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『俺』とゴブ『リン』~俺のスキルは逆テイム?二人三脚、人助け冒険譚~   作者: 新谷望
5章 セイルスの闇編

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38話 スレイアム散る!



「久方ぶりだな、スレイアム公」


「アーサー……皇子!」


 混乱する陣容を立て直そうとしているスレイアムの前に現れたのはアーサーだった。漆黒の黒光りする馬に跨り、馬上槍を携えたその姿はまさに王家の皇子と呼ぶに相応しく、威風堂々とした出で立ちに、周囲の兵士も呆然とこの貴公子を見つめている。


「スレイアム公。貴殿はセイルス王より北ナジカを治め、民を安寧に導く重大な責務を与えられたはず。にも関わらず、佞臣に惑わされ兵を挙げるという暴挙に及んだ。これはいかなる仕儀だ?」


「だ、黙れ!貴様こそ王より統治を任されたロレッタやリーベイを惨殺し、領土を我が物としたではないか!貴様こそ恥をしれ!」


「リーベイは暗愚。奸臣の言に惑わされ私利私欲にはしった。委任統治されているのを良いことに重税を課し、領民を苦しめた。そしてロレッタもまたしかり。自身の欲望の為、いたずらに兵を動かし、旧ナジカ領土を全て我が物にしようと目論んだ。そうであったな、スレイアム公?」


「ぐっ……!」


「王家が手放した領土コーネストを巡って、「ロレッタが自身の私腹を肥やすため、領土拡張を狙いコーネストを武力で制圧しようとしている」と訴えたのはその(ほう)ではないか。「正義を示すため、逆賊ロレッタを討つため加勢してほしい」とも言った。その進言を受け入れ、ロレッタを捕らえたのだ。その事、よもや忘れてはおるまいな?」


「な、何を言う!その後、貴様はコーネストのみならず南ナジカまでも全て王家が併呑へいどんし、そのくせ私には寸土すんどすら渡さなかったではないか!コーネスト割譲は私とロレッタを争わせるよう仕向けた貴様の謀略だったのだろう!?」


「ハッ!謀略……?自らがしてきたおこないを顧みるがよい。貴様ら王族は()が強く強欲。余が思った通り餌を眼の前に放れば、血を分けた同族同士であるにも関わらず獣のように戦いを始めた。しかし、欲とは醜きものよ。こうも簡単に喰い付いてくるとはな。貴様らのような愚劣な人間ばかりだと、余の国を再興するのは容易いのだがな」


「おのれぇぇぇー!貴様……やはり最初から罠に嵌める気だったのだな!?」


「クックック。貴公のおかげでこちらは労せず、ロレッタを排除し、南ナジカを支配下に置く事ができた。そちの存分な働きぶり、感謝しておるぞ。しかし、もう用済みだ」


「お、おのれ、言わせておけば!貴様の正体は分かっておるぞ!アーサーに成りすました姑息な魔族め!この場で斬り捨て、ローザリア城にお主の首と我が旗を掲げてやる!今ここで斬り捨ててくれん!」


 そう叫ぶとアーサー目掛け馬を駆った。突撃する彼の後に親衛隊が続く。槍を構え、渾身の一突きで一気に勝負を決するつもりだ。


 一方のアーサーはただ一騎、槍を構えることなく、不敵に笑みをたたえたままだ。


「ふっ、スレイアムよ。勇ましさは将たるものに必要な資質。だが相手の力量も推し量れぬようでは匹夫ひっぷゆうに過ぎぬ。愚民ども、余の前にひれ伏せ!!」


 アーサーの瞳が妖しく光り、魔王の眼光が発動した。その瞬間、


「ひっ、ひぃー!!」


「ぎゃー!!」


「あわわ!た、助けてくれー!」


 突如、スレイアムに付き従っていた親衛隊が我を忘れたかのように恐慌状態に陥った。魔王の眼光は見たものの精神を揺さぶり、冷静さを奪う。正気を保てなくなり、恐怖が思考を支配してしまうのだ。


「皆のもの目を覚ませ!このような虚仮威こけおどしに乗るでない!貴様らそれでもほまれあるフェルモの兵か!!」


 恐慌状態に陥った兵達。その中でスレイアムのみが正気を保っている。


「ほぅ、眼光が効かぬか。なるほど、さすがは腐っても王族という訳だ」


「ハッ!このような姑息な攻撃が通用するとでも思うたか!このスレイアムをなめるなー!!」


「だが足りぬ、余には到底届かぬよ。お前はここで死に、セイルス王国は我ら魔族が支配する」


 アーサーのにやりと笑う目にはあざけり色が映る。その表情はプライド高いスレイアムの感情を逆なでした。


「正体を現したな、小賢しい魔族め!我が王国を貴様らごときに渡さぬ、この槍のさびにしてくれる!」


 そう叫ぶなりスレイアムが自らの腕力の威力が乗った渾身の一撃を放つ。しかしアーサーは華麗な槍さばきで受け流す。


「ちっ、小癪な!」


「誇りに思うがよい。魔王リデルの槍を受けられる事をな」


「ほざくな、貴様を倒し私がセイルスの王になるのだ!!」


 目にもとまらぬ早業で次々に攻撃を繰り出すスレイアム。それに対してアーサーは防戦一方だ。


 スレイアムは王族でありながら、将兵を統率する武人でもある。同族のロレッタやリーベイが軍事に疎く、部下の将官に任せきりなのに対し、自ら戦局を見極め、兵を動かす才能を有していた。


 それと同時に、自らの武勇にも自負と誇りを持っている。そして今、精神を病み、アダムス辺境伯に食ってかかった姿は影を潜め、スレイアムは戦場で自らの覇気と気概を取り戻し、鬼神の如き勢いで攻撃を繰り出し続ける。


 ……だが、さきに体力の限界が来たのは槍を繰り出し続けたスレイアムの方だった。


「……はぁっ、……はぁっ!」


「どうしたスレイアム。もう息が上がったか?」


 激しく打ち合う事、数十合。肩を激しく上下させるスレイアム。数か月間彼を蝕んでいた精神の病が限界を早めたのだろうか。対してアーサーは呼吸を乱していない。最小の動きでスレイアムの攻撃を受け流し続けていた。


「なぜ余があえて防御に徹していたか、これで分かったであろう?スレイアムよ。貴様は勝ちにはやり、己の力を過信し、気づいた時には逆に追いつめられた。自らの衰えを認められず、全盛期の幻影に囚われた。実に哀れなものよな」


「……黙れ、小僧!!このスレイアムをなめるなぁ!!」


「甘いわ!」


「ぐうっ!?」


 スレイアムの放った一撃をアーサーがその槍もろとも弾き飛ばした。スレイアムの手を離れた愛槍が放物線を描き、地表に突き立った。


「教えてやろう。槍とはこう使うのだ!」


「……っ!ガハッ!?」


 アーサーが放った槍が、武器を失ったスレイアムの鎧を貫き身体を深々とえぐる。


「お……おのれ……魔族め!……き、さまなぞに、王国は渡さぬ……!」


 身体を貫かれてなおスレイアムの瞳は燃え上がり、アーサーをとらえている。


「まだ分からぬか?貴様らなぞ、余の踏み台に過ぎぬ。恨むなら自らの醜く強欲な性根こそ恨め」


「ぐうっ……無念……!。……あ、あとは頼みましたぞ、|叔父上……必ずや、この男を……!……この国……を守って下され……。セイルス……王国に……栄光あれ!……ぐふっ!」


「心配するな。この王国を使い、余が世界を制覇してやる。魔族が支配する地上を地獄の底から歯ぎしりしながら見守るが良いわ。ククク……ハーッハッハ!!」


 絶命したスレイアムを見下ろすアーサーの笑い声が戦場に響き渡った。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




 この後は一方的な掃討戦となった。主を失ったフェルモ軍は大魔法から生き残った将官が何とか敗残兵を纏め、退却しようとしている所に、これまで伏兵として潜んでいたマージナイツに背後から奇襲を受ける。これによりフェルモ軍は崩壊。兵はちりじりになってしまった。東セイルス軍もまたその大半が死傷し消え去った。


 アーサー率いるセイルス王国正規軍の動きは速かった。反乱軍を打ち破った勢いはそのままに北ナジカへと進軍したのだ。

 

「主君スレイアムは討たれ、反乱軍は壊滅した」


 その報に触れ、あるじを失った北ナジカにある各拠点は次々に降伏していく。そしてわずか数日の間にアーサーは北ナジカの中心で、スレイアムの本拠地レートニアを陥落させた。


 この結果、王都ローザリア以東の地は全てアーサーの支配地に塗り替えられたのだった。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




 一方、戦いが終わったオルトリア平原。兵士達が命をかけた戦場の喧騒は嘘のように去り、平原には一時の静寂が戻った。しかし、その静けさとは裏腹にあたりは目を覆いたくなるばかりの惨状が広がっている。


 両軍合わせて十万近い大軍勢が雌雄を決した戦場だ。さらにアーサーが大魔法を発動させ、おびただしいまでの数の兵士がむくろを晒している。連合軍を打ち破ったアーサーは休む暇もなく北ナジカに侵攻し、その結果、多くの亡骸はそのまま打ち捨てられる事になった。


 死臭と血の匂いが鼻をつき、目を背けたくなるような、まさに地獄絵図だ。


 軍が去るとそれと入れ替わるようにどこからともなく、沢山の人々が現れる。


 彼らは近隣の村や街に住む住人、幼い子供の姿もある。人々の目的は亡骸となった兵士達の武具、そして打ち捨てられた物資、使えそうな道具の回収。それらを売却し、生活の足しにしようという目論見だ。


 もちろん、戦場での略奪行為は禁止されているが、戦いが起これば戦場付近に住居する領民にも少なからず被害が出る。その補填という意味合いもあり、また遺体を放置すると魔物や獣を呼び寄せてしまう。


 その為、「戦場で散った兵士を供養し埋葬する」という建前で持ち去り行為は事実上、黙認されていた。集まった人々は使えそうな武器や道具をあらかた回収し終えると、大きな穴を掘り、そこに亡骸を運び埋葬していく。


 戦場という場所柄、立派な墓など望むべくもない。作られるのは亡骸を埋め、削った杭を目印に打ち付けただけの簡素なもの。それならまだいい方で、中には近くの森や谷、川に放り込んでおしまいにするような事もある。当然、遺骸は魔物を呼び寄せ、また遺体がゾンビやレイスに成り果て、新たな惨劇を生む事にもなった。


 今回は大規模な戦いであり、大魔法が使われたことで死傷者もおびただしい数に上る。全ての残務処理が終わるまで少なく見て数日はかかるだろう。


 そしてどこから現れたのか、周辺にはいつの間にか武具や物資を買い取る商人が集まってきて、簡素な店が次々に立つ。それらが小さな市場を形成していく。


 遺留品を手に入れた側も重い武具を持ち帰るより、貨幣に替えたほうがずっと楽だ。その為、市場価格より安くとも、貨幣に換えようとする人々でどの店も活況を呈していた。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




 ……そんな戦場から少し離れた小高い丘に人々を眺める一組の男女が佇んでいた。一人はアロハシャツのような派手な上着を着こなした老紳士。もう一人は静かな物腰が印象的な老婦人。マナーズ公爵とその妻、セリシアであった。


「……ふむ、そう簡単にスレイアムが押し切る訳はないと思っていたが、やはりアーサーは切り札を持っていたか」


「そうね、あの男が策もなく動くとは考えられませんものね」


「アーサー軍が連合軍に対して少ない三万の兵で迎えたのは、大魔法とマージナイツを用意していたからなのだな」


「ええ、ただ、精鋭部隊とはいえマージナイツ自体の数は恐らく1000騎程度しかいなかったわ。きっと連合軍に感づかれないよう、旅人や商人に変装して諜報部隊の目を掻い潜ったんでしょう。でも例えマージナイツがいなくともアーサー率いる正規軍は勝っていたでしょうね。セイルスの秘宝の大魔法聖なる光の矢シャイニングアロー……。あんな大魔法を使われては、連合軍は成すすべがなかった」


「辺境伯の進言を受け入れていれば……。いや、詮無きことか。スレイアム公はすぐれた名将であったのだがな。さぞ無念であったろう……。おお、彼の魂が安らかに天に還れるように」


 そして、マナーズ公爵はこの戦で散ってしまったたくさんの命にもそっと心の中で祈りをささげた。


「もしもは無いけれど、大魔法がなければこの戦いは逆にスレイアムが勝っていたわね。アーサーは北ナジカと西セイルスの挟撃を警戒していた。だからあれ以上の派兵はできなかったはず。ただスレイアム公から見れば三万という絶妙な兵数が好餌こうじに見えてしまった。彼は自らアーサーの罠に飛び込んでしまったのよ」


「ふむ……ではアーサーが大魔法を使ったのは他に方法がなかったからともいえるのか」


「ええ。だからアーサーは本来、外敵に放つはずの虎の子を身内であるスレイアムに使用せざるを得なかったのよ。それにしても、フェルモ軍には北ナジカで徴兵された兵も多かったわね。旧ナジカ地方はセイルス王国に併呑されて間もない地。占領地域である旧ナジカにおける統治者であった王族達の搾取は苛烈なものであったから、この内戦の混乱に乗じて旧ナジカの各地で住民達による武装蜂起がおこるかもしれない。これからセイルス王国は、旧ナジカ地方の統治に頭を悩ませることになるわね。スレイアムの後任者はきっと苦労するでしょうね」


「なるほど。では私達がやるべきはこの教訓を西セイルスの為にどう生かすかだな」


「そうね。まず最初にやる事は決まったわ」


「おお、決断が早いな。さすが我が愛する妻よ!」


「ふふっ、それじゃ急いで「あの人」に報告しましょ。私達が西セイルスに戻るまでに色々と用意してもらわなくちゃね」


 そういうと二人は未だ人々が動き回る平原をあとに、いずこかへと姿を消した。



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