35話 裏切りの戦場
数刻後、俺達はベルナール平原を見渡せる小高い丘に到達した。ここから平原の様子が一望出来るのだ。
「これは……!?」
見下す先の戦場では、まさに雌雄を決する戦いが展開していた。
西に陣を構えたのはエドワード率いるアダムス軍を中心とした西セイルス軍。その両脇をイズール子爵のイズール軍、そしてバーグマン家の若き当主ルカがバーグマン軍が固めている。その総数は約五万。
かたや新王アーサーが統べる討伐軍。各地方から集めた地方軍を指揮下に据え、西セイルス軍の倍にあたる十万という兵数に物を言わせ、平原に広く展開されている。
兵数の上では明らかに討伐軍が有利。しかし、西セイルス軍はバーグマン領で生産された良質な魔鉄を使用した高性能な兵装を用いて対抗する。
『数の劣勢を武装と練度で覆す』
それがアダムス辺境伯が立案した作戦だった。
しかし……。
「う〜む、これはまずいな。西セイルス軍はなんとか王軍に耐えている状態だ。このままではいずれ敵に飲み込まれる」
ロイに跨り上空から様子を眺めたハロルドが呟いた。
数に勝る討伐軍が押しまくり、西セイルス軍とがっぷり四つに軍を展開。しかし、勢いは討伐軍が優勢に見えた。特に北側の一翼、イズール子爵率いる軍勢の旗色が悪い。敵の攻勢が凄まじく何とか凌いでいるといった状態だ。
「この戦況は……?おかしいですわ、主様!」
ツバキがこの戦いのとある変化に気づき、俺に進言する。
「あちらをご覧下さい。本来の討伐軍は主力の王軍、そして友軍である東セイルス軍、そして北ナジカ軍と南ナジカ軍で構成されておりました。戦いが始まる前、私はこの友軍を確認しております。然るに今、戦場に東セイルス軍、及び南ナジカ軍の姿が見えないのです」
そう言われて改めて戦場を見る。遠目で分かりづらいが、確かに各軍が掲げる軍旗に東セイルス軍と南ナジカ軍がない。討伐軍の主力部隊である王軍が直接、西セイルス軍に攻勢を仕掛けていた。
「ああ、確かに居ないな?西セイルス軍が東セイルス軍と南ナジカ軍を後退させたとかじゃなくて?」
今現在、西セイルス軍の形勢は不利だが、ツバキの不在の間に友軍を撃破した可能性はないのだろうか?
「ミナト様、数で守勢に回る我が西セイルス軍にそのような余裕があったとは思えませぬ」
生前、戦場経験が豊富なウィルが懐疑を挟む。
その時、リンがそわそわしながら俺に尋ねた。
「ねぇ、ミナト!ルカやオスカーは?早く助けに行かなくて大丈夫かな?」
「あ!そうだ!バーグマン軍は!?あの大魔法の影響で統率は乱れたりしなかったか!?」
リンの言葉に我に返った。そうだよ、バーグマン軍は無事なのか!?
「ご安心下さい。ミナト様。バーグマン軍はアダムス軍の南側に構えておりますが、どうやら大魔法の影響は少なかったと見えます。うむ。なかなかどうして我がバーグマン軍は勇壮な戦いっぷりをしておりますな!」
ウィルが指差す先、一角グリフォンが染め抜かれた軍旗を掲げるバーグマン軍が居た。西セイルス軍の右翼を護るその軍は一歩も引くことなく、王軍の攻撃をはねのけている。敵の軍勢からは間断なく魔法が放たれるが、バーグマン兵は恐れることなく盾や鎧で受け止めている。
「わっ!すごいよミナト!バーグマン軍がんばってるね!」
「ああ!しかも敵の魔法をしっかり防いでるぞ。さすがベルド合金の鎧の効果はバッチリだな!」
ミスリルと魔鉄の合金であるベルド合金は鎧としても高性能だが魔法に対して非常に高い耐性を有していた。それを全てのバーグマン兵が装備している。支給品としては破格とも言える突出した性能を持つ兵装は兵士達の命を護り、それによる安心感を与えているようだ。
「ああ……なるほど。バーグマン軍の半数はリビングアーマーだったね。彼らは不死者なだけに死の恐怖をあまり感じていない。おそらく一般兵と違い、彼らは大魔法を前にしても動揺は少なかったのだろうね。それを見ていた周りの兵も取り乱さずに済んだのだろう」
「いかにも。我らリビングアーマー兵達は、指揮官さえ冷静なれば配下の者どもはどんな状況下に置いても忠実に命令を履行致します」
ハロルドの言葉にウィルが少し誇らしげに応える。リビングアーマー部隊の本来の長である彼は誰よりもこの部隊を知り尽くしているのだ。今は俺の護衛の任に就いているウィルに代わってオスカーが率いていた。
「しかし、さすがオスカー殿。我が部下を上手く差配しておりますな。並の将ならあそこまで手足の如く操る事はできますまい」
押され気味の西セイルス軍の部隊の中でバーグマン軍は一歩も引かずに踏みとどまっている。前衛のリビングアーマー部隊が数に勝る王軍の主力相手に怯むことなく立ち向かっていた。
そんな状況を見ていた俺は、ふと違和感を覚えた。リビングアーマー部隊の隣に見慣れぬ部隊が居る。バーグマン軍に比べると隊列は乱れ、統率も取れていない。あれ、どこの部隊だ……?あんな部隊いたっけ?
「おお、あの旗……?どうやら北ナジカ軍か。おやおや?これは随分と面白い状況だね」
なんだか楽しそうな口調でハロルドがつぶやく。
「えっ?面白い、ですか?北ナジカ軍、てことは敵ですよね??あれ?……なんで敵がバーグマン軍と一緒にいるんだ?」
北ナジカ軍は討伐軍のはず。それがなんとバーグマン軍と肩を並べるように隊列を組み、攻め寄せる王軍を防いでいたのだ。
「あははは、そういうことか。やるねぇ。この冷徹さは、さすが魔王の所業だ。ミナト、リデルはどうやら友軍である地方軍を囮に使ったようだね」
「お、おとり?」
「しかし、ここまでやるかねぇ?自身が率いる王軍以外の地方軍を西セイルス軍もろとも壊滅させようだなんて。勝機はあるのかなぁ」
「え、えーっ!?ちょっと待って下さいよ!そんなバカな!それじゃあ、王軍はあの大魔法で東セイルス軍や旧ナジカ軍まで潰す気だっていうんですか!?味方ですよ!?」
「うん、リデルはまず地方軍だけを西セイルスに当たらせたんだろうね。そして膠着状態にした上で大魔法を発動させた。西セイルスと東セイルス軍、旧ナジカ軍、諸共皆殺しにするつもりでね」
「じゃあ、地方軍はその為の撒き餌だったって言うんですか?」
「そうさ。しかし、それはセリシアの結界作戦により失敗した。そして、友軍も自分達が生贄にされた事を悟ったはず。ナジカ軍や東セイルス軍にとって襲いかかってくる王軍はもはや味方ではなく敵だ。しかし、大軍を擁する王軍に勝てるとは思えない。だから逃げるとすれば旗を翻して西セイルス軍に着くしかない。ね、面白くなってきただろう?ミナト」
「王国軍は西セイルスだけでなく東セイルスと旧ナジカとも戦わなきゃいけなくなっちゃったじゃないですか。数が多いのが利点だったのに王国軍自らが墓穴を掘ったってことですかね。これはやれますね!敵の敵は味方って理論ですね!」
リンが俺の上で頭を抱えて悩んでいる。
「う~これじゃあべこべだね!誰が敵か味方か分かんないよ~?」
俺はリンの意見に賛同して頷いた。
「と言っても王軍の主力はまだ数に勝る。大魔法の影響で放心状態の友軍と西セイルス軍を叩くのは今しかない。王軍は今が好機と総力戦を仕掛けてくるだろう。ここが西セイルスを守る戦いの正念場だよ」
「そうですね、王軍が好機と思っているのを逆手にとって、こっちも仕掛けていきたいですね」
「フフフ、そうだ、その意気だ。いいかいミナト。戦いってのは化かし合いだ。如何に相手を陥れるか、どう騙すか。多く手を打ち、相手を陥れ、跪かせられるか……。王って人種は他人から見下されたら、生きてはいけない存在からね。だからどんな手を使っても勝とうとする」
「要はマウントの取り合いなんですね。常に相手を下に見れないと気がすまない。それを国単位でやるのが戦争ですもんね。互いに命を賭けて」
「命の取り合いなんて一般大衆にとっては何の得にもならない。でも、「上」の連中はそれをやりたがる。「上」はプライドと面子、それに自分の保身だけ考えて生きているような連中だ。損するのはそれに付き合わせられる一般国民。「化かし合い。言い換えれば馬鹿試合なのさ。まぁ、仕掛ける方も仕掛けられる方も馬鹿なんだよ。いっそ「王」なんて奴等はリデルと一緒に消えたほうがいいのかも。王族が少なくなったし、そうなったら、もしかすると君の出番かもよ?」
「えっ?じゃあ次はミナトが王様になるの!?」
「ほわっ!?ならないよ!そんなはずないじゃないか!俺、人の上に立つのって苦手なんだよ!」
「え〜?でも、ミナトは今までずっとやってきてたよ?」
確かに色々な肩書はついてるけどあれは全部なりゆき!勘弁して!俺は一小市民です!冗談じゃありません!
「リン。頂に立つ人間って、常に重責や苦悩、それに孤独と戦わないといけないんだよ?歴史上でもトップに立つと猜疑心が強くなって今まで尽くしてくれた家臣を殺したりした人もいたんだ。それだけ精神を保つは大変なんだよ?俺はそんな状態にはなりたくないんだよぉ!」
「そうなの?王様っていつもえっへん!って威張ってばっかりの人だと思ってた。昔ゴブリンの村にいたボスはいつも偉そうだったもん!」
「ハハハ、ある意味、リンの言葉の通りだよ。しかし、ミナトは王の孤独もよく解っているようだね。しかし、今は未来の王国に想いを馳せるより現実を見ようか。心配いらないさ。今は劣勢だが、その盤面を一気にひっくり返す。なぁに、私と君達ならそれが出来るはずだ」
「そうですね!俺達の未来、あんな奴に壊されるわけにはいきませんから!それでハロルドさん、俺達はどう動けばいいですか?」
「それはミナト、君に任せる」
「え?ま、任せる?」
「君にはもう状況をみて、自分で判断する力量があるはずだ。味方と敵の情勢を鑑みて、その時に適切な手を打ってくれ。私はロイと一緒に上空でちょっとした作戦を仕掛けるつもりだ。ミナト、できるかい?」
「分かりました!ハロルドさんにそう言われたら、やるしかないですもんね!」
木刀を握る手に力が籠もる。呼応するように木刀から「まかせて!」と言うように力強い青白いオーラが発せられた。
「リンも頑張る!絶対にやっつけようね!」
リンがギュッと拳を握る。ただ、ブロスはリンの懐から少し心配そうにリンを見上げていた。
「うんうん、頼もしいね。ミナトには帰る場所、そして待っていてくれる人がいる。必ず無事に戻るんだ」
「それはハロルドさんもですよ。孫の顔、みたいでしょ?」
「ははは、そうだね。それじゃお互い頑張ろう。地上の事は任せた。あと、ミナトに少しだけ有利なフィールドを作っておくよ」
ロイに跨ったハロルドは笑顔のまま、空高く飛翔していく。
有利なフィールド……?
そう思った直後、頭上のロイが咆哮を上げた。その直後、まるで雄叫びに呼び寄せられたの様に上空に暗雲が垂れ込める。瞬く間に平原を覆い尽くした黒雲により、地上は一気に暗くなり、空気が重く淀んでいく。集まった黒雲は内部で光を発し雷鳴を轟かせていた。
「ミナト、これって!」
「ああ、ロイの「天候改変」スキルだ!」
双子山が炎上した際もこのロイのスキルに助けられた。きっとこれから大雨が降るぞ!
……そうか!俺に有利なフィールドってこれの事か!これを活かすには……!
頭の中で必死で考える。俺が今、やるべき事。西セイルス軍の為にできる事。
よし、腹は決まった!
「ウィル!今から君はバーグマン軍のオスカーの所に走ってほしい。そして、もし、必要ならオスカーに代わってリビングアーマーの指揮をとってくれ!」
「御意!」
「ツバキはルカ様の元へ行って俺達が到着した事を伝えてほしい。あ、それとハロルドさんとロイも来ているからって伝えてくれ。ルカ様にとってはそれが何より心強いだろうからね!」
「承りましたわ、主様!」
そう言うと、二人は俺の前から姿を消した。
「さて、俺達も行こう!頼むよ、リン!」
「おっけー!」
そして俺達は、暗い曇天の戦場に駆け出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「グレース殿!これはいったい如何なる了見だ!何故、味方である我が東セイルス軍の背後より襲いかかった!!」
「おお、これはキーレフ将軍。ご無事で何よりです」
「この姿を見てご無事だと!?ふざけるのも大概にしろ!我が東セイルス軍を背後より襲うとは!!」
怒りのあまり馬上から我を忘れてわめきたててるのは東セイルス軍を率いていたキーレフ将軍だった。敗軍の将を前にグレースは軽くため息をつく。
「……その事なら、後にしていただけますか?キーレフ将軍。我がマージナイツがイズール軍を崩すまで数刻とかからないでしょうから。それまで指揮の邪魔はしないでいただこう。それでは、失礼」
戦場に再び参戦しようとするグレースの戦馬の前にキーレフ将軍の馬が立ちはだかる。行く手を遮られた馬は直前で止まり、苛立ったように鼻息をあげて首を振った。
「馬鹿にするなぁあああ!小娘がぁぁぁ!!」
およそ皇女に対する言葉とは思えぬほど乱暴な言葉を発した男を一瞥すると、グレースは自分より上背のある壮年の男に対してひるむことなく吐き捨てた。
「お言葉ながら、将軍は東セイルス軍を統率する長であらせられる。にも関わらず、貴殿は敵を殲滅する絶好の機会をみすみす逃そうとしていた。それが分かりませんか?」
「なんだと?」
「新王が放った大魔法。防がれたとはいえ敵の動揺は明らかでした。そこを突き、敵を崩すのが貴殿の役目。しかしながら、東セイルス軍をはじめとした友軍の動きは鈍い。だからこそ本隊である王軍が直々に出張る必要があったのです。現に我らマージナイツの働きにより敵の一翼は崩壊寸前にまで陣形が崩れている」
「なれば、なぜ大魔法を使用する事を我等に知らせなかった!!」
王は、東セイルス軍を囮に西セイルス軍を壊滅させようとした。これは王国の為に身を粉にして仕えてきた自分たちへの裏切りではないか!?そう詰め寄るも皇女の態度は冷ややかだった。
「これは幾多の戦場を駆けた将軍の言葉とは思えませんね。戦況は常に変化するもの。指揮官たるもの、どの様な状況の変化にも柔軟に対応しなければ兵士達の混乱を招く。新王は機を見るに敏な御方。大魔法は敵の動揺を誘い我が方に勝利をもたらす一手でした。本来であればこの任務は我らではなくキーレフ将軍、貴殿の軍がやらねばならぬ事であったのではないか?言い方は悪いが、倒すべき敵の眼の前に無様に立ち塞がる者達は命を棄てても構わぬと言っているのと同義。ならば押し通るしかない。その原因を作ったのはキーレフ将軍、貴殿だ」
この戦舞姫とおだてられている皇女も王と共に我らを裏切ったのだ!貴族である我らが支えているからこそ、王族だと大きな顔をしていられると言うのに!腹の底から黒い怒りがふつふつと沸き上がり、この思いあがった女の横っ面を張り倒してやりたくなった。
「ぐ、愚弄するのも大概にせい!我らが動かぬから後ろから襲っただと?お前も新王も……、いやアーサーは我らを何だと思っているのだ!?許せん!許せんぞ!!」
「……貴殿が何と言おうと新王の期待に応えられなかったのは変えられぬ。戦後、新王から沙汰があろう。貴殿は居城へ帰り、大人しく謹慎なさるがよい。惨敗兵は我が手の者が纏め、送り返してやろうゆえにな」
「……グレース!貴様……!王族たりとて、もう許さぬ!我が剣で死ぬがよい!この平原の土塊にしてくれるわ!」
「!」
憤怒に燃えるキーレフが剣を引き抜き、斬りかからんと飛びかかる。馬上のグレース目掛け、渾身の横薙ぎの刃が迫る。その時、白刃が一閃しキーレフの剣は弧を描いて宙を舞う。次の瞬間、近習達がキーレフを組みつき、馬上から引きずり下ろした。
「ぐ、ぐぅぬ……ま、まさか……!」
「威勢のいいことを言う前に剣術の修行が足らぬのではないか?キーレフ。其方では私は切れぬよ。……さぁ連れていけ!貴様を王家に対する反逆罪で拘束する!」
「何が反逆罪だ!新王こそ、人を人とも思っておらぬ鬼畜ではないか!我ら東セイルスへの恩も忘れ、自分たちだけで利益を貪ろうとしているだけではないか!やはりアダムス辺境伯の言っていた事は正しかった!新王、いや、アーサーは人の皮を被った魔族よ!貴様らの所業、東セイルスの民は決して忘れぬ!覚えておくことだ!!」
「……連行なさい。この者はもはや将軍でもなんでもない。拘束し、決して逃亡させぬように」
配下の隊員がキーレフを連行していくのを無表情のまま見つめるグレース。それを待っていたかのようにボロボロの黒装束に身を包んだ男が彼女の傍に音もなく立った。
それに気づいたグレースはその男に問う。
「……お前はローガン配下のシャドウだな?」
「はっ。ローガン様はいずこに?」
「ローガン……いや、カストールの配下か。何か彼に伝令か?ならば私が聞く。要件はなんだ?その出で立ちは何としたことだ?」
「……恐れながら我らシャドウは、主以外に情報を漏らすわけにはまいりませぬ」
「そうか。なかなかに任務に忠実なシャドウだ。カストールは新王の元に居る。しかし、今、新王は大魔法の発動直後ゆえ、休息が必要だ。ゆえに誰にもお会いにならない。その御身を護る為に側に侍るカストールも同じ事。分かったか?」
「しかし」
「その様な場にシャドウ如きが出入りしてよいわけがない。赴けるのは極一部の限られた者のみだ。だからこそ火急の要件ならば私が聞く、と言った。理解したか?」
「……御意」
「それでカストールに伝える事とはなんだ?」
「ははっ、実は……」
そのシャドウは西セイルスに展開した諜報部隊が全滅したこと。そして、それは小さなゴブリンを背負った男とその取り巻きによるものだと語った。
「それはバーグマン家のミナトだろう。目的は西セイルスへの加勢か。厄介な奴等がきたものだ。警戒せねばならぬな」
「さらに、その場には頭に角の生えたグリフォンとそれに跨る男も目撃されております」
「角の生えたグリフォン?……いや、そんなはずはない。見間違えではないか?」
「いえ、確かにこの目で」
「……分かった。この件はカストールに伝えておく。お前は情報収集に戻れ」
シャドウを下がらせると顎に手をあてるグレース。
角のあるグリフォンはフォルナ広しといえど、ほとんど目撃例がない。確かな記録にあるのはただ一頭。英雄ハロルドの従魔がいるのみだ。しかし、そのグリフォンもまた彼の死と共に何処かへと姿を消したはず。
しかし、最近になりバーグマン領で一角グリフォンが現れたと噂を聞いた。もし、それがハロルドの従魔であったら……?そして、ハロルド以外は決して跨らせなかったと伝わるグリフォンに跨っていたという男の正体は?
……もしや……。
「うん?空が……?」
その時、大粒の雨が降り出した。まるで滝の様な豪雨が平原に叩きつけられる。
あっという間に平原には雨粒が溜まりだし、先程までの景色とは一変。至る所に沼のような水溜まりがある湿地帯へとその姿を変えてしまっていた。




