「おそらくここで大魔法が発動されたカネ。これはその残り香みたいなものカネ。たぶん西セイルスを壊滅させる為のリデルの切り札カネ」
「なんですって!?大魔法なんて使われて西セイルス軍は大丈夫だった訳!?」
「まぁ大丈夫カネ。セリシアが大魔法対策の結界を作っていたからな。準備は万端カネ」
「そっか〜!やっぱあの婆ちゃんすげ〜わ!」
「てか凄いといえばお前もカネ。いつの間にこんな魔法を開発してたカネ?デンバーの街から一気にここまで飛行してくるとは。こんな空を浮遊する魔法なんて聞いたことないカネ」
ジョリーナ達は転送装置を使い、デンバーの街に到着すると魔力を手繰り、この平原まで文字通り「飛んで」来たのだ。
「フフン、そうでしょそうでしょ!このふわ《・》ふ《・》わ《・》魔法はこの大魔術士ジョリーナさんのオリジナル魔法なのだ!あーしを讃えなさい!なっはっは!」
「努力もさることながら、才能がなければこんな魔法は使えないカネ。お主は今はなき魔族に匹敵する才を持っているのかもしれないカネ」
「え、何?そんなに立て続けにほめられると恥ずかしいんですけど!実はさ~、この魔法、タマゴじじいの修行があんまりにも辛くて、人の足じゃいくら速く走ってもロイに捕まるじゃん?で、風魔法でなんとかなんないかな〜って思った訳。ほらウインドフロートってあるっしょ?あれをなんか、イイ感じに改良できないかな〜って」
「ウインドフロートというと、風の力で落下物の衝撃をやわらげる魔法カネ?」
「それよ。でさ、風の力でゆっくり下ろせるなら、出力上げたら浮くことだって出来んじゃね?それを使って自分を風魔法でドーンって押したらスピードも乗ってロイだって一気に撒けるんじゃね?って思ってさ!いや〜、我ながらナイスアイデア!って思って、そっからしこーさくごってやつ?したらいつの間にか空に浮かべるようになっててさ!?いや〜あーしの才能、まじパないと思わん?」
「いや、たしかに理論的には可能だが……瞬間的に魔力を高めて放出する普通の魔法と違って、浮遊には継続的な魔力の出力が必要になるカネ。それに物体を安定して浮遊させるにはウインドフロートなどとは比べものにならない程の緻密な魔力操作が必須カネ。そうしないとすぐにバランスを崩して地面に真っ逆さまカネ。それに自然の風速やら環境、さらに敵との戦いでは相手の魔法の影響が……」
「なんかわかんないけど、ほめてくれてるんでしょ?なっはっは!気分アガるわ!」
「ハァ……。感覚で魔法を使う奴との魔術の会話はつくづく疲れるカネ」
しかし……とタヌ男はひとりごちる。
とんでもない才能を持っているのは間違いない。「10」を「100」にする魔術士はごろごろいる。だが「0」を「1」に変えられる存在はほとんどいない。前者は天才だが、後者は天才の中の天才。まぁ、異能の変人ともいえるが。ただ追い詰められたゆえの、窮余の末の創造であるのはこいつも我も同じ。生命の危機は新たな魔法を産む最高の土壌ゆえな。
「そんな事より今の状況よ!ミナト達は!?西セイルスは!?どーなってんの!」
「う〜む。見た所、五分五分といったところカネェ」
「で、うちらは勝てそうなわけ?そこがいっちゃん大事じゃん」
「戦争とは個々の技能より、数が物をいうカネ。西セイルス軍は兵数でかなり劣る。それにも関わらず互角で推移しているということは西セイルス軍はかなり善戦しているという事カネ。それにほれ、流れが変わりそうカネ」
「流れ?」
「南の方を見てみよカネ。あれはバーグマン軍カネ。多分、ミナト達もそこにいるカネ」
南方面を見るとバーグマン軍が北ナジカ軍と連携し、目の前の王軍を押し込んでいる。
「マジ?やるじゃんミナト!あのわちゃわちゃしてるのがバーグマン軍でしょ?いいね~!アゲてこ~!」
そして、ジョリーナの応援とほぼ時を同じくして、中央に構えた西セイルス軍の主力、エドワード率いるアダムス軍が前進を開始した。
「どうやら西セイルスが優勢になってきたカネ」
「マジで!?おけおけ!このまま一気に……っ!?」
どぉん!
その時、上空にいたジョリーナ達の身体を強い衝撃波が駆け抜けた。
「……タヌ男、今の……これって!」
「うむ。激しい魔力の衝突カネ。ここにいてもこれほどの衝撃が届くとは……」
その後も激しく空気を揺らしながら幾度も衝撃波が通過していく。
「……あっちの方向から……!」
ジョリーナがある方向を指さす。
「あっち……カネ?」
「間違いない!ハロ様が魔王と戦ってるんだ!……この魔力……、覚えてる!タヌ男!行くよ!」
「分かったカネ。だが、我は悪いが途中で降ろしてくれカネ。我はミナト達と合流するつもりだからなカネ」
「りょ!んじゃ行きますか!」
そしてジョリーナはタヌ男をミナトのもとに送り届けると、笑顔で王軍の本陣へ飛び立っていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
平原を飛んだジョリーナは王軍の本陣近く、敵兵の居ない場所にタヌ男を降ろすと、ハロルドが向かったと思われる王軍の中枢へと急いだ。
上空から見下ろすと、王軍の兵士達が算を乱し、武器を放り出して東へと逃げ出している。
「どうやらミナトやエドが上手くやったみたいね。いいじゃんいいじゃん。これなら警護も手薄になるし。あーしも急げし!」
さらに速度を上げるジョリーナ。その視界に天幕に幾重も囲まれた陣が入る。
あの厳重さ、それに周囲をぐるりと囲む厳重な魔法避けの結界……それになにより覚えのあるこの魔力……!
間違いない、あそこにハロ様と魔王がいる。ジョリーナは即座にそう直感した。
……それにしても、堅牢そうな結界だ。これだけ頑丈なら、外側からの魔法などまったく意に介さないはず。これを破ろうと思えば余程の高火力の魔法を集中的に、そして断続的浴びせなければでなければならないだろう。
しかし、それは内側側からの魔法も外側に通さない。要はとてつもなく硬い魔力耐性をもった結界が、サラダボウルをひっくり返したような形状で王軍の本陣をすっぽり覆っているのだ。
「これだけ魔力を逃さない構造なのに、魔力衝突の衝撃があんな所にまで届いたっての!?」
平原の上空で感じた衝撃波はハロルドと魔王がぶつかった時のものに違いない。それは彼女が今まで会ったどの魔術士より強力なものだった。
「……フン!面白いじゃん。やっぱり魔王ってんだからそれくらいの実力がなくっちゃね!」
本陣に近づくにつれ、多数の守備兵の姿が視界に入ってくる。
「って、みんな倒されてる!?ヤバみ!」
おそらく王を護る近衛兵だろう兵士達の亡骸があちこちに転がっている。その光景はまさに死屍累々という言葉がぴったりだった。
……傷口が鋭利な刃物で斬られているかのように裂けてる。……てことは!!
地上に降り立ったジョリーナが本陣に近づく。
「……ロイ?やっぱりロイじゃん!」
「……む?ジョリーナ?」
天幕の入り口を護るように立ちはだかっていたのはホーングリフォンのロイだった。
「ジョリーナ。何故ここに来た?」
「なぜも何もないわよ!ハロ様……た、タマゴじじいを助けに来たにきまってるでしょ!あんたこそ、ここで何やってんのさ?」
「ハロルドから、敵兵が侵入しないように死んでもここを守れと命じられたものでな。王軍の兵士が攻撃してきたら容赦するなと言われている」
ロイを見ると身体中に傷を負っている。あの無数の亡骸はやっぱり……。あれだけの兵士を相手に戦ったのだ。いくらロイでも無事ではすまなかったのだろう。
「そうなんだ。じゃあ、今ハロルドは魔王と戦っているのね?」
「ああ。……お前も行くのか?」
「もちろん」
「そうか」
ジョリーナとロイの視線が交錯する。
「……我はここを動けん。ハロルドの力になってやってくれ」
「分かってる。心配しないで。必ず連れて帰るから」
そう答えると、ハロルドの元へ向かうジョリーナ。
「フッ、あれがあそこまで成長するとはな。……ハロルドを頼むぞ、ジョリーナ」
そう呟き、傷ついた己を、そして難敵に立ち向かうジョリーナを鼓舞する様に空に向かって大声で吠えるロイだった。




