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〈第二部開幕〉転生聖女の逃亡放浪記  作者: 宮本高嶺
第三章 イングズ共和国動乱記

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99 決断、そして遭遇

これまでに得ていた情報、そしてリューナの記憶を視て分かった事。

改めて状況を理解したランデル達はそれぞれ物思いに耽っている。

勿論、この騒動の裏にウルギス帝国が絡んでいるのも伝えてはいるけど、それでもまだ肝心な部分は話してはいない。

現状で既に手一杯な中、それらを上回る事実をいきなり話す訳にもいかない。

だからこうして彼らが一度落ち着けるまで私は待っている。

そうして短くない時間が過ぎ、時折相談やらをして話を整理していた彼らがようやく私に向き直る。

「想像以上にややこしい状況になってるのは理解した。それに、少なくともアグルに何か起きているのもな。だが、まだ何かある。違うか?」

「流石に気付くわね。そう、残念ながらこの騒ぎはほんの一部に過ぎない」

いよいよ覚悟を決めた彼らに、私も核心を告げる。

「帝国は既にフェオール、アンスリンテスでにも手を出している。それに細かい事はどうあれ、連中は私にも目を付けている」

「帝国は中央大陸全土に手を伸ばしているのか。しかし、君を狙うのは一体?」

私に目を付ける理由。

それこそがフェオールから見え隠れしていた連中の裏の目的。

「聖痕。あいつらが欲しがっているのは間違いなくこれよ」

胸元の聖痕を浮かび上がらせる。

顔合わせの時にも見せてはいるけど、改めて目の当たりにするとやはり色々と思う所もあるのだろう。

彼等の目が聖痕に集まる。

「フェオールでもアンスリンテスでも、他の聖痕所有者にちょっかいを出してはいた。なのに、アンスリンテスで接触した帝国の奴は私の事を把握していた。そうでなくてもこうして何度も色々な事に巻き込まれている。ここまで来て全部が偶然だなんて能天気に思う程私も馬鹿じゃない」

三つの国を回って、その全てでこんな事に巻き込まれて、それを偶然だなどと。

何よりも、無関係の部外者で居ようと思う程薄情でも無い。

幸いと言うか、まだ知る限りで死んでしまった人も居ない、、、まぁ裏で消されてしまった人は居るかもしれないし、流石にそこまで気を使ってはいられないけども。

ともあれ、これ以上受け身で居るつもりは無い。

「だからこそ、私はここに来た。まずはここで起きてる異変を片付ける。実際にこの目で見て分かった。ここも間違いなく帝国が絡んでいる」

彼等に私が見た事を伝える。

山の麓から森に掛けて広がる禍々しい魔力。

そして、それが自然発生した物ではない事。

「あまり悠長にはしてられないな。どうする、すぐにでも動くか?」

「行ける?」

「元よりそのつもりだよ」

ランデルの言葉に皆が頷く。

なら、考えるまでも無い。

時刻は昼を過ぎて夕暮れが近付いていた。


薄暗くなり始めた頃、私達は魔物が発生しているという森へと分け入っていた。

ただでさえ鬱蒼としている森は既に夜と大差ない位には暗くなっていたけど、リューナが操る閃光魔法が周囲を照らしているので視界はかなり確保されている。

それでも立ち並ぶ木々は視界を塞ぎ、宙に浮かぶ灯りは幾らかの魔物を引き寄せている。

と言っても、グランスが周囲を経過して、発見した魔物はリューカが先行して魔法で殲滅しているお陰でかなり順調に進んできていた。

「しかし、こうして来てみてもその魔力ってのを感じないんだな」

メランが手持無沙汰に斧を持ち直しながら呟く。

「うん、私も何も感じない。リューカは?」

「何となく違和感っぽいのはあるんだけど、よくあると言うか、その程度だね」

素質の高い双子でさえもこの森の異常を感じ取れないらしい。

かく言う私も、肌で感じる部分は確かに無い。

けれど、そうじゃない部分。

つまり、今この場に於いて私しか持ちえない物、聖痕が何かを訴えるかのように疼いている。

(こんな感じは初めて。ただの魔導具ではないという事?)

正体不明の不安を密かに、私はその疼きが導く先へと歩みを進める。


陽が完全に沈み、夜の帳が森を覆う。

その頃にようやく辿り着いた場所に私達は驚きを隠せなかった。

焼けた草花に、薙ぎ倒された木々。

それが放射状に広がっていて、そしてその中心には。

「戦闘態勢だ。警戒しろよ」

ランデルが小さく、唸る様に促す。

彼等がそっと武器を構える中、私は目線で彼に訴えると一人その中心へと近付く。

「目的は?」

爆心地とも言うべきその場所に、佇む者が居た。

全身を甲冑の様な、しかし無機質で装飾すらないツルリとした光沢のある装備に身を包み。

さらに異質なのがその頭部で、こちらも兜らしき物でスッポリと覆われているのだけど、やはり丸みを帯びた不自然なまでに無駄を削ぎ落した意匠であり、そして顔を覆う部分に至っては穴の開いていない仮面のような、月明かりを鈍く反射する物で覆われており、目があると思しき場所にだけ時折赤い光が血の様に明滅している。

「魔物、、、ではないわね。人間ではあるのでしょう?」

私の言葉に、謎の存在が僅かに身動ぐ。

その動きに後ろでランデル達がいつでも動けるように身構える。

だけど、

「聖痕の聖女、ここで会うとはな」

仮面の下から響いた異様なまでに明瞭な声。

だけど、それ以上に私はある物に気付いて目を見開いてしまった。

「面白い。一つ、力を見せて貰おう」

その無機質な仮面の上半分を覆う様に、聖痕が展開されていた。

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