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〈第二部開幕〉転生聖女の逃亡放浪記  作者: 宮本高嶺
転生聖女の逃亡放浪記・第二部

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384/389

384 始まりは逃亡から

フェオール王国第一王子 レオニル・フェオール

音すら焼け落ちたと錯覚する程の静寂。

俺とミーリスによって強化された障壁に、聖痕の聖女が放った炎は容赦無く襲い掛かった。

それは爆発何て言葉が生温い程の勢いで周囲を焼き尽くした。

俺達の背後に居たレネスと救世同盟の連中は腰を抜かしてへたり込み、そんな事してないでさっさと逃げろと怒鳴りたかったけど、炎の勢いは一向に衰えてくれない。

俺とミーリスは歯を食い縛って障壁を維持し続けるけど、それも少しづつ軋み始める。

そして、遂には端の方から亀裂が走り始め、それは少しづつだが確実に広がっていった。

「なんて魔力量だっ!」

「私達じゃ敵わないっ!」

俺の声とミーリスの叫びが重なる、こういう時まで双子は似るのかよと内心で呆れるけど、いや本当にこのままじゃ全員焼け死ぬしかない・・・そう覚悟した時だった。


「はぁ、つまらないわね」


炎の向こうからそう聞こえ、唐突に炎が消え失せる。

余韻なんて欠片も残らず、あれだけの炎だったにも拘らず辺りには熱気すら残っていない。

ただ、ここにあったはずの石室は跡形も無く消え失せ、地面は焼け焦げ、更には近くにあった木々も炭と化していた。

そして、その真ん中には平然と佇む聖女リターニア。

彼女は、まるで俺達への興味を失ったかのように空を見上げていた。

「はぁはぁ・・・何がどうなってんだ・・・?」

膝に手を突き、肩で息をしながらも聖女を睨み続けるけど、それにも反応は無い。

「分からない・・・けど、見逃してもらえたという訳では無さそうですね」

「当たり前でしょ。お前達如き、見逃すまでもないってだけよ」

ミーリスの言葉に、聖女が無感情にそう返す。

その物言い、態度に俺は我慢出来なくなる。

「テメェ、いい加減にしろよ!」

「っ、レオニル、落ち着いて!」

制止するミーリスを振り切り、リターニアに掴み掛かろうと足を踏み出す。

「テメェに何があったか詳しくは知らねぇ、けどよ!アンタのお陰で俺達は今生きてんだ!俺達にとっちゃ希望そのものなんだよ!だってのに出てくる言葉は全部後ろ向きで、まるで世界も俺達もどうでもいいってみてぇじゃねえか!」

「みたい、じゃなくてその通りよ。別に、世界が滅びようが人が死のうが私には興味は無い。勝手な幻想を抱いて、何もかもを押し付けようとするお前達こそ余程傲慢でしょ?」

「なっ、そんな事は!」

俺の言葉を遮るように聖女が振り返る。

そして、徐に体に巻き付けていた髪を解くと、その下にあるものを見せつける様に両手を広げる。

そこでようやく、俺は彼女がずっと裸のままだって事を思い出す・・・同時に、今度は何も遮る物が無く、その全てが露わになっているという事にも。

「う、うわあああああ!」

「あら、可愛い反応」

クスクスと笑うリターニアに背を向け、必死に頭を振って今見た物を忘れようとする・・・けれど、女性の裸なんてまともに見るのは初めてだし、確かにガキの頃はミーリスと風呂に入ったりはしてたけど、それは本当に2歳とか3歳とかの頃の話で、あんな・・・あんな綺麗なピンクの・・・

「って、違う!何のつもりだ!」

流れでまた思い出してしまった事を必死に振り払いながら声を上げる。

何だかミーリスの視線が痛い気もするけど、今は無視だ無視無視!

「違う、レオニル!」

ミーリスの鋭い声、それと同時に聖痕が共鳴して輝き始める・・・これは、まさか!

「戦いに綺麗も汚いも無い。私は女、この身も武器となる、今みたいにね。お勉強になったでしょ?じゃ、さようなら」

慌てて振り返るけど、もう遅かった。

リターニアの姿が霞んでいき、瞬きの間に見えなくなる。

「転移!?」

「でも、何処に!?彼女はこの時代の事を何も知らない筈では!?」

今のは確かに転移魔法だった。

だけど、あれは転移先を明確にイメージ出来ないとそもそも発動すら出来ない。

「信じられん。既に探索魔導具の圏外に行っている・・・」

救世同盟の男が魔導具を掲げながらそう呟く。

「聖痕の為せる奇跡の御業でしょう。我々では追いようがありませんし、彼女自身も何処へ転移したのかは運任せでしょう」

レネスが諦めた様にそう告げる。

という事は、つまり・・・

「また振り出し、という事でしょうか?」

ミーリスの言葉にレネスが頷く。

それを聞いて、俺もミーリスも力が抜けてその場にへたり込んでしまうのだった。


まぁ、結果だけを見れば今回はある意味成功であり、そしてそれを上回る大失敗である。

聖痕の聖女は目覚めた、けれど彼女はまた何処かへと消えてしまった。

加えて、この場に来ていた救世同盟の連中は、約半数が聖女の怒りによって殺されてしまった。

「クソ、損害が大き過ぎる。たった一人の小娘にこのザマだと?笑えん冗談だ」

その代表者である男は、何とか消し炭にならずに済んだ遺品を回収しながらそう毒吐く。

いや、確かにその通りではあるけど、正直あれは自業自得だろう。

コイツもコイツで、俺が割り込まなければ死んでいたんだから、寧ろ運が良い方だろうに。

「これからどうしましょうか」

「そうだなぁ・・・俺もやらかしちまったから、デカい口は聞けなくなっちまいそうだ」

「仕方がありません。正直、私も似た様な事は思っていましたから。ですが・・・」

落ち込むミーリス。

そうだ、こうして冷静になってみると、聖女の言葉は正しい。

俺達は、俺達の勝手な想いを押し付けに来ただけなんだ。

もしもオレが同じ立場だったら、きっと同じ様に怒るに違いない。

ミレイユ様から託された手紙も意味を為さなかった・・・きっと、俺達は始めから間違えていたのかもしれない。

背後で撤収の準備が始まる中、俺はただ空を見上げている事しか出来なかった。

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