表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『俺』とゴブ『リン』~俺のスキルは逆テイム?二人三脚、人助け冒険譚~   作者: 新谷望
6章 英雄ミナト編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

226/245

29話 伝達スピード




「ははは、着いた早々災難だったなミナト!」


「本当ですよバラム子爵。扉を開けた途端、突然兵士に囲まれて、変な汗がでましたよ……」


 衛兵に捕まった俺達は不審者としてバラム子爵の所へ連行された。そこで疑いは解け、すぐに拘束は解かれた。


「あの部屋には特殊な結界が張られていてな。外側からはただの壁に見えるよう細工されているのだ。帝国軍との戦闘が終わったとはいえ、兵達もまだ気の抜けぬ時期。不運だったと思って許してやってくれ」


 まあ、帝国軍がいつ反転攻勢に移るかもしれないし、警備も厳重でしかるべきだからね。でも危なかったよ~。何人もの敵兵に囲まれても、リンと俺と魔剣木刀があれば力づくでも包囲から脱出する術はある。あの時、槍を向けた衛兵が「ここはバラム子爵の屋敷だぞ!」と叫ばなかったら危うくリンが攻撃するところだっだからね。味方を戦闘不能にしなくて良かった~。


 その後、バラム子爵とお互いの戦況を軽く説明しあっていた時、聞き覚えのある声が俺の耳に届いた。 


「よお、聞いたぞ!ついにミナトも父親か。目出度いことじゃねぇか!ガッハッハッハ!」


 満面の笑みでそう言ったのはベルドだった。彼はドワーフ部隊を率い、ガルラ王国が誇る大砲「龍滅砲」をぶっ放し、帝国軍に壊滅的な被害を与えた。この戦いの功労者といっていい。俺もその話をついさっきバラム子爵から聞いたのだ。


「おお、そうなのか?英雄の2世誕生とは素晴らしいではないか!」


 バラム子爵も晴れやかな笑顔で俺を祝福した。


「ややや、まだっ、生まれてないんですっ!バラム子爵!」


 慌てて首を振りながら否定する俺。


「な、なな……何で、もうベルドさんに伝わっているんですか!?早すぎません??」


 俺もそのことを知ったの昨日なんですけど……??


 どうやら俺が設置に関わった旗振り通信で連絡が来たらしい。その通信速度にも度肝を抜かれたが、違う、そうじゃないっ!どうして俺のプライベートを通信してるんですかぁぁぁ~っ!


 俺の慌てっぷりを見て愉快そうに笑うベルド。いやだもう!元英雄たちは俺をからかう趣味でもあるの!?


 ひとしきり笑った後、ベルドは髭をしごきながら感慨深そうに俺に告げた。


「生まれたらお前の子とガルラ王の御子とは同年代になる。王も喜ばれる事だろう」


「そういえばそうですね。名誉なことです。ハハハ……」


「そうだ、ミナト。ガルラ王からの伝言だ。「これでお前からの「借り」は返した。またいつでも顔を見せにくるといい」との事だ」


 ああ、ガルラ王の言う「借り」というのは俺が献上した薬用酒の事かな。あの薬用酒があんなに効くなんてねぇ。ドワーフ族としては身体の弱かったガルラ王が今では溌剌はつらつとして、懸念事項だったお世継ぎ問題も解決しそうだというし、うーん恐るべし薬用酒!


「あと「お前が望むなら爵位と領地を授ける用意がある。良き返答待っているぞ」だそうだぜ」


「そ、それは「世に仕えよ」ってことですよね?非常に光栄でありがたいんですけど、その件は辞退したいんですが……」


「まぁ、お前ならそう言うだろうと思ったぜ。ただ今回、ドワーフ部隊を動かせたのは王直々の思し召しだからな。そこは心に留めておいてくれ」


「ええ、もちろんです。この戦いが終わったら、改めてお礼言上に伺わせて頂こうと思っています」


「うむ。この戦いは、王族や親父達のみならず、ドワーフ一族が一丸となって骨を折ってくれたからな。本来なら人族の戦いに関与することはない。それを曲げてまで参戦したのだからな」


「ガルラ王国が西セイルス側についてくれた事は本当に感謝しかありません。レグルス帝国との外交関係も悪化しかねないというのに……」


 そう俺が言うとベルドがニヤリと笑い、バラムに水を向けた。


「ま、その辺はちょいとした小細工をな。なぁ、バラム?」


「うむ。今回の件は、ガルラ王国には立場的に非がないと主張できる状況をあらかじめ作っておいてあったのだ」


 バラム子爵の説明によれば帝国軍がコーサイの街に攻め寄せた際、レニング帝国に向け書状を送った。


 内容は、まず第一に突然セイルス王国に侵入した事実を咎めた。宣戦布告もなく、また事前に通達も行わず他国に侵略するなど国家間の通例に照らし合わせても前代未聞の暴挙、即刻撤退すべしという内容だ。


 ただ、レグルス帝国が国境くにざかいに兵士を集結させていた事は、西セイルス側も把握していた為、監視は常にしていた。


 第二として、バラムが治めるコーサイ領にはガルラ王国の使者が親善の為、領内に滞在している事を伝え「このまま我が城を攻めるならば、滞在している使者にも危害が及ぶ恐れがある」とし、併せてガルラ王国の使者からも「親善の使者が滞在しているにも関わらずこのまま侵攻するなら、我がガルラ王国が軽んじらているとガルラ王が判断し、レグルス帝国とガルラ王国との関係も悪化しかねない」と警告と懸念を記した書状も送ったのだ。


 ちなみに親善の大使の名はベルドの父でガルラ王国の大貴族ハラードである。ベルドはその代理としてドワーフ部隊を率いてコーサイの街に滞在していた。これは言外に「これ以上進軍するならガルラ王国も敵に回す事になるぞ」という威圧も含まれており、これで帝国軍が撤退する決断を下せば、という淡い期待も込められていた。


 しかし結局、帝国からの返答はなく、帝国軍は無人の荒野をゆく勢いでコーサイの街に攻め寄せた。帝国側は、はなからガルラ王国の書状を帝国軍の進軍速度を鈍らせるための西セイルス側の工作であると考えていたようだ。


 さらに帝国側には内紛状態のうちにその先のバーグマン領までを手中したいという時間的な制約があった。そういった事情もあり、ここで時間をかける訳にもいかず、兵力差にものを言わせた力攻めを敢行したのだ。


 ……そして、ガルラ王国の兵器「龍滅砲」により、散々に打ち破られたのである。


 帝国側が不幸だったのはこのコーサイにガルラ王国が誇る最新兵器と手練れのドワーフ部隊が配置されている事に、最後まで気が付ついていなかった事だ。その陰にはもちろん極秘でガルラ王国から兵器を輸送したミナトの働きがあったのは言うまでもない。


 とにかく、これによって帝国軍は壊滅的な損害を被り撤兵したが、西セイルス側にも少なからず被害は出た。帝国軍による略奪行為のせいだが、それもある程度までは緩和出来たようだ。


 バラム子爵は帝国軍が侵攻した際、初動において略奪行為を行うと予想していた。そして、領民達にも警戒と侵略を受けた際の対処、そして命と財産を守る対策をとるように各村や街に通達を出していたのだ。


 その効果もあり、侵攻ルートと思われる領民は事前に持てる荷物を持って逃げ去っており、略奪行為を受けた村や街は火をかけられたりしたケースもあったが、その損害は想定よりかなり少ないものとなったのだ。


「えっと、つまりガルラ王国的には警告したのに攻めてきたので「正当防衛」で打ち払ったっていう事ですかね?」


「その通りだ!こっちは向こうから迫ってきた火の粉を振り払ったに過ぎん。それを証拠に俺達は一切出撃してないだろうが。奴らが明確な殺意をもって突っかかってきたんだ。追い払うのは当然だろ?なぁ、リンもそう思うよな?ミナトが悪いヤツに絡まれたら助けるだろう?」


「うん!決まってる!そんな奴がいたらりんぱんちでぶっ飛ばすよ!」


 ベルドの問いに力強く頷くリン。まぁ、ベルドに言われるまでもなく、確かに正当防衛っていえば正当防衛かなぁ。反撃のレベルが尋常じゃないけどさ。

 

 そんなリンを見て愉快そうに笑っていたバラム子爵が俺に水を向けた。


「ところでミナト。ベルドから聞いたがお前はガルラ王国の王とも知己があるのか。王族でもないお前が親しい間柄と聞いて驚いたぞ」

 

「いや〜、親しいとまでは……畏れ多いですよ」


「ははは、バラム。ミナトはガルラ王国に多大な貢献をしているんだ。本人が望めば、向こうじゃ何一つ不自由のない裕福な生活が送れるぜ?」


「ほぅ、それほどなのか。確かにヒュプニウム鉱脈の発見や取り引きの件でアダムス辺境伯の特使となり通商を成立させた事は知っている。ガルラ王国にとってそれほどの功績だったということだな」


「そ、そうみたいですね。ははは……」


「しかし、ガルラ王とも謁見できるとは。セイルス王国でも高位の貴族でなければ叶わないだろう。そのコネクションはどのように築いたのだ?」


「いや〜、アダムス辺境伯の使者として何度も訪問しているうちに、顔を覚えてもらったんですかね〜。それにベルドさんや奥さんの実家はガルラ王国の大貴族ですし。それでたまたま目をかけて頂いたというか……」


「なるほどな。お前の実力はガルラ王の耳にも届き得たという訳だ」


「そ、そんな大仰なものじゃないですよ!」


 本当は神酒や薬用酒の献上の方が大きかったんだろうけどね。ただガルラ王の名誉に関わる話だから説明する訳にはいかないけど。


「それよりもです!俺は支援物資を届けにここに来たんですから!」


「おお、そうだったな。それは助かる。今回の戦いで我が領内にはかなりの損害がでた。帝国軍の乱暴狼藉によって領民達は物心ともに傷ついているからな。早くも近隣の村や街から支援要請が入っているようだ」


 帝国軍は、コーサイの街に着くまでに侵攻ルートになった街で略奪行為を行っていた。人的被害も勿論だが、財産の強奪や建物等に放火したりとかなり悪辣な事をしていったようだ。クソ野郎どもが!


 しかし、こういう事態を見越してアダムス辺境伯はあらかじめ、ビアトリスに必要な物資の備蓄を要請して俺が預かっていたという訳だ。


「破壊された街の再建は速やかに行わねばならないが、まずは当面の生活確保だ。食料品や日用品、薬といった必需品を被害にあった街や村に配布していかねばならない。ミナト、支援物資をすぐにでも被害にあった村や街に配布してくれ」


「いや待てバラム。必要な荷物はここに置いておけ。輸送は俺達ドワーフ部隊が引き受ける。ミナト。お前はこれからすぐにルカのところに行かねばならんのだろう。俺達に構わずさっさと戻ることだ」


「ありがとうございます!ベルドさん!」


「それにハロルドが待ってるんだろ?早く行かねぇと俺がどやされるからな」


 豪快に笑うベルドの好意に甘えさせてもらい、倉庫に日用品の入った箱を積み上げていく。立ち会った兵士が呆然と眺めていたがまぁ、いいよね!頼むぜみんな!


 満杯になった倉庫を後に俺達は急いで転送装置で双子山へと戻った。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




「ミナトはバーグマン領へ帰ったか。しかし、マジックバッグ持ちとは聞いていたが、あれだけの物資を一人で所持しているとはな。兵士が化け物でも見たかのような顔をしていたぞ」


「そうだろうな。あいつのは特別だ。俺もいままで見たことはない。スキルといい、ドラゴンを倒す実力といい英雄と胸を張れる実力を持っている」


「そのわりに、そう見えんのがミナトの不思議なところだがな」


「あいつは自分を過小評価するきらいがある。ただ同時に自分の弱さも知っている。だからこそリンを相棒として信頼し任せられた。ハロルドとロイも強い絆で結ばれてはいたがハロルドは自分に自信を持ちすぎていたからな」


「ミナトがああだからこそ、従魔の力を最大限まで引き出せてるって事か」


「まぁ、それだけじゃねぇがな。ただリンの強さの源泉はそこだろう。あいつらは二人で一人だからな。一人でいたら逆に心配になる」


「ミナトはまさにテイマーになるべくしてなった男だな」


「そういうこった。しかし、あいつは認めないだろうが領主としても実力は申し分ない。政務官として実務をこなし経験を積んでいるし、今回の件でも作戦を立案し、戦力を差配し、ノースマハをオーサム軍から守った。まつりごとにしても庶民目線で物事を考えられるからな」


「そうよな。この戦いが終われば、エドワード辺境伯が領主に推挙するやもしれん」


「フン、まぁ、無理だろうな。本人にその気がまったくない。それに、アイツには双子山に居てもらわないと困る。暴走しがちな怪物の手綱をしっかり握っておいてもらわにゃならんからな。俺達でも手に余るあの暴れ馬(ハロルド)を御せているのは、あの二人のおかげだ。大したタマだぜあの二人はよ」


「ふむ、やはり、本当にあの英雄ハロルドは生きていたということか?」


「そう言う事だ。……実はなバラム、こんな状況だが俺はワクワクしてるんだ。過去の英雄と今の英雄が手を組んで魔王リデルに対抗しようってんだ。怪物には怪物をぶつけるのが一番いい」


「しかし、いくら英雄と言ってもハロルドにしてもミナトにしても一介の人間だ。リデルに対抗する術があるのか?」


「さぁな。ただあのハロルドがただじゃ転ばない事は、パーティを組んだ俺が一番よく知っている。絶対に何かをしかけてあるはずだ」


「何か?それはなんだ?」


「聞いちゃいねえから、そんなもん分からん。あくまでただの俺の勘だがね。しかしよく考えてもみろ。あの曲者くせもののアダムス辺境伯が何の策も考えずにおめおめ敵の手に落ちると思うか?あの御仁の事だ。事前にハロルドと悪巧みをしていたに違いねぇ」


「悪巧み、か……」


「あの二人に共通しているのは己の地位に執着がない事だ。そういう奴は怖いぜ?どんな手も打てるからな」


「なるほどな。しかし、相手は王家と魔王だ。おいそれと勝てはすまい。流れる血の量はできるだけ少なくしたいが、そうは言ってられんのだろうな」


「こちらも十分手は打ってきたさ。さて、俺達はミナトが降ろした支援物資を各街へ輸送する支度をするか。こういう支援は早ければ早いほど効果的だ。まずは各地に伝令を走らせて受け入れ態勢を整えておいてくれ」


「分かった。こちらも復旧の作業にとりかかる」


「帝国軍がまた戻ってくるかもしれんから警戒は怠るなよ。ガルラ王国としてはもうこれ以上は手を貸せんからな」


「いや充分だ。ガルラ王国の助力、このバラム生涯忘れぬ」


 そして二人は配下に命じ、被害のあった街に向け物資の輸送を開始したのだった。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 場面は変わりここは西セイルスの東端に位置するベルナール平原。普段は何もない穏やかで広大な麦畑が広がるだけの平原は時ならぬ喧騒につつまれていた。


 多数の兵士の軍靴の足音、そして軍馬のいななき。ベルナール平原に雲霞の如く集ったのはセイルス王国の国王アーサーことセイルス五世。率いる征伐軍はおよそ10万。対する西セイルス軍は若き当主エドワード辺境伯を擁する5万。両軍は広い平原を東西に分断するように布陣していた。


 平原の西に陣取るのは西セイルス軍。エドワードを頂点としたアダムス軍を中心とする西セイルスの連合軍であり、ルカが率いるバーグマン軍と、このベルナール平原も領有するイズール子爵の統率するイズール軍がその両翼を担う陣容だ。


 皮肉な事にルカにとって初陣は自らの国の王との戦いになってしまったのである。


 内戦というにはあまりにも大規模な、そしてセイルス国民にとってあまりに無益な戦いの火蓋が今、まさにきって落とされようとしていた……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ