35話 エピローグ トマト煮込みの幸せを
「お主がオスカーか。おうおう、なんとも賢そうな面構えをしておるのぉ。」
「ヌシ様にそう仰って頂いて、光栄です」
「それにワシに似てイケメンじゃし、さぞモテモテじゃろうなぁ。ワシも若い頃はしょっちゅう声をかけられたもんじゃて」
「は、はぁ……」
ジョークなのか本気なのか判断がつきかねて、困惑ぎみのオスカー。対照的にヌシ様は、ニコニコと相好を崩している。俺達は、出発前にオスカーをヌシ様に会わせるため、双子山の山頂にやって来ていた。
ヌシ様の正体は、エリスの父でバーグマン領初代領主のハロルドだ。血こそ繋がっていないがエリスに育てられたオスカーは、ハロルドからみれば、孫も同然なのだろう。
……先日、ついに俺の住まいとなる新たな屋敷とパナケイアさんをまつる礼拝堂が完成し、落成式が行われた。
新たな屋敷は政務官の身分も考慮され、領主の舘ほどではないがミサーク村にある村長の屋敷より大きい。政務を取るための執務室も設けられ、普段はここで政務を取ることになる。
家に居ながら仕事ができるとはリモートワークが捗るな!と思ったが、毎日あっちこっちと視察したり、調査したりしているので、それに加えて家に帰っても在宅仕事が待っているかと思うと、それはどうなの?と思ったりもする。くっ、こっちの仕事も大概ブラックだぜ。
それはともかくとして、落成式のタイミングでエリスとオスカーがミサーク村からやって来た。エリスはここで俺達と暮らすため、そして、オスカーは王都に向かう為だ。
その際、オスカーをヌシ様に引き合わせようと思ったのだ。
「オスカー。聞けばお主はこれから王都へ旅立つそうじゃな?」
「はい。王都にはここより進んだ技術や文化があり、学術研究も盛んです。僕はそれを学びたい。それらはきっと村の発展に寄与するはずですから」
「ほうほう。殊勝な心がけじゃのう」
「ありがとうございます。まずは王都で役人の採用試験を受けるつもりです。もうすぐ試験があるので」
「そうかそうか、頑張るんじゃよ。お主は若い身でありながら村の政にも深く関与し村長を立派に補佐していたと聞いた。その経験は王都でもきっと役に立つじゃろう。あとワシからの忠告じゃ。王都は人が多く華やかではあるが誘惑も多い。悪い誘いもあるだろう。くれぐれも惑わされぬようにな」
「はい。肝に銘じます」
「それともうひとつ。王宮には近づかんことじゃ。あそこには魑魅魍魎が棲む。迂闊に近寄らん方が良い。役人になるにしても王宮に関わる役には着かんようにな」
ヌシ様や俺も王家の連中とは時空魔法で因縁がある。不測の事態が起こるとも限らないし、王都にいくオスカーには危険な目にあってもらいたくはない。
「はい。それはミナトにも忠告されました。ふふっ。でも、僕なんか貴族でもない小さな村の人間なので、王宮に近づく事なんてそうそう無いでしょうけれど……」
いやいや、オスカーってば、勉強家だし、若いのにミサーク村の復興を引っ張っていける人材だし、何より志がある。この才能は王都で学んだらどこまで成長するのかな、と俺なんかかなり期待しているんだぜ?でも、いい縁があって、そっちで結婚して帰ってこない……なんていう可能性も無きにしも非ずではあるよなぁ?まぁ、それならしょうがないんだけどさ。
「うーむ。お主は自分を過小に見積もっとるようじゃのう……。まぁ、王都に行ってみればわかるじゃろう……。そうじゃ、オスカー。ワシからの餞別じゃ。これを受けとるがよい」
そう言ってヌシ様が取り出し、オスカーに手渡したのは一振りのショートソードだ。
「旅の最中は何かと危険が伴う。その剣がきっとお主を守ってくれよう。それと、もうひとつ、この袋も渡しておこう」
あ。あの袋は見覚えがあるぞ。炎獄の騎士の装備品を入れていた袋だ。
「この袋は文字通りアイテム版の「マジックバッグ」でな。この袋に手を触れてみよ」
「えっ、マジックバッグ!?そんな貴重な物、受け取れません!」
「よいよい。ほれ、いいから手を寄越しなさい」
言われるままオスカーは袋に触れる。するとマジックバッグが一瞬輝いたあと元に戻った。
「よし。これでこのマジックバッグはお主専用になった。他の者には開けられぬから安心するがよいぞ」
オスカーが躊躇する暇も与えず、マジックバッグを手渡したヌシ様は満足そうに頷いた。
「こんな希少なアイテムを……ヌシ様、どうしてそんなにしてくれるのですか?」
「ほっほっほ。若い者が頑張ろうとしているんじゃ。爺は応援してやりたいのじゃ。ただ無理はせんようにな」
こうしてヌシ様に見送られ、双子山を後にした俺達は双子山とノースマハへの街が分岐する道までやって来る。そこには30代くらいと思しき男が俺たちを待っていた。
大きな荷物を背負った彼は、商用で王都に向かうフリール商会の家人だ。オスカーを王都まで案内してくれる算段になっている。ここから二人はバーグマン領の隣の領地の街サウスマハに行き、そこからは乗り合い馬車で王都に向かうらしい。
「じゃあそろそろ、僕は行くよ。母さん」
「うん。身体には気をつけるのよ。……何を食べてもお腹を壊さないように、母さんが鍛えておいたから大丈夫だと思うけど!」
えっ!?いや、結果的に鍛えられただけで、あれはエリスの料理の腕なのでは……!?
「……。確かに、お腹は丈夫になったね。でも、僕が帰ったら一番に食べたいのは母さんの料理だよ」
「ふふっ。オスカーったら……」
そう言ってからエリスがギュッとオスカーを抱きしめ、名残惜しそうに身体を離した。
「ミナト、母さんの事を頼んだよ」
「ああ。もし何か困ったことがあったらフリール商会を訪ねるといい。きっと力になってくれるからさ」
「分かった。王都に着き次第手紙を書くよ」
「オスカー、一つ言わせてくれ。王都がどうしても合わないなと思ったら、その時は無理する必要なんてない。遠慮なくこっちへ戻ってくるようにね。俺もエリスも、村の皆もいつでも君の帰りを待ってるからな」
頭上のリンもうんうんと頷く。
「ありがとう。ミナト、リン」
俺の言葉にエリスも笑顔で頷いた。
希望を思い描いていたら、その理想と現実がかけ離れていた。なんて事はザラだ。
「成功するまで帰ってくるなよ!」と叱咤激励して送り出す人もいるだろう。そう励ました方が奮い立つのかもしれないし、それが努力の原動力になる人もいる。でも俺は無理だと思えば帰ってくればいいと思う。だって道はそこだけじゃないんだもの。この道は合わない、もう歩けないと思ったら無理せず少し休んでまた次の道を歩けばいいだけなんだから。
「それじゃ、みんな、行ってきます!」
俺達と握手を交わしたあと、オスカーは笑顔で手を振って旅立って行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「それじゃエリス、屋敷と礼拝堂を案内するよ。新しい仲間のアラバスタも紹介したいし」
「え?新しい子が来たの?ミー君、どんな子なの?」
そしてエリスを連れた俺達はアラバスタが待つ礼拝堂に足を踏み入れた……。のだがここでちょっとしたアクシデントが。
緊張気味のアラバスタがエリスとの挨拶を何とかこなし、エリスもニコニコと言葉を交わした。その後だった。
「わ、私はパナケイア様とミナト様に身も心も捧げた身です!何故なら私はミナト様にお救い頂き、私の身体の中にはミナト様のお力が……!あれは、は、は、初めての体験だったのです!」
……いや、確かに間違ってないよ。ヒールは俺の魔力を流して身体を癒やすものだし。パナケイアさんはアラバスタに「ミナトに仕えて欲しい」って言ってたし。
……でもね、アラバスタ。その言葉のチョイスは不味いでしょーよ!
ついでにリンが「うん!アラバスタ、いっつもミナトの為ならいつでも身を捧げるって言ってるの!」とオイルにファイヤーな発言をした。
「……!?どういう事かしら?ミー君?」
笑顔を貼りつけたままで俺に問うエリス。礼拝堂のイスや窓がガタガタと揺れ始めた。飾られた布や花が舞いだす。
「こ、これは……??……ま、まさかスカルロアが!?ミ、ミナト様!私がお守りますから、ミナト様とエリスさんは外へ!!」
そう言って慌ててギュッと俺を抱きしめるアラバスタ。
その時ゴウッという音と共に一陣の風が礼拝堂を襲った。
「わああっ!誤解!誤解……!!話を聞いてくれっ!エリス~~!!」
俺は風に翻弄されながら、必死で説明をした。危うく礼拝堂が完成した早々、また大工のバリトンを呼ばないといけない羽目になるところだった。アラバスタの発言おかげで、俺はやましいことなんて何一つないのに、エリスに機嫌を直してもらうのにえらい苦労したのだった。とほほ……。
それから、とりあえずアラバスタには「そういう事は軽々しく口にしてはダメ。それと捧げるのはパナケイアさんだけでオッケー」と約束してもらった。なぜか本人は不満そうだったけど。ホント、言葉のアヤって恐ろしいぜ……。
……それはさておき、オスカーの他にもう一件、別れがあった。ラナが従えているドッグウルフ達。その中で一番体格の良いポン太がルカの従魔になる事が決まったのだ。
領主の政務の傍ら、暇を見つけては双子山にやって来て、ラナと一緒にドッグウルフを駆り、山を駆け巡っていたルカだったが、その中で特にポン太と相性がよく、またポン太もルカによく懐いていた。ルカが館に帰る時には、見るからに寂しそうにしていたという。
ラナがふと、「ポン太、ルカの所に行きたいの?」と聞くと、ポン太もルカの元に行きたいと意志を示した。数日ラナは渋っていたが、ポン太の気持ちを尊重し、この度ルカの従魔に転向し領主の舘で暮らすことになったのだった。ルカは大喜びでポンタ太を迎える準備をしているという。
ポン太との別れ際「もし、ルカに虐められたら噛み付いてもいいから」と言い、その後、泣きながら「ルカはポン太が大好きだけど、私も負けないくらいポン太が好きなんだからね……!」と抱きしめた。
こうしてルカにとって初めてとなる従魔の相棒ができたのだった。
ちなみに双子山のドッグウルフ達は他の地域の個体に比べて非常に体格が良い。大森林で捕獲した高い魔力を秘める獲物を普段から食べているせいかもしれないが、さすがに馬ほどの背高はないものの大人でも乗れそうなくらい大きく成長した個体もかなりみられる。
その中でも際立って大きいのがポン太だ。これならルカが成長しても乗れるだろう。なによりルカの身を守るにはこれ以上ない存在だ。
俺とリンのように仲良く頑張れよ、ポン太!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
新築ほやほやの屋敷の会議室。そこで俺とコンラッド、そしてイアンが広げられた地図をにらみつつ話し合いをつづけていた。
「……では参拝道を挟んでこちらに新たなリンゴ畑、そしてここにブドウの木を植えるという感じですね。そしてこの敷地は開けておく、ということでよろしいですか?ミナトさん」
地図から目を離し、イアンが俺の方を向く。
「はい。礼拝堂ができたことで参拝者が増えることが予想されます。広くて、整備された参拝道も必要でしょう。ですからその為の土地は確保しておきたい。後からではなかなか動かしづらいので今のうちからしっかり決めておきたいんですよ」
「そうですね……。ならばこれから拓く新たな農地は北側のこのあたりはどうでしょう?そして果樹園は先ほど述べた通り、日当たりの良い南側のこの辺り……。今までの果実の売上を考えると恐らく果樹園の引き合いはかなり強いものと思われます。ですので先々の事を考え、果樹園の敷地はこれぐらい取っておく方が良いと思います」
地図の一角を指さしながらイアンが言う。
「分かりました。そこであれば問題ないでしょう。参拝道からも外れていますし、参拝者が迷い込む心配もあまりないと思います」
「しかし、人が増えると不測の事態が起こるかもしれません。様々な方がやってきますから……」
「それについては、警備をウィルの部下達に任せようと思ってます。フルプレートメイルの騎士が昼夜問わず巡回している場所で悪事を働く度胸のある人間は、中々いませんから」
「なるほど、それなら安心できます。いやぁ、さすがミナトさんですね」
そう言ってイアンが満足そうに頷いた。
主にサツマイモを栽培しているミナト大農園は、イアンの努力の甲斐もあり、かなりの面積にまで広がっている。これまでは需要見込みが増えれば随時、畑を増やしていくといった方法で拡大していた。
しかし、礼拝堂ができ、参拝者や治療を受けに来る人が増えてくる事も考慮し、今のうちから区画整理を進めておこうということになったのだ。
従来のサツマイモの他、リンゴとブドウも果樹園を作り本格的に栽培していく事が決まった。ただ、果実をそのまま出荷するだけではなく、手を加え、加工品も作る。その為に必要な施設も建設する計画だ。
更にミサーク村から卸してきた材木を加工したり、ネノ鉱山で産出された魔鉄を使った武器や農具、その他、生活用品を造る工場も作ろうという話も出ている。
目指すは双子山の一大生産地化と生産、加工の集約化だ。現状では原料を生産し、他所へ輸出し、そこで加工という流れが多い。ミサーク村で採掘される岩塩なんかが典型だ。ネノ鉱山で採取された魔鉄もそのほぼ全てが地金の状態で運ばれる。しかし、それでは原材料の価格でしか取引されず利幅も小さい。
そこで、付加価値をつけるべく、双子山周辺で原材料を加工し製品として輸出しようと考えている。製品として商品価値が上乗せされれば今よりさらに高値で売れる。人々から欲しいと思われるような価値が高い製品があれば自然に人が集まり、市場が活性化するだろう。それを目当てに更に人が集まり……と経済の好循環を作るのだ。
双子山があるこの地は区割りとしてはミサーク村に属している。売り上げが伸びれば村の税収も増える。村の活性化にも繋がり、さらにバーグマン領全体にも好影響が出るはずだ。
「しかし、まずはネノ鉱山の再開に全力を注ぎましょう。幸いな事に準備も滞りなく進んでいます。これなら来月の中頃までには目処がつきそうですから」
コンラッドが満面の笑みで話す。
「それもコンラッドさんの働きのおかげですよ。まさかこんなに早くなるとは。本当に感謝です」
「いえいえ。大変なのはまだこれからですよ。ミナトさん」
「こちらもやりますよ!果樹園も開設されるし、ミナト大農園はますます発展していくでしょう!ミナトさん、これからもよろしくお願いしますね!」
「はい。みんなでバーグマン領を豊かにしていきましょう!俺も政務官として精一杯頑張ります!」
三人で固く握手を交わす。改めてこんなに熱い人たちが助けてくれているんだと胸の奥が熱くなった。そのあと不意にコンラッドが俺を見て聞いてくる。
「……ところで、今日はリンさんは一緒ではないんですか?」
「リンは双子山の山頂に居ますよ。俺も呼ばれているので、これから向かおうと思ってます」
二人との会議を終えた俺は急いで双子山の山頂を目指し、山を登った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
二つの山が並んでいるような双子山。その南山の山頂には小さな石碑がある。ここはかつてエリスが彼女の父であるハロルドの従魔と共に幼少期を過ごした場所だ。
双子山が炎上した際はあたり一面が焼け野原になってしまったが、女神パナケイアの力により今ではすっかり元の緑があふれた山に戻っている。
そんな双子山を登っていくと……。
「あ、ミナトだ!お~い、ミナト~!」
俺の姿を見つけたリンが山頂から手を振っているのが見えた。エリスやヌシ様、ラナ、ライ、ウィル、そして5名のリビングアーマーの姿も見える。
「も~、ミナト、遅いよ~」
「ははは、ごめんごめん。コンラッドさん達とつい話こんじゃってさ」
「それより見て!ほらやっと完成したんだよ!」
「おおー!こりゃすげえ!」
リンが指差す先、石碑の隣には立派な屋根付きのベンチが設置されていた。真新しいテーブルも備え付けられ、10人程が座れるかなり本格的なものだ。
「立派じゃないか!これリンが作ったのかい?」
「ラナやウィル達も手伝ってくれたんだよ!屋根の釘打ちはリンがやったんだ~」
「そうだったのか、ウィルもリビングアーマーのみんなもありがとう」
誇らしげに胸を張るリン。どうやら皆で頑張って作ったらしい。ウィルの配下のリビングアーマーの中にはいわゆる工作班がいる。材料はあらかじめ俺が用意したので、それを加工して作ったのだ。小さな石碑も小さな社のような囲いが作られていた。
「これで雨が降ってもエリスの友達は大丈夫だよ!ね、エリス」
リンがそう言うと、エリスは嬉しそうに頷いた。周りにはコボルトレイスのコー君とハーピーレイスのピーちゃんがいる。リンはコー君と何やら親しげに話をしている。その後、エリス達は連れ立って遊びに出掛けた。
と、残った俺の元にゾンビレイスのゾンさんがつつっとやって来た。
「ん、どうしたの?ゾンさん」
そう聞くと、ゾンさんは懐から本を取り出す。そして本を開きあるページを指さした。
「あ、これって……え、これを俺が?」
そう聞くとうんうんと頷くゾンさん。
「そっか。ゾンさんは霊体だから出来ないのか。分かった!材料はあるし、テーブルもあるからここで作れるよ。待ってて、ゾンさんの代わりに俺がやるよ!」
ゾンさんが見守る中、まず俺が取り出したのはカセットコンロ。そして鍋や水など、必要な材料をマジックバッグから次々に取り出し、出来たばかりのテーブルに並べていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
……さてさて、玉ねぎ、キノコはもういいな。トマトも充分煮込んだし、あとは鳥肉だけど……これならいいだろう。どれ、味見……うん!いい感じだ。
俺の前にはカセットコンロに置かれた大鍋。それに具材がコトコトといい音を立てて煮立っている。ゾンさんを見ると腕を組んだままウンウンと頷いている。良かった。どうやらゾンさんのお眼鏡にもかなったらしい。
俺が作っているのは「鳥肉のトマト煮込み」だ。ゾンさんが見せてくれてくれた本には、このレシピが書かれていた。そして料理名の横には「エリスだいこうぶつ」の文字が。
エリスが好きな料理なのか聞いたら人指し指をピンと立てた。ははは、これはゾンさんイチオシ料理なんだな。
コンソメとか、日本から持ち込んだ材料を入れようとしたら、ゾンさんに止められた。人指し指を立ててチッチッと指を振る。どうやらゾンさんのこの料理に対するこだわりはかなりのものらしい。
時々、ゾンさんの細かいチェックが入りつつ煮込んでいると……。
「わぁ、いい匂いがするー!」
「……これは……美味しい匂い」
向こうからリンやラナの声が聞こえてきた。リンたちは山の中で遊んでいたらしい。
「みんなおかえり。もうじきできるよ。もうお昼だからね」
あたりにはトマトベースの良い香りと、ほんのりスパイスが効いた香りが漂い食欲を刺激する。
「ねぇ、ミー君。このトマト煮込みってもしかして……」
エリスが鍋の中を覗きながら聞いてくる。
「その通り。ゾンさん直伝さ」
隣でゾンさんが片腕を突き出しグッドのポーズをする。
「やっぱり!昔はいつもここでゾンさんがご飯を作ってたの!わぁ、そうそう、これこれ!このトマト煮込みよ!ゾンさん覚えていてくれたんだ……嬉しい……」
「さぁ、みんなで頂こう。リン、お皿を並べてくれるかい?」
「はーい!」
みんなにトマト煮込みとパンを配り、席に着く。俺達やエリスの外にはラナ、ライ、ヌシ様、そしてコー君やピーちゃんもいる。霊体ので食事は取れないがコー君達の前にも配膳した。
「それでは~」
「「いただきまーす!」」
そして賑やかな昼食が始まった。
リンとラナは何杯もお代わりし、お腹がぱんぱんになるまでよく食べ、エリスは久しぶりの味に感激の涙を流した。
隣に座っていたゾンさんと目があった。誇らしげな表情で腕を上げ拳を突き合だす。俺も拳を合わせ「よし!」と頷き笑い合った。
「しかし、こうして気心の知れた者たちと食事ができるのは、いつぶりじゃろうなぁ。ワシは幸せじゃ」
しみじみと語るヌシ様の顔は幸せそうにほころんでいた。俺も、何だか久しぶりに落ち着いてご飯を食べたような気がする。政務官なんて大層な職を仰せつかり、毎日が目まぐるしく動いていたからなぁ。この仕事はかなりの重責かつ激務なのは否めない。正直、ストレスはかなりのものだった。
でもリン達の楽しそうな顔を見ると、その疲れも忘れられた。まだまだ俺にはやることがある。リン達のように、バーグマン領の人達も笑って御飯が食べられるように……。俺もまだまだ頑張るぞー!!
3章これにて完結です。読んでくださった皆様ありがとうございました!引き続き4章もお付き合い頂けると幸いです!もし、よければ評価、ブクマもお願いします!




