9話 皇女グレースの査察
一両の豪華な馬車がバーグマン領を目指し進んでいた。その後方には、馬車に付き従うように500人の完全武装の歩兵部隊が続く。その行軍速度は兵に合わせる為、極めて鈍重だ。
「……全く、散々、グレース様を待たせた挙げ句が、「どうしても外せない急用ができたゆえ、面会は遠慮する。通行はご自由に」だと!?辺境伯は王家をどんな存在だと思っておるのか!あのお方のせいで丸1日が全く無駄になってしまったではないか!」
「そこまでにしておきなさい、ブレンドン。西セイルスはアダムス辺境伯の勢力下、どこで誰が聞き耳を立てているかわかりません」
王家の紋章の入った白銀の鎧を身にまとった女がたしなめる。馬車の中では二人の男女が向かい合って座っていた。その凛とした声の主こそ、今回の査察の総責任者グレース皇女だ。
そして、もう一人、ゴテゴテと装飾が施された悪趣味な服を身に纏い、丸々とよく肥えた男が居る。彼の名はブレンドン。彼等は王家より「先頃、バーグマン領で起こった内紛を調査し、裁定せよ」との命を受け、査察官として馬車に乗り込んでいた。もちろんそれは建前で真の目的は別のところにあるのだが……。
バーグマン領へ向かうにあたり、一行はその途上にあるアダムス領のワイダ城に、通行の許可を得るべく立ち寄った。
ワイダ城では歓迎の宴が設けられ、下にも置かない歓待を受けた一行だったが、肝心のアダムス伯は「外出中で、間もなく戻る」との事でグレース達は到着を待つことにした。しかし、待てど暮らせどアダムス伯は一向に姿を見せない。折角用意された宴席を蹴って城を後にするのも非礼にあたる。結局、アダムス伯は姿を見せず、一行は丸一日を無為に過ごすことになってしまったのだ。
「相手はあのアダムス伯。王である父上にも事ある毎に異を唱えていた御仁。自らの縄張りに乗り込んできた我らに思うところがあったのかもしれません。我が大叔父ながら得体のしれないお方です。昔からあの様に、くせ者でしたから」
「はあ……、アダムス辺境伯はまことに器量の小さいお方ですな!我らはこの度、王より重大な使命を承っておるのです。確かにこれしきの事で心を乱されてはなりませんでしたな。それより、問題はバーグマン家です。大人しくヒュプニウム鉱脈を差し出せば良いのですが」
「兄アーサーには、『逆らうようであれば武力を使っても構わない』と言われています。しかし、バーグマン家も我がセイルス王家の正規軍をみて、その決断を下せる程愚かでは無いでしょう」
「当たり前でございます!ヒュプニウムはミスリルを超える貴重な鉱物。一地方領主が持っていていいものではございません。やはり王家が管理する事が必要と王も判断されたのでしょう。しかし、今回はそれだけではありませんからなぁ、バーグマン家とやらは……」
「……」
何かを思案するグレース。最早意思を示せないセイルス王に変わり、実務は皇太子のアーサーが仕切っている。彼が次期王になるのはほぼ既定路線だ。しかし、アーサーが王の座に着く、禅譲の儀まではあくまでもセイルス王から命令を発するという形を取っていた。
「しかし……」
「何か気になる事がおありですかな?グレース様」
「バーグマン領はセイルス五英雄のハロルドを祖とする領地。彼はあの叔父上に請われて領主の座に着いたと聞いております。しかもその際に代々、この地をバーグマン家で継承していくと前国王と約束を交わしていると聞いています。今回の措置は前国王の取り決めを違える事になりはしないか?」
「違えるかもしれません。しかし、現当主が幼く判断力が無いからこそ内紛が起きたのです。そしてあろう事か、バーグマン兵は領民に刃を向けたと聞いております。さらに山に逃げ込んだ領民達は逃げられない状態にされた上で、山を焼き討ちにされたと聞いております」
「もし、それが真実であれば由々しき事態。我が兄の治める王国の傷になるような事は、この皇女グレースが断じて許しません」
「その通りです、グレース様!全ては我らの働きにかかっています」
ブレンドンの口角が無意識につり上がっていた事に気づいていない。実はブレンドンはローガンから「グレースを使い、バーグマン家から領地を取り上げよ。それができなければ最低でもヒュプニウム鉱脈だけでも手に入れろ」との密命を受けている。先ほどの話も嘘は言っていない。ただ言い方を変えただけだ。
しかし、話し方一つで印象はがらりと変わってしまう。グレース皇女に予めバーグマン家の悪印象を植え付けておけば、向こうが何を言っても見苦しい言い訳だ、と受け取るであろう。今回の査察の箔をつける為に、急ごしらえの査察責任者になった皇女など、我らの駒として動いてくれればいいのだ。
そんな企みを押し隠したブレンドンとグレースを乗せた馬車は、やがてバーグマン領に差し掛かっていた……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ミナト殿!ルカ様がお呼びです、至急、領主の館に来てほしい、との事です!」
早馬に乗り、息せき切ってやって来たのは、領主の館からの火急の使者だった。
「分かった、ルカ様にはすぐに行くと伝えてくれ」
再び馬に跨り、走り去る使者を見送ってから、俺はすぐにリンを呼んだ。
「リン、ルカ様からお呼びがかかったよ。すぐに向かおう!急ぎだからアラビーに乗って行こう」
「うん!じゃあアラビーを連れてくる!」
リンは張り切って馬房に向かっていった。リンはアラビーがお気に入りで、よく連れ出してはその辺りを駈けている。
先日なんて裸馬のアラビーが平原を走り回っていたからびっくりしたもんだ。でもよく目を凝らしてみたら首筋あたりにリンが座ってたんだよね。それも鞍も手綱も着けずに、だよ?相変わらずぶっとんでるなぁ。
あっと!そんな事より……。急いで念話を発動し、山頂のヌシ様に事の次第を伝え了承を得る。
よし。これで準備は整ったぜ。リンが連れてきてくれたアラビーに跨り、俺達は領主の館に急いだ。
俺が領主の館につく頃には、ほぼ全員が揃っていた。アダムス伯の家臣団と比べると数では到底及ばないけど、こういういざという時の小回りの良さはバーグマン家が勝っていると思うんだ。
「よし。皆、揃ったな。突然、皆を呼び出したのは他でもない。先程報せが入った。内容は「バーグマン領で起こった騒動の査察と裁定をする為、査察官が間もなく到着する」と。なお、総責任者はセイルス王国グレース皇女であり、500の兵も帯同しているらしい」
ルカからの報告を聞き、集まった家臣達からどよめきが聞こえた。そりゃ、突然、中央から騒動に対する査察が入るなんて言われたら動揺するよなぁ。
「鉱脈が見つかった事を発表した途端、査察官を送り込んでくるとは王家も随分とお耳が早いことですな。しかも、王の息女が総責任者とは随分と大物を寄越したもの。裏を返せばこの地がそれだけ重要視されているという事に他なりません。まこと目出度き限りにございますな、ルカ様」
嫌悪感に皮肉をたっぷりとまぶしつつヒューゴが言った。これまでの王家に対する不信感に加え、鉱脈発見の発表後の王家の動きに、想定通りとはいえ、半ば呆れているらしい。
それは俺も同意だ。それにしたって、あまりにもあからさますぎるだろ。500人という兵士はバーグマン家の兵を上回っている。明らかに威圧目的だ。権力者っていうのはいつの時代も上から目線で自分中心に世界が回っていると思い込まないといけない連中らしい。あーやだやだ。
「皆の者、心配は要らぬ。このルカに任せ、心を落ち着けて待つといい。我らは王家に対しやましい事など何一つしていないのだからな!」
力強くそう宣言するルカを、一同が頼もしく見つめる。俺の隣に立つヒューゴが、ご立派になられましたなと呟いていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「グレース様がご到着なされました!」
声を上げた衛兵が言い終わらない内にグレースは、馬車を降りる。そしてブレンドンを伴いルカと対面した。
「お〜。ミナト、あの人キレイだね~。エリスと同じくらい!」
グレース皇女を見たリンがこっそりと感想を言ってくる。確かにリンが言うように、あのグレース皇女は綺麗なうえに気品がある。ただ、王族特有の気位の高さが感じられてちょっと怖い。近寄りがたい感じ、俺的にはもう少し庶民的な方が……って俺の好みの話ではないんだった。
挨拶しようとするルカを遮り、高圧的な態度でブレンドンが書状を読み上げる。
「挨拶など不要、要件を申し上げる。バーグマン家当主ルカ=バーグマンよ!そなたは領地を束ねる当主であるにも関わらず、その責務を完遂せず、政務を丸投げし、家臣間での不和を招き結果、内紛を引き起こすという大罪をおこした。領民、並びに家中が負った損害は多大である。本来であればバーグマン家を取り潰す所であるが、セイルス王の特別な計らいにより、領地替えの上、当面は謹慎処分となる。領地についてはおって沙汰がある。異存はないな!」
突然の事にバーグマン家の家臣は二の句が継げない。その事に気を大きくしたのか王家の査察官と名乗るブレンドンは、ますます居丈高に罪状を読み上げる。
しかし、その内容は一方的でなおかつ悪意があった。その罪状は……
一つ、領主ルカは家臣を纏めきれず家臣同士が内紛を起こし、挙げ句、悪政に耐えきれず立ち上がった領民に軍を起こし刃を向けた。
二つ、抵抗できない領民を相手に鎮圧の名のもとに虐殺した。
三つ、山に逃げ込んだ領民達を逃走が出来ないように閉じ込め、火をかけ焼き討ちにした。
はぁ?ちょっと待て、内容があまりにも恣意的すぎるわ!
確かにバーグマン軍は領民(俺)と戦った。刃を交えた事は間違いじゃない。でも俺はルカ様に不満があった訳じゃなくてダニエルを倒したいから戦ったんだ。
だいたい双子山が炎上したのは、ロビィルのせいだけど、ロビィルは巻物から出てきたスカルロアに操られていたし、ダニエルだって裏で脅して言いなりにさせていた奴がいる。それは王家に関係する者で、そいつこそが元凶じゃんかよ!そいつをひっ捕えてくれよ!
それにさ、もしロイが来てくれなかったら領民だけじゃなくルカ様もろとも、全員焼け死んでいたよね?虐殺もしていないし、怪我人はパナケイアさんに傷を全て治してもらった。炎上した双子山だって元通りになっている。
冤罪すぎてビックリである。こんな罪状ってある!?領地替えって事はやっぱりヒュプニウム鉱脈が欲しいんだよな。でも、おかしいだろ!こんな稚拙な言いがかりでも王家なら許されるのかよっ!?て、一方的な言い分に俺が反論しようとした時、ルカが俺を制した。
「いきなり乗り込んで来たと思えば兵士を使い屋敷を包囲し、更にありもしない出来事を並べ立て罪を着せ、挙げ句に領地替えせよ、とはとても聡明なグレース皇女の査察とは思えません、いったいどこのどなたから吹き込まれたのですか?」
「何だと!貴様、グレース皇女を愚弄するか!?この小倅が!」
「私に非がある、というのならば潔く罪に服しましょう。しかし、貴殿がいう罪状はあまりに不当。事実無根の罪で謹慎せよ、というのであればこのルカ=バーグマン、当主として断じて引くわけにはいきません!」
「たかが地方の小領主の分際で査察官に無礼な意見をするとは如何なる了見か!この事、しっかりと報告させてもらうからな!」
「どうぞご随意に。どうせ貴殿のような輩は、こちらがいくら弁明したとしても、正しく伝えるとは思えませんからね」
ブレンドンの握られた拳はブルブルと震え、赤く染まった怒りの形相で我を忘れたように怒鳴りつけた。
「グレース様!これは王家に対する重大な侮辱行為!今すぐこの者を拘束し、王都にて裁きを受けさせましょう!すぐに兵を呼べ!不忠者の家臣共々捕らえてしまえ!」
「やれるもならやってみよ!その様な脅しに屈すると思うか!?大切な我が家臣に指一本触れる事は許さぬ、英雄ハロルドの血を引くバーグマン家を見縊るな!」
ルカがブレンドンの前に立ち、力強く言い放った時だった。
「ルカ様!よくぞ言ってくだされた!バーグマン家、家臣一同はルカ様についていきますぞ!」
声を上げたのはヒューゴだった。そして隣にいる俺に目配せしながらつぶやいた。
「準備はよろしいかな、ミナト殿!」
「もちろんですよ!こんな奴等、目じゃありません!」
「リンもやるよー!ね、エリスもそうだよね?」
「そうね、かわいい甥っ子がみすみす連れて行かれるのを黙って見過ごすなんて出来ないわ!バーグマン家臣団の実力を見せてあげる!」
エリスに呼応するようにバーグマンの家中から声があがった。
「お、お、おのれぇ~!最早勘弁ならん!兵ども、この慮外者らを一人残らず拘束せよ!一人も逃すな!!」
その声を合図にブレンドンの兵達が大広間になだれ込む。
おぅ、そう来るならやってやる!気分は時代劇終盤のチャンバラシーンだぜ!ブレンドンの金切り声に俺達が身構えた時だった。
「双方とも止めなさい!!」
張りのある凛とした声が大広間に響き渡った。
「もうよい、兵どもは引きなさい。この部屋から出るように、バーグマン家の者達に手出しは無用である!」
暴走を止めた声の主はグレース皇女その人だっだ。
「しかしグレース様!こ奴らは査察官である我々に逆らった叛逆者でありますぞ!?」
「今しがた、私が放っていた偵察隊から報告がありました。それによると、ルカ殿の言うように罪状が事実無根であったと。それに反論するのは決して間違いではありません」
「な、な、何という事を言うのですか、グレース様!?我らが間違っているですと!?」
「昨日、アダムス領に留め置かれた際に、先行して私の偵察隊をバーグマン領に走らせました。その者達の報告と王家による報告書とはまるで違うようなのです。領民の話では「ルカ様は若いが常に領民の事を考えてくださる。素晴らしい領主様だ」と褒め称えていたと」
「な、何と……」
ブレンドンにとってグレースの言葉は想定外だったのか、あれほど赤かった顔面が蒼白になっている。
「それに山に火をかけたのも、どうやら何者かに操られた家臣の暴走であったと聞きました」
「そ、そのような……い、いえ、ならば王家の報告書が誤りだったと言うのですか!?しかし、我らには命令が……!」
「良いですか、ブレンドン。おにい……いえ、王は常々こう言っていました。「民のための国を作るのだ」と「民に信頼され、民を導ける王になりたい」と。もし、間違いがあったのであれば、潔く非を認め考えを改める事が出来る御方です。結論ありきの処罰はきっと望まれぬはず。私はそう考えます」
「い、いや……しかし……皇太子様は……」
首を振りながら、もごもごと何かつぶやくブレンドン。
そして、グレースがルカに向き直る。
「どうやら事前に得ていた情報に間違いがあったようです。ルカ殿、誤った情報に基づき騒ぎを起こしてしまった事をお詫びします」
「……え?い、いえ!誤解がとけたのであれば何よりです!こちらこそ無礼な振る舞い謝罪致します!」
「この詮議をもって査察は終了とします。領地の没収はないものと考えてもらって構いません」
えっ……あれ、何!?ブレンドンとかいう奴はともかくグレース皇女って、俺達を陥れようって気はなかった訳??
俺達はてっきり、ここから王家とやり合う事になるのかと思っていた。その準備をしていた訳だが、ちょっと拍子抜けである。グレース皇女がこんなに物分かりのいい人だったとは……気位が高そうとか思って申し訳ありませんでした!俺は心の中でめちゃくちゃ謝った。
「バーグマン家の結束力はしかと見せてもらいました。若くとも立派に政務を果たしているようですね。これからも王の為、セイルス王国の更なる発展の為に尽力してください」
「はい、それもこれも優秀な家臣が居ればこそです。特にこのミナトという男は、様々な政策を思い付きますから。我が領でミスリル鉱脈を見つけた立役者も彼なのです」
「ほう、ミナト……ですか。その顔、しかと覚えておきましょう」
ぶふぉう!ちょっと、ルカ様!?他にもヒューゴさんとか優秀な人がいるでしょ!?なんで俺を名指し!?てか、俺は俺を召喚した王をぶっ飛ばそうと思ってるのに、ここで顔を覚えられたら不味いでしょーよ!ねぇ!?
「ところでルカ殿、そのミスリル鉱脈ですが、その中にヒュプニウム鉱脈があると聞いています。間違いありませんか?」
それまでの表情を改め、真顔になったグレースが尋ねる。
「はい。間違い御座いません」
「……実は先日、王家よりヒュプニウム鉱脈は王家が接収する、との法が王より発布されました。ルカ殿の領地はこのままになるでしょう。しかし、王命により新たに発見された鉱脈は、王家の直轄になります。これは全ての諸侯に当てはまるもの。例外は認められません。これに逆らえば王命に逆らうのと同じです」
やっぱりきたか、そう来ると思ったよ!でもね……。
「グレース皇女。申し訳ありませんがヒュプニウム鉱脈に関しては、既にバーグマン家の手を離れております。所有権はアダムス辺境伯に献上致しました」
「何と!アダムス家に献上した!?それは本当なのですか?」
今まで冷静だったグレースの顔に初めて驚愕の表情が浮かんだ。
「他国を見るに、ヒュプニウム鉱脈は王家に連なる方々が収めておりました。ゆえにその例に倣い、速やかに王家の親族であるチェスター=アダムス辺境伯に献上したのでございます。ですからヒュプニウムは既にバーグマン家のものではない為、所有しているアダムス辺境伯と話していただく他ありません。新たな法も発布前の事にて知る術がなくどうしようもありませんでした」
「……なるほど。他国の先例に倣いましたか。しかし、ヒュプニウム鉱脈を発見した直後からその行動に移すとは、なかなかに機を見るに敏。そしてミスリル鉱脈はバーグマン家に残す事が出来る。残念ながらアダムス伯に先手を打たれたようですね」
「恐れ入ります」
本当はこっちから申し込んだんだけどね。まぁ、向こうがそう思ってくれるならその方が都合がいいけどさ。
「では、この件はアダムス伯と話すとしましょう。ルカ殿、お騒がせしました。我らは発つとします」
そう言うとグレースは颯爽とブレンドンを従え領主の館を去った。
「はっはっは!一時はどうなることかと思ったが、上手く切り抜けたではないか!立派であったぞ、ルカ殿!」
突然、ルカの背後に佇むフルプレートの騎士から声が発せられた。
「はい。刃傷沙汰も覚悟していましたが、グレース皇女が聡明な方で助かりました。アダムス伯もご協力感謝致します!」
騎士がゆっくりとフルヘルムを外すと……その正体はアダムス伯だった。更に、もう一人の騎士はアダムス伯の護衛メイソンだ。彼らはグレースが理不尽な要求をしてきた時に、ルカに代わってグレースと対峙する為、近衛兵に成り済ましてルカのそばに侍っていたのだ。彼らはワイダでグレースを足止めし、密かにバーグマン領に移動していたのだった。
その他にも万が一の戦いに備え、コタロウ配下の忍者達が配置され、双子山には3000の俺の騎士団がいつでも出撃できるよう準備を終えていたのだ。結局、出番はなかったけどね。
「まぁ、全てはこちらの思惑通りに進んだのだから良かったではないか!さて、これを祝し今宵はミナトの屋敷で宴会を……」
「ダメです。グレース皇女より先にワイダに帰城しなければなりません。急ぎましょう!」
ワイダ城で見た威厳に満ちたアダムス伯は別人だったかと錯覚させるくらいに、しょんぼりした彼をメイソンが引っ張るように連れていき、館を去っていったのだった。




