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『俺』とゴブ『リン』~俺のスキルは逆テイム?二人三脚、人助け冒険譚~   作者: 新谷望
6章 英雄ミナト編

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28話 呼び名



 アラバスタから話を聞き部屋に入る。エリスはベッドに寝ていたが俺が入室したのに気づき身体を起こした。


「あっエリス、横になってて。無理しなくていいから」


 俺を見たエリスの瞳には涙が溢れていた。


「ごめんね……ごめんねミー君。皆が戦っている時に、こんな時に……!!私、役に立てなくて……」


 は?な、なに言っているんだエリス!?


 俺は慌ててエリスの傍に駆け寄り両手で彼女の手を握った。


「エリス」


「だって……!!」


 エリスは倒れた時に出血もしていたらしい。でも今のところはエリスもお腹の子も無事だった。ただ、この状態では戦いの前線に出ることはできない。それを申し訳ないと思っているのかエリスは俺に涙をこぼしながらごめんね、と繰り返す。


「大丈夫だよエリス」


 そんなエリスを見て俺は断言した。


「今、この子を守れるのはエリスにしかできないことだから、無理をしないで大事にしてほしい。そしてどうかこの子を守って欲しい。エリス、俺はね、君に宿ってくれたこの奇跡みたいな命に感謝しているよ。だって、俺たちの子供なんだもんね。君が安心して子供が産めるようにこの国の平和は俺が守るから。うん。明日も明後日も10年後も、君と俺の子供が幸せだなって思える世界を守るから。安心して!」


「ミー君……。でも私……」 


 うんうんと俺は頷く。


「心配なことはいくらでもあるかもしれないけど、今はね、ゆっくりするんだ。だってこの世界ではどんな大魔法使いでも命は作れないんだろう?今、エリスはそんな大事業をやっているわけだから」


 そしてにっこり笑っていった。


「他の事は俺達に任せなさーい!なにせうちには、頼りなる家族がいるんだからね!あ、ほら」


 その時、廊下の方からパタパタと軽い足音が響いてきた。


「エリス〜!みんなを連れてきたよー!」


 どやどや入ってきたのはリンとラナ。それとライとタヌ男だ。リンが屋敷から二人(三人?)を連れてきたらしい。そして、ベッドのフチに手を置いたラナがじっとエリスを見つめて言った。


「……エリス、赤ちゃんができたって本当?」


「うん。そうなの」


「……お〜」


 感嘆の声を漏らすラナ。よほど興味があるのか耳としっぽがピコピコと動いている。


「……エリス」


「ん?」


「……あのね。私、女の子が、いいと思う」


「え、えーと、それはまだ分からないわよ。生まれてみないとね。男の子だったらどうするの?」


「男、かぁ……そしたらタヌ次郎、って名前が、いいと思う。タヌ男の次だから……」


「えっ、もう名前まで考えてくれたの?ふふふっ、ふはっ、やだ、笑いのツボに入っちゃったわ!」


「我は我と似た名前は混乱するからやめて欲しいカネ」

 

 タヌ男がぽつりとつぶやく。


「……ん、お世話も任せて。私、赤ちゃんならドッグウルフで慣れてるから。ね、タヌ男」


「ラナ~!人間の赤ちゃんはドッグウルフとは違うんだよ!?成長過程も、何もかも!」


 ライが焦りながらラナに説明しだす。


「……そう、なの?」


 きょとんとするラナを見て、エリスはすっかり笑顔に戻っていた。


「リンもね~、いっぱい遊んであげるんだ〜!いつ生まれるの?一週間後?」


「うーん、もっと時間がかかるかな~?」


「へ~そうなんだ~?」


「……いつからドッグウルフに乗れるかな?……キラーグリズリーでもブラックスパイダーでもキングゴリルもいるから。好きな子に乗せてあげる。ライは何してあげるの?」


「え!?え、えっと……じゃあ、世の中にある謎を解く楽しさををいっぱい教えてあげたいなぁ」


「ええ~!!」


「じゃあ、リンは戦い方をおしえてあげる~!ね!エリスいいでしょ!?」


「うん。みんなありがとう。でもそれは少し大きくなってからかな?」


 三人ともにこにこと目を輝かせてエリスと話を弾ませている。


「さあ、ちょっと話が長くなったね。エリスが疲れちゃうから少し、休ませてあげよう」


「「はーい」」


 その時、ブロスがリンの頭からひょいっとエリスのベッドに飛び降り、彼女の体にやさしくちょんちょんとハサミで触れた。


 暖かくふんわりとした粒子がキラキラと輝きながらエリスを包んだように見えた。


 そして、また急いでリンの頭の上に戻る。


「んっとね、よくねむれるおまじないなんだって~!おやすみ!エリス!」


 エリスはありがとうねと微笑みながら言うと、ベッドに横になった。


 そして、部屋の戸を静かに閉めた時、


「ミナト、リン」


 誰かに呼ばれた気がした。振り返ると数メートル離れた扉の陰からハロルドがゆっくり手招きをしている。


「ハロルドさん。あの、実は……」


「ああ。話は聞いたよ。おめでとう」


 だが、ハロルドさんの表情はその言葉とは裏腹に固く、浮かなかった。


「あ、あのエリスは悪くないですからね!俺が……」

 

 俺の言葉をため息が遮った。


「……今、西セイルスは王軍との交戦中だ。そして、エリスはバーグマン軍の重要な戦力の一角だった。しかし、この状況では彼女を戦場に連れていくわけにはいかない。そしてエリスが抜けるのは非常に痛い。それは分かるねミナト?今の私達は、ラナ達のように無邪気に喜べる立場にはないんだよ」


「はい……」


「バラム子爵やベルド、ビアトリスの働きにより西方面からの脅威はひとまず取り除かれた。君達はこれから転送装置を使ってルカの支援に向かうのだろう?エリスもその一人になっていたはずだ」


 タヌ男が開発した転送装置は一度に五人までの移動が可能だ。当初予定していたメンバーは俺とリン、エリス、そしてロイとウィルだった。


 ちなみにブロスはなぜか五人の制限にかからない。タヌ男も「コイツはな〜んかおかしな存在なのカネェ。一度じっくり研究してみたいカネ」と言っていた。まぁ、元が元だしね。


 転送後、ウィルの任務はバーグマン軍の指揮官としてルカと合流する事。そして、エリスの役割はロイに跨り、上空からの偵察と奇襲を行いバーグマン軍を支援する事だ。彼女にはバーグマン軍の戦力としての役割も期待されていた。


 だけどエリスが離脱した今、ロイに乗れる人はなかなかいない。そもそもロイは自分が認めた人間しか乗せないのだ。


「だからエリスの代わりは私が務めるよ。私ならロイを操れるからね」


「じゃあ、ハロルドも一緒に来るの!?」


 リンが嬉しそうに声をあげた。


「ああ。オーサム、トヨーカの両名がいなくなった今、双子山にそこまでの戦力を置く必要はない。それにエリスの代わりが務まるのは、私しかいないしね」


 確かに西から侵攻してきた帝国軍もバラム子爵とガルラ王国のドワーフ部隊に阻まれ、海上のルートもビアトリスやブリトニーが守りきってくれた。これならハロルドさんが抜けてもバーグマン領は心配いらないだろう


「空中から戦況を把握可能な偵察隊は絶対に必要だ。ロイだけでもいいけれど、私が指示したほうが適切に動けるからね。なんたって私はロイのマスターなんだから」


「えっ?でもハロルド。ロイのマスターはエリスでしょ?ハロルドじゃないよ?」


「あ、そうだったっけ。まあ、マスターじゃなくても長年の友だからね。呼吸くらい合わせられるさ。……さて、ミナト、リン。バーグマン領の次は、ルカを助けにいこうか。フフ、久しぶりに腕が鳴るね」


「ハロルドさん。俺達、ルカ様の元へ行く前に、バラム子爵領へ飛ぼうと思います。あそこはレニング帝国軍の侵攻を受けた。勝利したとは言っても被害は少なくないはず。侵攻による村や街の破壊や略奪も起きているようですし、まずは焼け出された領民の為の食料と日用品を届けてきたいと思います」


「そうか。君の本来の任務は後方支援だったね。よし、それでは支援が済んだらでいい。その後は、我らセイルス王国のボスのお出ましをかぶりつきで拝見しようじゃないか。楽しみだね、ミナト」


「はい、ハロルドさんも……」


「ハロルドだ」


「えっ?」


「ミナト。私を呼ぶならもう「さん」づけはいらないよ。ハロルドでいい」


「ハロルド、ですか?」


「そうだ。私にとって君はもう対等な存在なんだ。君の戦う場所はもう私の後ろじゃない。私の隣なのだからね」


「……」


「君は今まであらゆる経験を積んできた。もうどんな状況になっても自分が何をすべきか取捨選択ができるはずだ。何を取り、何を捨てるか、それを判断する能力が君にはある。君はリンと一緒にそこまで登ってきたんだ。私が頼りにできるほどにね。だから「さん」はいらない。君と私は対等の関係だ。分かったかい?」


「分かりました。……じゃあ、行ってきます。……じゃなかった。行ってくる。えっと……ハ、ハロルド」


「ああ、それでいい。頼んだよ」


 笑顔のハロルドとエリス達に見送られ、俺とリンは屋敷にある転送装置へと向かった。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




「ミナトと行く事にしたのカネ?」


 診療所を出たハロルドに声をかけてきたのはタヌ男だった。


「ああ。せっかくこうして双子山の自縛が解けたんだ。それなら行くしかないだろう?私が留守の間、双子山を任せるよ」


「自らをシャドウ化させるとは……外法に外法を重ねるなど、どれだけ危険で狂気な行為か。お前自身がどうなるか分かったもんじゃないというのにカネ」


「だから私が身をもって検証体になろうって事じゃないか。なぁに、例え駄目でも、私自身が朽ち果てる程度のものさ。その程度のリスクでリデルに会えるなら安いものだ」


「本当にそれでいいのカネ?エリスに子ができたのだろう?顔を見たくはないのカネ?」


「もちろん見たいさ。だからこそ行くんだ。産まれてくる孫の将来に戦乱の禍根を残してはいけない。それに私はもう死んだ人間。それが子供達の未来の為に戦えるなら素晴らしい事だよ」


「フン、そこまで言うなら止めはせん。リデルあいつに一泡吹かせてくるといいカネ。ただし、必ず帰ってくるカネ。お前を必要としている者はまだ沢山いるカネ」


「そのつもりさ。孫の顔を見るまでは死んでも死ねないからね」


「まったく、冗談なのか本気なのか分からんカネ。まぁ、こっちは任せておくカネ」


 そう言うとタヌ男はトコトコと診療所へ入っていった。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 

 ここは西セイルスのバラム子爵領。セイルス王国全体の勢力圏でも西端に位置し、隣国レニング帝国との国境を接する場所にある。


 近年までセイルス王国とレニング帝国の間には表立って対立はなかった。しかし、このところ、にわかに帝国の動きがきな臭くなっていた。訓練と称し、セイルス王国との国境沿い近くに大規模な軍隊が駐留するようになっていたのだ。


 それはアーサーが王位に就いた戴冠式と重なる。それまでにも腑に落ちない動きをしていたレニング帝国に西セイルスを治めるアダムス辺境伯とバラム子爵は警戒を強めていたが、アダムス辺境伯に謀反の嫌疑がかけられたのち、新王アーサーの討伐軍が編成され、西セイルスと軍事対立するに及び、まるで呼応するかのように国境を越え、西セイルスに侵攻を開始したのだ。


「内乱から帝国民を保護するため」という大義名分を掲げ、3万の軍勢でもってバラム子爵領に侵入した帝国軍。陸軍と共に海軍も動員するという大規模なものだった。


 勇躍し、バラム子爵領に攻め込んだ帝国軍。バラム子爵軍の兵数は5000。五倍以上の兵力差。そして、東からはアーサーが王軍を率い、西セイルスに向かっている。この挟撃によりバラム子爵への援軍の余裕はほぼないと思われた。


 まずはバラム子爵領を占拠し、可能であればその先の領土も窺う。帝国軍の首脳陣はそんな青写真を抱いていた。最終的な目的はミスリルとヒュプニウムを産出する鉱山を有するバーグマン領の占有だ。いつの時代も豊かな鉱物資源を産み出す鉱山の存在は所有する国に富をもたらし、また所有権をめぐって戦乱の火種になったのである。


 当初は帝国軍の思惑通りに進んだ。西セイルスを統括するエドワード辺境伯からの援軍はなく、バラム子爵軍は自身の居城のあるコーサイの街に立て籠もり、籠城の構えを見せた。各地を占領し、挑発するように略奪を繰り返しながらコーサイの街に迫った帝国軍。そして、時を置かず一気呵成に任せ攻め込んだ。

 

 全力をもって攻め続けた帝国兵。帝国軍の猛攻に堅い守備をほこるコーサイの陥落は時間の問題と思われた。

 

 しかし、流れは突然変わる。その城壁の上に突如として旗が掲げられた。その旗には翼を広げた火の鳥の意匠が縫い付けられていた。それと同時に頭上の城壁には、見たこともない数の砲台が現れる。


「あの旗は……?まさか、ガルラ王国の!?なぜこんなところにガルラ軍が!?」


 そう思う間もなく並んだ無数の砲台、通称「龍滅砲りゅうめつほう」が一斉に火を吹く。そして砲弾は城に群がる帝国軍に牙を剥いた。


 放たれた砲弾は着弾すると爆発し、破片を広範囲に撒き散らし、帝国兵を容赦なく殺傷した。いわゆる炸裂弾のようなもので、凄まじい威力の砲弾がズラリと並んだ約200の砲台から絶え間なく発射された。


 それは形勢を逆転させるのに充分すぎるものだった。不運な事に帝国軍の総指揮官も砲台の有効射程内に居たため、爆発の餌食となった。


 総指揮官を失い、更に無数の炸裂弾の降り注ぐ中での攻城戦など出来るはずはない。帝国軍は一気に瓦解し、敗走していく。


 それを見逃すバラム子爵ではない。城を打って出ると今までの鬱憤を晴らすかのように帝国兵を散々に打ち倒し、西セイルスから駆逐する事に成功したのだった。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




「う〜、やっぱりあの転送は何度体験しても気持ちが悪いなぁ〜」


「そぉ?リンは楽しいよ。ぐるぐる〜ぐねぐね〜って身体がくにゃくにゃするの面白くない?ところでここどこなの?狭い部屋みたいだけど」


 転送装置を使い、俺達は双子山からコーサイの街へと飛んだ。ただいざ着いてみたはいいけれど。どこに着いたのかは分からない。どこかの家の小部屋のようだ。造りがしっかりしてそうだからお屋敷なのだろうか?各地の転送装置は機密扱いだから、公衆の目にはふれないところに設置してあるはずだけど……。


「とにかくバラム子爵の領内にいるのは間違いないし、まずはここから出ようか!」


「あ、ミナト。ちょっと外に……」


「……ん?外?」


 狭い部屋のノブに手をかけ扉を開けると……。


「むっ?誰だお前は!?」


「……は?」


 扉を開けた途端、目の前には居たのは完全武装に身を固めた衛兵の群れだった。


「こいつ、いったいどこから入りこんだ!?」


「不審者だ!速やかに拘束しろ!!」


「不審者!?……えええっ!?違っ、違うんです〜!!」

 

「黙れ黙れ、大人しくしろ!侵入者め!!」


「えええっ!?ここ、どこ~!?」


 多数の衛兵に囲まれた俺達は、弁解の余地も与えられず、身体を拘束され引っ立てられたのだった。






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