8話 ヒュプニウムの見る夢は
「う~む、なんとも厄介な事になったのぉ。よりによってヒュプニウム鉱脈とは……」
普段見せたことのない苦渋の表情を浮かべ、呟くようにヌシ様が言った。
ミスリル鉱脈と同時にヒュプニウム鉱脈を見つけた後、俺達調査団は領主のルカと共に、双子山のヌシ様の元を訪れていた。だが、喜んでくれるかと思ったヌシ様は、何とも言えない表情で俺達の話を聞いたのだった。
「ミスリル鉱脈だけであれば、諸手を挙げて喜ぶところなんじゃがなぁ」
「えっと、ヌシ様。ヒュプニウムはミスリルより希少な鉱石ですよね?しかも非常に高額で取引されると。これはバーグマン領にとって利益になる話ではないんですか?」
なぜか悩んでいるような表情のヌシ様に、俺は質問をぶつけた。あのビアトリスとベルドが取り合いするような金属だ。それなら喜んで然るべきじゃないの?
「ミスリルより希少な鉱石だからこそ頭を抱えておるんじゃ。ミナト、ヒュプニウムという物がどういう鉱石か知っておるか?」
「えっと、確かミスリルより希少な鉱石であり、武具としてもその性能はミスリルを上回り、強大な魔力を秘めるんですよね」
以前、俺とリンが戦った、炎獄の騎士が身に着けていた鎧がヒュプニウムだった。切断した鎧、それもたった一領を売却した代金で、俺の配下のリビングアーマー3000人分の装備が賄えたのだ。如何に希少な金属かが分かる。てか、よくそんなの切断できたな、リン!
「そうじゃな。しかし、至極、加工が難しい金属でもある。ヒュプニウムを加工できるのはドワーフ王が治めるガルラ王国を始めとした極一部。セイルス王国には、まだ精錬技術はないはずじゃ」
「で、でも、ヒュプニウム鉱石を加工できなくとも、鉱石を売ればいいのでは?その売却益だけでもバーグマン領は潤うと思うのですが」
「ふむ、ミナトよ、ではヒュプニウム鉱脈が他国でどのような管理をされておるか知っているかな?」
俺がわかりません、と首を振ると横にいたコンラッドがそっと教えてくれた。
「ミナトさん。他国ではヒュプニウム鉱脈は軒並み、その国の王家の所有になっているのです」
言葉を切るとコンラッドがヌシ様に目線を移す。ヌシ様が先を促すように頷いた。
「何故かと言うとですね、発見された鉱脈周辺の領地はことごとく、その国の王家に接収されるからです」
「ええっ!そうなの、コンラッドさん!?」
「間違いありません。全てのヒュプニウム鉱脈は、その国の直轄地になっていますね」
「ヒュプニウムはそれだけ重要な鉱物ということじゃよ。このバーグマン領にヒュプニウム鉱脈があると知ったら、いつ、王家がこの地を没収したとしても、おかしくはないという事じゃ」
「お待ち下さい、ヌシ様!この地はバーグマン家が統治していくと祖父ハロルドが先代国王様と約束を交わされたと聞いております!この地はバーグマン家が代々継承していくと!」
俺達の話を聞いていたルカが割って入る、とんでもない事になったとばかりに色を失うルカ。その背後でヒューゴが口を開く。
「確かにバーグマン家と王家にはその約定がありました。しかし、ハロルド様亡き今、その約束を王家が守ってくれるか、甚だ疑問ですな」
「ヒューゴ!お前はセイルス王が我が祖父との約定を違えるというのか!?」
「あくまでも可能性の話をしております。しかし、おそらく良くて領地替えになるでしょう。最悪の場合、難癖をつけられ領地没収の憂き目にあうやもしれません。王と領主、その関係は必ずしも対等ではありませぬゆえ」
ヒューゴは前当主アーロが不慮の死をとげた後、王宮でバーグマン領を取り上げようとした動きがある事を知っている。あの時はアダムス伯の尽力で事なきを得たがそれ以来、王家に不信感を抱いているようだった。
それは俺もそう思う。ダニエルの件ではダニエルを裏で操っていたのが王家に近しい者だ、というのが分かっている。そいつがバーグマン家を引っ掻き回しバーグマン領は大騒動になった。そして現王はハロルドとの約束を違え、時空魔法を使い、俺を召喚した元凶だ。そんな奴等が信用できる訳がない。
「もしハロルド様が生きておられたなら、そのような事はさせなかったでしょうが……」
……一瞬の沈黙の後、ルカが力強く声を上げた。
「ヌシ様!ミナト達の働きにより、バーグマン領は正にこれから繁栄を迎える、という時期に来ています。この地は我が祖父や父が心血を注いで統治してきた領地。この地を離したくはありません!」
その想いは俺とリン、そしてエリスも同じだ。しかし、俺はルカ様の臣。もし、配置換えとなれば俺も一緒に異動になるだろう。だが、双子山には大切な仲間が大勢いる。そして、ミサーク村がある。政務官としてだけでなく俺個人としてもミサーク村を守ると、旅立ったオスカーと約束していたのだ。その約束を破る訳にはいかない。
何よりヌシ様は双子山から動けない。まだまだ幼いルカを導く精神的な支柱として、ルカの側にいて欲しい。ヌシ様も自分の孫の行く末を見守りたいだろう。
「ヌシ様、どうかお教え下さい!仮にヌシ様がバーグマン家の当主の立場であったならどのように対処するのがよいと思われますか!?」
「ふむ、ワシが当主であったら……とな?」
暫しの沈黙のあと、ヌシ様が口を開いた。
「ふぉっふぉっふぉ。良いか、ルカよ。幼くともお主がバーグマン領の当主であり領主じゃ。その質問はワシではなくお主を支える家臣にこそ問うべきじゃな。そうではないか?」
はっとしたルカは、頷き、そしてまず先にヒューゴを見た。彼はしばらく逡巡し、ルカの問いに答える。
「ううむ。難しいですが、私の意見といたしましては、今までの中央の動きを考えまするにここは無念なれど、発見は無かったことにするのが良かろうかと」
「……なるほど、リスクを取るくらいであれば波風を立てないほうが良い、とヒューゴは思うのだな。では……ミナトよ、お前ならどうすべきだと思う?」
「えっ!?俺、ですか!?」
「お前は折りにふれ、なかなかに面白き案を思いつく。どんな策でもいい。遠慮なく意見を聞かせて欲しい。王家がヒューゴの言うような「悪巧み」をしていると仮定した状況であれば、お前はどうする?」
え~、そんなこと言われても……。何とかしてあげたいけどこれはなかなかに難問だぞ~(汗)。
少し時間を下さい、と断りを入れ考えてみる。
……えーっと、ヒュプニウムは各国の王家が管理するほどの希少な鉱石であることは間違いない。しかし、精錬技術がない以上、現状では宝の持ち腐れと言えるな。それより俺達が欲しいのはミスリルだ。でも、他国の例を勘案するとミスリル鉱脈の中にヒュプニウム鉱脈がある以上、一緒に取り上げられてしまう可能性が高いだろうなぁ。ヒューゴが言うように下手をすると王家側が鉱脈欲しさに難癖をつけて領地召し上げ、なんてシナリオもありうる。
まずこの件で何より重要なのはバーグマン家を守る事と、どこにも移封させないようにする事だ。さらに言えば鉱脈も守りたい。でも、一地方領主と王家じゃそもそも持っている権力が違うからなぁ。
「ミナト、心配しなくてもいいよ!敵がいるならリンがシュパパってやっつけちゃうから!」
俺が悩んでるのを心配してくれているのか、リンが気合を入れつつ腕をぶんぶん振る仕草をする。
「ありがとうリン。でも今回は対人戦じゃないんだ。相手は王家だからね」
「おうけってそんなに強いの?」
「強いっていうか、すごい権力をもった偉い人達なんだよ」
「ふ~ん。じゃあルカみたいな?この間来たあだむす伯と一緒くらい、えらいの?」
「ははは、リン。私は王家からみれば、か弱き小領主の一人に過ぎない。勿論、アダムス伯の足元にも及ばないんだ。私にもっと権力があれば良かったのだが……」
ルカが悔しそうに下を向く。権力かぁ……あ!それなら逆にそれを利用するのはどうだろう?……そうだ、これだ!
「リン!良い事を言ってくれた!それだよ!」
俺はリンの頭をなでる。するとリンの顔がパッと輝いた。
「ミナト、リンが役に立てたの!?えへへ、よかった~!」
「うん!リン、ハサミと権力は使いようだよ!うん、それでいこう!」
「ミナト、どうする気なんだ!早く教えてくれ!」
ルカに急かされ、俺はこの場に集まった人たちを眺めながら頷いた。
「はい。では俺なりの考えを説明しようと思います。えっと、まずはヒュプニウム鉱脈が見つかったことを内外に喧伝します」
「ほほう。あえて内外に鉱脈発見を報せるというのか?」
「はい。できれば大々的に」
そこまで言った時、ヒューゴが割って入ってきた。
「しかし、ミナト。それでは王家から何らかの圧力がかかる可能性があるぞ。ダニエルの件といい、王家の周辺は信用できん。それならば鉱脈は我らで秘匿した方が……」
「人の噂話は止められないものです。いくら隠してもいずれはどこからか漏れ、王家周辺の耳にも入るでしょう。それに秘匿していたらいつまで経ってもミスリル鉱山が開発できません。それならばいっそこちらから動き、主導権を握る事で相手の手段を奪ってやろうと思うんです」
「それで、具体的にはどうするんだ?」
「はい。ここからが肝心です。まずは……」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
数日後、ミスリル鉱脈が発見され、更にヒュプニウム鉱脈まで混ざっているという、大ニュースが領主ルカより発表された。それは領民を歓喜させ、俺の予想通り瞬く間に王国内外に知れ渡って行く。そして、俺達は案に沿って早速、行動を開始した。
ルカを乗せた馬車が早朝からノースマハの領主の館を出発する。付き従うのは重臣のヒューゴ、そして政務官の俺、そしてリンだ。更に10人のバーグマン兵が馬車の周囲を護衛する。一行はバーグマン領の東隣に隣接するトヨーカ男爵領を横断し陽が傾き始める頃、アダムス辺境伯の領地に入った。そして、途中の宿場町で一泊し、翌日の昼前にはアダムス領の中心都市ワイダに到着した。
「はぁ~、ここがアダムス辺境伯の統治する都市ワイダですか……」
「ミナト、見て!この町、ノースマハより人がいっぱいいるね!お店もお家もいっぱいあるよ!」
「そうだね。さすがアダムス伯のお膝元だ。活気もあるし栄えてるな~!」
馬車の窓から身を乗り出すように外を眺め、リンが物珍しそうに言う。リンも余所行きの綺麗な服を着ている。今回はリンもルカに付き従う従者の一人として認められているのだ。
ここワイダは西セイルス地方の盟主が住まう都市だ。人の多さも建物の数もノースマハとは段違いだ。人も荷馬車もひっきりなしに行き交っているし、交易ルートとしても繁栄してるんだな。
そして、前方には前世で観光地にあるような(俺はTVや写真でしか見た事はないが)どでかい西洋のお城が見えている。いや、それよりはるかに大きい。そして何よりここは観光を目的とした場所じゃない。
ここは政治と軍事、両方を束ねるアダムス辺境伯の居城ワイダ城だ。この城の印象を一言で言えば荘厳で重厚。それは本物の軍が駐留する軍事施設という側面もあるからだろう。配備されている兵もよく訓練されているんだろう、巡回している衛兵や門番も隙がない。
「王都にこそ及びませんが、この都市もそれに次ぐほどの規模と賑わいがあります。賢公の面目躍如といった所でしょうな」
「そのようだな。我がノースマハもここに引けを取らない街にしたいものだな、ヒューゴ!」
過去に王都を訪れた事があると言う、ヒューゴの話を聞きながら馬車の窓から城を見上げるルカ。
「その意気です。それではアダムス伯にお会いするとしますかな。ミナト、リン。今回は領主同士の公の会談だ。くれぐれも粗相のないよう注意せよ」
わかってますよ。今回は競馬大会の時のようなプライベートじゃない。ビアトリスの時のようにアダムス辺境伯との正式な会談だ。俺もリンもビシッとした正装に身を包んでいる。
「それでは、ヒューゴ、ミナト、リン参ろうか」
城門を抜けた先で馬車を降りた俺達は、ルカとともにワイダ城に足を踏み入れた。
でも、日本でも指折りの平民だった俺が、こんな格式の高い会談に参加しなけりゃならないなんて……。ううっ、緊張するあまり動きがぎくしゃくしてて、ロボットみたいになってるよう……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ワイダ城の大広間。豪華な内装が設えられた広い広い室内に武官、文官がずらーっと居並んでいる。更にその奥、ひときわ立派な椅子に腰掛けているのはこの城の主チェスター=アダムス辺境伯だ。
俺がよく知るアダムス伯とはまるで違う威厳に満ちたそのオーラは、西セイルスを束ねる盟主に相応しい。
俺はアダムス伯とヌシ様との関係を知っているし、俺個人も親しくさせてもらっている。でもその俺でも「領主のアダムス伯」を目の前にすると射抜くような視線に緊張で足がすくみそうになる。リンにもその緊張が伝わるのか、さっきから固まった表情が一ミリも動いていない。まぁ、俺もなのだが。
まずルカが形式通りの挨拶をし、アダムス伯も形式通りの挨拶をかえす。その間、俺達は一歩後ろで控える。そしてアダムス伯がバーグマン領で新たに鉱脈が発見された事を祝った。しかし、そのあとのルカの返答にアダムス家の家臣一同からざわめきが巻き起こった。
その言葉とは「新たに発見されたヒュプニウム鉱脈をアダムス家に譲渡したい」と言うものだった。
家臣たちがなお、ざわめく中、アダムス伯の低く通る声で静まれ、と発すると一瞬で大広間は静まり返った。
「ほぅ。今一度確認するが、貴殿は新たに発見された鉱脈をアダムス家に譲ると申されるか」
「その通りにございます。アダムス伯。ただその件に際して幾つかの条件がございますが」
「ふむ、その条件とやらを聞こう」
ルカは、西セイルスを束ねる盟主アダムス伯を前にしても、全くひるむことなくバーグマン家からの要望を説明する。
一つ、『新たに発見された鉱脈をアダムス家とバーグマン家で共同保有する。鉱山の運営はバーグマン家に一任する』
二つ、『採掘された鉱石のうち、ヒュプニウムの所有権はアダムス家が、それ以外の鉱石の所有権はバーグマン家が持つ事とする』
三つ、『両家は相互協力の盟約を結び、関係をより一層強化する』
それを聞き、大広間が再びざわめきに包まれた。この条件では、アダムス家側には何の痛手もなくヒュプニウムを手に入れられ、しかも共同保有と言う事は、鉱山の所有権までもが転がり込んでくるという事だったからである。
そもそも鉱脈はバーグマン家の領内にある。アダムス家は西セイルスの盟主とはいえ、他の領主に口出しすることはないし、運営もその地の領主が行うのが当然だ。わざわざ条件に記載するまでもない事なのである。最後の条件についても魔鉄の生産を開始したバーグマン家との関係強化は、願ったり叶ったりのはずだ。アダムス家からみれば旨味しかない、破格の好条件といえる。
「……ヒュプニウムに関してアダムス家に所有権を譲るという事か?ルカ殿、その理由を聞いてもよろしいか?」
「ヒュプニウムは大変、貴重な鉱石ではありますが、残念ながら我がバーグマン家にそれを加工する技術はありません。さらに他国に目を向ければヒュプニウムはその国の王家か、それに連なる王族で占められていると聞きます。わが国ではそのような前例はありませんが、他国に倣い、前国王の弟君であらせられるアダムス伯に献上するのが最良と判断しました」
……あの時、俺はルカにあえてヒュプニウムを手放す事を提案した。要はヒュプニウムがバーグマンの物だから因縁をつけられるのであって、それならいっそ手放し、バーグマン家の安泰を買うほうが良いと考えた。そして、アダムス家はその後ろ盾の相手としてベストだったんだ。
「……なるほど。よく分かった。貴重な鉱石を惜しげもなく手放すその心意気、このチェスター、いたく感服したぞ」
「お待ち下さい、チェスター様」
「どうした、イエール。何か意見があるのか?」
居並ぶ文官の中から一人の男がアダムス伯の前に進み出る。イエールと呼ばれたあの男、服装からしてかなりの身分だな。きっと重臣の一人だろう。
「此度の話、いささか危のうございます。ヒュプニウムは先程、ルカ殿の話にもあるようにその国の王家が所有するほどの鉱物。王家の許可なく、我がアダムス家が所有権を主張してよいものでしょうや」
「イエールよ、現状で我が国にヒュプニウムの所有権に対する法はない。よってアダムス家の所有としても何の問題もなかろう」
「しかし、王家は保有に関しては保有するに相応しい王族に限る、と言ってくる可能性もございます。事は慎重を期したほうが良いかと」
イエールの進言を聞いたアダムス伯が護衛隊長のメイソンに問いかける。
「メイソン。アダムス家はどのような家柄だ。言ってみよ」
「はっ!我がアダムス家は祖王セイルス一世の弟君リチャード様を祖とする由緒正しき家柄でございます。アダムス家は代々ワイダを本拠とし、西セイルスの盟主として君臨しております。辺境伯の名を冠しており家格はどの諸侯よりも上であり、王家からは一門として遇されております!」
問われたメイソンは直立不動で淀みなく答えた。それを聞きアダムス伯が頷く。
「うむ。そしてアダムス家に跡継ぎがなく、血筋が絶えてしまった際は王の子息を養子に迎えた上で家名を存続しており、さらに王家の保管機能を有する家でもある」
アダムス伯がイエールに目線を移す。
「イエールに問う。我がアダムス家はお前の言う、ヒュプニウムを保有するに相応しい王族の資格を有するか否か?答えよ」
「はっ!我がアダムス家はその資格を充分に有していると心得まする!私が思い違いをしておりました!」
そう言ってイエールが頭を下げた。以降、反対の声は上がらない。
おお~。さすが賢公と呼ばれるアダムス伯だ。それに重臣たちがアダムス伯に忌憚なく意見する事が普通だし、それに対してアダムス伯も当然のように返答している。だが、それでアダムス伯の威厳や器の大きさが損なわれることはない。むしろ、その気風に風通しの良さすら感じる。この人について行けば大丈夫だろうと言う安心感……。そうか、これがまさにカリスマってやつか!
「そんな訳だ。ルカ殿、今一度聞くが貴領地で産出するヒュプニウムを、本当に我がアダムス家が所有して良いのだな?」
「はい。バーグマン家にはいささか手に余る物ですから」
「それではヒュプニウムは、我がアダムス家が有り難く頂戴しよう」
……こうしてバーグマン家とアダムス家の間に盟約が結ばれた。バーグマン家はヒュプニウムを差し出すことで、正式にアダムス家という後ろ盾を得た事になる。更に共同所有にする事で王家からも迂闊に手出しが出来なくなった。
さらにアダムス伯から「ただ、ヒュプニウムを受け取るだけというのは、アダムス家として外聞が悪い。そうだな、鉱山開発の為の施設建設や道路の敷設工事、その他開業までの諸々の資金は、我がアダムス家が負担しようではないか」と思いがけず資金援助をしてくれる事になった。
ふぅ。これで、ヒュプニウムによる問題を事前に防ぐ事ができたはずだ。その上、バーグマン家とアダムス家の両家はより親密になる事ができた。ヒュプニウムを手放すのは惜しいけど、持っていても加工できないし、ヒュプニウムを差し出すことでアダムス家との盟約という安全保障を買ったと思えば安いものだろう。何より親善や鉱山の視察という名目で、アダムス伯が気軽にバーグマン領へ来ることが出来るようになるのも大きいしね。
……会談を終えた俺達は、翌日バーグマン領に戻った。「中央」から使者がやって来たのは、その数日後。それが、再びはじまる俺達の戦いの狼煙だったんだ。




