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『俺』とゴブ『リン』~俺のスキルは逆テイム?二人三脚、人助け冒険譚~   作者: 新谷望
6章 英雄ミナト編

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18話 いい日旅立ち



「あっ!ミナトとリンじゃ〜ん!」


「お〜、久しぶりだな!」


「やっほ〜!ジョリーナ!」


 やって来たのは魔術士のジョリーナだった。彼女は俺達と冒険者ギルドの昇格試験を受けたあと双子山でハロルドやセリシア達と魔法の修行に励んでいた。


「ミナト達、王都の冒険者ギルドに行ってきたんでしょ。どうなん?Sランクになれた?」


「ああバッチリ!ほら、これがSランクのカードさ!」


「わお!これがSランクのカード?黒いカードなんだ!?へ~、ぶっちゃけキラキラカードの方がバイブス、アガるんじゃね?今度会ったら偉い人に言っときなよ!」


「ははは。相変わらずだなぁジョリーナ。ん?その格好、また長期修行を命じられたのか?」


 ジョリーナは旅装束を着込み、小さなバックパックを持っている。最近はセリシアさんからの指示で双子山を離れ、修行という名の任務をこなしていることが多い。そんな訳で、拠点は近いのになかなか会えない日が続いていたのだ。


「ん〜、長期っていえばそうかな〜。実はさ、あーしちょっとここを離れることにしたんよね〜」


「離れる?長期間の修行って事だろ?」


「違う違う。あーしさ、双子山ここを卒業するって事」


「は?……え、え〜!?な、なんで!?」


「ええっ!!いかないでジョリーナっ!!うそでしょ!?」


 リンが涙目でジョリーナに訴えた。それを見てジョリーナはふふっと少し悲しそうに微笑んだ。


「あ、ちょっと盛ったわ。戻らないって事はないよ」


「な、なんだよ!びっくりさせるな〜!」


「ただ、いつまでかかるか分かんないんだよね〜。いや〜、セリシアししょーから「最終試験は、見ず知らずの人からあーしの修行の成果がこの双子山まで届くことよ」って課題を出されてさ〜」


「は?見ず知らずの人からってどういう事?」


「要は双子山に聞こえるほど大きな成果をあげなさい、って事っしょ?セリシアししょーマジ、エグすぎん?」


「あ〜!なるほど!確かにそれはいつ帰ってこれるか分からないよなぁ。しかし、セリシアさんも何もこんな時に最終試験を出さなくてもねぇ」


「でもさ~、アンタが散々やってるっしょ?ドラゴンを倒したり、Sランクになったり、他にも鉱山やら学園やらテイマーズギルドやら、アンタの噂はずっとここに届いてたよ。ま〜、ミナトができるんだし、あーしだってちゃ〜んと実力もついてきたし、楽勝〜っしょ?それにロイやセリシアししょーからも「魔法に関しては一人前だ」ってお墨付きってやつ貰って超アガッたし……!」


「へ〜!ロイやセリシアさんから!?そりゃすげえ!」


「ふふん、そうっしょ!あーしのあふれ出る才能がようやく開花したってカンジなんよ!つまり免許皆伝って訳!」


 どうよ!と鼻を鳴らすジョリーナ。免許皆伝かどうかはともかく、あの評価の厳しいセリシアさんが一人前と認めるんだから相当な実力者に育ったのは間違いない。まぁ、「魔法に関しては」ってのがミソなんだろう。でも、最初はどうやってここから逃げ出すかばかり考えていた、あのジョリーナがここまでやれたんだ。ほんと、立派になったなぁ……!


「あーし、ここに来てからずっと修行してたっしょ?だからまだBランクのままだしさ〜。修行期間は決まってないし、まずはパパッとランクをあげよ〜って思ってるわけよ!それにあの時のメンバーはみんな噂を聞くしね」


 ああ、ギルドの昇格試験の時のか。まぁ、エドワードとギースは当主と領主だし、必然的に噂は流れてくる。レオもクエストをバンバンこなしてAランクも間近だとクローイさんも言ってたな。


「でもさ、ジョリーナ。その、ハロルドさんの事はいいのか?かなり長期間の修行になるかもしれないんだろ?」


 すると俺の問いにジョリーナは見てわかるくらいにテンションが下がった。


「セリシアししょーが、ハロ様は幻だって……言ってたんだ。タマゴじじいの幻覚魔法だって。本物じゃないって……」


 うわ!セリシアさん言っちゃった!?それ言っちゃいましたか!?そのあとの修羅場は想像したくないでござる~!!


「ジョリーナ……」


 俺とリンは落ち込むジョリーナを見てなんて声をかけようか考えあぐねた。


 しかし、ジョリーナは急にうつむいていた顔を元気よく上げた。


「でもね、あーし、こんな事で萎えてる訳にいかないって思ったんだ!幻はナイわ~!ってテンサゲなあーしに、ししょーが「あなたはまだ若い。今は色々な場所を巡り、見識を広め、知識を深める時期よ。ここで燻っていてはいけないわ」って言ってくれたの。それから……」


 ジョリーナは俺とリンを見てニカッと笑った。


「ししょーね、顔が広いからあーしのタイプのイケメンたくさん紹介してくれるって言ってたの!セイルス王国のゴタゴタが終わったら、必ずって約束してくれてさ~!ぐふふ……!」


 あ、あ~そりゃあ、セリシアさんはセイルス王国屈指の魔術騎士団の創設者だ。能力のある若い男性を死ぬほど知っているよね。俺が王都で会ったセインなんかも精悍で騎士らしくて格好よかったもんな。こちら側にはついてくれなさそうだったけどさ。


「とにかく!あーしはハロ様の事はスパッと諦めたの!今のあーしはこの魔法が恋人なのだ!ガッハッハ!」


「お、おう。そ、そうなのか……」


「それに、このままここにいたら、セリシアししょーにバーグマン軍に編入されそうだったしね〜「最終試験と指揮官どっちがいい?」っておっそろしい笑顔で言われたさ」


「ああ。バーグマン軍に新設された魔術騎兵隊か」


「いや〜あの時は寒気がしたわ~。でもあーしは、やっぱ指揮官っつーのより冒険者かな~?って。どう?リン、あーし、強くなったでしょ!?最終試験もやれそうっしょ?」


「うん!前よりすっごく魔力が上がってる!ジョリーナすごいよ!きっとエリスみたいにバーンバーン!って敵を倒せるよ!」


「あんがと!……でもやっぱあんたらもパないよね?「強くなってから初めてかる事もある」ってししょーが言ってたけどさ。確かに今なら分かるわ」


「え、そうなの?」


「うん。ミナトもそうだけど、特にリン。あんた今まで、どんな修行してきたの?」


「えっとね〜、ハロルドとかロイとかゲッコウとかと一緒に「えいやー!」って剣と魔法の修行をするんだよ!朝始めたら、いつの間にか真っ暗になってるの!とっても楽しいんだよ!」


「あ、あの連中と一日中……。ヘ、ヘンタイだー!」

 

「ええ〜?強くなるのって楽しいでしょ?」


「シンドイわ!強くはなりたいけどさ〜。リンってホント、変わってる〜。ミナトもそう思わん?」


「ははは、リンは強くなる事に貪欲だからね~、俺と違って」


「いや、あんたも十分おかしいからねミナト。タマゴじじいが言ってた。あんた達はお互いに良い影響を与え合ってるって。テイマーと従魔は関係が長かったり、互いに信頼し合えてたり、絆が深ければ深いほど能力が高まるんだって。まぁ、あのじじいの持論みたいだし、確たる検証もないらしいけど。でも、あんた達をみてたら間違ってない気もするな〜。ちょっと能力が限界突破してる気もするけど。ミナト、あんたってどんなスキル持ってんの?」


「ま、まぁ、俺の事はいいじゃない、ね?でも、双子山に集ってる人たちって物凄い人たちなんだから。その人たちに鍛えられて認められたジョリーナってマジ半端ないと思うよ!」


 エリスからはじまって、ロイ、ハロルド、最後はセリシアって……どんだけ豪華な講師陣なんだよ。術士なら大金を払っても師事したい人達がいっぱいいると思う。


「だしょ~?ふふん!てなわけで、あーしは行くね。まずはAランクにパパッっと昇格して、んでミナトと同じSランクになってみせっから!風の便りであーしの大活躍をきいてくれよな!」


「うん。楽しみにしているよ。……あ、そうだ!せっかくだから俺からもプレゼントをあげるよ。ほらこれ」


 マジックバッグからある物を取り出し、彼女に手渡す。


「わお!これってワイバーンの眼球じゃん!?」


 ドラゴンの眼球には高濃度の魔力が秘められ、魔術士の魔法を増幅する効果を持つ。スカイドラゴンやギルメデスほどじゃないけど、ワイバーンの眼球にも高い魔力が込められているのだ。


「杖にでもつけてくれれば、きっと今の杖より威力が出せるはずだよ」


「でもこれってめっちゃ貴重品じゃん!ホントにいいの!?」


「もちろん。これは一足早い俺からの卒業祝いって事で。あの講師陣の修行をよく逃げずに頑張ったよ。最初はどうなるかと思ったけど、あのジョリーナが立派になったなぁってね!」


「うん!ジョリーナすごく頑張ったもんね!」


「も〜なんなのよ、二人とも!……そんな事、言われ……たら、喋れなくなっちゃうじゃんか……。湿っぽいのはあーしらしくなくて、嫌なのにさ……。明るく楽しくが……私の信条なのに〜!」


 涙声になり上を向くジョリーナ。きっと色々な思いがあったんだろう。


「それで、これからどこに行くんだ?」


「ん〜。とりあえず西の方に行ってみようかなって。まだ決めてないけどさ」


「そっか。帝国領とは近々、ゴタゴタが起こるかも知れない。もし行くなら通行が制限される前に急いだほうがいいよ。まぁ、東も似たようなもんになるかもだけど」


「うげ、そ〜だった!急がなきゃだわ!」


「頑張ってね、ジョリーナ!しばらく会えないのは寂しいけど、必ず双子山ここに帰って来てね!」


「後は荷物管理をしっかりとな!別に任務の途中だっていい。双子山と俺達はいつでも君の帰りを待ってるぜ!……あ、そうだ。一つお願いがあるんだ」


「ほほう、眼球も貰ったしね。何でも言ってみ?」


「王家と西セイルスの戦いが始まって俺たちがピンチになった時、助けにこれたら来てほしいんだ。ひとつお願いします!」


「それってあーし、ヒーローって感じじゃんね?ふっふっふっ、よかろう。このジョリーナさんにお任せよ!それにゴタゴタが早く片付いた方がイケメン紹介してもらえるもんね~!それまでにあーしが、自分で愛するだーを見つけているかもしれないけど☆」


「うん、頼りにしてるからな!」


「また来てね!ジョリーナ!」


 こうして、初めて出会った時と同じようにあっけらかんと、そしてマイペースなジョリーナは笑顔で手を振り、双子山を巣立って行った。


「ジョリーナが旅立つ前に会えて良かったね、ミナト!」


「うん、そうだね。そのうちジョリーナはまた元気に双子山ここに戻ってきてくれる。それを楽しみに待っていよう」


 ……うん、ジョリーナの事だからきっとどえらいことを達成して、そして程なくして俺達にも武勇伝が伝わってくるだろう。楽しみにしてるからな。頑張れよ、ジョリーナ!




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 


 

 ジョリーナを見送った俺達は、一刻も早く屋敷に戻りたい気持ちを抑えて、双子山の麓にある魔力研究所(所長タヌ男)を訪れた。


 訪れたのだが……。


「セリシア!なんで私の了承も得ずにジョリーナを旅出たせたんだい!?」


 入口にたった途端、中から詰問の声が耳に飛びこんできた。そ~っとドアを開け、室内を覗くとハロルドさんがセリシアさんに詰め寄っている。


「あの子は、ここでもう十分に修行は積んだわ。素質はある。あと必要なのは経験よ。あなたもそれは分かっているでしょう、ハロルド?」


「それは分かっているさ。でも君は心配じゃないのかい?魔物に襲われたりするかもしれない、悪い男に引っかかるかもしれないじゃないか!?ああっ、なぜ私に一声かけなかったんだ!ここにいれば私が全力で護ってあげられたのに!」


「はぁ……。護るって何かしら?本当にあなたは……。はっきり言うわね?あなたに言わなかったのはね、言えば反対するに決まってるからよ!昔から可愛い女の子には目がないものね」


「い、いや、違うんだ。だって、まだ対戦型式の修行が終わってない……」


「ハロルド、そういう思わせぶりな態度が女の子を勘違いさせるのよ。いいえ、思わせぶりじゃなかったわね。まったくいつまで経っても変わらないんだから。そういうところよ?」


 畳み掛けるようにハロルドさんを詰めていくセリシアさん。優しい顔をして出てくる言葉は非常にキツイ。


「少しは自分の歳を考えたら?あなたはもう昔のハロルドじゃないのよ?」


「そう、それだよ!なんでジョリーナに私の正体を明かしたんだ!?」


「それはあなたの魔の手から逃すためよ。それなら逆に聞くけど、なぜ自分でジョリーナに正体を明かさなかったのかしら?」


「うっ、そ、それは……」


 もう反論するのはやめておいた方がいいですよ?ハロルドさん。見ていてつらいよぉ。思わずタオルを投げ込みたくなるくらい。でも本来であればハロルドさんだってセリシアさんと同年代なんだから、おじいちゃんが孫のような年齢差の娘を惚れさせていたみたいなもんですからね。そりゃたしかに問題ありますよ。ジョリーナの未来を考えたらさ。


「……あら、戻っていたのねミナト君」


 俺達に気付いたセリシアさんが声をかけてくる。そして、不満げなハロルドさんの声も飛んできた。


「ミナト!聞いてよ、セリシアが酷いんだ!私がジョリーナをもてあそんだみたいに言うんだよ!私は決して弄んでなんかいないのに!ミナトなら信じてくれるだろう!?」


「えーっと、ここに帰ってくる途中、ジョリーナと会いましたけど、うん。仕方がないかなぁって。ギルド本部でハロルドさんの昔の話も聞きましたし」


「ギルド本部?……あ、ひょっとしてマックス?あいつに何か言われたの?」


「ええ、「白き稲妻ホワイトサンダー」のマックスさんです。実はハロルドさんの事を話したんですけど、その時に伝言を預りまして……「本来お前が就くはずだったグランドマスターを俺に押しつけた事。そしてノルンの酒場娘アデルと花屋のベティを横取りされた恨みは忘れてないぞ!」だそうです」


 あ、セリシアさんのまわりの空気が変わった。


「……ハロルド。確かあの時、私達には「マックスがどうしてもグランドマスターをやりたいと言うから譲ってやった」って言ってたわよね?それにあの頃、「もう、女遊びは止めたんだ」って私に言ったわよね?……どうしてあなたは人の心をもてあそぶ癖が治らないのかしら?」


「え!?いや、ち、違うんだ!ミナト、マックスはウソをついているんだ!彼の話を真に受けちゃいけないよ!」


 普段の飄々とした態度はどこへやら、しどろもどろなハロルドさん。


「……とにかくその話は後でじっくり聞くわ。今はミナト君の報告が先。いいわね?じゃないとエリスにこの事を話すわよ?」


 エリスの名を出されて、何も言い返せずシュンとしてしまったハロルドさん。まぁ、仕方がないよなぁ。


「せっかくだから、オスカーも一緒に報告を聞きなさい」


「あ、はい」


 すっかり蚊帳の外だったオスカーに声をかける。研究所にはセリシアとハロルドのほか、打ち合わせの為オスカーもやって来ていた。少し離れた場所では痴話喧嘩などに興味はないと、タヌ男とライが何かの研究機材を熱心にいじっている。


「お待たせしちゃったわね、さ、話して頂戴、ミナト君」


 セリシアさんに促されセインと会った時のやり取りを包み隠さず伝えたのだった。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




「……というわけで、セインは手紙を読むこともなく破り捨てました」


「そう。あの子……いえセインは確かにそう言ったのね?」


「はい。こちらの話はまったく聞き入れてもらえませんでした。お役に立てず申し訳ありません」


「いいえ、とんでもないわ。これであの子の考えが分かった。私の教えたことが、理念が確かに引き継がれている。そうよねぇ、オスカー?」


「そうですね。今の王国内でそのことを貫き通すのは一筋縄ではいかないはず。でもセインなら最後まで守り通すでしょう。セリシア様」


「ふふっ、本当にね。でも、これで私達がどう対処すべきか決まったわ。ミナト君、感謝するわね」


「は、はぁ……」


 手紙が読まれなかったにも関わらず、いつもと変わらぬ穏やかな笑みを浮かべるセリシアさん。え、あれで良かった……のか?


「丁度いいわね。もう少ししたらベルドとビアトリスが来るの。アーサーの戴冠の儀までにやらなければいけないことを話し合う最後の打ち合わせよ。ミナト君も参加して頂戴」

 

 そう言って、柔らかな笑顔のセリシアさんは、まるでお茶でも飲みましょうとでも言うかのような軽やかな口調で俺に告げたのだった。 

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