48 絡みつく思惑
オーフェの言葉に私はむしろ首を傾げてしまった。
「私の事が知られたって、それはどういう事なの?」
「そうですねぇ、どこから話せばいいんでしょうか」
同じく首を傾げたオーフェが目を閉じてウンウン唸る。
ややあって目を開くと、一つ頷いて説明を始めた。
私とオーフェが出会ったあの店での顛末は置いておくとして、どうやらその後が少々マズかったらしい。
つまりは、
「まさかお貸しした魔導具から嗅ぎ付けるとは思いませんでした」
そう、オーフェから試作品として借り受けた例の案内魔導具がきっかけだったらしい。
当然の事ではあるけど、それを持っていたからというだけで怪しまれる事は普通なら無い。
ただし、それが関係者であれば、ではある。
「たまたまリターニアさんがそれを使っているのを誰かしらが見掛けたようで、部外者が未発表の魔導具を持っているのはおかしいと、当初は窃盗などを疑ったみたいで」
さらに悪い事に、その目撃者が魔導教導院の関係者でそこから話がオーフェまで回ってきたらしい。
「モチロン、お客さんに協力願って実地試験をしているという話で進めたんですけどねぇ、相手さんがまぁねちっこいオッサンでして」
魔導開発局第一の局長と話すに相応しい人物が誰か、となるとそれは当然組織の長となるワケで。
「魔導教導院院長のダゲッド・ケンネスタ・アンスリンテス。2代前の当主がフェオールから移住して今現在の地位を築いたそうですが、面倒な事にかつてはそれなりの貴族だったようで、未だにその頃の感覚をお持ちでして」
お貴族様特有の選民思考ってヤツかしら、と呆れつつも何となく流れが見えてきた。
「そのダゲッドとやらがこれ幸いと絡んできたのね?」
「ええ、全くあの太っちょハゲと来たら、如何にもそうでいて中身の無いイチャモンをペチャクチャペチャクチャ言っていきましてねぇ」
心底疲れた顔をしてオーフェが言いたい放題文句を放つ。
てか、太っちょハゲって。
「まぁ、その時点ではまだリターニアさんについては何も知らなかったんです。ところが」
その後、実はオーフェの方でちょっとした事件があったらしい。
「私の店に何者かが入り込みまして。まぁ下手人は罠に掛かって御用となったのですが」
その侵入者自体はただのコソ泥だったそうだけど、街の治安維持も担う魔導教導院の者が証拠として幾つかの魔導具を回収したらしい。そしてその中に、
「奴ら、私が居ない時を狙って来たんですよ。その日はいつも店番を頼む知り合いしか居なくて、その子も当然魔導具には詳しいんですけど、私の試作品類は私の趣味で置いてただけなのでそっちまでは把握してもらって無かったんです」
そして、オーフェが全てを知ったの事が全て終わった後。
彼女が店の魔導具を確認してそれに気付いた時には後の祭りであった、と。
「やられました。奴ら、証拠とか言って全然関係ない聖痕探知魔導具まで回収してたんです」
悔しさを露わに、それでも状況を淡々と教えてくれるオーフェ。
だけど、当然一つの疑問が浮かぶ訳で。
「魔導教導院は私が聖痕を持っていると知ってた訳ではないわよね。それだと順序が逆になる」
「モチロンです。奴らは単純にこの町に聖痕保有者が居ないかを探すとしていただけでしょう。そしてその理由が、私なのです」
オーフェが聖痕を自覚したのは今から6年ほど前、まだ学院に通っていた18歳の時だという。
元々、魔道具弄りが趣味だった事もあって、あまり魔法を使う事が無かったという。
これは聖痕を持つ者としてかつての私も経験した事だけど、その身に聖痕を宿してしまうと幼いうちにその力を暴発させてしまう事が多い。
それを本当に些細なきっかけで起き、時に甚大な被害を齎す事が多い。
私で言うと確か8歳頃に、まぁ十数人の命を奪ってしまった訳だけど、一応弁明するならそもそもそいつ等は私を迫害していた連中で、自業自得と笑ってやったけれども。
とまぁ、極端な例ではあるけれど大なり小なり魔力を持つ存在である以上、幼いうちに聖痕の力を知るはずであるのである。
それでいくと、18歳まで聖痕を自覚する事無く生きてきたオーフェは非常に稀有な存在だ。
「まぁあの時は色々大変ではありましたよぉ。でも、院長が色々と取り計らって下さったお陰で大した騒ぎにもならずにすみましたよぉ」
何と事無い風に言うオーフェではあるけど、多分その時はそれなりの大変であっただろう。
それこそ、今こうして魔導開発局第一の局長にこの若さで就いているのだし。
話を戻すと、詰まる所そうしてオーフェという聖痕所有者が18年間見出されずに居た事はそこそこ知れ渡っていて、件のダゲッド氏などは大層憤っていたそうだ。
「いやぁ、もしももっと前に聖痕があると知られていたら今頃どうなっていた事やら、ですよぅ」
他人事の様に語るオーフェではある。
けれども、こうしてその頃から燻っていた感情が今回の件でまさかの反応を引き起こしてしまい、そこに私は巻き込まれてしまったのが今回の話なのである。




