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『俺』とゴブ『リン』~俺のスキルは逆テイム?二人三脚、人助け冒険譚~   作者: 新谷望
4章 セイルス王国の野望編

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25話 始動!奪還作戦





「ほうほう、おぬしがトーマか。お主の事はエリスからよぉ聞いておったぞ。どうじゃ?ワシの事は分かるかな?」


「ああ、もちろんだ。あんたが何者なのか、という事もちゃんと知ってるぜ」


「そうかそうか。なかなか利発そうな子じゃ」


 ハロルドから元の姿に戻ったヌシ様がニコニコと相好を崩す。目線の先にいるのは天界で過ごしていたはずのトーマだった。オスカーの弟であり、血は繋がっていないもののハロルドは祖父にあたる。


 突然のトーマの登場に俺もリンもびっくり仰天だったが、とにかくこのままでは「ミナトが二人居る!」と誤解されかねない。ヌシ様達を混乱させないようにするため、まだ打ち合わせをしていたヌシ様とアダムス伯にトーマを紹介することにしたのだ。


「なんと……、まことにうり二つではないか。ミナト、お前、双子であったのか?」


 アダムス伯が俺達をまじまじと見ながら言った。


「いえ、双子ではないんですけど……」


「俺はエリスの息子トーマだ。ミナトとよく見比べてみろ、全然違うだろう!お前の目は節穴か?」


「おい、こらっ……!トーマっ!」


 ちょっとちょっと、トーマ!いくら女神様の従者っていってもアダムス伯は、地上では凄い権力者なんだからな。もう少し気を使ってくれよ!


「ふーむ、確かに、性格はかなり……違うようだな。だが、魔力の質をみるとまるで同一人物のようだ。しかし、赤の他人がここまで似るというのはあるのか?」


「ほっほっほ。チェスター、偶然の一致というヤツじゃ。深い事情があってな。あまり根掘り葉掘り聞くものではないぞ。よいか?」


 俺達の事情を知るヌシ様が穏やかにアダムス伯をたしなめ、それ以上の詮索は許さんとばかりに制止させる。ヌシ様の心中を察してか、アダムス伯はそれ以上の問いかけを止めた。


「しかし、なんで君が突然「こっち」にやって来たんだ?やっぱりエリスの事が心配で……?」


「確かに、お前がしっかりしていないからまた母さんが……!い、いや、それも含めていろいろあってな」


 トーマは言いよどんでいるが、パナケイアさんに頼まれたのかもしれない。トーマを降臨させるのにまたかなり神力を使ったんだろうけど、エリスが連れ去られた事で何か手助けをしてくれるのだろうか?


「ただなミナト、残念だけど俺がここにいても大したことはできない」


 俺の心を読んだかのようにトーマがため息交じりに言う。


「え、そうなの?じゃあ、魔法を使ったりとかは?」


「今の俺は魔力はほぼないし、剣の腕も兄貴より下手だ。やれてせいぜい留守番程度だな」


「そっかぁ……じゃあ、一緒に王都行って戦うのは無理なのか……」


「すまない。それにな……」


 そこで会話を切り念話で俺に話しかけてくる。


『俺だって……俺だってな、本当なら自分で母さんを助け出したいよ!お前に任せっぱなしにはしたくない。でもなぁ、女神の従者ってのは地上にホイホイ降りれるもんじゃないんだよ!たまに里帰りする時も、結構神力使ってもらってるんだ』


『なら、今回パナケイアさんが神力でエリスを助け出す、ってのはできないのか?』


『パナケイアは本来は、選定者を通じてしか地上に影響を及ぼす事はできないんだ。地上と念話で話すだけならともかく、双子山の降臨のように地上に降りるには、さる御方の許可がいる。地上の一個人を助け出すのは難しいだろうな。でも、今回は神力(しんりき)を使わないならって条件で下ろしてもらったんだ。だから俺に大した力はない。母さんを助け出すのは選定者であるお前の役目だ』


『さる御方ってパナケイアさんの上司?』


 まさかフレイア……じゃないよな?俺の脳裏にあの姿こそ美しいがめちゃくちゃ高圧的な女神の姿が浮かんだ。

 

 そんな時、俺達の様子をじっと眺めていたヌシ様が突然、ポン、と手を叩いた。


「……なるほどなるほど。良き考えが浮かんだぞ。トーマよ、お主のおかげで懸念の一つが解消されそうじゃ。ミナトと共にいけずともおぬしにやれることがあるぞ」


「は?俺にか?」


「そうじゃ、チェスターもミナト達もよく聞いてくれ」


 そう言うとヌシ様は俺達に作戦を話し始めた。


 ……こうして、俺達の下準備も着々と進み、あっと言う間に3日間が過ぎたのだった。



 

 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




 そして、いよいよ俺達の出発の日がやって来た。時刻は早朝、ようやく陽が昇り始めた時間。屋敷の前にはアダムス伯が乗る馬車が横付けされている。


 この3日間、俺達はじりじりとした焦燥感に駆られながら過ごしていた。でもヌシ様からは「下準備が整ってからじゃ。なるべくスムーズに王都に赴けるよう、チェスターが段取りをしている。お前達まで何かあってはならんでな」と言われていた。


 エリスの身の上を案じてるのはヌシ様だって同じだ。そのヌシ様に待てと言われては、従わざるを得なかった。  


「ミナト、ちょっといいか」


 いよいよ出発の時間までもうすぐ、といった時、俺とリンはトーマに呼び出され、屋敷の裏庭にやって来ていた。


「話というのは他でもない。ミナト、お前に眷族けんぞくを授けてやろうと思ってな」


「は?眷族っていうと使い魔みたいなやつ?」


 いつの間にかトーマの手のひらに握りこぶしよりやや小さめサイズの蟹が乗っていた。


「え?これって……ツチガニ?」


 ツチガニはこの世界ではよく見る蟹だ。前世と同じく蟹は川や海にもいるが、このツチガニの種類は土の中を住処にしていて、ハサミで土に穴を掘りトンネルを作って生活している。ハサミは左右で大きさが違い大きな方のハサミでドリルのように土を掘る。生態としてはモグラみたいな感じか。


「……えっと、トーマ。ツチガニとかそんなのもらっても……」


「いいから、ほら!」


 そう言って俺の顔の前にツチガニをぐいぐい突き出すトーマ。するとツチガニはトーマの手をぴょんと飛び降りるとすごいスピードでカサカサと俺をよじ登っていく。さらに肩に座るリンの体をはって上へと登っていった。


「あはは、くすぐった~い!」


 リンの頭の上に瞬く間に登ったツチガニ。そして「やり切った!」とでもいうように両手のハサミをかかげた。


「あはは!カニさん、嬉しいの?」


 リンが両手でツチガニを掴み、そう聞くとツチガニは、まるで返事をするように身体を上下に揺すった。


「わあ、話が分かるの!?おもしろ~い!ミナト、このカニさん、連れてこうよ!」


「う、うん。そうだね。そうだ、トーマこのツチガニ、ご飯とか何を食べるの?」


「別に、自分で好きなものを食べるさ。とりあえず、大切にしてやってくれよ。こうなったのも元はといえばお前のせいだしな」


「え?俺のせい?な、何が??」


 あれ?なんかトーマがものすごく苦渋に満ちた顔をしてるんだけど……?


「……お前が地上に呼んだりなんかするからだぞ!それ以来、事あるごとに「地上に行きたいな……、行きたいな……」と呪詛のように吹き込まれる俺の身にもなれ!おまけに「主人の望みを叶えるのが従者の役目だ」とかぬかして、無理難題を押し付けてくるクソ上司とかさぁ……。」


 そして、トーマは肩を落として大きなため息をついた。相変わらず女神の従者は大変そうだ。


「そうでなくても俺が全部、仕事も雑務もやらされてるんだぜ!?多分、もうパナケイアより俺の方が神の仕事、理解してるわ……。いいか、お前が責任を持って面倒をみろ。分かったな!」


「わ、分かったよ」


 すごい剣幕で迫るトーマに頷く事しか出来なかった。


「と言う事はこのツチガニってもしかして……」


「おっと、真名しんめいは言うなよ。憑依が解けるからな。一応「ブロス」って名前だ」


「あ、そうなんだ。リン、ブロスって名前なんだってさ」


「へぇ!じゃ、よろしくね、ブロス!」


 そう言うとブロスは、答えるようにハサミをカチャカチャと鳴らした。


 はぁ、まさか、あの時の軽い一言がこんな事になるなんて。そんな訳で今回の作戦に奇妙な仲間が加わることになったのだった。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 

 いよいよ出発の時間になった。それに先立ち、ヌシ様の他、ベルドとビアトリス、そしてトーマが見送りに来ている。アラバスタやウィル、そしてリビングアーマー達も見送りに来たがったがあまり人数が多くてもよくないので自重してもらった。


「それじゃヌシ様、行ってきます」


「うむ。エリスとタヌ男の事を頼んだぞ」


「うん、リン達に任せて!約束するよ。絶対に二人を助け出してくるからね!」


 リンが笑顔で答える。


「ヌシ様、私が居ない間、ドッグウルフ達のお世話をお願い」


「師匠やヌシ様に教わった事、無駄にしません。ミナトさん達を助けて、師匠とエリスさんを取り戻してきます!」


「ライ、ラナ無理はせぬようにな。必ず帰ってくるんじゃぞ。双子山はいつでもお主達の帰りを待っているからの」


 二人はぎゅっとヌシ様に抱きついて、しばしの別れを惜しんだ。


「ベルドさん、出発までに革鎧を間に合わせてもらってありがとうございました!ビアトリスさんにも無理を言ってしまい申し訳ありません」


「なに、こんなもん大した事じゃねぇ。それより頑張ってこいよ!」


「全く、年寄りに無理させるもんじゃないよ。これは高くつくからね!」


 そう言って笑うベルド達の目にはクマができていた。俺とラナ、ライはそれぞれ真新しいスカイドラゴンの革鎧を身に付けている。ベルドが不眠不休で造り上げてくれ、出発までに間に合わせてくれたのだ。


 ちなみにリンは「リンはこれがいい!」と、ずっと俺があげたTシャツを着ている。戦いで穴が開いたり、破れたりしても次の日には元通りになっている不思議なシャツだ。


「それじゃトーマ、行ってくる。あとの事は頼んだぞ」


「ああ。ミナト、必ず母さんを助け出してこいよ。お前を……信じているからな!」


 トーマの言葉を受け、俺達は馬車に乗り込む。屋根付きの豪華な馬車で窓にはガラスがはめ込まれている。特殊な塗料が塗られミラーシールドの様に内部は見通せないようになっている。そこにはアダムス伯が待っていた。


「それじゃ、お願いします」


「うむ。では行くとしよう」


 ヌシ様達に見送られ俺達は双子山を後にした。


「……エリスとタヌを助けて、絶対にまたみんなで双子山ここに戻るんだ!」


 車窓から小さくなっていく双子山を眺めながらラナが呟いた。


 


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇



 俺達を乗せ双子山を出発した馬車はノースマハの街には入らず、ノースマハの街から南に流れる竜神川に沿って進む。やがて見えてくる橋を渡り、東へ進むとそこはもうトヨーカ男爵領だ。


 以前、ルカと一緒にワイダへ行った時は、領地の境目には検問があって、形ばかりだが身分照会もあった。しかし今回は停止を求められる事もなく、したがって身分照会もなく検問所もスルーだった。


「どうだ?アダムス家の馬車を検問しようとする領主は、西セイルスにはおらんからな」


 そう言ってアダムス伯は笑っていた。


「へ~、やっぱりアダムスはくってすごい人なんだね!」


「はっはっは!これぐらいで驚いてもらっては困るな。我が勢力下ではこの様な事は当たり前だ。だが、セイルス王国において、セイルス王の権威はこれ以上にすさまじいぞ。お前たちはその王に歯向かおうとしているのだ。正攻法では決して立ち向かえる相手ではない。それを肝に銘じておくのだ」


 勿論、俺達バーグマン領は、正攻法で反乱を起こせるほどの軍事力などない。でも、力がないからってこのまま唯々諾々(いいだくだく)と、言いなりになってたまるものか。見てろよ、セイルス王!!


「ところでミナト。ミスリル鉱山についてだが準備を早急に進めたゆえ、開山はもう間もなくになる。鉱山の各施設もなんとか操業にこぎつけられそうだ。我がアダムス家も一刻も早くヒュプニウム鉱石を手に入れねばならぬからな。その際にはガルラ王国へ加工の依頼を頼むぞ」


「おおっ、そうですか!?こんなに早くに開山できるようになるなんて、アダムス伯のお力添えがあったからです。本当にありがとうございます。ヒュプニウム加工の件はお任せください。必ずご期待に添ってみせます!」


「ふふふ、まさか個人でガルラ王国からヒュプニウム鉱石の加工許可を得るとはな。どんな手段を使ったのだ?」


「え、えっと、ベルドさんの奥様がベルド王国の大貴族でですね……、最後はお酒に説得してもらいました」


「ほぅ、なるほど。フフッ、余程の逸品だったのだな。しかし、これでお前もセイルス王国で唯一の男になった。要人の仲間入りだな」


「えっ!?要人とか勘弁してくださいよ!できればこの事は内密してもらえると……」


「うむ、無論だ。王家に知られると厄介事になりかねんからな。それと産出後のミスリル鉱石についてだが魔鉄と同様、我がアダムス家に優先的にまわしてもらえるかな?」


「分かりました。ルカ様に話を通しておきます」


「うむ。魔鉄と同様、いや、それ以上にミスリルは、他領主との交渉カードになる重要な軍需資源だ。これからは西セイルス内の領主間の連携がなにより重要になっていくからな」


 ……こうして俺達が話しているこの間にも馬車は急ぎ足でトヨーカ領を抜け、日没とほぼ同時にアダムス伯の居城ワイダ城へとたどり着いた。


 


  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




 ワイダ城にたどり着いた俺達は、人目を忍ぶように裏手口に案内された。裏口とはいえさすがに立派な造りをしており、知らずに案内されれば正門だと勘違いしそうだ。


 通路をしばらく歩き、俺達は城内にある来客用の個室に案内された。


 そこで俺達を待っていたのはテーブルに所狭しと置かれた、豪華絢爛な贅を尽くした料理の数々だった。各地から取り寄せた肉や魚の料理がひしめき、さらに色とりどりのサラダやスイーツが並ぶ。その光景はいやがおうにも食欲を刺激した。


「わぁ、すっごーい!美味しそう!」


「……ごちそう、ごちそう!」


 リンとラナ、そしてなぜかブロスも目を輝かせる。それぞれが単品でも十分にメインを張れる料理達、これに食欲旺盛な我が家族が惹き付けられないはずがないよな。


「西セイルスを出れば大変な行程になる。せめて今宵くらいはのんびりと過ごすといい」


 上座に座ったアダムス伯がそう言っている間に、早くもリンとラナは並んでいる食事に手を伸ばしていた。


「お気遣い、感謝します。アダムス伯。……ってちょっと、リンもラナも、こういう食事の時はお行儀よくしないと!ほら、ライを見習って、まずちゃんとエプロンを……!」


 ライだけはきちんとエプロンを付け、食事前にパナケイアさんに祈りを捧げている。「自分はミナトさんに助けられた。だからその主神であるパナケイア様にも感謝と、エリスとタヌの無事を願い祈りを捧げている」んだそうな。


 うん、分かるよ。だって祈りを捧げた途端、神力を得たのかブロスがキラキラ輝いたもん。それにしてもライは良い子やなぁ~。


 そんな間にもリン達は料理にパクついている。並んだでっかいターキーがあっという間になくなり、綺麗に彩られた魚料理もすぐに骨だけになった。ブロスもテーブルの上をあっちこっちと歩き回り、つまみ食いをして回っている。(体はツチガニなのに色々食べて大丈夫なのだろうか……?)


「す、すいません、アダムス伯。みんな美味しい料理に目がなくて……」


「いやいや、気を遣う必要はないぞ。好きにやってくれて構わん。こんな事で気分転換ができたのなら何よりだ。それに俺にはこれくらいしかできんからな。ミナト、お前達のおかげでひとまず王家との内乱は回避された。それに親友ともとの友情も壊れずにすんだ。感謝する」


「いえ、そんな!俺はただ戦争で沢山の人が傷つくのは嫌なだけで……。それに俺達の手でエリスとタヌを助け出したいって思ってましたから!」


「そうか。フフッ、あの時ハロルドに立ち向かった度胸といい、その性根といいなかなかに見上げた男だ。エリスもよい男を見初めたものだな」


 アダムス伯の言葉につい飲んでいた葡萄ジュースを吹き出してしまった。


「ははは。……さて、ミナト。明日からの予定は頭に入っていると思うが再度確認しておく。明日早朝よりまた馬車に乗りまずは西セイルスの端、イズール子爵領を目指すのだ。アダムス家の速達馬車そくたつばしゃならば明日の日暮れ頃には到着できるであろう」


「イズール子爵領までが、西セイルスの勢力圏なんですよね?」


「うむ。そこから先は中央セイルス。王家の管轄になる。そこからは乗り合い馬車を使いローザリアを目指といい。西セイルスを出れば、さすがにお前達の顔を知る者はおらんだろうからな。お前達からの吉報と無事の帰還をここで待っているぞ」


 西セイルスの領域内を出てからがいよいよ本番だ。イズール子爵領で泊まる宿屋には案内人が待っていて俺達を王都に導いてくれる算段になっている。


 そしてその翌日、まだ陽が登り切らない朝早く、俺達を乗せた速達馬車はワイダ城を出発した。




  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇




「……ドッグウルフに乗った方がもっと早くつけるのに」


 リン達と対面した反対側の座席に座り、車窓から外を見つめつつラナが呟いた。


「そうだね。ドッグウルフならもっと早くたどり着ける。でもドッグウルフの移動は目立ちすぎるんだ。俺達は誰にも知られずに西セイルスを出なきゃいけないからね。それにこの馬車なら検問も止まらずに走れるから」


「……すぐ王都に着けるの?」


「いや、まだだよ。今日は西セイルスの東端とうたんの街まで行く。明日からは普通の乗り合い馬車になるからもっとゆっくりになるかな」


「……そうなんだ。早くエリスとタヌ男を助け出したいのに……」


「うん、分かってる。だからこそ、俺達は救出に備えて休めるときはしっかり休もう」


 ラナにはそう言ったが、俺だって落ち着いてるふりをしているだけだ。エリスやタヌ男が心配で仕方がない。ただ、タヌ男がいれば、のらりくらりと俺達が助けるまでの時間稼ぎはしてくれると信じている。あの二人ならいくらセイルス王が思い通りにさせようと思っていても、一筋縄ではいかないはずだ。


 ……それにしてもいくら馬車が速いと言っても、前世の車や新幹線には比べるべくもないよなぁ。心の中では焦燥感に身体を焦がれつつ、その日の夕暮れには馬車は目的地のイズール子爵領の東端、テンバーの街に入った。


 この街でアダムス伯の伝手つてで王都の案内人と合流する事になっていた。


 そして、アダムス家御用達の宿屋で俺達を待っていたのは、実に良く見知った男だった。そこには俺達の頼れる商人、福々しい姿のコンラッドがいた。なぁんだ、アダムス伯も言ってくれればいいのに~!


「コンラッドさんじゃないですか!?それじゃ王都への案内人っていうのはコンラッドさんなんですか?」


「はい。私めが皆様を王都にお連れいたします」


 そう言えば確かにここ数日は姿をみていなかったなぁ。何だか、彼の顔をみると張りつめていた気がふわっと溶けていくかのようだ。アダムス伯のお城では安心だけど、とてもじゃないけどくつろぐ事なんてできなかったからね。


「さぁ、皆様、長旅でお疲れでしょう。まずは食堂に行きましょう。食事の用意をしてありますよ」


 母ガモについて行く子ガモのように、ぞろぞろとコンラッドに導かれ食堂に足を運ぶ。宿泊者は俺達以外にはいないようだった。


「さて、明日からはいよいよ中央セイルスに入ります。ミナトさんにはその間、フリール商会の家人という身分になって頂きます。こちらがその身分証です。検問ではそのように申告して下さい」


 食事が終わった後、そう切りだしたコンラッドが差し出した身分証を受け取る。そこには職業欄にフリール商会所属と書かれていた。


「リンさんは元々、ミナトさんの従魔ですので特に変更はありません。ラナさんとライさんは私の使用人、という事になっています。その点はご承知おき下さい」


「へー、こんな簡単に身分証って変えられるものなんですね」


「いえ、本来なら身分証の偽造は重罪です。露見すれば鉱山で強制労働ですね」


「うげ、それめちゃくちゃやばいじゃないですか!」


「ご安心下さい、今回はアダムス辺境伯直々の命令ですので、仮に捕まってもおそらくなんとかなりますよ」


「は、はぁ……」


「さて、いよいよ明日はコネーハ山脈を超え、中央セイルスに入ります。エリス様とタヌ男さんの為、フリール商会、そして我がツインズ商会も力を尽くす所存です」


 そう言って、コンラッドさんは力強く微笑んだ。よっし!これで100人力だぜ!エリス待っててくれ。必ず助け出すからな!





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