31話 ミナトとガルラの王
「うわぁ!大っきい街だね、ミナト!」
「うん、セイルス王国もそうだけど王都ってやっぱり栄えてるなぁ」
馬車の車窓にかぶりつき、そこから見える街並みをリンが楽しそうに眺めている。
ルコール家の領地を出発してから3日後、俺達を乗せた馬車は無事、ガルラ王国の王都イスベルに到着した。
到着するしばらく前から城壁らしいものが見えていた。それはかなりの規模だろうというのが遠くからでも分かったが、到着すると改めてその大きさを実感する。
「ねぇミナト。壁に窓がいっぱい付いてるよ!」
「あ、ホントだ」
遠くからでは気づかなかったが、がっちりとしたいかにも頑丈そうな城壁の壁面には無数の開閉式の金属製の大窓が取り付けられ、それが等間隔にズラ〜っと設けられている。
「あの城壁の大窓の中には大砲が配備されておりますの、万が一敵が攻めてきた際は大いに活躍してくれるはずですわ」
ディアナが俺達の疑問に答えてくれた。どうやらあの無数の大窓は大砲狭間だったらしい。敵が攻めてきた際には大窓を開放し、一斉に砲撃するようだ。
ほ〜。無数に設けられたあの大窓にビアトリスさんの所有する船に乗っていたような大砲が大量に配備されているのかぁ。それを無視して近づけば尋常じゃない被害が出るだろう。うむむ……さすがドワーフ族の王都。セイルス王国にもない兵器をもってるなぁ。
俺達を乗せた馬車は城門にさしかかる。検問を受けるために並んでいる人々を横目にその隣にあるもう一つの城門へと向かう。ものもしい装備を身につけた衛兵達が一斉に敬礼するその脇を通り抜け、馬車は王都イスベルへに入った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「お~!人がいっぱい!」
リンが歓声を上げる。さすが王都。セイルス王国と同様に、たくさんの人々が行きかい活気にあふれている。ドワーフ族の治める街だから工業街な街並みを想像していたが、ローザリアと雰囲気はそれほど違わない。
「あ!ミナト、見てみて、あれ!」
リンの指差す先。街の大通りには線路が引かれており、その上を客車を牽引した機関車が走っていた。停留所のような場所も設けられており、そこで到着を待つ人の姿も見える。
「あれは魔力を動力とした牽引車ですの。イスベル全体に鉄路が張り巡らされておりまして、乗れば王都の何処にでも行くことができますわ」
「既に機械を動力とした乗り物があるんですね」
「ええ、将来は馬車に代わり、ガルラ王国内に鉄路を敷く計画もありますの」
へぇ~、さすがドワーフ族の国。フォルナでも技術が進んでいるなぁ。
大通りには並ぶ店も数多くあり、様々な品物の店がある。やはりドワーフらしく、鍛冶屋や金物店が多いが更にその上をいくのが酒屋や酒場などアルコールを取り扱っている店だ。
「一口にお酒と申しましても高品質の上物から市井の安酒まで様々な種類がありまして、特上の物はマスタークラスと呼ばれる称号を持った工房の職人が造るお酒ですわ」
「あ、それ以前にベルドさんから聞いたことがありますよ。なんでも王様に認定される必要があって称号を持つ工房は十指に満たないとか」
「その通りです。ルコール家はそのマスタークラスの筆頭を務めさせて頂いておりますの」
さすが大貴族にして酒を司る名門ルコール家。ディアナと様々な話で盛り上がるうちまたたく間に時は過ぎ、もうじき夕刻に差し掛かろうかといったその時、ある邸宅前で馬車が止まった。
「着きましたわ。ここがハンマ家の御屋敷です」
着いたのはひときわ大きな豪邸前だ。馬車から降り、高級感溢れる御殿で周囲を見わたすと、衛兵がそこかしこに配置され、建物の豪華さから一目で貴族や高級官吏が住むエリアだと分かった。
「これがハンマ家の邸宅……。てことはここがベルドさんの実家かぁ」
「ルカのお家よりおっきいね~!」
邸宅を見上げている俺達を馬車から降りたハラードさんが招き寄せる。
「おう、ミナト。明日はいよいよガルラ王との謁見だ。お前らは今日は俺の屋敷で休め」
ひとまずディアナさん達とはここでお別れだ。同行したエリザベートさんにお礼を言うと「あんなに楽しそうなディアナを見るのは久しぶりだわ。何かありまして?」と何故か嬉しそうに聞かれ、
「何でもありませんわ。ねぇ、ミナトさん?」
「え〜っと、そうですね。あははは……」
「安心してくださいな。あの秘密は誰にも話しませんから」
「秘密?それは母にも言えない事ですか?」
「ええ、その通りですわ。どうか気にしないでくださいまし。ミナトさんお手紙楽しみにしておりますわ!」
と笑顔でそう言われ、なんて返していいか返答に迷ってしまった。
うん、楽しく話をしただけだよ?決してやましいことはない……よね?
馬車を見送ったあと、ハラードを先頭にハンマ家の屋敷へと入る。
「ハラード様、お帰りなさいませ!」
ズラッと並んだ使用人達が一斉に頭をさげる。その中央で俺達を迎えたのはベルドの奥さんのアガサだった。
「お帰りなさいませ、御義父様。……お久しぶりですね、ミナトさん。ようこそハンマ家へ」
「はい。お久しぶりですアガサさん。お世話になります」
「大したもてなしはできんが、今日はゆっくり休んで疲れを癒してくれ。食事の時間になったら声をかける。ああ、王に渡す親書を預かっておこう。謁見前に王城に届けさせておく」
「分かりました。ありがとうございます。ハラードさん」
「どんなご飯かな。楽しみ〜!」
いつものようにご飯と聞いてウキウキしているリンとブロス。そして、コンラッドがハラードに声をかけた。
「ハラードさん。私は少し街を散策したいのですが構いませんか?」
「ん?ああ、構わんぜ。ただ門限までには戻ってこいよ。締め出されるからな」
「分かりました。ミナトさん、私は少し街の様子を見てこようと思います。門限までには戻りますので」
そう言ってコンラッドは屋敷を出ていった。
そして、夕食の時間になった。大したもてなしはできん、というハラードの言葉はなんだったのかというくらいの豪華な食事が並んでいた。ドワーフ族の食事は全体的に味が濃い目で、旨味もたっぷり。肉も魚もこれでもかといわんばかりに並んでいる。ん~、んまそう~!
ここでもリン無双(?)が発動し、ブロスとともにおおいに食べ、出された料理が次々に無くなっていく。いつでも美味しく楽しく食事を進めるリン達を見てハラードもアガサも「小さいゴブリンのこの食欲ドワーフ族よりも大食漢かもしれん」と楽しげに笑っていた。
そして次の日、俺達はいよいよガルラ王との謁見へと臨むのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ガルラ王国の王城イスベル城に到着した。案内役の衛兵に先導された俺達一行の目に飛び込んできたのはドワーフ族の技術の粋を集めて造られた建造物の数々だ。
ある場所にはまるで日本の庭園のような庭があり、さらに人口的に岩壁が作られ、そこから滝の水が流れ落ちている。かと思えば大きな人工池に西洋風の噴水が設けられており拭き上げる水流が見事な水の華を咲かせていた。
質実剛健なドワーフ族のイメージを覆す、綺羅びやかな景色を堪能したその先にガルラ王国の王城イスベル城があった。
「セイルス王国の御使者様、到着なされました!」
伝令の兵士が俺の到着を告げる。目の前には謁見の間へ続く大扉。その豪華で重厚な扉が左右にゆっくりと開いていく。
ううっ……、いよいよだ。緊張するな、緊張するな、落ち着くんだ俺!
『ミナト、大丈夫?ガチガチだよ?』
俺の後ろからリンの念話が聞こえてくる。リンは今回ばかりは肩車で入場というわけにもいかず、俺の後ろを歩く付き添い役のコンラッドに抱いてもらっている。
「ミナトさん、気負わなくても大丈夫です。何かありましたら私がフォローしますから。交渉の際は気持ちを大きく堂々と、ですよ」
後ろからコンラッドが小声で励ましてくれる。うう、俺は西セイルスの代表なんだからおたおたしちゃいけないことは分かってるんだけどさぁ。でもこんな場面でも平時と変わらないコンラッドってどんだけ~!
「さぁ、使者殿。王の御前に」
衛兵に促されゆっくりと一歩を踏み出す。落ち着け……落ち着け……。と心の中で念じつつ、敷かれた長い長い絨毯を歩いていく。
「あれが例の男か?」
「ああ、あの神酒を持っていた人族らしい。その功績で他国にヒュプニウムの精錬所を作らせた」
「なんと。前代未聞のことではないか」
「私はドラゴンを単独で討伐したと聞いたが?」
「しかし、そのような事ができる武人には見えん。デマではないか?」
居並ぶガルラ王国の家臣百官からひそひそと話声が聞こえてくる。その言葉を浴びながら静かに進み王の玉座へと続く階段の前で立ち止まると頭を下げる。家臣団の中でも一番玉座に近い位置に向かって右側にハラード、そして左側をエリザベートが占めていた。
「ガルラ王の御意を得ることができ、光栄に存じます。西セイルスの使者ミナトと申します」
使者として儀礼上の口上を述べる。一生懸命に暗記したおかげでなんとかトチらずに済んだ。
「うむ、余がガルラ五世である。苦しゅうない。面をあげよ」
顔を上げるとそこには王冠をかぶり豊かな髭を蓄えたドワーフが王座に腰を下ろしている。人族に比べて比較的背の低いドワーフ族においても少し小柄な印象だ。ハラードの話していた通り、病弱ゆえのやつれが見てとれる。しかし、その眼光は強くいささかの揺らぎも見られない。王族が持つ周囲を圧する威圧感をこのガルラ王もまた持っているようだ。
「使者ミナトよ。ガルラ王国によくぞ参った。西セイルスとのヒュプニウム取引が無事に成立し、嬉しく思う」
ガルラ王のゆっくりとした、しかし威厳のある声が謁見の間に響く。
「はい。アダムス辺境伯から、これからもガルラ王国とは永く友好関係を築いていきたいとの言伝てを預かっております」
「うむ。余もそうであってほしいと願っておる。ところで、話によればアダムス辺境伯は我が国と通商を望んでおるようだな?」
「はい。辺境伯はガルラ王国の優れた製品を是非とも西セイルスに導入したいとの考えを持っております」
「ほう、西セイルスとの通商をとな?」
今の西セイルスの置かれている状況を包み隠さず話す。ヒュプニウムの取引に関して協定が結ばれたが、それはあくまでも西セイルスとガルラ王国との間の事。もし、協定推進派のアダムス辺境伯が西セイルスの盟主の地位を追われるような事態が起きれば、結ばれた協定もその効力を失いかねない。
それを防ぐ為、そして王家との戦力の均衡化をはかり、内戦を防止する抑止力の為にガルラ王国の兵器を導入したい、というアダムス辺境伯からの要望を伝えた。
「我がガルラ王国は人族に与しない。我が国が人族の戦乱に巻き込まれることを良しとしていないのだ。分かるか?使者ミナトよ」
「それは重々承知の上です。しかし、これはセイルスの民の命を護るために必要な事なのです」
「ほほう、民の命をとな?しかし、その為に民を殺傷する兵器を導入するというのは矛盾しているとは思わぬか?」
「確かに話し合いで解決できるならばそれが最善です。しかし、少なくともセイルス王国において、王家と話し合いのテーブルにつくためには戦力の均衡化は必須事項です。戦力不利なままでは相手はこちらをあなどり、交渉の糸口もつかめないでしょう。セイルスの王族がそうだったように、です」
「……アーサー皇子についての噂。我が耳にも入っているが、あれは真実か?」
「はい。この目で確かめました。今のアーサー皇子ではいずれフォルナを巻き込んだ大戦になる恐れがあります。アダムス辺境伯は何としてもその前に食い止めたいとの考えを持っています」
俺の話を聞いていたガルラ王が問いかけるようにハラードに視線を移すと、彼は無言で頷いた。
「……なるほどな。西セイルスの状況は理解した。しかし、やはり国を動かすとなると様々な事情が絡む。更にもし、それが王の承認を得たとしても条件を詰めるのにも日数がかかる。西セイルスが期待する効果を得る前に最悪の事態が起きる懸念があるな。……ときにミナトよ。アダムス辺境伯は王位に興味があるのか?」
「……えっ!?」
それは思いもよらない問いかけだった。
「王よ。今、そのような話はこの場ではいささか……」
やんわりと止めに入ったハラードを手で制しガルラ王が続ける。
「ヒュプニウムを通じて西セイルスとは繋がりができる事。それは確かに喜ばしい。しかし、その利益以上に我がガルラに不利益が生じるならば、此度の取引には何の意味もない。アダムス辺境伯は「その先」を見据えてこの取引に応じたのか?どうだミナトよ」
肘掛けに頬杖をつき、じっと俺を凝視するガルラ王。
返答に困った。アダムス伯からはそんな話は聞いたことがなかったからだ。
ガルラ王の突き刺さるような視線に俺の頭の中が、思考がぐちゃぐちゃにシェイクされる。
どうする……なんと答えるのが王にとっての正解なんだ……!?
瞑目し、暫し頭の中で考える。でもこれといった考えは浮かばない。
……もういい、どうにでもなれ!
覚悟を決めゆっくりと目を開く。
「……畏れながらガルラ王。私自身、アダムス辺境伯からそのような話は聞いたことがありません。ただ辺境伯は聡明な人です。後先考えずに行動するような事はないと思っています」
「ふむ……」
「私はアダムス家の家臣ではありませんし、そもそもアダムス伯がそのような秘中の秘を安易に周囲に漏らすでしょうか?もしそのような人物であるなら、民の上に立つ者として軽率といわざるを得ないと思います」
俺が出した結論は「偽らずに話すこと」だった。相手は一国の王。どんなに取り繕おうが誤魔化そうがいずれバレる。それで責任を追及されたら目も当てられない。だったら自分が解る事を嘘偽りなく話すことがもっとも誠実だと思ったんだ。
「なるほど。では家臣ではないお主を使者に選んだ真意は?」
「それはこの取引において私が一番適しているからでしょう。不遜ながら、セイルス王国においてガルラ王国に最も貢献したのはこの私であるという自負がありますので」
家臣団からざわめきが聞こえる。
「ガルラ王に献上された神酒は元々私の持ち物でした。更に最近ガルラ王国にて開発された飲料を入れる缶、それもしかり。そしてこの度の薬酒もそうです」
「ほぅ。それはまことか?エリザベート」
王が傍らに控えるエリザベートに問いかける。
「はい。間違いございません。ミナトの持つ薬酒に強い滋養強壮の効果が認められましたゆえ、エマールを通じ献上させた次第です」
「そうか。あの薬酒もお主がな……してミナトよ。あれだけの品、どこで入手したのだ?」
「無礼を承知で申し上げます。まことに畏れ多いことですが、これは衆人環視の元で軽々に明かせるものでは御座いません。何卒お察し頂ますようお願いいたします」
「そうか。ならば深くは聞くまい。してアダムス辺境伯の希望は我が国との通商であったな。……ハラード、そちはこの件どう思う?」
「はっ、おそれながら申し上げる。我が国とセイルス王国においてはこれまで表立った交流はなく、位置関係からも交易も極めて少量でありました。そもそも通商条約は国と国との間に結ばれるもの。故に西セイルスとの条約は難しいと思われます。……であればここは先例に倣うのがよろしいかと」
「先例とな?」
「過去には特例として我が国に功績のあった者に特別に国内において交易を認めた実績があります。西セイルスにおいてはキュアポーションの特許と引き換えにフリール商会に交易を認めました。ミナトの功績を鑑みればその条件を充分に満たしていると存じまする」
「あいわかった。ミナトよ!西セイルスとの交易は難しいがその功績に免じ、その方個人に対し、ガルラ王国内での取引を許す。よいな?」
「は、はい!ありがとうございます!ガルラ王!」
「うむ。ではあとはゆるりとガルラ王国で過ごすと良い。以上だ」
そう言うと、ガルラ王は席を立ち退出していった。そして俺達も謁見の間を辞し、王城を出る。その瞬間、それまでの緊張の糸がフッと切れた。
「よっしゃー!これで何とか面目が立ったぞー!」
「やりましたね、ミナトさん!よくぞ成し遂げました!これでガルラ王国との取引が可能になりましたよ!」
コンラッドも満面の笑みで俺を讃えてくれる。
「いや〜、どうなることかと思ったけど、なんとかなったね。あ〜、安心したぁぁぁ」
「では、今宵は私が探し当てた料理屋でパーっといきましょうか!ハンマ家にはあらかじめ伝えておきます」
「お〜、いいね!そうしよう、そうしよう!」
初めての国外への旅。そしてガルラ王との交渉はなんとかアダムス辺境伯の望む想定内での結果で終わらせる事ができた。にしても今更ながら胃が痛い。胃潰瘍にならないといいなぁ。あ、そっか。キュアポーション飲めばいいのか。
……ってもうこんなストレスマッハな任務を押し付けないで欲しい!もう頼まれても絶対やらないんだからねっ!アダムス伯ぅ~!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
謁見が終わり、私室に戻ったガルラ王はソファに腰を下ろすとふーっ大きなため息をついた。その顔に先程までの周囲を圧する威圧感は消え失せている。
「お務めお疲れ様でしたな、御立派でしたぞ」
「全く、威厳のある王を演じるというのは大変だな。ハラ―ド」
そしておもむろに髭を掴むと口元からつけ髭が剥がれる。実はこちらが素の顔であった。顔色の悪さを隠したり威厳を醸し出すのに付け髭とはなかなか良いアイデアだと思う。豊かで立派な髭は雄々しくガルラ王国を統率する自分に生まれ変われるような気持ちになれる。それを進言してきたのは忠臣ハラ―ド。ガルラ王は彼に全幅の信頼を置いていた。
「……しかし、本当にあれでよかったのか?」
「と申されますと?」
「ヒュプニウムに関しての取引は西セイルスと結び、そのくせあちらが望む通商条約は国同士の事柄だと拒否する。相手からみれば王の権威を利用したなんとも身勝手な話だ、そうとられかねないのではないか。どう思う?ハラード」
「王は実にお優しい御方だ。常に相手を慮りお慈悲をおかけになろうとなさる。しかし、これがガルラ王国の未来の為であり、ガルラ国民を守るための正しい選択なのです」
「正しい選択かぁ。ではその代わりにミナト個人に王国での自由な交易の許可を与えるのも正しい選択なのかな?」
「御意。さらに将来的には彼に西セイルスにおいて特定品目のライセンス生産を認めるのも宜しいかと」
「そこまで彼に与えて丈夫なのかい?」
「生産は彼の工房に限る、と約束させるのです。幸いな事にその工房には我が不肖の息子が工場長として着任しておりますので」
「おお、ベルドがか!最近は顔を見せぬと思っていたが西セイルスにおったのだな」
「はい。奴を監視役とさせ、その工房でのみ、ライセンス生産を認めるという条件ならばそれほど難しくはないでしょう。元々あの工房にはヒュプニウムの精錬所もありますので」
「なるほどな。分かった。ではあとの事はお前に任せる」
「はっ、この爺めにお任せください」
「しかしミナトか、なかなか面白そうな男だったな」
「はい。一見、気弱そうに見えますが、あれでなかなかの胆力の持ち主です」
「ふむ。確かにドラゴンを一人で倒したような猛者には見えないがな。恐らくはあのゴブリンが鍵を握っておるのだろう?」
「御意。まさしくテイマーを体現しているような男です」
「そうか。……しかし残念だ。彼がこのガルラ王国に産まれてさえいれば今頃、重臣の一人として名を轟かせていただろうに。彼とはきっと話が合う。そう思うのだがな」
「そうですな。何やらルコール家の跡取りとも親しくしているようで、あれでなかなかのやり手かと」
「ははは、そうか。しかし私もあの薬酒のお陰か、何やら気力がみなぎってくる。これならば我が妻にも顔向けができよう!」
そう言って楽しげに笑うガルラ王だった。




